「CGは表現者のやりたいことをやれるところに到達した」、フルCGアニメ映画「楽園追放」野口プロデューサーインタビュー
水島精二監督へのインタビューに続いては、フルCGアニメーション映画「楽園追放 -Expelled from Paradise-」でプロデューサーを務めた野口光一さんへのインタビューです。なぜ虚淵玄と水島精二のタッグになったのかという点はもちろんのこと、自らもCG・VFXのクリエイターである野口さんに、こういったCG映画を作ることの苦労、そしてCGはどうなっていくのかについて、話をしてもらいました。
内容はざっくりまとめるとこんな感じ。
・「CG」とは、「フルCGアニメーション」とは
・「楽園追放」ができるまで
・プロデューサーという役職
・「楽園追放」を作るにあたっての5つのルール
・フロンティアセッターについて
・野口さんがCG・VFXに進んだ理由
「東映アニメーション」といえば大泉学園にあるというイメージがあり、実際に制作スタジオは大泉学園にありますが、その他の機能は中野セントラルパークイーストに集約されています。
◆「CG」とは、「フルCGアニメーション」とは
GIGAZINE(以下、G):
「楽園追放」で企画から担当なさっている野口プロデューサーにお話を伺おうという企画なのですが、楽園追放は「フルCGアニメーション映画」であるとうたわれていることもあり、まず「CG」という言葉の使われ方というか、定義の部分からお伺いしたいと思います。CGはコンピューターグラフィックスの略語なので、コンピューターを使って絵を描いたもののことだと言えるわけですが、分けていくと3DCGと2DCGがあります。「CGイラスト集」みたいなものがあったりして一般にはどちらもCGとひとくくりにしていますが、調べてみると、本来は3DCGの方こそCGと呼ぶべきで、イラストなどはそうではない、というようなことに行き当たりまして。
野口光一プロデューサー(以下、野口):
「デジタルペイント」のことですね。
G:
そうです。3DCGをCGであるとする見方からだと、これは「ドローイング」と呼ばれるものだそうなのですが、みんな一緒にCGという大きい枠の中に含まれてしまっている感じがあって。
野口:
作画も、タブレットで描いているものをCGかというと、それは「作画」と言いますよね。なので、デジタルペイントで描く人や、描いたものについて、うちらは「CG」とは言わないです。デジタルペイントは「2D」って言っちゃいますね。
G:
では「CG」と言う時には3DCGを指すのでしょうか。
野口:
うーん、うちらは「CG」って言いますけれど、先ほどの「デジタルペイント」である2DのCGがあるからなのか、「3DCG」って呼ばれますね。3DCGというとMayaとか3ds Maxとか、そういうソフトを使って映像を生成したものですね。X・Y・Z軸があって、そこに物を置いて作るもので、それ以外でペイントしているものは、イラストは2Dですから「2Dのデジタルペイント」みたいな感じに分けています。うちらがCGって言うものを、3DCGと書いているケースは多くなりましたね。
G:
なるほど、今回はその「CG」、今は3DCGと書かれるものについて、ですね。
野口:
すると、今度は「フルCG」の定義が難しいんですよ(笑)
G:
あらら、そうなんですか。
野口:
フルCGの定義というのは、うちらでいうと、「キャラクターを3DCGで描いたもの」を「フル3DCG」と言っているんですよ。例えば、キャラクターと背景まで全部3DCGでやる時は、完全なるフル3DCGなんですけど、最近は背景は美術でもデジタルでレイヤーを分けて描いてもらい、キャラクターなりエフェクトが3Dというものでも一応「フルCG」って言います。一時期は「ハイブリッド」という言い方もあったんですけれどね。だから、今はキャラクターが3DCGなら「フルCG」「フル3DCGアニメーション」と表現します。
G:
ふむふむ。
野口:
メカや効果だけに3Dが入っていても、それは「2DアニメーションにCGを入れました」というだけです。今はこの幅がちょっと広くなっていますね。だから本当にハイブリッドというのは……一時期、顔だけ作画するタイプの作品として「ベルセルク」や「TIGER&BUNNY」がありましたが、ああいうのがハイブリッドと呼ばれて、それ以外がフルCGと定義されます。要は、アニメーションなので「キャラクターを3DCGでやりました」ということが非常に重要なので、特にメインキャラクターを3DCGでやっている作品を「フル3DCG・フルCG」と呼びますね。
G:
作画のメインキャラクターの後ろでわらわらとたくさんモブキャラがいるときに「ここは3DCGでやっておこう」と作られたものを指して「CGアニメ」とは呼ばない、と。
野口:
呼ばないですね。やっぱり、メインキャラクターがどちらで描かれているかということです。
G:
今回は予告編やキービジュアルでわかるように、アンジェラをはじめとするキャラクターがCGで作られているフルCG作品です。
「楽園追放」のティザービジュアル
野口:
そうなんです。ただ、頭を下げて逆さを向いている時の顔は2Dで描いていたりします。あれは、髪の毛の生え際をCGで描くのが難しいからです。CGでやるには1回モデルにする必要があって、やればできるけれども、2カットのために作るには時間がかかってしまうので。そのあたりまで含めると、100%CGかと言うと100%ではないんですが、メインキャラクターやその他合わせて90%以上がCGだったらフルCGでいいんじゃないかというような感じで言い切っている、みたいな(笑)
G:
「約100%」かもしれませんが、それで104分の映画を作ったことがすごいですね。
野口:
当初は70分で企画したんですけどね(笑)
G:
34分も伸びた!(笑)
◆「楽園追放」ができるまで
G:
もともと、お話の尺はもっと長かったのだとか。
野口:
