水島精二監督がフルCGアニメ映画「楽園追放-Expelled from Paradise-」を語る


いよいよ11月15日(土)から映画「楽園追放 -Expelled from Paradise-」が公開となります。この映画は脚本を手がけた虚淵玄さんと水島精二監督にとって、初のオリジナル劇場作品であり、さらにフルCGアニメーション作品として作られています。今回はその水島精二監督に、作品について、CGについて、キャスティングについてと色々お話を伺ってきました。

『楽園追放 -Expelled from Paradise-』
http://rakuen-tsuiho.com/

GIGAZINE(以下、G):
今回、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」の監督を水島さんが担当することになったのは、「2Dの監督であり、かつ3Dに理解のある人物であること」という条件のもとに人材を探したところ、複数の方から水島監督の名前が挙がり、最終的にサンジゲン松浦裕暁さんが野口プロデューサーに水島さんを紹介したと伺いました。

水島精二監督(以下、水島):
そうなんですよ、松浦くんが東映アニメの方から「繋いでもらえませんか?」と連絡を受けたそうで、松浦くんを通して連絡をいただきました。


G:
「アニメ監督」というくくりだとかなりの数の方がいらっしゃると思いますが、「その中でCGに理解があるのは自分だ」という自負はありますか?

水島:
本編の中で3DCGが使われるようになってから時間が経っているので、僕が特別理解がある方だとは思っていないのですが、3D側からそう思っていただけたことはありがたかったですし、作画と3Dは作り方が根本的に違うので、面白いなとは思っていました。

G:
「お、やっぱり俺の所に来たか」というわけではなかった?

水島:
そういうことはないですね。ただ、サンジゲンとは「鋼の錬金術師」の映画や「機動戦士ガンダム00」を一緒にやる中で、3Dに対してどうアプローチするのか、何ができるのかを聞いた上で作業を進めたりしたので、先方からは「どういう絵にしたいかを明確に持っているおかげでやりやすかった」とは言われました。わからない部分があったときに、直で僕の所に電話がかかってきて「ここはこうですよ」と説明したらスッと納得してもらえたということも何度かあったりしましたね。

G:
ふむふむ。

水島:
3Dに夢を持ちすぎていないし、どう絵をまとめて欲しいかを理路整然と説明できるということで評価してもらえたという部分はあります。NG・リテイクの出し方も明確に「ここをこう改善して欲しい」ということを伝わりやすい言葉でディレクションできていたようです。選んでもらった理由としては、そういう点ぐらいかな、と(笑)


G:
なるほど。ということは、現場でうまく意図を伝えられていない人もたくさんいらっしゃるのでしょうか。

水島:
「3Dだからカッコよくできるでしょ」みたいに、過剰に夢を見ているところは僕にもあったと思いますし、今もあります。今回、がっちりと向き合ってみて、モデル性能はどうなのか、予算の中でどれぐらいのボリュームのものが達成可能なのか、そこまで理解していない人は僕も含めて多いと思います。演出家としては、欲しい絵は貪欲に要求すべきで、そこで予算を考えないというのもアリなんですが、現実問題、「完成するのか、しないのか」というジャッジはやらなければならなくて、僕はそれを考えてしまうタイプなんです。

G:
ふむふむ……。

水島:
いろいろな事情があるから自由ではない、とわかった段階で、どこを合格点とするのかはシビアに考えないと、3D側としては難しいんじゃないかな。あとコミュニケーションに関しては、「語らずに理解してもらおう」みたいなスタンスはまだ早いのではないかと思います。たくさん言葉を投げかけて、その中で伝わっている言葉を慎重に探して、統一した言語を持って行くみたいなことがまだまだ必要です。

G:
3Dの現場に関して、2Dの現場から得られるノウハウがたくさんあるのではないかと野口プロデューサーが語っておられました。

水島:
そうですね、3Dの現場から持って帰れるものもあるだろうし、3Dには2Dの作画アニメーションが築き上げてきたフローやアニメーターの自由度、作業としての範囲はどのぐらいなのかなど、参考に出来る部分はありますが、一概に3Dが2Dのワークフローをすべて参考にする必要はないと思います。2Dアニメは自由さゆえに現場崩壊が起きているという現状があるので、3Dはそうなって欲しくないとディレクターとして思っています。

G:
現場崩壊……。

水島:
つまるところは個人技になってしまうんですが、3Dではベースとして共通のモデルを用いるというところで、容易というと語弊があるかもしれませんが、クオリティが維持しやすいというところはあります。「1つの作品を作るライン」の土壌として、まだ劣化が始まっていないので、これを維持していければ、これからの映像産業の中で面白い位置づけを得られるのではないかと。これはセルルックもそうだし、フォトリアルもそうだし、もっと違う表現も出来ると思うので、作品数が増えていってくれればいいですね。

