ディズニーが映画などでは成功しているのにゲーム部門を閉鎖してしまったのはなぜか?
ディズニーは1988年にゲーム部門として「ウォルト・ディズニー・コンピューター・ソフトウェア」を立ち上げ、ゲームには「自社が保有するポートフォリオのスピンオフゲームをサードパーティが作る」という立場で関わっていましたが、1994年12月に自らゲームソフトを作る「ディズニー・インタラクティブ」を設立し、以後はゲーム会社としても活動してきました。
いくつものゲーム会社を買収し、拡大路線を取っているイメージでしたが、2016年になって残っていた傘下スタジオを閉鎖、ライセンスビジネス中心に軸足を移し、1994年以前の方針へ戻る形となりました。
Inside Disney's messy video game business - Tech Insider
http://www.techinsider.io/inside-disneys-messy-video-game-business-2016-5
Disney Cancels Infinity, No Longer Self-Publishing Games - IGN
http://www.ign.com/articles/2016/05/10/disney-cancels-infinity-no-longer-self-publishing-games
このインタラクティブ部門の傘下には、かつては数々のスタジオが存在しました。
◆Avalanche Software
おそらく、ディズニー・インタラクティブのゲーム会社(開発チーム)として一番知られているのはこの「Avalanche Software」です。Sculptured Softwareという会社にいた4人のメンバーが1995年10月に設立したメーカーで、ジェネシス(北米版メガドライブ)やSuper NES(北米版スーパーファミコン)向けのソフトを制作、100人以上のスタッフを抱えていました。
ディズニーはこの会社を2005年4月に買収、「チキン・リトル」や「ボルト」、「トイ・ストーリー3」、「カーズ2」といった、ディズニーコンテンツのゲームを制作してきました。
2013年8月に発売した「ディズニー インフィニティ」は全世界で300万本、日本でも2013年11月に発売され50万本が売れるというヒット作になり、2014年に続編の「ディズニー インフィニティ 2.0」、2015年にさらなる続編の「ディズニー インフィニティ 3.0」が発売されました。
Disney INFINITY 3.0 ディズニーインフィニティ3.0 | バンダイナムコエンターテインメント公式サイト
http://disney-infinity3.bn-ent.net/
◆Propaganda Games
Avalancheに先駆けて、2005年4月にディズニーが設立したのが「Propaganda Games」。元エレクトロニック・アーツ カナダのスタッフが中心となり、FPSゲーム「テュロック」とアクションアドベンチャーゲーム「トロン:エボリューション」をリリースしました。
Tron Evolution World Premiere Trailer [HD] - YouTube
テュロックの続編「テュロック2」と、「パイレーツ・オブ・カリビアン:アルマダ・オブ・ザ・ダムド(Armada of the Damned)」の制作が予告されていましたが、そのリリースより前の2011年1月に閉鎖されました。
Pirates of the Caribbean Armada of the Damned E3 2010 Debut Trailer [HD] - YouTube
ちなみに、この「テュロック」は1997年にNINTENDO64向けに発売された「時空戦士テュロック」(開発:Iguana Entertainment)、およびその続編の「バイオレンスキラー TUROK NEW GENERATION」とは無関係です。
◆Fall Line Studios
2006年にAvalanche Softwareの姉妹スタジオとして設立されました。「ナルニア国物語:カスピアン王子の角笛」など、Avalancheと同様にディズニーのコンテンツを使ったゲームを制作していましたが、2009年にAvalancheに合流して消滅しました。
The Chronicles Of Narnia:Prince Caspian New Game Trailer - YouTube
◆Black Rock Studio
1998年に「Pixel Planet」という名前で設立された会社が前身。この会社は1999年にイギリスのゲーム開発会社「Climax Studios」に買収され、「Climax Brighton」と改名、2004年にはグループ再編により「Climax Racing」となりました。
2006年9月にディズニーに買収され、2本のゲームを出しましたが、2011年6月閉鎖。
Split/Second E3 trailer - YouTube
◆Junction Point Studios
Looking Glass StudiosでアクションRPG「System Shock」などを開発したウォーレン・スペクター氏らが2005年に設立。会社名の「Junction Point」は、スペクター氏がLooking Glass Studios在籍していたころに制作中止となったタイトルに由来しています。
2007年7月にディズニーが買収。Wii向けアクションアドベンチャーゲーム「ディズニー エピックミッキー ~ミッキーマウスと魔法の筆~」とその続編「ディズニーエピックミッキー2:二つの力」を制作しましたが、売れ行きが芳しくなかったということで2013年1月に閉鎖。同じ年のうちに、スペクター氏もディズニーを去りました。
Wii U/Wii「ディズニー エピックミッキー2:二つの力」 - YouTube
◆Wideload Games
Bungie Softwareで「Halo: Combat Evolved」を開発したアレクサンダー・セロピアン氏ら7名が2003年に設立した会社。
2009年9月にディズニーが買収し、Wii向けパズルゲーム「Guilty Party」を2010年8月にリリース。このあとディズニー・インタラクティブの経営再建があってモバイルゲーム制作へ転向し、マーベルのスーパーヒーローたちが登場する「Avengers Initiative」をリリース。しかし、2014年3月に閉鎖されました。
Disney Guilty Party Trailer - YouTube
◆その他
このほかに、2008年4月には中国の独立系ゲームメーカー・ゲームスター、2010年7月にはソーシャルゲームメーカーのプレイダムを買収しています。
しかし、インタラクティブ部門は苦戦し、巨大なディズニーの中にあってその貢献はわずか。2008年から2014年までに計上した赤字は5500万ドル(約60億円)に上り、2014年の決算後にも人員削減が行われ、元「プレイダム」部門が数百人規模で解雇されました。
◆ゲーム部門撤退とその理由
ディズニーといえばミッキーマウスやディズニーランド、スポーツ専門チャンネルのESPN、マーベル、さらに2012年にはルーカスフィルムを買収して「スター・ウォーズ」も手にしています。
つまり「世界で最も成功している娯楽企業」ともいえる存在なのですが、2016年5月10日に「ディズニー インフィニティ」制作を行ってきたAvalanche Softwareを閉鎖しました。今後もモバイルゲーム分野は続けるものの、PS4やPCといった大きなゲーム制作からは撤退することになったわけです。
この、「ディズニーがゲーム分野でうまくいかない」という点について、Wideload Games買収の2009年から2012年までディズニーのゲーム部門の中核にいたアレクサンダー・セロピアン氏は、「財政的な面で、驚くほどに厳しかった」とその内情を語りました。
大きな会社には経理部門があるのが当然で、セロピアン氏がかつて所属していたBungie Softwareも、Microsoftの傘下だったのでその経理の人間が入っていました。その判断は「もうちょっと製品に焦点が合っていて『正しいものを作れば利益が出る』という経営的意志決定ができていました」とのこと。ところがディズニーにはそれがなく、製品よりもスプレッドシートを見て判断されることがあったそうです。
「ディズニーはゲームのことをよく知らなかった」と語るセロピアン氏。振り返ってみると、最後に「ディズニー インフィニティ」というヒット作を出していますが、このタイトルですら数年にわたる販売計画を下回る結果だったことで“怖じ気づいて”しまい、ゲーム部門は完全に畳まれることになりました。
ディズニーのロバート・アイガーCEOはこの報告について「ゲームを自分たちで出すよりもライセンスビジネスに専念することによって、リスク管理を行った方がよいだろうと考えた」とコメントしています。
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