呼吸を意識的に操作することで脳を変えることができると脳神経学者が電極を脳にさして観察
by Nine Köpfer
呼吸は基本的に脳幹によって自動的に制御され心拍や眠りに影響を与えますが、人間は意識的に呼吸を変えることが可能です。「自発的に呼吸のペースを変える」という能力を持たない動物も多い中で、なぜ人間が意志で呼吸を変えられるのかは2017年時点では不明のまま。人間の呼吸法と脳の関わりについてはこれまでも研究が進められてきましたが、新たに行われた研究では、脳スキャンではなく「脳に直接的にアクセスして変化を観察する」という方法が取られました。
ARTICLES | Journal of Neurophysiology
http://jn.physiology.org/content/early/2017/09/22/jn.00551.2017
Neuroscientists have identified how exactly a deep breath changes your mind — Quartz
https://qz.com/1132986/neuroscientists-have-identified-how-exactly-a-deep-breath-changes-your-mind/
アメリカ海軍の特殊部隊「Navy SEALs」では心を落ち着かせる呼吸法「Box Breathing」が取り入れられるなど、呼吸のコントロールはストレスへの対処や集中力アップなどに用いられています。
ストレスを和らげる呼吸法「Box Breathing」、アメリカ海軍の特殊部隊Navy SEALsも採用 - GIGAZINE
では、実際に呼吸は脳にどのような影響を与えているのか?ということを調査したのがコロンビア大学の博士研究員のJose Herrero氏とノース・ショア・ユニバーシティ病院の神経外科医であるAshesh Mehta氏。
研究チームはまず、被験者らを「何もしない状態」と「コンピューター画面に現れた丸をクリックしている時」という、呼吸に意識を向けていない2つの状況に置き、それぞれの脳の状態を観察。その後、被験者らに「呼吸のペースを上げて、呼吸数をカウントするように」と指示すると、脳で通常とは異なる部分の活性化がみられたとのこと。このとき、「自発的に呼吸のペースを上げたとき」と「意図せず呼吸のペースが上がったとき」で活性化した脳の部位もまた、重複はあったものの、異なる部分だったそうです。
この研究結果は、集中したい時あるいはストレスに対処する時には呼吸のエクササイズが有効であるというアドバイスに神経科学的な裏付けを行ったことになります。呼吸をコントロールしたり呼吸に意識を向けたりすることで、普段ではアクセスしがたい脳の部分にアクセスし、複数箇所を同調させることが可能。これが結果として感情のコントロールや集中力のアップという結果を生み出すわけです。
脳科学の研究では一般的にfMRIや脳波スキャンという手法がとられますが、今回の研究は人間の脳に電極を埋め込み直接脳の活動を観察したというのがユニークな点。電極を用いる方法では、脳の働きによって、どのように考え、決断し、想像することが可能になるのかを直接的に観察することができます。実験の被験者はてんかんの治療の一環として電極が用いられており、この機会を用いて呼吸と脳の関わりが調べられたわけです。
by Massimo Barbieri
脳の動きは一般的に人の意志で操作できないものですが、呼吸を使うことで脳の働きにアクセスできるため、「緊張する時は深呼吸」といった慣習によるアドバイスは間違っていなかったことが今回の研究によって示されました。通常は明らかにされることが少ない脳の部位にアクセスしていくべく、研究者らは今後も研究を続けていくとしています。
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