2年の歳月をかけて当時そのままに復元された「くろがね四起」がついに公開されたので見に行ってきました

2016年9月24日(土)、およそ2年の歳月をかけて修復作業が完了した「世界初の量産小型四輪駆動車」である「くろがね四起・前期型」が、ついに一般向けにお披露目されました。2013年に傷みが激しい状態で「再発見」され、クラウドファンディングで集められた1300万円を超える資金をもとに修復作業が進められた車体がどんな様子になったのか、現地に行って見てくることにしました。
くろがね四起完成お披露目会 - Google Docs

修復が完了し、当時の姿をほぼそのまま再現したという「くろがね四起・前期型」が公開されました。修復のもとになったのは1939年ごろに当時のメーカー「日本内燃機(現・日産工機)」によって製造された「前期型・最後期」の車体で、今年でおよそ80歳になろうというもの。残せる部分は残し、傷みの激しかった部分は鉄板を叩いて作り上げる作業を行って当時のままに再現されています。

この車体は、9月25日(日)に御殿場高原ホテル時の栖 特設会場で一般無料公開されるので、気になった人は要チェック。前日の9月24日に開催されたお披露目会の当日はあいにくの天候でしたが、午前中にメディア向けに公開された際には、くろがね四起のエンジンをかけて実際に走行する様子を見ることもできました。現地には、ドイツの「キューベールワーゲン」とアメリカの「ジープ」も展示され、実際に3台が並んで走行する場面も。大戦中はおろか、現代でもおそらくここでしか見ることのできない光景が展開されました。
修復が完了した「くろがね四起」が実際に走行する様子・「キューベールワーゲン」「ジープ」との走行も - YouTube

この修復プロジェクトは、「NPO法人防衛技術博物館を創る会」の代表理事を務める小林雅彦氏が中心となって進められたもので、インターネットを通じて広く出資を募る「クラウドファンディング」のキャンペーンによって資金が賄われました。実際にキャンペーンを実施した「READYFOR」のページでは、今でもキャンペーンの詳細を見てみることが可能です。
70年の時を越えて、幻の国産車「くろがね四起」復元計画始動!(小林 雅彦) - READYFOR (レディーフォー)
https://readyfor.jp/projects/kurogane4ki

剣道の「お面」のようなフロントグリルには、中央に帝国陸軍の帽章が据えられています。オリジナルのパーツは失われていましたが、代表の小林氏が個人的にもつながりのあるプラモデルメーカー「ファインモールド」に掛け合って、金属の塊から削り出しで作ってもらったものだとのこと。

「くろがね」と書かれたエンブレムも、わずかに残っていた当時のものを譲り受けて使っているそうです。

復元前はサビで覆われていたボディパネルも復元され、失われていたライトも当時のものをベースに再現。ボディの修復では、神奈川県の永遠(とわ)ボディーがメインで作業を担当。

前輪サスペンションのアームもキレイに復元。

修復前はなかった前輪駆動用のドライブシャフトも復活。現代の自動車ではまず見かけない十字型のジョイントなどが時代を感じさせます。

滑らかな曲面のリヤセクション。ホイールは当時のものを所有しているロシア人コレクターのもとを小林氏が訪れ、手荷物として自ら持ち帰ってきたものとのこと。ホイール以外にも、このロシア人コレクターからは多くの協力を得られたそうです。

もちろんマフラーもこの車体のために完全復元。担当したのは自動車用マフラーで知られるFUJITSUBO(藤壺技研工業)とのこと。

ピカピカの状態に復元されたくろがね四起ですが、わずか2年ほど前までは傷みのひどい状態でした。GIGAZINEでは修復が始まる前の段階で実車を見せてもらって以下の記事にまとめていたのですが、修復後の状態と見比べるといかにすごい技術で修復が行われたのかがよくわかります。
日本初の四輪駆動乗用車「くろがね四起」レストア前の車体をフォトレビュー - GIGAZINE

短い車体とホイールベースと、18インチという大きめのタイヤが特徴的なサイドビュー。当日は天候のために幌を開けることはできませんでしたが、もちろん完動するように復元されているとのこと。

