取材

私が旅をしながら15カ国でみそ汁をふるまった理由


こんにちは!世界新聞特命記者の谷田部美亜です。世界一周旅行に出発してから1年8ヶ月もの間、日本人にとって「おふくろの味」である味噌汁を海外の人に食べてもらうため、世界15ヶ国で味噌汁をふるまってきました。今回はそのまとめ編として、7つの国をピックアップしました。

◆これまでふるまった国々
アジア:モンゴル、マレーシア、インドネシアタイミャンマーインドネパール
中東:イラントルコ
ヨーロッパ:イタリアモナコフランス
カリブ:キューバ
南米:ペルー、コロンビア

◆味噌汁をふるまおうとしたきったけ
あくまでもきっかけですが、旅に出るにあたり、言葉や文化の壁を超えるパフォーマンスに憧れたのが始まりでした。歌が歌えたり、ギターが弾けたり、絵が描ける人はいいよなーと思っていたときに「何も技術的なものじゃなくてもいいじゃないか。そうだ、日本人だから日本の『おふくろの味』味噌汁を作ったろう!」と考えました。偶然、味噌を愛して止まない味噌屋さんと知り合いだったので、味噌を旅先へ手配してくれるように頼みました。快くOKをくださり、こうして実行される運びになりました。

◆どんなふうに味噌汁をふるまっていたのか、キューバでの実例


キューバで数週間滞在させてもらった家のキッチンはとても殺風景でした。ナタのごとく切れない包丁が一丁、まな板は見当たらないし、炊飯ジャー(写真中央)と、鉄のフライパンが一つずつ。配給品の卵は、次の配給日よりもとうの昔になくなってしまう……。


・具材の現地調達
さて、わたしが味噌汁を作る際にいつも気にかけていることは、現地の食材を調達してくることです。なるべく相手の嗜好にあうように、その土地で採れる具材を使います。この時は、農家が余剰生産した野菜や肉が売られる市場へ足を運びました。


購入したのは、芋、タマネギ、甘いニンジン、カブ、オクラ、長ネギ、ラム肉。


・調理
キューバ料理は、素材の味を生かした淡泊な味付けのイメージが強く、また肉の存在も重要です。しっかり味付けをした豚汁風の、食べただけでお腹いっぱいになるボリューム満点の味噌汁を作ることにします。

全ての野菜を切り終え……


根菜類から煮て、カブ、葱、葉ものなど火が通りやすい野菜も全て加えました。


こちらが大切な味噌です。自然な風味が際立つ、越後長岡味噌醸造たちばな味噌。初めて食べるであろう味噌汁を高級味噌でこしらえることは、シェフとして鼻が高い。最後にこれを溶き入れ……


完成しました。オクラはトロッと、芋はモチモチ、新鮮な山羊肉もウマイ!味噌が野菜や肉にしっかり溶け込んでいて、いい感じの仕上がりです。


・味噌汁から生まれるコミュニケーション
お母さんは「ビューティフル!」と言い、お父さんはお腹がすいていたのか「旨い、旨い」と一気に食べてくれました。娘さんもにっこり。味噌に馴染みのないキューバ人がおいしいと言ってくれた理由は、慣れ親しまれた食材を使ったことにあると思います。家族全員が笑顔になるなんて、嬉しい限りです!


ある時、歯科大生の娘さんがわたしにこう言いました。「将来、歯科医師になったら、キューバ政府の医師輸出プログラムで、外国に行けるかもしれないの」。まじめに勉強をする彼女の姿を見ていたので、その切実さが伝わりました。社会主義のキューバでも、資本主義の日本でもよりよい暮らしを手に入れたいと願う人々の気持ちは同じで、努力する人々がそれぞれにいるのも事実だと思いました。味噌汁をふるまうことで、より深いコミュニケーションを取れることがあるのです。