虚淵さんが書いたものを、水島さんの方で短くしてもらって、もともと70分の企画だったので90分までは許容範囲かなと考えていましたが、どうしても90分では収められなくて、収めるためにはシーンを削らなければならないけれどもそれは無理だと監督と話をして、覚悟を決めました。90分を越えると、次の枠のリミットが120分ですから、あとはCGの予算と物語の刈り込みで、どこまでいけるかというところで探った落としどころが104分だったわけです。水島さんのコンテで短くしてもらってはいますが、ほぼほぼ虚淵さんのシナリオ通りです。
G:
虚淵さんに依頼するきっかけは、「神林長平トリビュート」に収録された虚淵さんによる一編を読んだから、ですね。
野口:
本が出たのは2009年11月なんですが、すぐに読んでいるんですよね……。うちの部は映画専属部署なんですが、これは東映アニメーションとして映画を作ろうということで2009年7月にできた部署なんです。要は、日々テレビシリーズがあるのでプロデューサーはみんな忙しいので、スピンオフ作品はあっても映画のみという作品が作れていなかったというのと、もう1つ、CGアニメーションをプロジェクト化してちゃんとやろうと会社の方針が決まったと聞いています。それで、映画企画部という部署ができて、企画会議をやっていく中で、虚淵さんの名前を挙げました。その頃、「アシュラ」や「キャプテンハーロック」「聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY」をやるということは決まってたんですが、そうではないものを……当初は単館系のアートフィルムをねらっていた予算組みにしていて、もっと小さな規模のもので、これから伸びるような人とやっていこうという話だったんです。そこで、僕と当時の部長代理の鈴木さんが「虚淵さん、面白いんじゃないか?」と言って、どうやら虚淵さんと連絡が取れそうだったのでニトロプラスさんに行った、という流れです。その前に企画書を作って会社に通して「虚淵さんでいきます」と決めて、会いに行ったのが2009年12月です。
G:
部署ができて、ちょうど本が出て、というわけですね。
野口:
そうですね。いろいろと企画があった中で、フルCGの作品をやりたいということは最初から決めていました。それで、CGならばやはりSFであろうと。そうしてあのトリビュートを読んだときに、虚淵さんが書いたようなメッセージの強いものが今、必要なんじゃないかと。同時に、作りやすい、どちらかといえばアートフィルムになりやすいと。有名な方もおられましたが、有名な方はオファーをかけても無理ではないかなと思って、それよりはこれから伸びてくる人として虚淵さんはちょうどよいのではないかということで会いに行ったんですが、ニトロプラスの小坂社長や土居副社長、虚淵さんが出てこられて「なぜうちに来られたんですか?」と(笑)
G:
(笑)
野口:
そこで「今までにないものをやりたい」「なるほど、面白いですね」というやりとりがあって、こちらから「こういう技術で何か新しいことをやりたいです。SFで」とお話をしました。そのときはまだアートフィルムをと考えていたので、なんとなく参考にしていたのは今敏さんの「PERFECT BLUE」の予算規模や広がり方だったんです。
G:
おお、今さんの。
野口:
海外の賞を取って日本に凱旋し、単館系で話題になって「いい作品だ」ということで広がっていく、という形がいいなと思いました。裏では「キャプテンハーロック」みたいな王道作品が動いていたので、こっちはパンチがあったり、アクの強い人をとにかく集めようか、と。そうすると、2011年1月から「魔法少女まどか☆マギカ」が放送されたわけですよ。
G:
虚淵さん脚本ですね
野口:
そうなんです。会社から「うちの企画も早くやれ!」みたいな(笑)。プロットをもらって半年後ぐらいになり、なんやかんやと打ち合わせをしたりして……その頃は、そんなに精力的には動いていないんですよ。じゃあ監督はどうするかとなったときに、うちの場合はシナリオ開発が先で、監督なしでもシナリオを書いていくんですが、虚淵さんとしてはやはり監督が居ないと脚本が書けないということで監督を探して……。
G:
ふむふむ。
野口:
この時期に、高度な企画書を作ってお金集めをしなければいけなかったので、絵を作るためにはデザインも決めなきゃいけない。新しいことをやるなら新しい人を探そうと、ちょうどブームだったpixivで探すことにして、齋藤将嗣くんを見つけました。最初は連絡してオフィスに来てもらって、何も言わずにプロットだけを見てもらい「これを読んで、主人公2人を描いて」「監督に推薦はするけれど、採用されるかどうかは分からないですが、参加してもらえないか」と伝えました。
G:
なるほど。
野口:
やっていく中で、この作品は東映アニメーション1社でやることで、もっと自由に作り手の作りたいものができるようになれば、絶対にいいものができるんじゃないかと思いました。社内にもライターさんがいるので「ここをこうした方がいいんじゃないか」とか、半年ぐらいプロットを分析したりして揉んでいたんですけれど、結局、そのままやるのが絶対いいと判断して、それじゃあ、監督はどうするかという話になりました。「まどか☆マギカ」がヒットしたことで、これはデカくいくしかないんじゃないかと考え、デジタルの経験がある人で、かつ2Dの人がいいと探していく中で、うちのCGスタッフとも話していたんですが、水島さんの名前が挙がってきて、最終的にサンジゲンの松浦さん経由で紹介してもらった、ということですね。会ったらすぐに「ああ、やりますよ」と言ってもらえたので、そのまま稟議を通して、予算が組まれてゴー、みたいな感じです。
G:
なるほど……。まさに、「神林長平トリビュート」に載っていた虚淵さんの「敵は海賊」を読んだ後で「楽園追放」を見ると……
野口:
イメージはわかりますよね。
G:
通じるところがあるなと思うんですよ。この「楽園追放」のプロットは基本的に変わっていないんですか?
