「夜明け告げるルーのうた」のフラッシュアニメーションを作り上げた2人のCGアニメーターにインタビュー
2017年5月19日(金)に映画「夜明け告げるルーのうた」が公開されました。この作品は「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「ケモノヅメ」などを送り出してきた湯浅政明監督が、初めて劇場向けオリジナルアニメーションとして制作した作品で、これまでの作品でも見られた「これぞアニメーション」という疾走感&躍動感あふれる映像が楽しめます。
「夜明け告げるルーのうた」でもう1つのポイントとなっているのは、全編がAdobe Flashの規格で制作されたフラッシュアニメーションの映画であるというところです。この作品を作り上げるにあたっては、サイエンスSARUの誇るフラッシュアニメーター、アベル・ゴンゴラさんとホアンマヌエル・ラグナさんが大きな役割を果たしたということなので、いろいろなお話を聞いてきました。
映画『夜明け告げるルーのうた』公式サイト
http://lunouta.com/
GIGAZINE(以下、G):
お二人は「夜明け告げるルーのうた」の制作の中で、どういったお仕事を担当なさったのでしょうか。
ホアンマヌエル・ラグナさん(以下、ホアンマ):
私たちはフラッシュアニメーションのチーフとして、フラッシュでアニメーションの実作業を行ったり、あるいはチームから上がったカットのチェックを行いました。中には難しいカットもありましたので、そういった部分は主に2人で担当しました。他には、サイエンスSARUで一緒に仕事をするフラッシュアニメーターにいろいろ教えるという育成面も行いました。
アベル・ゴンゴラさん(以下、アベル):
2人で、メンバーを2つのグループに分けて作業しました。
左がホアンマヌエル・ラグナさん、右がアベル・ゴンゴラさん。
G:
それぞれのグループは何人ぐらいでしたか?
ホアンマ:
はじめは3~4人でスタートしましたが、最も多いときにはフラッシュアニメーションのチームだけで8人まで増えました。
チームを率いたホアンマさん&ラグナさん
G:
お二人はなぜアニメーションを作るツールとしてフラッシュを選んだのですか?
アベル:
それは、私たちがアニメを作り始めたころに「みんながフラッシュを使っていたから」です。みんなが手描きアニメーションを抜け出したとき、紙を捨ててデジタルに移行することになったのですが、そこで多く選ばれたのがフラッシュだったんです。
ホアンマ:
ヨーロッパでアニメーターの仕事をしようと考えたときに、もう手描きアニメーションは存在しなかったので、フラッシュを使うしかなかったという事情もあります。「しょうがなかった」ということです(笑)
G:
アニメを作る上で、手描きよりもフラッシュが優れていると思う部分はありますか?
アベル:
まずは「速度」です。手描き作業より早くできますし、修正が必要になったときでもかんたんに作業できます。作業の流れが早いです。絵のクリンナップや色つけもその場でできるので、カットコントロールがしやすいというところもあります。
ホアンマ:
たとえば、キャラクターの頭の大きさが動きによって変わっていたら不自然ですよね。そのために、アニメーションでは大きさをキープしながら動かす必要があります。これは基本的なところなのですが、守っていくのは難しいところです。でも、フラッシュだとやりやすいというのはあります。
G:
では、欠点や短所はなにかありますか?
ホアンマ:
そうですね……今後、ソフトに余計な3D機能などは入れないで欲しいなと思います。今のバランスは2Dで使っていくにはちょうどいいです。影の付け方であるとか、個人的にやりづらさを感じる部分はありますが、いろいろな機能が追加されると動作が重くなってしまうので、どうか今のままで行って欲しいですね。
アベル:
欠点……。うーん、なんだろう?(笑)
G:
先ほど、お二人が他のチームメンバーへ技術を教えたというお話がありましたが、フラッシュを教える上で難しい部分はどのあたりですか?
アベル:
できるフラッシュアニメーターはコンピューターに習熟した上でアニメーションのスキルも身につけている必要があるのですが、最初から両方うまくやれるわけではないですから、そこを教えていくのが難しいというか、大変なところです。「PCは触れるけれどアニメの経験はあまりない」という人は多いですから。ただ、これとは反対に「アニメのスキルはあるけれどPCの操作に苦しむ」という場合は、フラッシュアニメーターとしては辛いかもしれませんね。
G:
「夜明け告げるルーのうた」では、何か新たな手法に挑戦したというものはありますか?
アベル:
これまでの作品でも、それぞれに新しいことは少しずつ取り入れてきたので、本作でも細かく変わった部分はあります。たとえば、以前の作品よりも曲線を描くときに柔らかさが伝わるように気をつけて作業していたり、水の処理に気をつけていたり。……そういえば、監督から「線を細くしたい」「きれいに描きたい」という指示があったので細くしたというのがありますね。こうして振り返ると新しいことをやっているのですが、作業していたときは気付きませんでした(笑)
G:
線が細くなることで拾いづらくなりませんでしたか?