詳しい話はこちらの記事に掲載しています。

今なお配給下にあるキューバで味噌汁をふるまってみた - GIGAZINE


◆印象に残った味噌汁作り6選
ここからは、特に印象に残った味噌汁作りを6つご紹介します。

1.怖いイメージがあったイラン、でも……


外出時は、観光客の外国人女性でも皆スカーフを頭にかぶらなくてはならないこと、お酒を飲んではいけないことなど、馴染みのないルールに息苦しい印象を持っていたイランでした。しかし一歩国に入ってみると、まず町全体が清潔であり、人々が非常に親切。男性は積極的に道案内などの手助けをしてくれようとします。女性はシャイでしたが、目が合うと微笑み返してくれる穏やかな人ばかりでした。

そんなある日、ペルシャ絨毯コレクターのバリさんに出会い、ペルシャ絨毯の上で、イラン式朝ご飯と味噌汁を並べて食べることにしました。ジャガイモとタマネギのシンプルな野菜に、庭から採ったばかりの香草を加え、オムレツやパンに合う香り高い風味に仕上がりました。華やかな絨毯の上に置かれた味噌汁は、すっかりイランの食卓へ溶け込んでいるようで、味噌汁がイランに歓迎されているような錯覚を覚えました。「イラン人は、優しい!」、そう締めくくりたいと思います。

2.トルコ国境に住むクルド人の家で


トルコの東の果てには、国家を持たない最大の民族クルド人が生活する地域があります。道ばたで出会った見ず知らずの旅人を家に泊めてくれ、ご飯をふるまう。イスラム教徒は客人に親切という話は有名ですが、イスラム圏の中でも異様に親切だった「クルド人」は印象深かったです。彼らは、「例え家族の誰かを殺されても、その犯人を家に泊めてあげるくらい、持てなしを重んじることがクルドの文化である」と言いました。

あるクルド人一家は、例のごとく道ばたで出会ったわたしを家に泊めてくれ、ご飯までご馳走してくれました。そのお礼にぜひ日本のミソスープを作らせて欲しいとお願いし、庭にあった茄子や青物などの野菜で調理することにしました。娘さん達と一緒にワイワイ楽しく野菜を採り、準備をしたのですが、できあがって朝食の食卓に味噌汁が並んでみると、皆味見をしただけで食べてくれないのです。そのかわり、フライドポテトは激戦の挙げ句一気になくなりました……。

3.南フランスの幸せな家族の姿


日曜日はゆっくり起きて、お昼には牛肉のかたまり肉を煮込んだ料理を家族そろっていただきます。旦那さんはワインを作る仕事をしていますが、当時はシーズンオフ。平日は、笑顔が絶えない奥さん、そしてわたしのような旅人ボランティアと一緒に、田舎に建設中のエコハウスへ出向き楽しく作業をします。どうしてこの家族は幸せそうなのか。それは食とそれをはぐくむ風土が良いからに違いない!と思いました。

その幸せ一家とお別れする前日の夜、味噌汁を作ってみることにしました。早速となり村の市場へ買い出しに行きそこで目にしたものは、見たこともないようなチーズ・燻製肉、そして果物・野菜・乾燥キノコの数々。南フランスの食の豊かさに驚愕しました。そして作った味噌汁は、具だくさんのシチューのようなトロッとした味噌汁。おかわりがとまらない大反響となりました。おいしい食事をとり皆でハッピーになる。幸せの秘密はこれに尽きると思います。

4.インドでは牛糞から火をおこして……


インド最貧州にあるブッダガヤで出会ったのは、チャイをおごってやると誘ってくる、ほろ酔いのおっちゃんでした。怪しい出会い方をしたのに、なぜか憎めなくていつの間にか友達になってしまいました。もうお察しだと思いますが、ほろ酔いおっちゃんのお家にお邪魔して味噌汁を作ることに。

家に到着して、キッチンから天井を見上げれば青空。火は乾燥させた牛糞が燃料。水道はなく井戸水を汲む。貧しい家でした。まな板はなく、包丁は足で柄を踏み押さえながら、刃に野菜を当てに行くという代物。牛糞を燃料に火を焚く勝手もわかりません。しっかり者の奥さんと娘さんに協力してもらい、ピリッと辛い味噌汁ができあがりました。そんな経験をさせてくれるインドはやっぱりすごいと思います。そして、最後に娘さんが言った言葉が忘れられません。「本当はお父さんは正直で良い人なの」と。酔っ払っているけれど、本当は良い人だと。味噌汁はおまけ、主役は家族。こういう展開は結構好きです。