野口:
プロットは本当に今の映画の流れのままで、ほぼ変わっていないです。「なるべくそのままやりましょうよ」という話もしました。このお話の中で、3人がどう成長していくかというのを枝葉をつけてシナリオにしていただいたので。ただ、虚淵さんの文章って難しいじゃないですか。しかもそれでSFなので、プロットだけ読むとちょっと難解な感じがあるんですが、それもすべて盛り込めたし……ただ、あんなボリュームのロボットバトルになるプロットではなかったですが(笑)
G:
(笑)
野口:
変えないでいこうとすると「虚淵さんが書いたものを水島さんが監督する」ということですが、水島さんがシナリオ会議で拾ったものはなるべる全て拾って映像化しようということで、いい受け渡しが出来たんじゃないかと思います。僕は、いわば傍観者としてシナリオ会議ではあまり注文をつけていないんです。
G:
てっきり「『敵は海賊』みたいな感じで」という話からできたのかと思いましたが、そんなことはないんですね。
野口:
「読んですごくよかったです」という感想は伝えましたが、作品については、ただ「SFをやりたい」という話をしました。「CGだとやっぱりSFがいい」とか……途中は「キャラが多いと辛いんですよね」みたいな技術論しか話していなくて(笑)、そのあたりはうまく虚淵さんがまとめてくれました。
G:
今回は「CGでやる」ということで作られた作品だということなのですが、東映アニメーションとして40年ぶりの劇場版だからどうこうというものはないですか?
野口:
それは意識していなかったです。
G:
何か会社から言われたりしませんでしたか?
野口:
それも、半年か1年前ぐらいだったか、経営戦略部から「実は40年ぶりくらいだよ」と言われて。
G:
なるほど、作っている時は全然意識していなかったんですね。
野口:
していなかったですね。どちらかというと、フルCGでやるためには既存のものだと制約が多いからゼロから作るオリジナルの方がいいだろうということになったんです。元々、僕はCGをずっとやってきていて、このフィルムでもっとCGを使ってもらえるようになったらいいねっていう、そういう参考になる技術フィルムというか、実験フィルムみたいなノリで考えていて、「CGにはこういう使い方もありますよ、これからはこういう風にCGアニメというジャンルがひとつの選択肢としてあるんじゃないですか」という気持ちでスタートしています。なので、「オリジナル」というよりは、表現のためにはロボットをちょっと出した方がいいよね、こういうキャラがいいよねという風に、原作があるものに縛られたくなかったんです。絵がすでにあるものではなく、自由に「CGに向いたフィルム」を100%でやりたかったので、オリジナルがいいんじゃないかと。それで虚淵さんにお話をして。SFであれば「敵は海賊」をやるというパターンもあるんですけど、そうではなく、ゼロから行きましょうよ、と。
◆プロデューサーという役職
G:
まさに、野口さんはVFXやCGを制作する側としてやってこられたわけですが、今回はプロデューサーという役職をやってみていかがですか?
