人類を危機に陥れた14世紀の「黒死病」大流行についてネズミに罪はなかった
by Alexas_Fotos
高い致死性を持ち、14世紀の大流行では世界人口を4億5000万人から3億5000万人にまで減少させたと言われているペストは人の体にペスト菌が感染することによって発生します。これまで、14世紀の大流行ではネズミが菌に感染したノミを運んだといわれてきましたが、新たな研究では「ネズミに罪はなかった」という可能性が示されています。
Human ectoparasites and the spread of plague in Europe during the Second Pandemic
http://www.pnas.org/content/early/2018/01/09/1715640115
Maybe Rats Aren't to Blame for the Black Death
https://news.nationalgeographic.com/2018/01/rats-plague-black-death-humans-lice-health-science/
Black Death: Plague Was Spread by People, Not Rats
http://www.newsweek.com/black-death-plague-spread-people-not-rats-782388
手足が壊死(えし)し、全身が黒いあざだらけになって死亡することから「黒死病」とも呼ばれるペストは、14世紀に世界的に大流行し、ヨーロッパでは人口の3分の1~3分の2にあたる2000~3000万人が、そして全世界では8500万人が死亡したと言われています。歴史上、数回にわたって大流行しているペストですが、14世紀の大流行は第二次ペストパンデミックと呼ばれており、ネズミが流行の一端を担っているという考え方が一般的です。
しかし、米国科学アカデミー紀要に新たに発表された論文によると、第二次ペストパンデミックはネズミが広めたのではない可能性があるとのこと。
研究を行ったオスロ大学の生態学的・進化的統合の研究所(CEES)のキャサリン・ディーン博士研究員は「ペストは人間の歴史の中で大きく形を変えてきました。そのため、どのようにして伝染病が広がっていったのかと、なぜこんなにも速いスピードで広まったのかを理解することが重要です」と語っています。
通常、ペスト菌に感染したノミが人間にかみつくと、菌は血流を通って人間の体内を移動し、体にいくつも存在するリンパ節で集まります。するとリンパ節は大きく腫れ、よこねという状態になります。これが「腺ペスト」と呼ばれるもの。
ペストは中世以後もしばしば発生しており、2017年にはマダガスカルで「過去50年で最も深刻」と言われるほどに流行しました。これらの流行では、ネズミがその一翼を担ったと見られています。ペストに感染したネズミの血を吸ったノミ・ダニにも菌が移り、宿主であるネズミが死ねばノミ・ダニは人間を吸血し始めるためです。
マダガスカルでペストが流行 過去50年間で最も深刻 - BBCニュース
http://www.bbc.com/japanese/video-41979673
今日のペストの感染方法、そしてペストで死んだ中世の人々の遺伝子的な情報から、多くの研究者が第二次ペストパンデミックはネズミが引き起こしたものと考えていました。
しかし、第二次ペストパンデミックは今日のペスト流行よりもはるかに速く進行したこと、そして近年のペスト流行の前にはネズミの大量死が報告されている一方で、第二次パンデミックの資料にはネズミが一斉に死んだという記述が見当たらないことなどから、「ネズミがペストを広めた」という見方を疑問視する歴史家も存在します。
そこで、ディーン氏らの研究チームは人間・ネズミ・ノミ・シラミなどがどのように振る舞うかに基づき、アウトブレイクの増減をシミュレートする方程式を使って数学的モデルを作成しました。
「人間と人間との接触によってノミが移る」「ネズミを介して人間から人間にノミが移る」といったモデルを複数回にわたって走らせ、どのモデルがヨーロッパで発生した計9回のアウトブレイクの死亡パターンと合致するかを評価したところ、9つのうち7つのアウトブレイクは「人間同士の接触によってペストが広まっていったという」パターンが、最も実際のパターンに近かったとのこと。
by Monique Laats
この結果は多くの研究者の考えに反するもの。しかし、研究チームによるとさらなる実験データを追加すれば、よりモデルを改良することが可能とのことで、議論のあるペストの流行原因について一石を投じるものとなりそうです。
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