大気中のCO2を取り込んで石に変えるシステムが運用開始
「気候変動から人類を救えるかどうかは次の3年が勝負」というのは専門家の指摘するところであり、二酸化炭素の排出を抑えるだけでなく、何らかの方法で大気中の二酸化炭素を除去する技術の開発も求められています。アイスランドのヘトリスヘイジ地熱発電所ではかねてから二酸化炭素を鉱物化して貯留する技術について研究されてきました、2017年10月11日(水)、パイロット版ではあるものの、商業規模で大気中の二酸化炭素を捕らえて鉱物化する技術が運用開始されました。
The world’s first “negative emissions” plant has opened in Iceland—turning carbon dioxide into stone — Quartz
https://qz.com/1100221/the-worlds-first-negative-emissions-plant-has-opened-in-iceland-turning-carbon-dioxide-into-stone/
World's first 'negative emissions' power plant in Iceland | Daily Mail Online
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-4975720/World-s-negative-emissions-power-plant-Iceland.html
スイス・チューリヒのClimeworksが2017年10月11日、アイスランドのヘトリスヘイジ地熱発電所において排出された二酸化炭素を大気中から取り除くシステムを運用開始しました。実験によると、このシステムは年間50メートルトンの二酸化炭素を大気中から取り除くことができるとのこと。50メートルトンという量はアメリカの1世帯、インドの10世帯が1年間に排出する二酸化炭素の量と等しく、大きな数字ではありませんが、今後、二酸化炭素貯留技術とClimeworksの技術を併用してスケールを拡大した時の将来性は非常に大きくなるものと見られています。
ヘトリスヘイジ地熱発電所は世界で最も大きな地熱発電所の1つ。
ヘトリスヘイジ地熱発電所に導入されたのが、Climeworksが開発した、世界で初めての「商業規模で二酸化炭素を取り込むシステム」。ファンとフィルターを使って、大気中の二酸化炭素を捕らえます。
2014年、アイスランドのレイキャビク・エナジーはヨーロッパの科学者らと協力して、「CarbFix」というプロジェクトを立ち上げました。CarbFixでは、ヘトリスヘイジ地熱発電所から排出された二酸化炭素を水と混ぜ、地下700メートルにある玄武岩層に注入することで、二酸化炭素を炭酸塩鉱物に変えるという作業が行われます。当初、二酸化炭素の鉱物化には数百年~数千年の年月を必要とすると見られていたのですが、アイスランドの地層との関係で、より速い反応が見込まれると判明したとのこと。一般的に研究に用いられる砂岩は二酸化炭素とゆっくり反応するのですが、玄武岩は鉄やアルミニウムを含むため、約2年で二酸化炭素が鉱物化されるといいます。一方で、鉱物化するための二酸化炭素を「大気中から取り込む」というシステムは非常にコストが高くつくため、これまで商業規模で技術を利用することが難しいと考えられてきました。
そんな中、Climeworksの技術とCarbFixの技術を併用することで、大気中から二酸化炭素を取り込み、鉱物化するまでの効率的なプロセスが実現したわけです。
これが実際に二酸化炭素を注入された玄武岩。
研究によって、鉱物化された二酸化炭素は再放出されることなく何百万年にもわたって地中で安全に貯留できること、玄武岩は地球上に豊富に存在するため何十年にわたって火力発電によって排出された二酸化炭素を貯留するだけの余裕があることなどもわかっています。
CarbFixに携わった地質学者・Edda Aradóttir氏によると、プロジェクトでは過去3年において1万8000メートルトンの二酸化炭素が玄武岩に注入されてきたとのこと。そして、1メートルトンあたりの二酸化炭素の注入にかかるコストは30ドル(約3400円)であることも示されています。
ClimeworksとCarbFixが開発した技術は、世界で初めて「負の二酸化炭素排出」を具現化した技術と言えます。Climeworksは自動車メーカーのアウディとも提携しているほか、今後、個人を対象に、二酸化炭素を大気から取り込む技術を販売していくことを考えているとのことです。
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