G:
数が多いと幅を広げられますね。

水島:
2Dでは記号化された作品作りが大きな部分を占めるようになっていますが、それが一部3Dに切り替わった後、作画アニメで「こういうところが自由」「ここが得意」というのが出せる作品作りが、もっとできるようになるんじゃないかな。3Dで2Dを追っかけるということは、3Dモデルを変形させたり、過剰にデフォルメしたりしているわけですが、手描きアニメならもっと自由に、平面ならではのウソがうまくつけるわけなので、そこが伸びてくるといいなと。市場として求められているところに寄っていかなければならないという命題はあると思いますけどね。


G:
「楽園追放」の企画を動かし始めた当初は、アートフィルム的なものでもいいかなと野口プロデューサーは考えていたそうなのですが、水島監督には具体的にはどういった形で話が来たのでしょうか。

水島:
当初の方向は知らなかったですね(笑) 僕には普通に「映画を撮ってくれ」ということで、あとは虚淵くんが脚本だから面白いものを作れるんじゃないかなと思って。3Dのオリジナル映画を、ということでしたね。

G:
なるほど。「楽園追放」は水島監督にとっても、虚淵さんにとっても、他に原作を持たないオリジナルの劇場映画としては初の作品であるということですが、それをやるにあたって気負いみたいなものはありましたか?

水島:
うーん……特には(笑) でも、嬉しかったですよ。これまでに映画を3本やっているんですが、基本的にテレビシリーズのスピンオフだったり、テレビと同時発信だったりで、「映画単体を任せてもらえる」というお話をもらったことはなかったんです。それもあって「自分はテレビの人間だ」と思っていましたから、東映アニメーションという老舗から「映画をやってください」と言ってもらえたことは嬉しかったですね。さらに、虚淵くんの脚本だということで、これはいいチャンスをもらえたなと思いました。

G:
原作アリのものとオリジナルもの、劇場とテレビで取り組み方は大きく異なりますか?

水島:
これは関わる制作会社によっても変わってくる部分なんですが、原作モノとオリジナルとの差は、ベースがあるかないかという点に大きな違いがあります。「楽園追放」も「虚淵玄による原作モノ」みたいなものですが、映画を作るにあたって、シナリオ開発は虚淵くんと協議をしながら練り込んでいきました。テレビでも映画でも、脚本家と向き合って本を作っていくというところは同じですし、それをコンテにしたら作画するアニメーターと打ち合わせをして渡して、映像を作りながらアフレコをしたり、細かい打ち合わせをして最終的に1本の作品にする、というプロセスは同じです。テレビの場合は、放送枠に合わせて約20分のものを複数本作るので、全般の大きなストーリーに対しての細かい調整を何度もやるチャンスがあるのに対して、映画は一発勝負なので、その分スパンは長いけれどいかに自分で穴を発見して埋めていけるか、ということになります。映画の方が一発勝負の意味合いが大きく、かつクオリティも上げていかないといけないので、やっている最中は大変ですね。特に作画アニメは後半にならないとどうなるかモノが見えてこないので……。それに対して、3Dアニメは初期からラフモーションを見せてもらえたりしたので良かったですね。

G:
今回、「楽園追放」を作る中で苦労した工程はありますか?

水島:
1つは「モデルのクオリティ」ですね。当時、モデルをどれぐらいのものしたら最終的にどうなる、ということを僕自身もわかっていなくて、とにかく齋藤くんのかわいらしいキャラクターをどの角度から見てもちゃんと成立するように作るということと、人としての柔らかさを持たせたいということは思っていました。チェックの時に僕が細かく言って調整していったというよりは、モデラーの横川くんの方ですごく考えてモデルを作ってくれて、それを細かくチェックさせてもらいました。この点が1つ。


水島:
あとは、3Dアニメーターって、ちょっと前までは絵コンテから直に画面を作るということはやっていなくて、アニメーターがレイアウトを取って仮のモーションをラフ原画という形でつけて、それに合わせてモーションを作るということをやっていたんです。

G:
そうなんですね。

水島:
でも、それをやっているといつまで経っても3Dアニメーターが絵を作るという根本的な勉強ができないだろうということと、3D作品ならその部分も3Dアニメーターがやるべきだろうと思っていたので、「今回は2Dアニメーターのラフなしでやらせて欲しい」ということをグラフィニカのチーフアニメーションプロデューサーである吉岡さんに相談しました。そうしたら、グラフィニカとしても今後業界に打って出ることを考えると、この先は3Dアニメーターも「アニメーターとしての力」を持っていなければいけないし、板野一郎さんからも「ぜひやりましょう」と言ってもらえて、日常芝居についても演出家と一緒にやっていくという形でやらせてもらいました。これがもう1つのポイントですね。本人たちが不得意だと思っている日常芝居もやらないといけないし、レイアウトはセンスでまとめなければいけないもので、それまでにやったことがないので「なぜカメラがここにあるのか」「なぜこの画角でこのキャラクターにフォーカスしているのか」ということまで、一度やってもらってこちらが懇切丁寧に説明するしかないので身につけてもらっていって……千本ノックみたいな感じでした。映画という長いスパンの中でスケジュールが用意できているので、ここでがっちりやっておけば、次の作品をやるときにはベースができあがっているからと思ってしっかりやりました。監督クラスの人間が現場にほぼ一緒に居て常にディスカッションするというのは、今まではほとんどなかったんじゃないかな。

