サイエンス

睡眠とメンタルヘルスはどのようにして脳内でつながっているのか?

by Lilmonster Michi

不規則な生活や睡眠不足が続くと、昼間から眠気に襲われたり、体調が悪くなったりといった悪影響が起こることがさまざまな研究から判明していますが、さらには睡眠不足は脳内でメンタルヘルスと深いつながりがあり、精神障害にも関係していることが明らかになっています。

Why sleep could be the key to tackling mental illness
https://theconversation.com/why-sleep-could-be-the-key-to-tackling-mental-illness-50102

How sleep and mental health are linked in the brain | World Economic Forum
https://www.weforum.org/agenda/2015/11/how-sleep-and-mental-health-are-linked-in-the-brain/


精神障害の遺伝学・生化学的な原理は、研究が始まったばかりでまだあまり解明されていない分野です。「精神障害」という言葉の定義自体があいまいで、不安症状や、うつ病、精神異常などがひとくくりにまとめられています。精神障害と診断される患者が増えつつある中、精神障害の原因究明と治療法の確立が重要な課題とされていますが、オックスフォード大学で脳科学を研究しているRussell Foster教授は、「複数の科学的根拠から、精神障害の治療のためには、睡眠により深く注意を払う必要がある」と主張しています。Foster教授によれば、さまざまな研究結果から、不眠症などで十分な睡眠が取れていない状態は、精神障害を引き起こしやすいことが判明しており、さらには睡眠障害を治療することで精神障害の予防につながるとのこと。

これまで、精神障害の治療において睡眠の効果は無視されがちでしたが、実際のところ、睡眠とメンタルヘルスは脳内でどのように結びついているのでしょうか。睡眠とメンタルヘルスの関係を理解するためには、まず睡眠と体内時計(概日リズム)の仕組みについて知る必要があります。体内時計は、1日のおおよその時間を知らせる役目だけでなく、細胞が適切な時間・場所で働くように調整する機能も持っています。また、何千個もの遺伝子のスイッチを順番通りかつ同時に切り替えなくてはいけません。タンパク質、エンチーム、脂肪、ホルモンなどの物質が、体内で吸収され、分解され、物質代謝で変化し、成長・再生・新陳代謝・細胞の修復などのプロセスで重要な役割を果たしています。

これらの働きを調整する体内時計は、すべての生物のゲノムに組み込まれています。人間の場合、生理機能は「活動時間」と「睡眠時間」の2つを中心に構成されています。人間が起きている時間は、エネルギー消費量が多く、食べ物と水分を消費し、内臓は栄養を取り込むため消化活動を行います。一方で睡眠中は、エネルギー消費と消化機能が低下し、細胞の修復、毒素の除去、脳内の記憶整理や情報処理など、人間が生きるために不可欠な活動が体内で行われます。

by Luciano Dinamarco

しかし、時差ボケや、不規則な勤務時間、精神障害などが原因で生活リズムが狂うと、体内時計がずれてしまいます。体内時計が乱れると、感情をコントロールしにくくなって怒りっぽくなったり、認知機能に問題が起こって記憶力や集中力が低下したり、健康面では突然眠たくなったり、痛みや寒さに敏感になったり、ガンや糖尿病にかかりやすくなったりといった影響が起こります。

「精神障害」「体内時計のズレ」「睡眠不足」の3者の関係が初めて指摘されたのは、19世紀後半のことで、ドイツの精神科医・エミール・クレペリンが発表しました。今日では、統合失調症の患者の約8割に睡眠障害や体内時計の狂いが見られていて、統合失調症の特徴のひとつに挙げられていますが、睡眠障害は長らく軽視されてきた症状で、社会的孤立や無職を理由にしたり、向精神薬の副作用として片付けられたりしてきました。

しかし、Foster教授率いるオックスフォード大学のSleep&Circadian Neuroscience Institute(SCNi)では、睡眠障害を訴える統合失調症の患者が、向精神薬の服薬を止めたいと主張していることから、睡眠障害や体内時計の乱れは、脳内で精神障害と同じ神経物質伝達経路を共有していると推測。Foster教授は、「睡眠と体内時計のシステムは、脳のさまざまな部位と神経伝達物質とホルモンが複雑に相互作用した結果生まれたものです。つまり、脳内の神経伝達システムのいずれかに異常が起こると、睡眠や体内時計のシステムに何らかの影響が及びます。同様に、精神障害も脳内の神経伝達システムの異常によって発生し、睡眠障害や体内時計の狂いが同時に発生します」と語り、睡眠障害と精神障害が同時に発生したり、体内時計の乱れが精神障害を悪化させたりすることは何ら驚くことではないと主張しています。

Foster教授によれば、睡眠障害が原因で起こる健康上の問題の大半は、精神障害の症状として一般的なものが多いのですが、睡眠不足との関係はほとんど無視されているとのこと、一方で、数多くの遺伝子が睡眠異常と精神障害の両方で重大な役割を果たしていることが判明しています。不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠異常は、精神障害とは別の病気として区別されてきましたが、そううつ病や小児期発症の統合失調症は、初期症状として臨床診断が必要な症状よりも前に睡眠障害が生じやすいことも判明しています。上記の理由から、睡眠と生活リズムの乱れは精神障害の早期診断において重要な要素であり、睡眠障害を早期に発見することで精神障害の治療に役立つ可能性をFoster教授は指摘しています。

by sharyn morrow

また、Foster教授がオックスフォード大学の心理学者と共に行った研究では、被害妄想に苦しんでいる統合失調症の患者に「認知行動療法」と呼ばれる治療を行ったところ、睡眠の質が改善し、妄想が減ったり、不安やうつ症状も改善したという結果が出たとのこと。つまり、睡眠障害を治療することで、精神障害の症状にも効果的であるとFoster教授は推測しています。

睡眠障害は、「夜に眠れない」という単純な問題だけではなく、さらに深刻な健康問題を引き起こす可能性があるため、Foster教授は睡眠不足の原因を解明して、認知行動治療を受けたり、日光に十分あたったり、適切な投薬治療を受けることが重要だと主張しています。Foster教授は「社会全体における睡眠の重要性を知るべき時です。特に精神障害においては睡眠はとても重要です。睡眠障害を直すことで、精神障害を含む健康問題を改善して生活の質を上げれば、患者だけでなく、看護する側の生活の質も上げることができるでしょう」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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