車内もピカピカの状態。

エンジンとミッションが室内に大きく食い込むレイアウトのため、足元には巨大なトンネルが張り出しています。あちこちに穴が開いていますがこれが仕様だそうで、実際に乗ってみた人の感想だと「熱気が上がってきてけっこう熱い」のだとか。

再現されたメーター回り。

銘板も復元されています。

鉄板むき出しで、申し訳程度に敷かれたカーペットの床から生えるアクセル・ブレーキ・クラッチの3ペダル。

車内は3人がけのタイプ。この車両は戦闘中の斥候・情報伝達や、軍部のお偉方の移動のために使われていたそうで、当時よく使われていたサイドカーに替わるものとしての役割も担っていたとのこと。

エンジンフードを開けると……

空冷4サイクル・V型2気筒の1400ccガソリンエンジンが鎮座していました。33馬力/3300rpmという力で1.06トンの車体を走らせます。

バルブ駆動形式はOHVで、バルブを叩くロッカーアームとバルブスプリングはシリンダーヘッドの上に露出。クネクネと伸びている銅パイプはオイルをエンジン中に循環させるためのものだそうで、このエンジンはオイルパンを持たない「ドライサンプ方式」を採用していたそうです。

エンジンをかけると、現代では考えられないほどの白煙を出すくろがね四起。ガソリンの燃えるにおいと、ほのかに感じられるオイルのにおいからは、何かノスタルジーのようなものすら感じられました。

修復されたくろがね四起と、小林氏が所有するドイツのキューベルワーゲンとアメリカのジープの3台。当時は日本・ドイツと敵対関係にあったアメリカ軍の車両が一堂に会するという光景は、世界広しといえどここだけといっても間違いないそうです。

くろがね四起の傍らに置かれていた説明のパネルはこんな感じ。

修復作業にあたった関係者のうち、プロジェクトを率いた株式会社カマド社長の小林氏と、社員の方々。社内でもエキスパートを集めて進められたプロジェクトになっていたそうです。

今回の修復にあたり、プロジェクトを率いた小林氏は「なにも手つかずのままだと朽ちていく技術を、後世に伝えていかなければならない。先輩方が培ってこられた技術を受け継ぎ、それを後の世代に伝えるのが私たちの役目です。そのためには、当時の日本の工業製品をそのまま保存し、当時の技術の素晴らしさと至らなさを含めて、ありのままの姿で残して行くための施設が必要です」と語っていました。
◆クラウドファンディングの出資者などを招いて実施されたお披露目会の様子
9月24日(土)、静岡県の御殿場高原ホテルにてお披露目会が実施されました。

当日は雨脚が激しくなることもある中でしたが、300名ほどの出資者がくろがね四起をひと目見ようと全国から集まりました。

雨を避けたスペースの中で、思い思いにカメラを向ける参加者。みなさんそれぞれがクラウドファンディングに出資した人たちばかりなので、それぞれ感慨深いものがあったようです。

来賓として、実際に復元前の車両を保管していた京都の日工自動車・永田社長があいさつ。永田社長は小林氏の父上と仕事でのつながりが深い方で、不思議な縁でくろがね四起の復元が始まった様子を語っていました。

また、ジープをはじめとする軍用車両に造詣が深く、「大塚アクション」と呼ばれる独特の作風で「未来少年コナン」や「ルパン三世 カリオストロの城」などの作品にも携わったアニメーターの大塚康生氏からもひとこと。少年時代にくろがね四起を目にした時に感じたアメリカの軍用車との違いなどをもとに、くろがね四起への思いを語っていました。

関係者によるテープカットが行われ……

正式にお披露目の運びとなりました。当日参加した出資者には、出資したプランに応じて座席に座って撮影などの特典が行われていました。

復元が完了したくろがね四起は9月25日(日)に一般無料公開されるほか、各地のイベントに参加する計画もあるとのことで、今後は目にできる機会も増えることになりそう。また、小林氏が中心となって進めている「防衛技術博物館」が実現した際には、その中にも展示されることになっているそうで、イベント参加情報を含めてサイトを要チェックです。
NPO法人防衛技術博物館を創る会

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