ホアンマ:
難しいことにチャレンジできるというのはいいことですし、その方が楽しいです。自分も作品に貢献できているなと感じますので。
G:
今回、難しかったと感じたシーンはありますか?
アベル:
このシーンです。(パンフレットに掲載されている画像の1つを指さす。キャストの次のページの場面写真一覧のうち右ページ下段中央、水がキューブ状になって浮かんでいるシーン)
ホアンマ:
まず水を描くのはそれだけで大変なのですが、ここでは水がキューブ状になってぐるぐる回転するのでさらに大変なんです。キューブ状だから向こう側が透けて見えるというのも大変です(笑)
アベル:
あとは炎です。炎は自動ではできなくて1枚ずつ描かなければいけないので、手描きアニメーションのように1枚ずつ描きました。
ホアンマ:
思い入れがあるのは、先ほどのページの左上に載っている、魚の骨が歩いて行くシーンも印象的ではあります。魚自体はそれぞれコピペで作っていますし、骨そのものも1本作ったあとはコピペでした。
G:
そのおかげかもしれませんが、手描きアニメのようなテイストを感じる部分も多々ありました。
ホアンマ:
こうしたテイストは、長い時間をかけ、試行錯誤してできあがってきたものなんです。
G:
お二人と湯浅監督作品との出会いはどのようなものでしたか?
アベル:
大学のころに「ケモノヅメ」を見たんです。アニメーションがいいですし、表現がアーティスティックで他のアニメとは大きく異なっていて、「こんなアニメもあるんだ」と衝撃を受けました。独特な作品という印象を受けました。
ホアンマ:
アーティスティックなところは確かにありますね。私も「ケモノヅメ」で衝撃を受けました。今まで見た他の作品とまったく違うんですよ。
G:
その湯浅監督と仕事をしての感覚はどんなものなのでしょうか。
ホアンマ:
湯浅監督とは4年ぐらい仕事をしていますが、それ以前は湯浅ファンでしたから、他の人より「湯浅監督作品」について理解しているつもりです。そのおかげで、指示がわかりづらいということはあまりないです。湯浅監督はとてもオープンマインドな人で、考え方も柔軟です。きっと、たまには期待どおりになっていないところもあると思うのですが、監督は「いいですね」と言ってくれます。
アベル:
最初に演出意図が掴めずに、望んだようなカットになっていないこともあると思いますが、ほぼ大丈夫で問題はありませんでした。だいたいは1回目のリテイク時に、湯浅監督はこういうものを望んでいるのだということを理解できるからだと思います。
G:
仕事を重ねていく上で、湯浅監督の求めるものがどんどん理解できていくという感じでしょうか。
ホアンマ:
それはあると思います。湯浅監督と一緒に仕事をしたのは、最初は「アドベンチャー・タイム」という作品でした。その中で、子どもが滑り台に走って行くというカットがあったのですが、何度リテイクしても求めるものにならなかったというころがありました。その時、湯浅監督が絵のアタリを入れたものをみて「これは私には描けない」と思いましたよ(笑)
G:
今回、気持ちよくアニメーションとして動かせたシーンはここだというところはありますか?
ホアンマ:
まずはルーとカイの出会いのシーンです。お互いの名前を知るところはうまく合っているなと思います。ルーが水から出たり入ったりというアニメーションもいいですよ。
アベル:
私も同じシーンがいいなと思いました。ルーが水と一緒に部屋に入って来ることで、部屋の中のものがすべて水の中に沈んでしまい、その中で本が浮かぶというのは、自分で見てもうまくいっているなと感じます。
ホアンマ:
ルーとカイがブランコでデートしているシーンも、きれいなアニメーションにできたと思います。
アベル:
後半になりますが、夜になって水が町に押し寄せてきたところで、水が緑色なんです。作っているときはアタリとして好きな色を置いていたんですが、色が決められてできあがったものを見て「こんなにも美しくなるなんて!」と。
G:
本作では歌うシーン、ダンスシーンが何度か出てきます。これは手描きだと大変なことになるだろうなという動きでしたが、フラッシュだとどうなのでしょうか?
ホアンマ:
いやいや、フラッシュでも難しいことは難しいですよ(笑) 手描きと比べればやりやすいという部分はありますが、フラッシュは決して魔法のツールではありませんから(笑)
アベル:
同じく、やった感想としては「すごく難しいな」と(笑)
G:
5月19日(金)から劇場公開となりましたが、完成した作品を初めて見たときの感想を教えて下さい。
ホアンマ:
まるで自分の赤ん坊ができたみたいでした。たとえみんながブサイクだと言おうとも、私には世界で一番可愛い子にしか見えません。
アベル:
同じく(笑) 実は、関係者試写で見たときには「あっ、ここができていなかった」とかミスばかりが目に付いてしまって、いろいろな後悔があって楽しめない部分がありました。でも、時間をおいて改めて見て、自分がこのような作品に関われたことを光栄に思っています。
G:
なるほど、本日はありがとうございました。
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