「塩水」がリチウムイオン電池をより安全にするためのカギ?
By immortal_undead
リチウムイオン電池は再充電可能で、高いエネルギー貯蔵能力を有しており、使用していない場合は最小限の消耗で済む、という特性も持ち合わせています。現代では、スマートフォンやノートPC、タブレットなど多くのデジタル端末にリチウムイオン電池が搭載されており、多くの人々がこの利点を享受しています。しかし、スマートフォンなどの発火事故が多発しているように、リチウムイオン電池はまだまだ安全性やコスト、環境影響などに問題を抱えている模様。そんなリチウムイオン電池をより安全にするための研究が行われています。
“Water-in-salt” electrolytes can make lithium-ion batteries safer | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2015/11/water-in-salt-electrolytes-can-make-lithium-ion-batteries-safer/
これまで、リチウムイオン電池の安全性に対する懸念は「バッテリーに使用している電解質」にありました。電解質は電極間での電荷移動を助けるための「電荷の通り道」となる重要なものですが、非常に可燃性が高く、リチウムイオン電池の他の構成要素(電極など)と化学反応を起こしやすく、また毒性の高い物質を使う必要がある、という問題がありました。燃えやすい電解質に対する安全対策は、リチウムイオン電池を組み立てる際の高価な処理ステップで取られているのですが、これにより電池としての機能は制限されてしまうそうです。
しかし、新たに発表された研究の中で、水性の電解質がリチウムイオン電池の安全性を高めることが実証されています。水性電解質は電気窓が狭く電気化学的安定性が低いため、従来の方法ではリチウムイオン電池の電圧範囲が制限されてしまいます。対して、非水性の電解質では電極が非常に機能的で非常に広い範囲の電圧を生み出すことが可能です。充電時、固体電解質は分解されて電極の表面に層を形成するのですが、これの層がイオンの移動を可能にしながらも電子の移動を防ぐため、高い電圧を生み出します。
この現象は「充電時に電解質が分解されるタイミングで電極表面に生じる膜」がポイントになっているわけですが、水性電解質の場合、分解される電解質が水なので、発生するのは「水素」「酸素」「水酸化物イオン(OH-)」で、どれも電解質の表面に堆積することはありません。その
ため、従来は水性電解質は固体電解質よりも電圧が低くなる、という考えが一般的でした。具体的な数値としては、水性電解質の場合リチウムイオン電池は低電圧の1.5V未満、エネルギー密度は70Wh/kg程度になる模様。こういうわけで、現在、電解質の多くは固体電解質が使用されて
います。
By pinkyracer
これに対して、新しい研究では「リチウム塩」と「水」を利用して「従来よりも高電圧で安全なリチウムイオン電池」の作成方法を考案しています。研究で求められたのは「水に対して可溶性が高く安定しており、特定の電位を受け取って可溶性のない固体物質を水性媒体の中に生み出すリチウム塩」という複雑な条件を満たしたもの。これを満たすリチウム塩は少数だったそうですが、研究者は「リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)」というリチウム塩に目を付けます。
LiTFSIの高濃溶液を使った実験を行うと、リチウムイオンが水分子の数を圧倒し、塩水の中の多くのイオンが異常な反応を示したそうです。そして、リチウムイオン間の相互作用が食塩水の中で見られる典型的な水イオンの相互反応を超え、イオン同士の相互反応によりリチウムイオンが電極を囲み、電子を得るとのこと。そして、電極にできたこのリチウムイオンの膜により、電気窓が安定して3Vまで上昇したそうです。また、LiTFSIの濃度が上がると、全体の電気化学的安定性が拡大することも明らかになっています。
従来のリチウムイオン電池よりも安全性が高く、それでいて高電圧なリチウムイオン電池の作成方法が研究により考案されたわけですが、実用化までにどれくらいの年月がかかるのかは不明です。
・関連記事
スマホのバッテリーを長持ちさせて電池寿命をのばす4つのコツ - GIGAZINE
スマホや電気自動車のバッテリー容量を4倍にする「真のリチウムバッテリー」が登場 - GIGAZINE
わずか60秒でフル充電できる「アルミニウムバッテリー」の開発に成功 - GIGAZINE
ニコニコ生放送でうまい棒や塩水などを差し入れできる「あちらのお客様からシステム」とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