5.ヒマラヤにてシェルパ族に、心から感謝の意味を込めて


ネパール・ヒマラヤ山脈で5416m地点を目指して22日間のトレッキングに挑みました。息をのむ絶景を背にひたすら祈り、ひっそりと暮らす人々が昔からいることを知りました。3300m地点にあった老夫婦の経営するロッジでは、手伝いとして働いていたシェルパ族ソナンさんに出会いました。私のような観光客が山を歩くことができるのは、ソナンさんのような支援者がいてこそ。人や家畜が運んだ薪を使って温かい料理を作り、宿を提供してくれることを、当たり前と思ってはいけないと思いました。

ひとつ標高の低い村から持ってきたキャベツを使って味噌汁を作りました。シェルパ族は普段、小麦粉を煎ってお粥にしたもの・手作りのパン・出汁のきいたうどんのようなものを食べると言います。それは全て、わたしが本当においしいと思った食べ物でした。寒い山小屋で作ったキャベツの味噌汁をソナンさんに差し出すと、まず匂いをかぎ、日焼けして乾燥したソナンさんの顔から笑みがこぼれました。

6.モンゴルで羊肉以外の食材が受け入れられるのか?


「空を飛ぶモノは食べず、四つ足動物しか食べない」。何度かモンゴル人から聞いたセリフです。馬やヤクも食べますが、やはり羊や山羊ほど食されている肉はないでしょう。乳搾り・水汲み・薪割りの生活を送った田舎でも、モンゴル中の人口の半分が住むという首都ウランバートルでもその考え方は同じでした。

しかし羊肉尽くしのモンゴルで、煮干しのダシで作った味噌汁は意外とウケたのです。食文化が離れている国ほど、味噌汁に対する反応がイマイチである傾向があるのに、です。モンゴル人とは何者なのか。遊牧生活する彼らと私たちはかけ離れているはずなのに、どこか近いような気がする、とても気になる存在でした。

◆わたしが世界15カ国でみそ汁をふるまった理由
喜ばれるパフォーマンスとして、味噌汁を世界の人へ差し出してみよう!という発想から始まったこの旅。しかし真髄は、相手に受け入れられるように歩み寄れるかどうか、にあります。

自分が作った料理を食べてもらうのは、それなりの気合いがいるんです。しかも味噌汁が「おふくろの味」なので、その思い入れはかなりのもので、わたしが育った背景などをひっくるめた自分像にも重なってくるのです。そうなれば、味噌汁が相手にとって喜ばれるものか、欲を言えばおいしいものかがすごく気になります。それ故、「おいしい」の一言に安堵し、微妙な表情や味噌汁の残し具合に落ち込んでしまうのです。落ち込むときと言ったら、例えば「ハロー、わたしは日本人。こっちは味噌汁。よろしくね!」と外国で自己紹介をしてみたら、嫌われてしまった……そんな具合かもしれません。


異国の土地で「おいしい」の一言をいただくのはそんなに簡単ではありませんが、逆に、ある日旅先で出会った日本人に味噌汁を作ると最大級に喜んでくれました。そこで、これではいかんと発想を変え、現地の人に喜んでもらうためには、彼らが慣れ親しんだ具材をどんどん使っていこうと思うようになりました。そうやって相手の方に思い切って歩み寄った瞬間、相手の表情も明るく映るようになり、それが楽しくてしょうがなくなりました。

言わば自分自身にも重なる「おふくろの味」という持ち札で、相手に歩み寄ってみる。そしてそれを楽しむ。最近では、これがわたしが味噌汁をふるまう旅をする理由だ!と思うのです。今では味噌は、もはや手放すことのできない旅の相棒です。現地の人に喜んでもらえる味噌汁を目指して、残された旅の数ヶ月間も味噌汁を作り続けていきたいと思います。

文・取材:谷田部美亜 https://misodamaworld.wordpress.com/

監修:世界新聞 sekaishinbun.net


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in 取材,   , Posted by logc_nt

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