野口:
「CGを作る」というのは、与えられた題材に対して100%・120%の映像を作って返せばいいんです。「自分はこう思った」と言って。映像化することに集中し、それが楽しいと思ってやってきて、こういう絵コンテがあったらこれを具現化する、って。本当はお客さんを見なきゃいけないんですけど、見ないで(笑)、とにかく「かっこいい映像を作りたい」とか、監督が望んでいる以上のイマジネーションを作りたいとか、そういう欲望を満たすように、っていうのがあったんです。
G:
(強く頷く)
野口:
それがプロデューサーになって……僕はアシスタントもやったことがないので、本当にあちこちで話を聞きながらやっているんです。「楽園追放」でプロデューサーをやっている間に、毎年VFXもやっているんですよ。たとえば「坂の上の雲」とか「平清盛」とか「はやぶさ 遥かなる帰還」とか「女信長」とか……去年は「幕末高校生」をやりました。各作品にはプロデューサーや宣伝担当がいて、VFXの撮影立ち会いは結構時間があるので、「どうすればいいですか?」「映画ってどうやって宣伝してるんですか?」「プロデューサーって何をやるんですか?」と。そうやって「こういうところに苦労したよ」というのを聞いて、「ああ、こうやってやればいいのかな」と、なるべく活かそうと思ってやってきました。どうしても、何億という大きなお金を預かることになるので、それをお返ししなければいけないというのと、同時にお客さんには作品を届けなければいけない。「我欲MAX」でやっているだけではダメで、受けるストレスも全然違うので、最初は「プロデューサーって何が楽しいんだろう?」と思いましたよ(笑)
G:
(笑)
野口:
ストレスはあるし、「こっちで火ぃ吹いてるぞ!」「こっちは渋滞してる!」とか、「予算が……」って言われたときに「それでもやってください」とか……あと「時間が足りないからこれはどうしますか?」とか、「もう、知らないよ」と思ったりとか(笑)。でも、それを全部仲裁してまとめていかなきゃいけないし、じゃあ映画が完成しました、といっても終わりではなく、今度は宣伝をやらなければいけない。この作品の場合は、BD・DVDもほぼ同時ですし。
G:
12月10日発売ですね。
野口:
そうすると、今は海外の展開も含めてひとつのパッケージなので、海外展開もやりつつ、BD・DVDのメニューをどうするかとか……。先輩のプロデューサーには「全体を見られるのは面白いよ」って言われたんですけれど、そんな余裕は今はなくて、とにかく、借りたお金は返さなきゃというところです。曽利文彦監督に、映画「ピンポン」の公開前に「映画、いいですね。どうですか?」みたいに聞いたことがあるんですが「借りたお金は返さなきゃいけないから大変なんだよ」と言っていて、その気持ちが今になって分かりました。見たこともないようなお金を借りているわけだから、これをどう返していくかとなると、こういった宣伝もですけど、今回BD・DVDの担当がアニプレックスさんに決まったので、アニプレさんの話も聞いて宣伝でやれることは全部やっていきたいし、かつ、フィルムの方では監督の言うことはとにかく可能な限り全部聞こうと思いました。とにかく全部、なるべく作り手が作りたいものを、というのは自分が作り手でもあるのでそれは実現したくて、あとあまりプロデューサーがごちゃごちゃ言うのはどうかなと思っていたから(笑)、とにかく言われたことを全部こなせばいいフィルムができるという信念でがんばりました。今度は、それを宣伝なり、お客さんに届けるときに、ちゃんと伝えないといけないと。作り手とプロデューサーでは全然やることが違うので、なぜ僕が?と思いながらずっとやってきて今に至る、です。
G:
自分が作り手だからこそ「監督はきっとこう思うだろうな」というのが分かるんですね。
野口:
思ってしまうのが嫌ですよ(笑)。逆に、細かいことは言わないでおこうと決めているんだけど、ちょっと言ってしまったり……「ワンカットにした方がいいんじゃないの?」っていうところがついつい気になって、言ってしまったらそれを直して3日間徹夜になって「ああ……ごめんなさい」って(笑)。細かいことを言ってしまうのは控えめにしたんですけどね(笑)
G:
「ここはこうできるんじゃないか」というところも見えてしまう。
野口:
CG屋としての目というのはどうしてもあると思います。だから、時間はないし金はないしみたいなところもすごく分かってはいるけれど、「でもそこはこだわらなきゃいけないところでしょ」という所があれば言ってあげた方がいいなと思う。それは、自分がVFXをやる時に、時間とお金の制約はあるけれどもここだけはやっぱりこだわりどころだからやらなきゃねって言い続けたつもりなので。ついつい言ってしまうんですよね……。後半はあんまり言わないようにしていました。
◆「楽園追放」を作るにあたっての5つのルール
G:
キックオフイベントの時に仰った、作品作りの5つのルールは、その背後にあるものを知った上で見るととんでもないルールを決めて作ったんだなと思うようなものですね。例えば「100%手付けアニメーションであること」とか……。
野口:
制作プロダクションを決めるのも時間がかかっているんです。監督が決まったらプロダクションを決めるわけですが、決定までに1年ぐらい空いているんです。これは、東映アニメーションの社内を含めてやる・やらないを検討していて、全然決まらなかったんです。予算的な部分もあるし、90分モノなら90分作らなければいけないので完成できる技量があるところを探さないといけないですし。それをどうするのか、この頃はまだキャプチャでやろうかという案もありました。キャプチャでやれば早くできるし、その方が安くなるんじゃないかと。ただ、水島さんと話をしてて、人を演出しなければいけないから「キャプチャは無理」という結論になりました。
G:
人に対する演技指導が必要になるということですね。
野口:
はい、役者に演技指導をするとなるともう1つ技量が必要になる。それが面白いかどうか監督と考えた時に、「じゃあ手付けできるところを探しましょう」となりました。この当時は、そんなに手付けができるCG会社はなかったですから……。基本、ゲームムービーを作っている会社をあたったけれども、10社のうち8社から9社はキャプチャベースでやっていて、手付けでやってくれるところはあるかなと探しました。それで、最終的にグラフィニカさんに決まったんです。
