メモ

GPSを使った距離測定が誤差から逃れられない理由が数式で証明される

By David Fulmer

人工衛星からの電波を受信して地上での位置を特定する衛星測位システム、いわゆるGPSを使っていると、時には誤差が生じることに気がつくこともあります。また、ジョギング用アプリや移動ログアプリで実際に移動した距離を計測してみると、実際よりも長い距離が表示されることもあるのですが、その背景には単なる「誤差」やアルゴリズムの問題とは異なる別の理由もあるようで、ある研究チームがその発生を数式で証明しています。

GPS Always Overestimates Distances
http://www.i-programmer.info/news/145-mapping-a-gis/9164-gps-always-over-estimates-distances.html

Why Every GPS Overestimates Distance Traveled - IEEE Spectrum
http://spectrum.ieee.org/tech-talk/at-work/test-and-measurement/why_every_gps_overestimates_distance_traveled

GPSを始めとする衛星測位システムは、宇宙空間を飛び交う複数の人工衛星から発される電波を受信することで自分の位置を測位するシステムであることを知っている人も多いはず。そのイメージは以下のGIFアニメーションのようなもので、網の目のような軌道を飛び交う多くの人工衛星の中から「視界に入っている衛星(visible sat)」を見つけてその電波を拾い(緑の線)、複雑な計算を行うことで3次元的に自分の位置を決定することができます。

By Shushruth

実際の運用の際には、例えばスマートフォンの場合はGPS信号の他に自分の近くにあるWi-Fi信号の情報などを得ることで、測位の精度を高めています。このような複数の補正機構を備えるGPSシステムですが、それでもなお誤差が残るのには理由が存在しているとのこと。

その理由を解明したのは、オーストリアのザルツブルク大学と研究機関であるSalzburg Forschungsgesellchaft(ザルツブルク研究会社)、そしてオランダのデルフト工科大学による研究チームです。研究チームは、GPSによる移動距離測定を行った場合には、実際の距離よりも大きい数値が計測されることを解き明かし、距離測定の誤差にはシステムに起因するバイアス(偏り)が存在していることを明らかにしています。

(PDF)Why GPS makes distances bigger than they are - 13658816.2015.1086924


GPSによる経路測定は、複数の測定地点の間を埋める際の補間の誤差および測定時の誤差による影響から逃れることができません。この誤差の原因には、大気の影響などで電波が伝播する際に生じる遅延や、天空に浮かぶ衛星そのものに生じている位置情報の誤差、衛星に搭載された原子時計のズレ、受信側ハードウェアの欠陥、ビルなどで生じる電波の反射、そして「衛星の位置が水平線に対して低すぎる」「互いの衛星が近寄りすぎている」「見えている衛星が少なすぎる」などの要因が影響しているとのこと。GPS装置はこのような誤差や障害を補正した上で、現在の位置をはじき出しています。

研究チームは、これらの不規則な誤差を持つ情報から得られた位置情報から測定された2点間の距離は、概して実際の距離よりも大きなものとなってしまうことを、計算式をもとに証明したとのこと。2点間の実際の距離"d0"と測定の精度を示す指数としてのバリアンス(分散)"Var gps"、自己相関"C"を用いて距離の過大推定(Overestimation of Distance:OED)を求める以下の式からは、自己相関"C"が常に正の値を示すバリアンス"Var gps"よりも小さい場合には答えが正の数値(=実際よりも大きな距離)を示すことになります。そして、自己相関"C"はほとんどの場合にバリアンス"Var gps"よりも小さな値であるとのこと。


この"問題"は、GPSを使用するユーザーが複数の地点の距離を積み上げて総距離を測定する際に顕著になるとのこと。GPSをもとに計測した距離には実際の距離との誤差が存在しますが、前述のように実際よりも大きな数値を示す回数が多いというバイアスがかかっているため、計測地点の数が多くなるほど誤差が増大する可能性が高くなるというわけです。

さらに研究チームはこの論理を実際の状態でも確認しているそうです。実験では、広い駐車場に10メートル四方の正方形を描き、さらに4辺の直線には1メートルごとに位置を測定するためのレファレンス点を設定。そして、実験の参加者にはGPS端末を持たせ、4辺の上をぐるぐると25周してもらいながら、それぞれのレファレンス点で位置測定を行ったとのこと。

その結果、GPS測定によってはじき出された2点間の距離は、1メートルごとの測定の場合には平均で1.2メートル、5メートルで測定した場合には5.6メートルとなり、総じて実際の距離よりも12%から20%も大きな数値が示されることがわかりました。研究チームはまた、より広い場所で自動車を使って同様の実験を行っているのですが、ここでも同じ傾向の結果が得られているとのこと。なお、論文では実験に用いられた衛星測位システムがアメリカのGPSなのか、ロシアのGLONASSなのか、もしくはそれ以外のシステムまたはこれらを組み合わせたものなのかは触れられていません。

By Riccardo Romano

このように、GPSを使った距離測定には一定の誤差が発生してしまうことが数式と実験で証明されたわけですが、その一方で必ずしも「GPS計測は使い物にならない」と断定するものではないとのこと。同じGPSでもベロシティ(速度)をもとに測定する方法では同様の誤差は生じないため、十分に正確な距離を測定できるとも述べています。

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in メモ,   ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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