サイエンス

初対面の相手を「信頼する・しない」の分かれ目になっているものとは?

by David DeHetre

通常私たちは、接する相手の行動や自分との相性・性格などをもとに「この人は信頼できる」「この人は信頼できない」といった評価を下します。ところが、最初に出会ったときは誰もが初対面の相手であり、当然、初対面では相手の性格も趣味もわからず、相手を判断できる要素が何もないように思えます。そんな「人が初対面の相手を『信頼できる』もしくは『信頼できない』と判断するときの材料は何なのか?」という疑問を解明するため、「初対面の相手にお金を渡すゲーム」を通して調査した結果判明した内容がLIVESCIENCEで述べられています。

This Is Why You Trust Some Strangers and Not Others
https://www.livescience.com/61555-trust-resemblance-pavlovian-response.html

Stimulus generalization as a mechanism for learning to trust | Proceedings of the National Academy of Sciences
http://www.pnas.org/content/early/2018/01/26/1715227115

たとえば、あなたがコーヒーショップでノートPCを開いて作業していたとき、急にトイレに行きたくなったとします。大切なノートPCを誰かに盗まれたくないあなたは、横に座っている他のお客さんに「すみません、ちょっとの間この荷物を見張っていてくれませんか?」とお願いすることにしました。このときあなたの横に座っていたのは、エミー賞を7回も受賞した大女優のベティ・ホワイトに「似ている」おばあさんと、かの有名なギャングスターアル・カポネに「似ている」おじいさん。あなたはどちらに荷物を見張っているようにお願いするでしょうか?このとき、両者の間にどちらがより信頼できるかを判断できる手がかりはないはず。2人とも自分とは全く関わったことも見たこともない初対面で、相手の性格や普段の行動などは全くの未知だからです。しかし、ベティ・ホワイト似のおばあさんを選択する人のほうが多いとしてもうなずける話です。

ブラウン大学やニューヨーク大学の合同研究チームは、「人が初対面の相手が信頼できるかできないかの判断基準は、その相手の『顔』にあるのではないか?」という仮説を証明するため、「初対面の相手を信頼してお金を渡すゲーム」を使って実験を行いました。この実験では被験者1名と被験者と全く初対面のプレイヤー3名のグループに別れ、まず被験者に10ドル(約1100円)の資金が与えられます。被験者はその資金を、相手プレイヤーを信頼して全額投資するか、投資せず自分の手元に残しておくかを選びます。プレイヤーに投資された場合、投資された10ドルはプレイヤーの手元で必ず4倍の40ドル(約4400円)に増え、投資を受けたプレイヤーは被験者に半分の20ドルを渡して40ドルを山分けするか、被験者には1ドルも渡さずに40ドル全額をもらってしまうかの選択を実行。プレイヤーが山分けしてくれれば被験者は20ドルを得ることができ、山分けしてくれなければ10ドル損することになります。

by jenniamigo


実はこのゲームにおいて、実在する人間は被験者のみ。液晶パネル上に映し出されたプレイヤーは顔写真のみのアイコンで、3人はそれぞれ93パーセントの確率で資金を山分けする「非常に信頼できる」プレイヤーA、60パーセントの確率で資金を山分けする「そこそこ信頼できる」プレイヤーB、7パーセントの確率で資金を山分けする「信頼できない」プレイヤーCという風に、一定の確率で自動的に行動を選択するようにプログラムされています。被験者はこのゲームを繰り返すことで、「プレイヤーAが信頼でき、プレイヤーBはその次に信頼でき、プレイヤーCは信頼できない」と学習します。

次に、被験者はそのままで液晶画面に表示される3人のプレイヤーが交代します。新しい3人のプレイヤーも顔写真のみのアイコンであり、被験者とは全くの"初対面"ですが、実は新しい3人のプレイヤーの顔写真は以前に登場した3人のプレイヤーの顔を微妙に変形させたもの。それぞれ「信頼できるプレイヤーAに『似ている』新しいプレイヤーD」「そこそこ信頼できるプレイヤーBに『似ている』新しいプレイヤーE」「信頼できないプレイヤーCに『似ている』新しいプレイヤーF」となっています。この条件で再び実験を行うと、被験者は相手プレイヤーのことを以前のプレイヤーとは別人で、自分とは全くの初対面であると理解しているにもかかわらず、相手に資金を投資する比率はプレイヤーD>プレイヤーE>プレイヤーFの順になったとのこと。


以上の実験結果から、人は初対面の相手を信頼できるかできないかの判断基準に、「相手が過去に自分が接した信頼できる相手に『似ている』、もしくは信頼できない相手に『似ている』」という点を用いているということが判明。なんと、人間はたとえ初対面の相手であっても、評価の基準に自分が経験した全く関係ない過去の出来事を持ち出しているというわけです。この結果は相手プレイヤーが、「信頼できないプレイヤー」と判断されたプレイヤーに似ているほど顕著に現れたとのことで、人は信頼できない人物を警戒するときほど経験則に頼りがちであることがわかります。

たとえ初対面のおばあさんがベティ・ホワイトに似ていようと、本当にそのおばあさんが信頼に足る人物であるかどうかを判断する材料にはなりません。同様に、アル・カポネ似のおじいさんが実は非常に善良な人物である可能性も、顔がギャングスターに似ているというだけの理由で減ったりしません。私たちはたとえ初対面の相手であっても、自分にバイアスがかかっていることを自覚した上で、本当に目の前の人物が信頼に足るのかどうかを、じっくり時間をかけて判断する必要があるようです。

by Defence Images

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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