ただ旅をするだけでは無意味、旅の目的と行き先の選び方
by faungg's photos
街を歩けば魅惑的な旅のキャッチコピーに出会うことがありますが、旅行会社の決めた旅の目的や行き先に従ってしまうだけでは、少ない時間を割いてでも得たかった「癒やし」や「内面の変化」が得られないこともあります。そこで、旅の行き先や目的の決め方・選び方について、哲学者でありエッセイストのアラン・ド・ボトンさんが解説しています。
Alain de Botton on why we travel - FT.com
http://www.ft.com/cms/s/2/f6653b82-4023-11e5-9abe-5b335da3a90e.html
中世、「体に不自由な人が聖人の体の一部に触れると病気が治る」という考え方が流行し、多くの人が死者の体に触れるための旅に出ました。例えば、奥歯の痛むカトリック信者の場合であれば、イタリアのサン・ロレンツォ聖堂にある、歯の守護聖人アポロニアの腕の骨を触るか、アントワープにあるイエズス会子の教会に行きアポロニアの顎を見つけるかするように促されました。また不幸な結婚をしている女性はイタリア・ウンブリア州に行き、夫婦間の問題の守護聖人であるカッシアのリタの聖骨に触れることもあったそうです。
現代では上記のような「神通力によって病を治すための旅」はあまり行われていませんが、今でも、家に引きこもっていては得られないアイデアを得るためや、自身に変化をもたらすために旅をする人は多くいます。そして実際に、気候や広大な景色、日常との差を感じることによって、癒やしや体調の変化が得られるかもしれません。
「病を治すための旅」という慣習は既に失われていますが、旅の治療的な側面は部分的に残っています。しかし、「どんな旅が人間の内面に対してどのような影響をもたらすのか」という詳細な分析はめったに行われません。旅行会社は「アウトドアの楽しみ」「家族で出る冒険」「秘密の隠れ家、○○島」など、さまざまなキャッチコピーを我々に提示しますが、私たちの内面を変化させるために「何が重要なポイントなのか」という点は示されないのです。
実際に、「"旅に行きたくなる"広告コピーベスト10」を見てみると、「自分が見えなくなったら、世界を見に行きなさい」「時計を脱いで、バリ島へ」「自分に行き詰ったら、旅が最良の薬です」といった「曖昧だけれども癒やし効果がありそう」な言葉が目に付きます。
つまり、私たちは旅行産業の提示した曖昧な「癒やしの旅」にただ従うのではなく、「自分はどのような心理的変化を得たいのか」を明らかにした上で、「どこに行くのか」を決める必要があるのです。そこで、哲学者でありエッセイストのアラン・ド・ボトンさんが、旅の目的と場所の選び方を例示しています。
場所:ギリシャ、ロードス島、ペフコス海岸
理由:不安をなくすため
by KillamarshianUK
疲れた人が不安をなくすためには、中世の町並みや古代の神殿を見たり、微妙な地元料理を食べたりするのではなく、ただただ太陽の光を浴びる必要があります。
長い冬の間、もこもこのジャンパーやコートを着込み、デリバリーなどの簡単な食べ物ばかり摂取していた人は日光を渇望しています。海岸に大きなパラソルをさし、温かくなった海水を感じ、雲一つない青い空と太陽の下で寝転んでいれば、自然と縮こまった筋肉が弛緩するはず。また、太陽の光は私たちに寛大さや気力、自信を持たせる役割をも持ちます。日常に用意されたさまざなま「心地よさ」は、人を生きやすくするものですが、一方で多くの物の印象や感動を奪います。しかし激しい太陽の光の下は、心地よさとは縁遠く、本を読む気どころか物事を考える気さえなくなってしまいます。
by Nathan Adams
考えすぎたり、深刻になりすぎたり、ハードに働きすぎたりする人は敢えて快適とは言えない太陽の下に寝そべり、脳や体を休めることが大切。そうすることでバランスが取れ、後でより深い思考に潜れるようになるわけです。
場所:スペインのセビリア、イスラマヨール、ポンプ場
理由:自分自身の興味を深めるため
旅行のガイドブックには「見どころ」としてさまざまな場所が挙げてあります。例えばスペインのセビリア市の見どころとしては、必ずスペイン広場とスペイン王室の宮殿「アルカサル」が紹介されていますが、これらはスノッブな人々、つまり「自分は知識がある」ということをひけらかしたい人によるセレクションであることも多いもの。上記のような「オススメ」は、人にとって何が重要なのかを一方的に決めつけていると共に、重要で価値あるものは既に他人によって発見されていて、世界中から名声を集めている、という無意識の前提を含んでいるのが危険なのです。
by Ed Schipul
この前提は、普段生活する上ではそこまで問題とならないのですが、こと旅行に関しては、ツーリストオフィスから得られる情報ではなく、自らの興味に基づいて冒険を行うことで、自分の内面のより深いところまで潜れるようになります。例え有名なガイドブックに書いていなくとも、セビリアの乾燥した大地に魅せられたなら、ポンプ場を見学するのもよしというわけです。
by Paul
場所:デトロイトのイースタン・シアター
理由:物事は移ろいでいくということを思い出すため
by Thomas Hawk
数十年前のデトロイトは非常に活気ある街でしたが、現在は衰退の一途をたどっており、劇場のシャッターは下ろされ、誰も住んでいない家が並び、寂れた町並みが広がっています。そのため、観光雑誌は「デトロイトで過ごす休暇」をオススメしていませんが、人々がエフェソスやイズミルの遺跡を好んで訪れることを考えると、廃虚と化したデトロイトを旅することは全く不思議なことではありません。
今存在するもののほとんどが数十年、数百年後には姿を消しており、永遠に続くものなど存在しないと、私たちは常に自覚すべきです。そして私たちはかつて豪華な姿だったのであろう古代の遺跡を見て、無常や盛者必衰を感じるもの。「現代の遺跡」とも呼べるデトロイトのウエスト・オークマン大通りを見ていると、わずか数年前には希望を持った人々であふれていたと自然に想起することからも、まさにデトロイトは「遺跡」として人々の感情を動かすと言えます。また、デトロイトのオークションでは一軒家が1000ドル(約12万円)で落札されることもあり、経済世界からはみ出た物がどれほど価値を失うのかを間近で体感することが可能です。
by Mike Boening Photography
場所:横浜の街角の雑貨店
理由:心理的な限界に打ち勝つため
子どものころ、教室でスピーチを行うよう教師に促され、頭が真っ白になってしまったような経験は誰にでもあるはず。異国を旅していると、その時と似たようなことをたびたび経験することになります。例えばアメリカからやってきた青年が横浜の元町の街角で携帯電話のプリペイドカードを買おうとした時、自分の電話を指さして説明しようとするも店主には全く理解されず、怪訝な顔をされてしまいます。その時、まるで自分がバカになってしまったような気持ちになって、もう諦めてホテルに帰りたいと思うかもしれません。しかし、恥をかきすて何とか買い物を済まし、ありがとうと店主に笑いかけた時、人は多くの事を学び、内気さにも打ち勝ちます。そして、その経験は今後の人生の大きな糧となるはずです。
by Thomas Huang
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