G:
2つ目のルールは「顔(フェイシャル)のアニメーションには手作業を加えていること」。
野口:
身体のアニメーションと顔のアニメーションは同じくらい作業時間がかかるんですよ。そうすると、顔のアニメーションを省力化したいときにどうするか、顔だけ作画してはめようかというアイデアもあったんですが、グラフィニカさんは「うちはがんばります、ツール開発もしますから」と言ってくれたんです。CGアニメーションには不気味の谷というのがあって、顔はどうしてもお客さんが集中して見る部分だから、身体以上にがんばらなれけばいけないということでディスカッションを重ねました。
G:
さらに「キャラクターにおいて造形物を作る」。
野口:
これはピクサーがやっていることなんです。どうしても2Dで描いた絵と3Dとの整合を取るのには時間がかかるのと、監督がこれでいいかどうかというところで大体迷うんです。1回造形物を作れば、「ああ、こういうものね」って可視化できるので、1個造形物があればOKも早く出せるんじゃないかという考えが僕の中にあったので、造形物は作りたいと。作ったものは宣伝にも使いたいということで監督に相談して、浅井真紀さんにお願いしました。このデータをグラフィニカさんが使う・使わないというより、みんなで共有できるものとして作ることが必要だとピクサーの本に書いてあったので、作ろうと思っていました。
この話の成果が、「楽園追放」のイベントがあると展示されるアンジェラだったわけです。
G:
「2Dのアニメスタッフが深く関わっていること」というのもあります。
野口:
2Dと3Dの人を一緒にしたいというのは、やっぱり2Dの歴史が長いのでその技術を使わないわけにいかないということです。やっていて面白かったのは、演出家さんが3DCG作品で時計をつけるという演出があった時に、普通のCG屋はこう(時計を腕のところに持ってきてバンドを回して)画面内でまじめにアニメーションをつけようとするじゃないですか。一方で、アニメーターさんは「こう(時計をする手を机の下の見えないところに一度下げて)画面外でやればいいじゃん、オンオフでできるから」って、そういうようなアイデアをいっぱい持たれていたので。他には「背中で芝居する」とかですね。そういったノウハウはもっとCGでも持たなければいけないものなので、2Dの人と3Dの人を交流させようということで、なるべく半々にして2Dの人を演出家に入れたんですよ。あと1つはリミテッドの技法。
G:
「リミテッドアニメーションの技法を踏襲する」ですね。
野口:
やっぱりセルルックCGになるとそっちしかないでしょ、みたいなこともあります。この時代、2コマ打ち・3コマ打ちができる会社ってなかなかなくて、やられているのはほぼサンジゲンくらいかな。グラフィニカも、シーン6(アンジェラが地上に到達したところ)の最初のパイロットは、聞いてみたら2コマ均等割に近い状態でスタートして、後半になってくると2コマ3コマ打ちでできているという感じらしいです(※グラフィニカの柏倉晴樹さんによると「均等2コマではなく、2コマベース、止めナシ」だとのこと)。今評価されているのは、そのメリハリがちょうどこの1年で落ち着いたからじゃないですか。あれがもし均等2コマだったらそうはいかなかったんじゃないかなと思います。監督チェックを見に行くと、なんか学校みたいでしたよ。「アニメってこういう風に動かしたりするんだよね」「ああ、そうなんですか!」ってやりとりしていて、自分もなるべく聞きに行こうと。
G:
まさに今作っている3DCGアニメーションが今後2Dからノウハウを吸収している現場ですね。
野口:
そうですよね。水島さんと話していると、やっぱり2Dは2Dでいいところはあるんだけれども、そのいいところをなるべく3Dで取り入れるとジャンルとしてもっといいものができるんじゃないかなと思います。2D作品を3DCGに置き換えるのではなく、2Dには2Dの良さがあって、描くという素晴らしい自由度があるんだけれども、CGはそこまで自由ではないけどもディテールを細かくできるとか、繰り返し作り込めるとか、そういう違う表現の道があるのではないかと。そのための技術を3Dに持ってくることも必要で、それが「楽園追放」では一番いい形に収まったんじゃないかと思います。
G:
技術的にもタイミングがちょうどハマったような感じですかね。
野口:
そうですね。他社さんもいろいろ勉強されてやっていた時に、グラフィニカさんも負けないような形で描かれたので、いいタイミングだったと思います。特に、やっぱりCGは最後にクオリティがぐっと伸びるので、その時にどのくらい伸ばすかが最後の勝負です。
G:
なるほど。グラフィニカさんが参加したタイミングを見ると、なるほど、東京国際アニメフェア2012にあの文字ポスターが出たときには、本当にまだビジュアルは一切なかったんだということがわかります。
キャラクターもメカも一切描かれていない、文字だけポスター
野口:
本当に何もなかったんです(笑)。結局、なぜここで情報を出したのかというと、ひとつはオリジナル作品はどういうものかが分からないから告知を早くしなきゃという点。とにかく「やりますよ」「こういう作品がありますよ」ということを、細く長くやっていかなければいけないということです。もうひとつ、企画がなくなってしまうということがありますけれど、世の中に対して「やりますよ」と言ってしまえば誰も引けなくなるんじゃないかなという狙いもあって(笑)。会社に対しても「出しますから!」と見せたわけで、これで「何かあるぞ」と思ってもらうわけですけれど、実際はないんですよね(笑)。この時点だとまだシナリオ打ちあわせの1回目なのでキャラクターもできていなかった。でも、とにかく出したい、と。それで文字だけのポスターを作成しました。その後、本来はシナリオをやってからデザイン打ちに入るんですが、シナリオをやり出したときに「一緒にキャラもやろうよ」と監督が言ったので、齋藤くんを推薦し、いいデザイン描ける人だとなり、呼んだんです。それでシナリオ打ちをやりつつ、その横ではデザインもやりながらの同時並行という流れでした。
G:
これは宣伝班がまず「やりますよー」と引っ張っていった感じですか?
