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聴覚障害を持つ人のために作られた音楽プレーヤーアプリ「SoundFocus」の仕組みとは?

By mikael altemark

SoundFocus」は簡単なオーディオテストを行うだけで聴覚障害を持っている人がiTunesライブラリの音楽を全周波数で聴くことができる無料音楽プレーヤーアプリ。聴力に合わせてオーディオプロファイルが作成されるため、ユーザーごとに異なる「聴き取りづらい音」が補正されるわけですが、SoundFocusがその仕組みについて詳しく解説しています。

Can’t You Just Turn Up the Volume? — Medium
https://medium.com/@Amp/cant-you-just-turn-up-the-volume-4ecb7fc422a


聴覚障害を持つ人を支援する「SoundFocus」には、ユーザーから「なぜ単にボリュームを上げるだけではダメなの?」という質問が多く寄せられていました。しばしば聴取能力は「単に音量の大小を聴き取る能力の問題」と見なされることがありますが、正常な聴力を持つ人が問題なく聴くことができるノイズ音を聴き続けることができなかったり、多くの人が問題なく聴き取れる音のうちいくつかが聴き取れないなど、特定域の周波数を聴き取ることができないことが「聴力損失」に当てはまるとのこと。

音は三次元で表すと、時間(秒)、ボリューム(デシベル/dB)、周波数(ヘルツ/Hz)という構成になっています。時間は「音がどれくらい長く続くか」、ボリュームは「音がどれくらい大きいか」と分かりやすく定義されますが、周波数は「音波が毎秒何回振動するか」という補足説明が必要な事項です。


エンジンのような「ゴロゴロ音」は主に低周波で構成され、1秒あたり100回ほど振動しています。対照的にシンバルのような「パリパリ音」は高周波で構成されており、1秒あたり1万回以上振動しているなど、振動数によって周波数を分類することができます。「コルクを抜く音」「くしゃみ」など、耳に聞こえる全ての音は「特定の時間の長さ」「特定の音量」「いくつかの周波数」が組み合わさって聞こえており、3つの要因が変動することで違う音に聞こえるわけです。

音楽プレーヤーなどで頻繁に見られる「波形」は、音を「時間」「ボリューム」で2次元的に可視化したもの。3次元上に存在する音が持つ「周波数」は可視化されていません。


聴力損失において周波数は重要な要素であるため、音の周波数を把握するには以下のような高速フーリエ変換によって、音を周波数とボリュームで2次元的に可視化できる「周波数グラフ」を用いることができます。


グラフは識別可能な音の最小値と最大値の比率であるダイナミックレンジを表しているため、出力した音のどの領域の聴力を損失しているかが分かるようになるわけです。人間が聴き取ることができる音の最低値は0dB(ピンを床に落とした程度の音)~最大値が120dB(メタリカのコンサート)とされており、0dB以下だと聞こえず、120dB以上だと苦痛に感じます。

また一方で、人間が振動を音として感じられる範囲である可聴域は子どもで20Hz~20kHz(20,000Hz)までといわれています。中でも興味深いのは、聴力損失の始まりは特に高音域の音に対して多く発生するといわれており、人によって音の聞こえ方にはさまざまな要因が絡み合っています。

もし特定の周波数域の聴力が損失を受けると、その周波数帯の音の感度は低下していきますが、音のボリュームの感度は変わりません。これは聴力損失が「単に音量の大小ではない」ことを意味しており、誤解を招きやすい部分でもあるとのこと。聴力損失を持つ人は変わった可聴域パターンを持っており、聴覚障害に悩む2人の人がいれば、それぞれ異なる可聴域パターンで音を聞き分けているということです。

なお、SoundFocusは以下の三輪車に乗った熊のイメージ画像を使って聴力損失を例えています。


画像の下側がカットされて三輪車が見えなくなった画像は、ダイナミックレンジが損失した状態を表しています。


カットされた画像を大きくしても、当然ながら三輪車部分は見えないまま。これは単に音のボリュームを上げた状態と同じと言えます。


そこで上の画像と同じ範囲に熊と三輪車の全てが写るように圧縮すると、形が変わってしまいますが、同じ視野でも熊の全身を見ることができました。これは損失した聴力を補うために補聴器産業で使われている「マルチバンド・コンプレッション」が行う処理と同じ様子を表しています。


圧縮によって聴力損失の人が持つ可聴域に合わせて非可聴域の音データをダイナミックレンジ内に含めることで、全く同じ音ではないものの聞こえない音が聞こえるようになるわけです。簡単なイコライザーやボリューム調節では同じ効果は再現不可能とのことです。実際にマルチバンド・コンプレッションを行うとどうなるのかを確かめるには、まず以下の聴力損失を持つ人の状態を再現した非圧縮音源を聴いてみてください。



続いてマルチバンド・コンプレッションで圧縮された音源を聴いてみると、ドラムのビートだけではなく、高音のシンバル音がしっかりと聞こえるようになっていることがわかります。



以下の非圧縮音源の「時間」と「ボリューム」を波形にしたもの。


圧縮音源の波形を見てみると、非圧縮時に上下に大きく伸びていた波形が中央に圧縮されており、聴き取りやすいダイナミックレンジの幅に収まっているのがわかります。


聴力損失の人のためのアプリ「SoundFocus」は、人によって異なる特定の周波数とdBの聴力の違いをオーディオテストで認識することで、ユーザーに合わせて音楽を圧縮しているということです。オーディオテストは1分ほどなので、聴力損失を持つ人だけでなく「使っている音楽プレーヤーに不満がある」という場合でも、ユーザーごとにチューニングされた可聴域とダイナミックレンジで音楽を楽しむことが可能というわけです。

iTunes の App Store で配信中の iPhone、iPod touch、iPad 用 SoundFocus
https://itunes.apple.com/jp/app/soundfocus/id670086460

また、ここまで徹底的に聴力について考え込んだSoundFocus製のiPhone用スピーカー「Amp」も登場しており、40%割引の価格で先行予約を受け付けています。カラーはホワイトとブラックの2色、iPhone 5/5s/6/6 Plus用のいずれかを選択できます。価格は79ドル(約9300円)で、日本への発送は別途15ドル(約1700円)が必要。日本時間で2015年1月14日(水)までの期間限定価格となっています。

Amp - Your Phone Has Never Sounded Better
https://www.ampaudio.com/

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in メモ,   モバイル,   ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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