サイエンス

重力レンズの分析にニューラルネットワークを導入、作業は従来の1000万倍高速化

By NASA Hubble Space Telescope

アメリカ合衆国エネルギー省所有のSLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の研究者が、世界で初めてニューラルネットワークを用いた重力レンズのゆがみ分析法を公開し、従来の方法よりも1000万倍も高速に分析を行えることを示しました。

Neural networks meet space | symmetry magazine
http://www.symmetrymagazine.org/article/neural-networks-meet-space


SLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の共同研究機関であるKavli Particle Astrophysics and Cosmology(KIPAC)の研究チームが、重力レンズの画像を解析するためにニューラルネットワークを使用する方法を発表しました。恒星や銀河が発する光は、地球との間に存在する無数の天体や銀河団の重力により曲げられ、明るく見えたり弓状に変形したり、リング状に見えたりします。このゆがみを起こす現象が重力レンズで、これを分析することで宇宙空間における質量分布や、時間の経過とともに質量分布がどのように変化しているのかを知ることができます。また、重力レンズの分析は、宇宙全体の物質の85%を占めると言われる暗黒物質や、宇宙の拡張を加速していると言われるダークエネルギーの解明にもつながると考えられています。

重力レンズのゆがみの分析は、数学的レンズモデルを用いたコンピュータシミュレーションと比較するというプロセスで行われており、これまでは1枚の画像を分析するのに数週間から数ヶ月かかっていました。それに対して、KIPACが作り出したニューラルネットワークを用いた分析方法では、わずか数秒で画像の分析が可能となります。研究では実際にNASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像とシミュレートを用いて分析精度の検証も行っており、従来の方法と遜色ない分析結果を出せることが判明しています。


ニューラルネットワークを学習させるため、KIPACの研究者たちは1日に約50万枚の重力レンズのシミュレート画像を用いた模様。その結果、ニューラルネットワークは従来の分析方法に匹敵する精度で新しい重力レンズ画像を即座に分析可能となったそうです。

以下の画像はNASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影した重力レンズ画像


「我々がテストしたニューラルネットワーク(3つの一般公開されているニューラルネットと我々が自分自身で製作したもの)は、『各重力レンズがどのような質量分布を持っているのか?』や『背後に広がる宇宙をどれくらい拡大しているのか?』といった特性を断定することができました」と語るのは、研究論文の第一著者であるYashar Hezaveh氏。また、今回の論文で発表されたニューラルネットワークの使われ方は、「これまでに天文物理学界で存在した、『画像が重力レンズを含むか含まないかを判断するためにニューラルネットワークを使うこと』をはるかに超えている」とも語っています。

現在、SLAC国立加速器研究所は「大型シノプティック・サーベイ望遠鏡」の建設に携わっており、これは3.2ギガピクセルの巨大なカメラを使用してこれまで以上に多くの重力レンズを発見することに役立つと推測されています。「伝統的な方法でこれらのデータを分析するには、明らかに人員が足りません。ニューラルネットワークは興味深い物体を特定して迅速に分析するのに役立ちます。これは我々が宇宙について考えるための時間を与えてくれるでしょう」と語るのは、論文の共著者のひとりであるPerreault Levasseur氏。

By Rich Murray

さらに、KIPACの科学者であり論文の共著者でもあるPhil Marshall氏は、「驚くべきことは、ニューラルネットワークが自身で何を探すかを学ぶことです。これは小さな子どもが物を認識することを習う過程に匹敵します。なぜなら、人は子どもに犬がどんなものかを教えるとき、その詳細を正確に伝えるようとするのではなく、実物の写真を見せて覚えさせるからです」と語ります。さらに、Hezaveh氏は「写真の中から犬の写真を集めるだけでなく、犬の体重、身長、年齢などの情報も知らせてきます」と、ニューラルネットワークの優れた点をアピールしています。

なお、研究の中でKIPACの科学者たちはスタンフォード・リサーチ・コンピューティング・センターのSherlock Clusterでニューラルネットワークのテストを実施したそうですが、PCや携帯電話上でも計算を行うことはできたそうです。実際、研究チームがテストしたニューラルネットワークの中のひとつは、iPhone上で動作するように設計されています。

今回の研究結果のように、ニューラルネットワークが天体物理学や他の分野におけるデータ処理および解析に有用であることは明確で、応用が進むにつれてこれまで人間の手だけでは解き明かせなかったさまざまな発見が見つかることになるのかもしれません。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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