Spotifyが株式公開に向けた上場申請書類を提出、2018年にNY証券取引所で1000億円規模の上場
音楽ストリーミングサービス最大手のSpotifyが、設立から12年を迎える2018年春に株式を上場する準備を進めていることが明らかになりました。10億ドル(約1070億円)規模となる今回の株式公開でSpotifyは、一般的な手続きであるIPO(新規株式公開)を行わずに、証券会社などの「引受人」を立てないDPO(直接株式公開)を行う方針であることもわかっています。
Spotify Files Papers For Its Entry To The Stock Market : The Two-Way : NPR
https://www.npr.org/sections/thetwo-way/2018/02/28/589627338/spotify-files-papers-for-a-1-billion-entry-to-the-stock-market
Spotify IPO has limited lock-up period
https://www.cnbc.com/2018/02/28/spotify-ipo-has-limited-lock-up-period.html
Spotifyは2018年3月から4月頃にかけてニューヨーク証券取引所(NYSE)での株式公開に向けた準備を進めています。Spotifyが提出した上場申請書類によると、その規模は10億ドル(約1070億円)規模になる可能性が高いようですが、実際の規模についてはまだ未定な部分も残されている模様。今回の公開にあたっては新規株式の発行は行われず、経営陣や投資家などのステークホルダーが所有している株式がその対象になるとみられています。
一般的に、新たに株式が上場される際には証券会社や金融機関などの「引受人」だけがその株式を「引き受け」する事ができ、一般の投資家は引受人との間で株式を売買する形態を取ります。しかし今回Spotifyは、この引受人を置かずに市場で直接株式の売買を行うDPOを選択。これにより、Spotifyは引受人を介することで発生する3億ドル(約320億円)のコストを削減することができるとのこと。
By Peder Sterll
Spotifyは2006年に現CEOのDaniel Ek氏と現役員のMartin Lorentzon氏らによってスウェーデンで設立された企業で、2018年2月時点で61カ国でサービスを提供中。月間ユーザー数は1億5900万人に上り、そのうち有償でのサービス利用者は7100万人となっています。
Spotifyの収益構造を見ると、収入の90%は7100万人の有償会員から生み出されているとのことですが、同社はまだ利益を生み出す段階ではないとのこと。2017年の決算によると、1年間の売上高は40億9000万ユーロ(約5300億円)でしたが、最終的には1億3500万ユーロ(約180億円)の損失となっているとのこと。これは過去数期にわたって同様の傾向で、2016年は収入29億5000万ユーロ(約3800億円)に対して損失5億3900万ユーロ(約700億円)、2015年は収入19億4000ユーロ(約2500億円)に対して損失2億2500万ユーロ(約290億円)となっています。
多くの収入を得ながらも赤字状態となっているのは、著作権者に支払う利用料が支出の大部分を占めていることによります。2017年は40億9000万ユーロ(約5300億円)の収入のうち、そのおよそ80%がライセンス料の支払いに充てられているとのこと。しかしこれは縮小傾向が続くレコード業界にとっては新たな収入の柱ともなっています。1999年から2014年にかけてレコード会社の収入は40%も減少しましたが、そんな中でSpotifyを含むストリーミングサービスからは、2016年だけで10億ドル(約1000億円)規模の利用料が流れ込んでいるとのこと。
By Pictures of Money
Spotifyにとって大手レコード会社はある種の運命共同体のような性質を持つようになってきていますが、一方ではその生命線を握られているという見方も存在します。Spotifyで再生される音楽のうち、「ユニバーサル・ミュージック」「ソニー・ミュージック」「ワーナー・ミュージック・グループ」、そして中小レーベルの集合体である「マーリン・ネットワーク」のビッグ4が占める割合は87%に達しているのですが、Spotifyは上場申請書類の中でこの構造を懸念事項の1つととして挙げており、レコード会社に対してSpotifyの立場が弱いとする見方を示しています。つまり、メジャーレーベルとの契約が見直される際に示される条件によっては、Spotifyの業績が大きく左右される可能性が存在していることを示しています。これは、自社でコンテンツを開発しているNetflixなどのサービスと比較して、Spotifyの体力の弱さを示す例の1つとなるとのこと。
これ以外のSpotifyの運用コストとしては、著作権者からたびたび起こされる訴訟への対応も含まれています。さらに、AppleやGoogleなどの競合他社に対する製品開発のコストも少なからず増加傾向にあるため、今後すぐに黒字体質に転換するかどうかは未知数といえる状況。そんな中、Spotifyは同社初となるハードウェア製品の開発に乗りだしており、近い将来にはSpotifyの音楽を再生するためのスマートスピーカーの販売を始めることで、顧客の囲い込みを強化する方針であると見られています。
Spotifyがスマートスピーカー業界に参入か?ハードウェア開発者の求人募集が始まる - GIGAZINE
果たしてSpotifyによる大型上場に対して市場がどのような反応を見せるのか、関心が集まるところです。NYSEにおけるSpotifyのティッカーシンボル(識別コード)は「SPOT」になる見込みです。
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