「新幹線のポテンシャルを高める」ために新幹線に導入されたKDDIのiPadがどんなものか見てきました
山陽新幹線や北陸新幹線を運行するJR西日本では、「世界に誇る新幹線のポテンシャルを高める」ための取り組みの一環として2015年3月からは北陸新幹線で、そして2015年7月1日からは山陽新幹線で乗務する乗務員全員がiPadを携帯するようになりました。今回は開業して約4か月がたった北陸新幹線を舞台にKDDI・auと共同で開発されてきたというこのシステムが紹介される発表会が開催されたので、その詳細がどうなっているのか見てくることにしました。
新幹線の全乗務員が「iPad」を携帯します:JR西日本
http://www.westjr.co.jp/press/article/2014/12/page_6616.html
というわけで、発表会の会場となるJR金沢駅に到着。金沢駅は、北陸新幹線の西の始発・終着駅となっています。
新幹線乗り場へと向かう報道陣。このあと、実際に車内で実際にiPadを使っている様子のデモが行われることになっています。
ホームにどーんと待ち構える北陸新幹線。まだ運行開始から間もない車両ということでどこを見てもピッカピカのツルッツルのキレイな車体となっていました。ちなみに北陸新幹線には「W7系」と「E7系」の2種類がありますが、今回はJR西日本の車両ということでW7系が使われています。
報道陣のカメラが狙う先には、iPad miniを手にした車掌さんの姿がありました。
車掌さん、客室乗務員さんにはiPad mini、そして運転手さんにはiPad Airが支給されているとのこと。
報道陣が車内に乗り込んで実演のスタート。今回は車両を1両まるごと貸し切り、金沢~富山間を実際に往復してのデモが行われました。
車内では、JR西日本 金沢新幹線列車区の横田 智祐車掌がデモを実施してくれました。乗客に「どこか良い観光スポットはありますか?」と呼び止められた横田車掌はiPad miniを手に取り、乗客に見せる観光情報を検索し始めました。
「こちらなどはいかがでしょう?」と画面を見せる横田さん。
画面には、金沢らしく「金沢21世紀美術館」が表示されていました。
実際に画面をタッチしながらアレコレ情報を見ることも可能です。
実際に横田さんがiPad miniのアプリを使って乗客に案内している様子は、以下のムービーで見ることができます。
北陸新幹線でKDDIのiPad miniを手に乗客に観光案内を行う車掌さんの様子 - YouTube
横田さんが持っていたiPad miniは、制服のポケットにスッポリ収まるサイズとなっていました。「このために制服が新しくなったのですか?」と尋ねると、「いえ、たまたまです(笑)」と少しガッカリするような、少し笑ってしまうような答えが返ってきました。
背面にはストラップがあり、手を通してガッチリとホールドできるようになっていました。四隅にクッションを装備するなど、耐衝撃性が考慮されていそうなケースそのものは市販品が流用されているようです。
上記のようなハンドヘルド型のケースですが、長いストラップを取り付けて肩掛けタイプとして使用することも可能。この使い分けは乗務員の自由で変更が可能だそうです。
こんな風に前にかけて持ったりすることも可能。思わず用もなく呼び止めてしまいそうになりますが、無用の呼びかけは業務に影響を与えかねないので、なるべく控えた方が良さそうです。
このように、実際の乗客との利用シーンがデモ実演されたJR西日本の乗務員用iPadですが、実はこの取り組みは乗客サービスの向上以外にも業務の効率化など、いくつかの狙いを持って導入されているもの。そんな取り組みの詳細について、当日は説明会があわせて開催されていました。
◆JR西日本とKDDIの取り組みについて
新幹線でのデモに先立ち、関係者による事業の説明会が開催されました。
2015年は山陽新幹線が開業から40周年を迎え、北陸新幹線が新たに開業するなど、JR西日本としては大きな出来事が重なるタイミングでもあります。
JR西日本がうち立てている「中期経営計画2017」では、重点戦略の一角を占める「新幹線のポテンシャルを高める」ための取り組みを行っており、今回のiPad導入は「異常時対応能力の向上」「お客様への情報提供の強化」「運転士、車掌の携行品の軽量化」を推進するための解決策として導入されるものとなっています。
取り組みの中で、JR西日本では山陽新幹線において約890台、北陸新幹線では約180台のiPadを導入して、業務のブラッシュアップを実践してきたとのこと。タブレット端末の導入により、従来は2~3kgもあったさまざまなルールを記載した「規定類」が、わずか700g~800gの端末に収まったため、業務の負担軽減に一役かっているそうです。
運転士には9.7インチディスプレイのiPad Airを、そして車掌・客室乗務員には7.9インチディスプレイのiPad miniを支給。端末は使い回しではなく、全乗務員に対して1台ずつ専用の端末が支給されています。端末には「列車運行情報アプリ」「幹在線接続時刻表アプリ」「規定・マニュアルアプリ」「訪日顧客案内アプリ」の4つの主な業務アプリケーションが搭載されています。これらのアプリは全てJR西日本の独自開発によるものだとのこと。