野口:
「作るぞ、もうやるぞ!ダメって言わないでね」みたいな(笑)。このときはまだ東映アニメーション1社でやっていて、まだ宣伝部(ティ・ジョイ)も入ってない時点なのですが、そこに虚淵玄と水島精二が加わってやりますよという宣言ですね。監督に対しての「ウチはこれ、ちゃんとやりますから」という宣言でもありますね。
G:
初めて見たとき、三題噺みたいだなと思いました。「水島精二」「虚淵玄」そして「東映アニメーション」。
野口:
「なぜその3つ?」みたいな感じですよね(笑)、実際、そういう質問はすごく多かったです。
G:
まさに、気になりました。
野口:
よく「構想○年」とか聞きますけど、そうなっちゃうんだなということがわかりました。まずパイロットを作るにあたっても、グラフィニカさんはこういったものを作るのが初めてだからどこか本編の1か所を作ってから全部取りかかる方がいいと考えました。すでに予算が決まっているので無駄にならないように、かつ作ったものを使って営業や宣伝に使用できるようにと……。そしてパイロットが完成後、それにかかった時間を基準に、2014年8月ぐらいが完成であるという方針が決まり、そこから逆算して公開日が決まり……。
G:
結果、ほぼ予定通りに上手くいっている、と。このパイロット部分として作ったという4分の映像は2014年3月に開催されたキックオフイベントで極秘上映されましたけれど、今見ると、セリフの端々に後に繋がるヒントは散りばめられていたんですよね。
野口:
そうですね。しかもディンゴと初めて会うところですし(笑)
G:
そうなんです、「いかにもここからお話が始まるんだ」という映像だったのに、いざ映画を見てみるとアバンタイトルがあり、ここに至るまでにも少なからずいろいろあって。
野口:
普通は冒頭を見せるたりする手があると思うんだけれど、あそこが一番切り出しやすかったんです。ここを丸々先行で作りましょうと。
G:
ちょうどアンジェラがいて、ディンゴが出てきて、バトルもあって、そしてすとんと落ち着く。
野口:
いいシナリオでしたね。
G:
まさか、あの後にロードムービー化するとは思っていなかったのでビックリしました(笑)
野口:
さらに、もっとすごいロボットバトルができるとは(笑)
G:
そうなんです、あの最終予告編が出た時には「これまでに見せてもらった映像で知っているのと違うものが!」と思いました。
野口:
違う作品かと思いますよね、場所も違うし(笑)
『楽園追放 -Expelled from Paradise-』予告編 ELISA connct EFP「EONIAN-イオニアン-」バージョン - YouTube
◆フロンティアセッターについて
G:
キーキャラクターであるフロンティアセッターについての設定が映画公開まで伏せられるというのも納得ですね。
野口:
そうですね、出してしまうといろいろ分かっちゃいますからね。これは言ってもいいと思うんだけど……「E・T」世代じゃないですよね?
G:
映画としては見ていますが、世代ではないです。
野口:
「E・T」は公開まで姿を見せなかったんですよ。「そんな感じです!」って言っても分かってくれる人がいないっていう(笑)
G:
なるほど、今でこそああいう姿なのは知られていますが、公開前の宣伝時点では出ていなかったんですね。
野口:
「そういえば公開までE・Tは姿を見せなかったですよ。あの容姿ですが観てみたら可愛らしくてビックリ、今回あんな感じでいいじゃないですか」と。
G:
このニュアンスは知っている人が聞いたら「ああ、そういうことか」と分かるのかも。
野口:
「ああ、あれね!」みたいな……と思うけど、あんまり共感されていない(笑)
G:
驚きは大きいですよ。神谷さんの声が流れたときに「ん?誰だ?何だ?」という戸惑いがあり、そこからの……。
野口:
そうですよね。「何、どういうこと、誰なんだ?」っていう。本当はコミカライズのオファーもあったんですよ。ノベライズは文章なのでOKにしたんですけど、コミカライズにすると絵が出てしまう。でも、フロンティアセッターは公開時に出さないようにしたかったのでお断りすることになりました。
G:
ああー、分かっちゃいますもんね。
野口:
「そこは公開後でいいですか?」「いや、それだと部数が伸びないので」と。そりゃそうだなということで、コミカライズは断念しました。あそこでみんながどう感じるか。三者三様の旅が始まると考えた時に、見せない方がいいかなという気はしているんです。
G:
フロンティアセッターはキャラクターとしての魅力が大きく、かつお話としても引き込まれる部分が大きいですね。
野口:
CGを作るときでも何か制約があった方がみんな頑張るので、同じように、宣伝や記事を書いてもらうことにしてもそれぐらい制約があれば、書き方や展開の仕方を考えるじゃないですか。
G:
実際、フロンティアセッターが出てきてから強く打ち出されるテーマは、見ていて考えさせられます。
野口:
テーマ性、メッセージ性が強いですもんね。「敵は海賊」の時もメッセージ性が強いんですよ、「人類とは何か」「人間とは何か」と。「肉体とは何か」みたいなところは、今の時代に考えてもいいんじゃないかな。考えるというか、70年代にはそういう難しいフィルムもあって、ちょっと難しいけれど背伸びして見てみたみたいなところがあり、そんなテイストに近いなと思って。それもあって、虚淵さんっていいなと思ったんですよ、深いテーマ性を持って書いてもらえそうだし。そういう意味では、今は想像以上に広がっていますね。単館系アートフィルムだったんだけど(笑)
G:
(笑)
野口:
ちょっとみんなが「あの映画いいよね」「面白いよねあれ、ちょっと考えちゃうよね」みたいに映像だけではなく話題になる、みたいなつもりでスタートしたんですけど。
G:
思った以上にどーん!と。
野口:
どーん!……となっているようですけど、予算は変わらないんだよね(笑)。
◆野口さんがCG・VFXに進んだ理由
G:
話はがらっと変わりますが、野口さんがこのCGやVFXの道を選ばれた理由は何だったんですか?
