心の中の「不安」の出どころとなる「不安細胞」を光を使ってコントロールすることに成功
by Oladimeji Odunsi
コロンビア大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者たちが、マウスが不安を感じた際に、脳内の特定の細胞が発火し不安を感じた際に取る行動を誘発していることを発見しました。この細胞は「不安細胞」と名付けられ、人間の脳内にも存在する可能性が示唆されています。
Anxiety Cells in a Hippocampal-Hypothalamic Circuit: Neuron
http://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(18)30019-9
'Anxiety cells' identified in the brain's hippocampus | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2018-01/cumc-ci013018.php
夜に治安の悪い町をひとりで歩いていて手に汗をかくなど、人間が不安を感じると、心身に影響が出てきます。この「不安」という感情について、コロンビア大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者たちが研究を行い、新しく「不安」を感じた際に脳の深部で発火する「不安細胞」の存在を発見しています。
発表された論文によると、実験用マウスに不安を感じさせたところ、脳の海馬で細胞の発火が観測されています。この細胞について、研究に携わったコロンビア大学のジェームズ・ハン博士は、「これらの細胞は、動物が本質的に恐ろしいと感じる場所にいる時のみ発火するものであったため、我々は『不安細胞』と呼んでいます。マウスの場合、野性の肉食獣に襲われる危険性のある広い場所にいる時、この細胞の発火が頻繁に観測されます」と語っています。
この不安細胞が観察されたのは脳の「海馬」。海馬は記憶や空間学習能力に関わる脳の器官として知られていますが、最新の研究では海馬が動物の気分調節にも関与しており、海馬の前部で起きる変化により不安を軽減できることも明らかになっていました。
by Edwin Andrade
この不安細胞を見つけたあと、研究チームは「オプトジェネティクス」と呼ばれる方法を用いた実験を行います。オプトジェネティクスは、特定の藻類で観察できる電気活動からヒントを得て開発された「光を使って細胞を制御する手法」です。
研究チームはオプトジェネティクスを用い、マウスが実際の環境刺激の中で「不安」や「恐怖」を感じる場所を用意。具体的には、「野生動物と遭遇すると感じるような広いスペース」と「不安を感じた際に逃げ込むための狭い迷路」を用意し、オプトジェネティクスを用いて不安細胞が発火しないようにコントロールしました。通常、マウスは広いスペースでは不安を感じて狭い空間に逃げ込んだりするのですが、光を使って不安細胞が発火しないようコントロールすると、狭い空間に逃げ込まなくなったそうです。それに対して、オプトジェネティクスを用いて不安細胞を発火させると、マウスは安全な場所にいても不安を感じた際に取る行動をとり続けたとのこと。
マウスの脳内の不安細胞をコントロールすることで、不安という感情を制御することに成功していますが、この研究はまだ実験段階のものであり、実際に人間の脳内にもマウスと同じような不安細胞が存在するかどうかは不明です。しかし、研究チームは、人間の脳にも同じ細胞が存在する可能性は高いとしています。
今回の発見について、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の精神科助教授であるマゼン・キアベック博士は、「脳が高次脳領域を経由することなく、不安を誘発する場所に対してアクションできるようにしているのかもしれない」と語り、研究に参加したコロンビア大学の生徒であるジェシカ・ヒメネスさんは、「海馬で不安細胞が見つかったので、これまで知られていなかった治療のアイデアを探求するための新しい領域が開けたと言えます」と、今後、不安細胞に着目した研究が広がる可能性を示唆しています。
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