働かなくてもお金がもらえる「ベーシックインカム」を導入しても労働需要に影響はないことを示す研究結果
By Alan Levine
テクノロジーの発展に伴ってさまざまな職業が自動化されるにあたり、テスラのイーロン・マスク氏は「各国の政府はベーシックインカムの導入を検討する必要が出てくる」と予想しています。一方で、生活に必要最低限の資金を無条件に支給されるベーシックインカムの導入には、「国民が働かなくなる」という根強い反論が存在します。イランでは2011年から国民平均収入の29%を現金払いで保証するという制度が導入されたのですが、実際にベーシックインカム制度が実施されるとどんな影響があったのか?ということが調査されています。
CASH TRANSFERS AND LABOR SUPPLY: EVIDENCE FROM A LARGE-SCALE PROGRAM IN IRAN
(PDFファイル)http://erf.org.eg/wp-content/uploads/2017/05/1090.pdf
Here’s what happened when Iran introduced a basic income | The Outline
https://theoutline.com/post/1613/iran-introduces-basic-income
イランでは2011年に石油・ガス補助金が大幅削減された代わりに、国民平均収入の29%にあたる1日1.5ドル(約170円)を雇用状態にかかわらず、現金で支給するという制度が導入されました。アメリカの平均年収でいうと、毎年1万6000ドル(約178万円)が無条件で支給されるというものですが、導入から6年が経過したイランで、労働力にどんな影響があったのか、ということを経済学者のDjavad Salehi-Isfahani氏、Mohammad H. Mostafavi-Dehzooeifrom氏らが調査した結果を報告書にまとめています。
調査は現金補助制度が始まる前年(2010年)と翌年(2011年)の家計収入の遷移と、同年の労働状況を比較という手法がとられました。使用されたデータはイランの公式データを取り扱うイラン統計センター(SCI)で集められたもので、調査の結果、現金補助制度がイランの労働需要に影響を与えたことを示す証拠はほとんどすべての世代で発見されず、かえってサービス業界のような職種では従業員の労働時間が増加し、事業拡大につながったという結果も出ているとのこと。
一方で、主に20代の若者の労働時間は減少するという結果が見られましたが、イランでは現金補助制度が確立する以前から若者の雇用状況は良くなかったそうです。20代の若者の労働時間が減少したのは、現金補助という追加収入を進学に充てたためと考えられています。研究者は「この研究が示したのは、『現金補助を主張することは貧しい人々を怠け者にする』と考えられている問題に対して、次なる研究に役立てられるより良いデータを残したということです」と話しています。
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