野口:
そういえば、あまりそういうことはしゃべってないなあ(笑)
G:
現・IMAGICAであるトーヨーリンクス、その後渡米したという経歴で……。
野口:
僕は大学を卒業してから、ずっとCGですからね。
G:
ですよね。渡米して師事したのがリチャード・エドランドさんと、ここでビッグネームが出てきてまた驚いたんですけれど、帰国後はフリーランスの後にポリゴン・ピクチュアズ、そして東映アニメーションで、こうしてこの作品のプロデューサーをやっておられる。何か、CGに興味を持つキッカケがあったのでしょうか。
野口:
僕らの世代はもうYMOです。要はずっと音楽を聞いていて、中学校くらいの時にYMOが現れて「コンピューターってすごいじゃん!」って。別に、僕は音楽自体のセンスはないから、だったら映像かもなと思って、その当時からコンピューターアートやコンピューターグラフィックスというような言葉が出てきたので、興味を持ったんです。
G:
なるほど、YMO!
野口:
「コンピューターでやれば何か素晴らしいものができるんじゃないか?未来があるんじゃないか?」みたいな。
G:
演奏している3人の後ろに置かれているでっかい箱に夢を感じたんですね。
野口:
そうそう「何かピコピコしてる」「コンピューターってすごいね!」という。
G:
音楽なのに、あれは楽器じゃないよなということですね。
野口:
しかも、YMOは海外にも行っていて、「日本人が海外に行って活躍してるぞ」というのもあったのでコンピューターに興味を持ちました。その後にCGの存在を聞いてCGの会社に就職したのですが、日本には映画でのCG使用事例がなかったので、「じゃあ、海外に行くしかないか」と何も考えずに渡米。そうしたら、たまたま仕事ができて、向こうで仕事ができたころに日本でも映画のCGをやり始めたから「なんだ、日本でもできるんだ」というようなことがあって(笑)、それで会社が倒産したので帰ってきたんですよ。
G:
倒産!(笑)
野口:
仕事は朝9時ぐらいにスタートするんですけれど、行ってみたら「今日の17時で会社を閉めるから、14時までに出て行ってくれ」「え?2時?」って(笑)。「あの、外国人労働者なんですけどどうすればいいですか?」「弁護士と相談してくれ」となって、一方でみんなは「飲みに行こうぜ」とか「パーティーしようぜ」とか言っているんですよ。倒産とかレイオフとかは日常茶飯事なので、みんなそういうことはあまり気にしないんですよ。まあ、なんとか人脈で仕事をもらってIMAGICAアメリカに1年行き、その後は日本でもCGができるならということで映画の仕事をずっとやっていたんですが、だんだんとアニメの方に寄ってきています。昨日、荒牧監督にも言われました、「そんなにアニメやってなかったでしょ」って(笑)
G:
そうですよね、実写の映画の名前もいっぱい経歴に並んでおられて。
野口:
東映アニメーションにいる限りはアニメをやろうと思っています。ただ、セルルックは基本的にはやっていなくて、ポリゴン・ピクチュアズにいたときにやった「イノセンス」のオープニングシークエンスの義体が生成されるところはセルルックではないですから。1度、「東映アニメーションにいるんだから実写ばかりやらないでアニメをやれ」と言われて「デジモンセイバーズ」を1年間やりましたけれど。でも、どこからだったかな、「楽園追放」の企画作業が終わったくらいからかな、プロデューサーとしての「目覚め」じゃないですけれど、売らなきゃいけないので、実写とかリアルルックとかは考えずにセルルックにいかないと日本じゃ無理じゃないかなとちょっと思って、そういうことができる人と組むしかないと。ただいつかは輪郭線がないものができてもいいんじゃないかとは思いますが、やはり一般市場ではそうでなければ受け入れがたいと思っています。
G:
「CGで作ることを広める、根付かせる」ということでは「CG WORLD」で連載をなさっていたり。
野口:
そうそう、やっていたらどんどんどんどん広がっちゃって、連載してみたけども「もう広がってるじゃん」(笑)。最初の頃は、日本のCG映画は普及していなかったから、どうしたらいいかというのを著名な方を取材し、その内容をCGの人に聞いてもらいたかったし、とにかく業界を盛り上げていかないと、と思っていました。
G:
「楽園追放」をやってみて、CGに関して手応えはありますか?
