「くちばし」の成り立ちからも鳥が恐竜の子孫であることが裏付けられる
現代の科学では、鳥は恐竜の子孫であるということが広く支持されています。その根拠は、発掘された骨格の化石を分析した結果にあるのですが、アメリカの研究チームがニワトリの胎児などを使って行った実験では、くちばしの成長過程に対して過去にさかのぼるリバースエンジニアリングを行うことで恐竜に非常によく似た骨格が作り出されることを突き止め、鳥類が恐竜の進化の線上にあることを裏付けることに成功しました。
A molecular mechanism for the origin of a key evolutionary innovation, the bird beak and palate, revealed by an integrative approach to major transitions in vertebrate history - Bhullar - Evolution - Wiley Online Library
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/evo.12684/abstract;jsessionid=EC7B3E25B0B83620092756292A3019A1.f03t01
'Dino-chickens' reveal how the beak was born : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/dino-chickens-reveal-how-the-beak-was-born-1.17507
この研究は、アメリカ・イリノイ大学シカゴ校の古生物学者であるBhart-Anjan Bhullar博士らによる研究チームが実施したもの。論文は、生物の進化に関する科学誌「Evolution」に掲載されています(PDFファイル)。研究チームは、鶏と恐竜の「ハイブリッド生物」を作り出したり、恐竜そのものを再生させることは目的としていないとし、その目的について「1億5000万年という時間をかけて、どのように顔の骨格がくちばしに変化したのかを知ることにある」としています。
鳥と恐竜を明確に区別する解剖学的な特徴を見つけることは難しいとされているのですが、鳥はその進化の中で頭部を構成する骨格を変化させて現在のような身体的特徴を手に入れたと考えられています。恐竜の骨格を見ると、人間の顔だと頬から鼻にかけての部分にあたる前上顎骨と呼ばれる左右一対の骨が前方へと伸びることで「スナウト(snout)」という大きく前に突きだした形状を持っていることがわかるのですが、そこから鳥へと進化する間に左右の骨が前方に突き出し、1つの骨に結合することで徐々にくちばしを手に入れることになったと考えられています。
Bhullar博士はこれについて「鳥は、恐竜など多くの脊椎動物が持っているような前方に突き出す骨格を持つ代わりに、左右の骨を前方に伸ばして1つの構成物に変化させてきました」と語っており、これを調査するために研究チームでは、ニワトリやダチョウの一種であるエミューのくちばし、そしてワニやトカゲ、カメの前上顎骨について、それぞれの胎児期における成長を分析しました。実験に先立ち、研究チームは「ハ虫類および恐竜のスナウトは前上顎骨から同じように進化したものだが、鳥へと枝分かれする際にその進化が変化した」と言う仮説を立てています。
顔部分の骨格の形成には、タンパク質の一種であるFGF(線維芽細胞増殖因子)およびWntシグナル経路と呼ばれるタンパク質ネットワークが大きな役割を持っていることが知られていますが、研究チームはこれらの働きが、鳥類とハ虫類で異なることを突き止めました。ハ虫類の胎児では、のちに顔を形成する2つの小さなエリアにおいてのみ上記のタンパク質の働きが活発になるのに対し、鳥類の胎児ではさらに広い範囲においてタンパク質の動きが活発化していたことが明らかにされたのです。研究チームはこの違いについて、FGFとWntが鳥類のくちばしの形成について重要な役割を果たしていることを示す重要な証拠であると考えました。
これを立証するため、研究チームでは十数匹の成長中のニワトリの胎児に対し、タンパク質の働きを停止させる化学物質を注入して変化の様子を確認。外見からはその違いを明確に確認することは難しい状態だったそうですが、実際の骨格を比較すると、通常の胎児とタンパク質の働きを止めた胎児では明らかにその状態が異なり、くちばしのかわりにスナウト状の骨格が形成されていたことがわかりました。
その違いは以下の写真の通り。「a」の「Control」と書かれた通常の頭蓋骨に比べ、実験で作り出された「Experimental」では「*」マークが示すように先端が2つに分かれており、口先の形状が「Alligator」(ワニ)や恐竜のものに類似していることが確認されました。
また、頭蓋骨の変化の様子をコンピューターによるトモグラフィー(断層影像法)を使って分析したところ、その骨格形状は約1億4000万年前に生息していた始祖鳥や、約8000万年前のヴェロキラプトルのものに非常によく似た特徴を持つものであったことがわかりました。以下の図では、その特徴は朱色で示したエリアに相当し、水色の鳥類と灰色の恐竜にまたがるものとなっていることがわかります。
今回の研究により、恐竜から鳥への進化の一端が骨格の観点から示されました。Bhullar博士は「この方法により、タイムマシンがなくても過去の深い歴史にたどりつくことができます」と語り、今後はほ乳類動物の頭蓋骨の発達や、ワニの下肢における発達の過程を研究する予定を立てています。
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