「列車運行情報アプリ」では、JR各社を含む新幹線と在来線の運行情報をリアルタイムで一覧表示することが可能。刻々と変化する運行状況を手元でリアルタイムに把握するための仕組みとなっています。
「幹在接続時刻表アプリ」は、新幹線と在来線の接続情報をリアルタイムで検索可能なアプリ。
「規定・マニュアル閲覧アプリ」は、これまで紙ベースで持ち運んでいた大量の資料を電子化し、タブレットにスッポリ収めたアプリ。ペーパーレス・電子化によって軽量化が実現し、内容の更新時もデータをダウンロードするだけで対応が可能など多くのメリットがあるとしています。また、乗客に提供する案内資料も内部に豊富に収納することで、手元の資料でさまざまな情報を操れるようになっています。
「訪日顧客案内アプリ」は、増加傾向を見せる訪日外国人観光客への案内に用いるアプリ。想定されるシチュエーションに応じて用意された英語・中国語(簡体・繁体)・韓国語の問答集が格納されており、日本語が不得意な人に対してもスムーズな案内を行うことを目的にしています。中身を見せてもらったところ、豊富な会話パターンが格納されていましたが、Google翻訳のように声で話しかけて自動的に翻訳するような機能は搭載されていませんでした。
このようなアプリの運用を高いセキュリティ性を確保した状態で実現するために、JR西日本ではKDDIと共同で仕組みの構築を進めてきたとのこと。
KDDIでは、JR西日本専用で外からのアクセスを遮断した閉域網とプライベートクラウドを提供することで、運行にまつわる規定やマニュアル、機密情報などをセキュアに取り扱える仕組みを構築。そしてauのネットワークを利用することで、どんな場所においても快適な利用環境を提供するという取り組みが進められてきました。基地局との通信はもちろん暗号化されており、秘匿性を確保。さらに端末の中のデータも暗号化されており、万が一の端末粉末時にもリモートでデータの消去が可能になっており、運行にまつわる重要な機密情報の保護に力が注がれています。
なお、北陸新幹線の沿線には多くのトンネルが存在しており、実際に通信が途絶えてしまうケースがあることも事実。そんな場合でも、アプリには「オフラインモード」が用意されているので、内部に蓄積されたデータでほとんどの機能を利用できるようになっているそうです。
実際に使用される端末がこちら。左から運転手に支給されるiPad Air、車掌および客室乗務員に支給されるiPad mini、そして手持ちケースとスタンド型ケースに収められたiPad miniの2台となっています。
少し暗いですが、規定・マニュアル閲覧アプリのメニュー画面はこんな感じ。車両の情報や運行にまつわるマニュアル、運転士や車掌の「作業標準」などをタブレット上で確認することができるようになっています。もちろんこれらの情報は一般の乗客は目にすることができないもので、取材時にも撮影はNG。万が一端末を紛失したり、盗難に遭った際にもリモートで内容を消去できる仕組みが取り入れられています。
訪日顧客案内ツールのメニュー画面はコレ。シチュエーションや必要とされている情報の種類に応じてメニューが設定され、すぐにアクセスできるようにデザインされていました。
「車掌からお客様へ」の画面では、基本案内やキップを紛失した際の対応、マナー案内などの項目が並んでいます。
「ジャパンレールパス」に関する対応がズラリ。海外で販売され、主に訪日観光客が利用するというジャパンレールパスの運用にあたっては、このようなトラブルシューティングのコンテンツを拡充させることも重要なことといえそうです。
自由席の案内を行う際は、画面のプルダウンメニューから号車番号などを選んで右下の「確定」をタップすると……
このように、英語での説明文が画面に表示されました。
中国語だってこの通り。画面では繁体字が表示されていますが、簡体字にももちろん対応。このほかにも韓国語の翻訳表示がサポートされています。
また、北陸新幹線にまつわる沿線のガイドマップも搭載されています。
乗客の要望などを参考に、さまざまな行き先の提案を行うことができるというわけです。この画面は日本語のみで提供されており、外国語での案内が搭載されていないのが少し残念なところかもしれません。
駅構内図なども用意されているので、乗り換えの問い合わせにもグラフィカルに対応することが可能となっていました。
このように、JR西日本が導入しているKDDIのiPadは乗客サービスの向上はもとより、業務を改善して「新幹線のポテンシャルを高める」ための取り組みの一つとして導入されていることがわかりました。なお、今回はJR西日本による発表でしたが、JR東日本においても同様のシステムが導入されているとのこと。いまや「新幹線に乗るために日本に来る」という訪日客も増えているとのことなので、このような取り組みで新幹線の底力がアップされることは心強いことといえそうです。
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