無人偵察ドローンを運用する米軍の抱える最大にして意外な悩みとは?
最近では「Drone(ドローン)」というとマルチコプターを指すようになってきましたが、元祖ドローンはアメリカ空軍などが運用する無人航空機です。「RQ-1 プレデター」などすでに戦争で実戦投入されているドローンは運用上、大きな問題を抱えているようです。
As Stress Drives Off Drone Operators, Air Force Must Cut Flights - The New York Times
http://www.nytimes.com/2015/06/17/us/as-stress-drives-off-drone-operators-air-force-must-cut-flights.html
無人偵察機RQ-1 プレデターは、CIAの要望に沿って小型・軽量かつ目立たないドローンとして1980年代前半から開発がスタートし、2000年のアフガニスタンでの偵察活動で高く評価された後、オサマ・ビン・ラディン暗殺という大義名分を与えられた結果、開発ペースが大幅に加速。IT技術の向上でリアルタイムで偵察映像を送受信できるようになり、地上から操縦したり完全自動操縦できたりと、進化を続けました。
そして、2009年にパキスタン・ターリバーン運動の敵司令官の殺害に成功し、2011年のリビア内戦ではカダフィ大佐の乗る車輌を撃破することに成功。正確無比で無慈悲な攻撃能力はしばしば倫理上の異論が噴出するほど強力で、現代の戦争にドローンは欠かせない兵器となっています。
近代兵器となったドローンは、自律的に巡回飛行させつつも追跡したり遠隔操縦したりするため地上からコントロールする必要があります。パイロット以外にも複数人でコントロールされるドローンチームには軍人以外の民間技術者も含まれますが、アメリカ軍の交戦規定によって爆撃などの攻撃操作は必ず軍人が担当するという運用が行われているとのこと。
遠隔操縦できるため敵から直接攻撃される危険がないドローンのパイロットですが、精神的に大きな被害を受けることが知られています。爆撃シーンを衛星動画ごしに目の当たりにすることで精神的なストレスを受けたり、緊迫した軍事的任務という「非日常」と平穏な生活を送る「日常」とが断続的に繰り返されることで生じる精神バランスの狂いなど、さまざまな面で精神的な被害が生じるとのこと。さらに、有人機のパイロットの数倍にも及ぶ長い「飛行」任務によって、肉体的な負担が大きいとも指摘されています。
このように無人機パイロットの任務が過酷なあまり、脱落者が続出しているとのこと。アメリカ空軍では1200人いる無人機パイロットのうち、かなりの割合のパイロットが任務に不満を抱えており、「退役」という選択肢を検討しているそうです。
ドローンの運用について、「常時飛行させるドローンの数を70機以上に増加させることを望んでいるものの、深刻なパイロット不足という現実に、実現困難だ」と国防総省の担当者はニューヨークタイムズ紙に語ったとのこと。また、過去10年間に10倍規模に急拡大したドローンの飛行数を維持するために大半のパイロットをトレーニングプログラムの講師に配置転換してきましたが、ドローンパイロットとして訓練されるのは予定の半分という状況で、パイロット育成計画にも支障が生じています。
アメリカ空軍は現在、パイロットの大量離脱という深刻なリスクを抱えており、ドローンのフライト数を増やすどころか、このままでは大幅カットを余儀なくされる見込み。この事態についてラスベガス北西にあるAir Force’s 432nd Wingからドローンへ指令を出すジェームズ・クラッフ大佐は、「2014年末にアフガニスタンにおける任務終了によって、ドローンの飛行数を大幅に削減できると考えていましたが、IS(通称、「イスラム国」)の急速な台頭という誤算によって、計画の変更を余儀なくされている」と述べています。
アメリカ空軍のパイロット大量離脱の要因は、パイロットへの心身ともにかかる負担が大きすぎることだけでなく、急速に拡大するドローンの民間需要も原因と見られています。2014年に退役した元ドローンパイロットのトレバー・タジン氏によると、一部の民間企業は軍の4倍の給料を提示してドローンパイロットを誘っているとのこと。ドローンパイロットの大量喪失は、アメリカの軍事ミッションに影響を与えることは確実で、クラッフ大佐は「アメリカ空軍は今、分岐点にいます」と語っています。
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