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NY証券市場に株式上場の準備を進めているSpotifyの体力を見る数字いろいろ

By Heidi Sandstrom

世界最大の音楽ストリーミングサービスを提供するSpotifyは、2018年春のニューヨーク証券取引所への株式上場を目指して準備を進めています。その規模が10億ドル(約1100億円)規模にもなると言われている上場に向かっているSpotifyが持つ企業としての体力はどんなものなのか、同社が提供した上場申請書類をもとに分析したエントリが公開されています。

The metrics behind Spotify's IPO | ChartMogul
https://blog.chartmogul.com/metrics-behind-spotifys-ipo/

経営分析用ツールなどを提供するChartMogulのEd Shelley氏は、Spotifyが提出した上場申請書類(Form F-1)の記載をもとに、Spotifyの「体力」を示す数字をいくつかピックアップしています。

◆1.顧客離脱率「チャーンレート」
「チャーンレート」は日本語で「解約率」「(顧客)離脱率」などの意味を持つマーケティング用語で、そのサービスがどれぐらい顧客をつなぎ止められているのかを示す数字です。Spotifyの場合だと、チャーンレートは過去3年間で7.7%から5.5%へと下落して良い傾向を示しているうえに、新規加入の成長率もアップしていることから、この時点では強固な地盤が存在しているといえそうです。

サービスにかかる費用をコストとして負担できる企業を対象にした「B2B」ビジネスとは異なり、Spotifyのような一般顧客を対象とする「B2C」型のサブスクリプション・サービスの場合、利用者は金銭負担に対して敏感なためにチャーンレートは厳しいものになる傾向があります。そんな中で、利用者数を伸ばしながらもチャーンレートを下落させているというSpotifyの実績は優れているとShelley氏は見ています。

Shelley氏が挙げるチャーンレート下落の原動力は以下の点です。

・同居の家族が使える「ファミリープラン」の導入
Spotifyでは、日本の価格で月額980円の個人プランの他に月額1480円で同居の家族が最大6人までサービスを利用できるファミリープランが用意されています。このプランの利用者において、高い顧客維持率が認められるとのこと。

・自分のプレイリストを作れる機能
ユーザーが自らコンテンツを作り出せる機能があるのもSpotifyの強みであるとのこと。これは他のサービスにも共通したものなのでSpotify独自の強みではありませんが、顧客の囲い込みにおいて一定の効力を発揮しているとみられます。

・個人カスタマイズ機能の充実
サービス利用者は、自分の用途や好みに合致したコンテンツが提供されることを好みます。Spotifyでは、そのユーザーが再生した楽曲をもとにカスタマイズされたプレイリストが毎週作成される「Release Radar」や、日替わりのプレイリスト「My Daily Mix」などが提供されています。このカスタマイゼーションが、顧客の離脱を防いでいると考えられるとのこと。


◆2.顧客一人あたりの平均売上「ARPA」
サービス加入者一人あたりの平均売上単価を示す「顧客一人あたりの平均売上」(Average Revenue Per Account:ARPA)は、2015年の6.84ユーロ(約900円)から5.32ユーロ(約700円)へと低下しています。これは先述のファミリープランの導入と、世界展開による結果とみられています。

ファミリープランの導入によりARPAが下がることは、日本の場合だと「1480円で6人まで」というプランを考えると当然のことであると容易に想像がつきます。一方、世界展開によりARPAが低下した要因の多くは、購買力がそれほど強くない国でのサービス展開にあるとのこと。例えば、フィリピンにおけるARPAは3ドル(約320円)となっており、全体のARPAを押し下げる要因になっているとのこと。

この低下を食い止めて上昇させるためには、「より高音質で音楽が楽しめる上級プランの導入」「登場が予測されているスマートスピーカー向けの新プランの導入」「Netflixのように既存の料金プランの値上げ」などの方策が挙げられています。

◆3.広告型「フリーミアム」プランの実績
無料ユーザーがSpotifyを利用する場合、楽曲と楽曲の間に音声による広告が挿入されます。これはSpotifyにとっての広告収入の源となっているのですが、その規模は10%足らずとのこと。しかしこの規模は徐々に拡大する方向にあります。

また、最初に無料プランで利用し始めたユーザーでも、その後に有料プランのユーザーへとコンバートする可能性が高いことを考えると、フリーミアムプランの存在は企業の成長にとっては欠かせないものといえます。

By Adam Rakús

◆4.売上総利益率
Spotifyのような音楽ストリーミングサービスの業態で特徴的なのが、売上総利益が相対的に低いという点にあります。これは、著作権がある楽曲を「仕入れ」てユーザーに「販売」するという形態上避けられないことで、Spotifyの場合は2017年のデータで売上総利益率は21%とのこと。これは2015年の16%から向上しているとはいえ、「仕入れコストが8割」というのは企業にとって非常に重荷になっているといえます。Spotifyの2017年の売上額は40億9000万ユーロ(約5300億円)で、そのおよそ80%(約32.7億ユーロ:4240億円)がライセンス料の支払いに充てられています。

◆5.顧客一人がサービスをやめるまでに生み出す価値「顧客生涯価値」
一人のユーザーがサービスに申し込み、最終的に利用を停止するまでに生み出す価値(=売上)は顧客生涯価値(Customer Lifetime Value:LTV)と呼ばれ、この価値が高いほど企業にとっては良い評価材料となります。

顧客生涯価値は、先述してきたARPAなどを用いて以下の式で求めることができます。

・顧客生涯価値=(顧客一人あたりの平均売上×売上総利益率)÷顧客チャーンレート

2017年のデータでは、各項目は以下のとおりとなっています。

顧客一人あたりの平均売上:5.32ユーロ(約700円)
売上総利益率:22%
顧客チャーンレート:5.5%

これを式に当てはめると、Spotifyの顧客生涯価値は21.28ユーロ(約2800円)ということになります。

この顧客生涯価値を引き上げるためには、「顧客をより長くサービスに引き留めること」と「『顧客一人あたりの平均売上』を増加させること」という対策方法が考えられます。前者は顧客満足度によって大きく左右され、後者は料金プランの見直しなどが必要となります。

◆まとめ:Spotifyの今後の課題は?
Spotifyは記事作成時点で全世界のユーザー数が7100万人と、2位のApple Musicのほぼ2倍の利用者数を誇ります。会員数では大きな優位性を持つSpotifyですが、株式を通常のIPOではなくDPO(直接株式公開)で公開することになると、市場の反応はより敏感になるものとみられ、経営戦略とそのかじ取りは高いものが求められることになりそう。しかも、AppleやAmazonのように「商品を売って儲ける」タイプではないSpotifyの場合は、ストリーミングだけがビジネス商材となっています。

そのため、Spotifyはより強固なビジネスの地盤を構築する必要があるといえそう。例えばアメリカのAmazonではプライム会員の月額が12.99ドル(約1400円:日本は400円)で、この金額を支払うとAmazon MusicのほかにもPrimeビデオや電子書籍、購入した商品の即日配達など多くのサービスを受けることができます。しかし一方で、Spotifyだと月額10.99ドル(約1200円:日本は980円)で手に入れられるのは「Spotifyで音楽を聴ける」ということだけでしかありません。この状況を見てか、Spotifyは自社製の「スマートスピーカー」を今後販売する方針であるとも見られています。

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