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「歯磨き粉で歯を磨く」という習慣はいつから私たちの生活の一部になったのか?

by benessere

私たちが歯を磨く時、当たり前のように「歯磨き粉」を歯ブラシに付けています。日常の中で「歯磨き粉で歯を磨くようになったのはいつからだろう?」と気にすることは少ないですが、そんな知られざる「歯磨き粉の歴史」について、Capital & Growthで解説されています。

The Story of Toothpaste. How It Became a Mainstream Product - Capital & Growth
https://capitalandgrowth.org/articles/859/book-summary-the-power-of-habit.html

アメリカにおける歯磨き粉の歴史について記したのは、ピューリッツァー賞を受賞したこともある元ニューヨーク・タイムズ記者のチャールズ・デュヒッグ氏。デュヒッグ氏の著書「習慣の力」は、私たちの日々の行動は決して意識的なものではなく、習慣化された行動を無意識的に行っているに過ぎないと指摘した本です。

デュヒッグ氏は無意識の習慣が人の行動を規定する例として、脳炎の手術による後遺症で脳の短期記憶を保持できなくなったユージン・ポーリー氏の例を挙げています。1971年に手術で短期記憶を失ったポーリー氏は、1960年より昔の出来事を記憶しておらず、自分の子どもや台所の場所もわからない状態でした。ポーリー氏は手術後、妻と毎日同じコースを散歩するようになります。ある日ポーリー氏が姿を消し、家族は非常に心配したものの、ポーリー氏は何事もなく15分後に家に戻ってきました。なんと、短期記憶を失ったはずのポーリー氏は、妻の手助けなしでいつもの散歩コースを歩いてきたのです。

ポーリー氏は新たな記憶を保持できなくなった後に始めた散歩のコースを、どういうわけだか記憶していました。これは、人間の記憶と習慣が脳の別の場所に格納されていることを示しており、人間は記憶や意思に関係なく行動を起こすということがわかったのです。

by 31dec

「人間を動かすのは意思ではなく習慣だ」という点にいち早く注目し、ビジネスに活用したのがクロード・ホプキンス氏。ホプキンス氏は「広告マーケティング21の原則」などの著作を残した、広告マーケティング界の巨匠とも言うべき人物です。20世紀初頭、ホプキンス氏はすでに朝食用シリアルの大手「クエーカーオーツカンパニー」のPRでビジネス界に名をはせていましたが、朝食用シリアルのPRに使ったのが「朝食にシリアルを食べれば1日分のパワーが得られる」という宣伝文句。この言葉には何の科学的裏付けもありませんでしたが、当時の人たちはこぞってシリアルを食べるようになり、いつしか「朝食にはシリアルを食べる」という習慣がアメリカに定着したのです。

当時、アメリカでは歯を磨く習慣がほとんど浸透しておらず、第1次世界大戦の徴兵による新兵検査で判明したあまりの歯科衛生状況の悪さに、連邦政府が国家安全保障上の危険を宣言したほど。そんな時、ホプキンス氏の旧友が「この歯磨き粉は売れる」として商売を持ちかけたのが、アメリカの練り歯磨き会社ペプソデントの商品。この話にのってPRを引き受けたホプキンス氏は、「人々の習慣にPRしたい商品を関連付けることが、大きなビジネスチャンスを生み出す」と知っていたため、「人々に歯磨きの習慣を植えつける効果的な宣伝文句」の考案に頭を悩ませました。

by AIBakker

あるとき、ホプキンス氏は自分の舌で歯をなぞってみたところ、ザラザラした感触がすることに気がつきます。このザラザラした感触を生み出す「膜」は日常生活を送っていれば自然に形成されるもので、勢いよく口をすすいだりリンゴを食べたりしたらはがれるもの。しかし、ホプキンス氏はこの「膜」こそが宣伝文句になると考え、「みなさん、舌で歯をなぞってみてください。ザラザラした膜の存在がわかるでしょう。膜はあなたの歯を汚く見せ、腐敗させます。すでに数百万人が実践している膜を取り除く方法、ペプソデントで膜を取り除きましょう!」という言葉でペプソデントをPRしました。

白く美しい歯を持ったイメージイラストと共に展開されたペプソデントのPRは瞬く間に広がり、わずか7パーセントだった「歯磨きを習慣にする人」の割合が、10年で65パーセントにまで増加。多くのアメリカ人が「ペプソデントで毎日歯を磨けば、白くてきれいな歯が手に入る」と考え、歯磨き粉を使った歯磨きを習慣化したのです。

ペプソデントの宣伝文句を見た人は、誰もが思わず舌で歯をなぞり、膜の存在に気づいたはず。その直後に「ペプソデントで歯の膜を取り除ける」と知り、思わず「ペプソデントで歯を磨かなきゃ!」という考えに飛びついたのです。実際には膜を除去するためならペプソデントでなくても問題なく、科学的根拠は全くなかったものの、ホプキンス氏はアメリカ全体に歯磨きの習慣を植えつけることに成功。アメリカで歯磨きの習慣が広まったきっかけは、1人のビジネスマンが生み出した宣伝文句だったのです。

by Cheryl J

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in メモ, Posted by log1h_ik

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