月に1年間住むにはいくら必要なのか?

SpaceXのイーロン・マスクは火星への人類移住計画を進行中ですが、火星と言わずに最も近くにある身近な天体の「月」に乗り込んで1年間生活した場合、どれくらいの費用がかかるのかということをざっくり計算するとこんな感じになります。
How Much Would it Cost to Live on the Moon? - YouTube

ロケットで月に行って、さらには月で生活を送るということは、技術的には十分可能で、問題となるのは「費用」だけです。

月までの距離は約37万7000キロメートル。

この遠く離れた月に行って、人間が生活するにはどれくらいの費用がかかるのかを考えてみます。

費用を検討するミッションは、「4人の宇宙飛行士がNASAの技術を使って1年間滞在する」というもの。

まずは移動手段となるロケットが必要です。数あるロケットの中でも人間を月まで運べるパワフルなものは「Saturn V」だけ。しかし、残念なことに15基すべてのSaturn Vは退役しています。

Saturn Vの積載量は約4万キログラムで、打ち上げコストは1971年当時で1億8900万ドル(約600億円)でした。

この打ち上げコストは2016年では11億2300万ドル(約1100億円)にまで跳ね上がっています。

ここから算出できる重量物を月まで運ぶ費用は、1キログラムあたり5700ドル(約58万円)。

宇宙飛行士の平均体重が72キログラムだと仮定して、人を月まで運ぶコストは200万ドル(約2億円)と算出可能。しかしこの計算には問題があります。

なぜならSaturn Vを作り出す研究開発費が含まれていないから。

2016年の金銭的価値に照らしてSaturn Vの打ち上げコストは38億ドル(約3800億円)

合計13回打ち上げたので、合計で40億ドル(約4000億円)の費用がかかっています。

ということで、1キログラムあたりの打ち上げコストは9万7000ドル(約97万円)と算出できます。

もちろん月に住もうと思えば単に月に到着するだけではダメ。月に上陸する必要があります。

月に上陸するための装置「Lunar Lander」をアポロ計画では12機作っていて、その費用は2016年換算で180億ドル(約1兆8000億円)。つまり、Lunar Lander1機あたり15億ドル(約1500億円)必要です。

宇宙飛行士4人の上陸にはLunar Landerが2機必要。

ということで、2基のSaturn Vの打ち上げ費用分も含むと……

月に上陸するための費用は110億ドル(約1兆1000億円)になります。

アポロ計画時代、NASAは「LM Truck」と呼ばれる無人のランディングシステムを開発してました。

1機あたり5000キログラムのLM Truckを2機運びます。

LM Truckで月面まで運ぶためのコストは1キログラム当たり14万400ドル(約1400万円)となります。

月面に到着した宇宙飛行士たちが生活するためには当然ながら生活コストがかかります。この計算についてはCSISが緻密なシミュレーション結果を発表しています。

それによると、4人の宇宙飛行士が生活する施設の建設費用は200億ドル(約2兆円)で打ち上げコストは40億ドル(約4000億円)なので、合計すると240億ドル(約2兆4000億円)という非現実的な金額に。

そこで施設を建設する代わりに、Bigelow Airspaceの「B330」という宇宙船を居住スペースに利用します。

B330の中はこんな感じで快適な宇宙生活を送れます。

B330のレンタル費用は1日当たり125万ドル(1億2500万円)なので、1年にかかる費用は4億6500万ドル(約470億円)

B330の重さは約2万キログラムで輸送にはLM Truckは4機、Saturn Vは2機必要なので……

合計140億ドル(約1兆4000億円)が必要になります。

月で生活するために欠かせないのが食料です。

最も良い食料の入手法は、月で植物を育てること。

アリゾナ大学の研究する植物プラントシステムでは、1日あたり5.5ポンド(約2.5キログラム)の植物を作り出すことができます。

栄養とバランスを考えて、ジャガイモを4.3ポンド(約2キログラム)、トマトを0.8ポンド(約360グラム)、イチゴを0.4ポンド(約180グラム)作ることにすると……

合計1800kcalを1日に作り出せます。

4人の宇宙飛行士が1日に必要なのは合計1万2000kcalなので……

だいたい約7体の植物プラントシステムが必要ということになります。

それぞれの植物プラントシステムには1日あたり0.2ポンド(約90グラム)の肥料が必要で、1年では合計510ポンド(約230キログラム)必要になります。

植物プラントシステムの重さは1体あたり2200ポンド(約1000キログラム)で7体必要なので1万5400ポンド(約7000キログラム)

この輸送コストが49億ドル(約4900億円)で、さらに肥料の分の1億6200万ドル(約160億円)が加わります。

ISSでの水の活用法は月での生活の大きな参考になります。

ISSを参考にすると宇宙飛行士が1年間に月で必要な水の量は1万8000キログラム。

これは水の循環リサイクルシステムを使うことで2300キログラムまで削減できます。

しかし、植物プラントシステムでの水使用量は3100キログラム必要です。

ということで1年間に月で必要な水の量は5400キログラム。

水の輸送コストは38億2500万ドル(約3900億円)になります

また、月で宇宙飛行士が呼吸をできるように空気を用意する必要があります。

成人が1日に必要な酸素量は1.85ポンド(約840グラム)なので、1年間に必要な4人分の酸素を運ぶ費用は8億6000万ドル(約860億円)になります。

しかし、幸いなことに植物プラントシステムが酸素を作り出してくれます。

植物プラントシステムが作り出す酸素量は1日当たり5.25ポンド(約2.4キログラム)

ということで、差し引き1日に必要な酸素量は2.15ポンド(約980グラム)

1年間に必要な酸素は785ポンド(約360キログラム)になるので、輸送コストは2億5000万ドル(約250億円)にまで圧縮することができました。

次に必要となるのがエネルギー。

月でエネルギーを調達する最良の方法は原子力発電です。

月で使える小型の原子力発電装置について、NASAは提案だけしていてまだ未開発ですが費用は14億ドル(約1400億円)と見積もります。

以上で必要な経費がすべて出そろいました。その合計金額を発表する前に、NASAではなく民間の宇宙開発企業についても触れておきます。

イーロン・マスク率いるSpaceXは……

10万キログラムのロケットを火星に送りだそうとしています。

その最終目的は火星への移住です。SpaceXのような民間の宇宙開発企業が続々と登場することで、今後、宇宙への旅のコストは劇的に下がっていくことが予想されています。

現時点でNASAの技術によって4人の宇宙飛行士が月に1年間移り住むのに必要な費用の総合計は……

ざっと見積もって360億ドル(約3兆6000億円)

1秒当たりに直すと1138ドル(約11万円)のお金が必要というとんでもない金額になりました。

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