野口:
やっと監督や表現者がやりたいことをやれるツールになったかなと思います。特に演出側の水島さんや京田さんに「これからが面白いんじゃないの」っていう風に言ってもらえました。ようやくここまでできるようになったので、興味を持ったらみんな来てくださいというところですね。日本のCGアニメとしてこういうものがありますよという基準、今この2014年のCGアニメーションとして最高のものができたんじゃないかなと思います。だからこそもっとCGを広めていくためにみんなに使ってもらえれば、それはグラフィニカさんであってもいいし、東映アニメーションでもいいし、CGを使うことでもっと面白い作品ができるようになればと思いますね。本当に、YMOのころに「すっごい未来があるじゃん!コンピューターってすごいんだ!」という勢いがあったから、そういう感覚のスタートの作品になって欲しかったし、なったかなと思っていています。もちろん、今後もっとすごいいいものができると思うんですけれどね。
G:
CGを語るときに「安く上がるという誤解」のお話が出たりしますが、作り手である野口さんとして実感はありますか?
野口:
どちらかと言うと、VFXをやっているとき、「高いから使わない」「高いでしょ」って言われるのが嫌で、とにかく使ってくださいとなるべく言い値でやるようにしていて、「いくらくらいなら、そこで最高最善のものを提案しますよ」とやっていました。高いから使わないのはもったいないので、目線を同じにしてまずは使ってくださいと。CGを日本のアニメでやるためには、適正価格が普通のアニメと同じくらいにならなきゃいけないと思います。VFXもそれで今安いんですけれど、そこでやらなきゃいけないし、そうでなければ使ってもらえない。だからこそプロダクションを選ぶのが大変で、普通にやるとお金がかかりすぎるのでアニメの予算の枠組みである程度やりたかった。そうすれば「これぐらいでできるのか」と、みんながもっと来やすくなるじゃないですか。なるべく市場の価格にCGも合わせたいという気持ちがあったので。そこで何ができるかが一番の焦点かなということでグラフィニカの吉岡さんとも結構話をしました。「そこでやらないと、もう未来がないじゃん」って。
G:
選択肢として選びやすくなるということですね。そうなると作り手の数も必要になってくると思います。CGアニメーターの育成の現状はいかがでしょうか。サンジゲンの松浦さんは「絵が描けなくても、きれいな線が描けなくても、似せられなくても、動かすことに専念すればいい」ので間口が広いと仰っていましたが。
野口:
デッサンができないよりはできたほうがいいかもしれないけれど、できる人がみんな上手いわけではない、というところはあります。伸びる・伸びないというのは好きか嫌いかだけじゃないかと僕は思っていて……要は、下手でもCGは作れる。でも、作る前には「こういうイメージだぞ」というブレインストーミングが必要で、それは手で描いてもいいし、デッサン的な部分をCGでやっちゃってもいい。アプローチはどのやり方でも良くて、作りたいイメージをちゃんと具現化できる力があることが大切です。今回も、たとえばディンゴの顔を何度も描いて作ったという人がいる一方で、描かずに弄りながら「こうかな?」と試行錯誤した人もいて、具現化する才能をどういうツールを使って発揮するかは人それぞれです。一概に、コンピューターを使えば同じになるということはなく、作り方もみんな結構違うんですよ。
G:
「楽園追放」の現場でも結構違うんですか?
野口:
違いますね。人のやったデータを見たときに「俺ならこうは作らないな」というものもあったりします。アウトプットが同じであっても、組み立て方が違うという人は結構いるので、若い子たちにはまず「一元化はされていない」ということを言わなければいけないんです。君たちのやり方は正しいかもしれない、そうじゃないかもしれない、一番重要なのは、人にデータを渡すんだからきれいにしておいてね、と(笑)
G:
(笑)
野口:
机の上の整頓とデータの整理には共通点があるように感じてまして、机の上がきれいな人はデータもきれいで、コメントまで書いてあって、「コメントを書く時間があるならもっとアニメーションに時間かけてもいいんじゃないか?」って思うぐらいのこともある(笑)。ただ考えてやっている人はデータを見ると分かるから「あ、この人は伸びてくるな」ってわかるし、「これは悩んだんだな」というのもわかったりする。コンピューターでやるから、段階的に考えていかないといけないよというのは最初に教えていますが、好きでいろいろと勉強している子は伸びるし、そうじゃない子は苦労しています、作るのに時間がかかってしまうので。
G:
なるほど。
野口:
うちらの時代はCGはプログラムしないとできなかったから、CGアニメーターというのはプログラマーみたい作業もしていましたが、今は紙と鉛筆ぐらいにかんたんに使えるので、若いスタッフの方が面白く使っているような気はします。グラフィニカさんも、若い子で上手かった人がいたと言っていました。ツールを紙と鉛筆ぐらいのノリで使うなら、デッサンがどうのこうのをあまり気にしなくてもいいんじゃないかな。それよりも、このツールで何が出来るのかということです。アニメーションは動きだけではなく表情や形もあるので、マンガやアニメをいっぱい見てきた人なら「こういうシーンなら顔はこうだろう」というのをさらっと作れたりするし、ロボットの場合も、デッサンができなくても「ロボットならここのパーツはこうですよ」というのを自分で考えてやって来たりするので、そのあたりはやはり「好きこそものの上手なれ」です。
G:
この「楽園追放」を見た人が「CGっていいな」と思って興味を持ったり、それこそ業界に入るきっかけになるといいですね。長いインタビューとなりましたが、いろいろお話いただきありがとうございました。
©東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ
・つづき
映画「楽園追放」の映像を作り上げたグラフィニカのスタッフにインタビュー
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