G:
3Dアニメーターの方々を育成しつつ作品を作っていった、という感じですね。

水島:
そうですね。3Dディレクターが現場にいるのは当たり前なんですが、「楽園追放」では監督や演出家ががっちりと現場に居て、演出意図を伝えたり、2Dのアニメの方法論を用いながら3Dの画面としての作り方を説明したりしていました。例えば、絵コンテにない部分も「こういう演技があればここの絵は引き立つよね」と説明したり。2Dだとアニメーターが絵コンテを見て考えて描いてくれるんですが、3Dはまだそういう作業を能動的にやる土壌がなかったので。「絵コンテにあることが全てじゃないよ」「絵コンテはキャラクターの心情を伝える設計図でしかなくて、それを豊かにするのはみなさんのお仕事ですよ」と。もし余分な部分が出てきたらそれは余分だと伝えるし、足してもらったものがいいものなら通しますし。絵コンテにガチガチに描いてしまう人もいるんですが、僕はアニメーターとやりとりをしたいので、そんなに細かくない絵コンテにしておいたりとか。

G:
2Dの現場で当たり前のことであっても、3Dの現場においてはそうではないことも多いと。

水島:
初めてのこともあるので、そういうワークフローを今回は採用した、という感じですね。

G:
今回やってみて、自分が思っていたよりも良くできたというところはありますか?

水島:
それはもう、もっともっと苦労するかなと思っていました(笑) 3Dアニメーターが不得意だと思っている日常芝居にしても、社内でやれる人間がフォローしてくれたり、2Dでやっていると「もう諦めないとダメかな」という部分もやれたりして、スケジュールの使い方もうまくいったんじゃないかなと思います。3Dアニメーターにとってはこれまでにない作業量をやっているので、一概に楽だったとは言えませんが、僕が普段やっている感覚で見積もった修羅場に比べると余裕がありました。そのおかげで、最後まで徹底的にこだわってやれたので、自分にとってはありがたい現場でした。

G:
監督はもっとすごい修羅場になると考えていた、と。

水島:
テレビアニメだと大体は泊まり込みになって家に帰らなくなるので(笑) 僕がいることで作業や判断がスムーズにいくなら現場にいたほうがいいだろうと考えるタイプなので、部屋を用意してもらってカンヅメになったり。それが、今回はいなくても大丈夫そうだなと、何かあったらメールや電話をもらって対応する形を取ったりして対応できたので良かったですね。グラフィニカの制作能力を含めて統制が取れていたので、対応しやすかったと思います。

G:
これはグラフィニカさんに限らず、どの現場でもできることですか?

水島:
3Dの会社さんであればある程度できるんですが、2Dになると原画マンが外にいたりするので、そのスケジュールまで合わせると絶対に破綻するんです。僕らは、原画マンがばらばらに行っている作業をチェックするためにはわんこそば状態で待たなければいけないから、どこで区切っていいのか、どこで今日の作業が終了するのかわからない部分があるんです。制作から「○○さんの分は確実にこの時間に上がってくるので、ここまで見てください」って言われるけれど、それがうまくいかないとずっと待たなければならなくなって、自分の予定が立てられないんです。2Dの現場では、フリーが多くなりすぎて、スケジュールの組み立てが昔よりも難しくなっているという状態に陥っているんです。

G:
ああー、なるほど。

水島:
僕は制作出身ですが、僕がやっていたころよりもフリーの人間は圧倒的に多いです。ただ、制作会社からすると、フリーが多いというのは個人事業主と契約をしているということで、社員じゃないから内側にリスクを抱えなくてもいいという面もあって、痛し痒しです。予算の問題もあって、そうやらざるを得ない部分もあり、一概に「2Dだから」とは言えません。でも、作品を作る中では足並みが揃わないことも出てきますし、上手い人には仕事が集中してスケジュールが読めなくなります。3Dの場合は制作会社全体が会社のネームバリューを向上させている状態で、これはいわば京都アニメーションなどと同じなので、それは正しいと思うんです。アニメーターには個人の名前で仕事をガンガン取る人もいて、それを否定するわけではないんですが、フリーランスが増えるとスケジュールが読めない、というのは確かです。今、制作は大変だと思いますよ。それこそ、「SHIROBAKO」を見てもらったらわかる通りです(笑)


G:
なるほど(笑) ここからは方向を変えて、キャストのお話について伺いたいと思います。最初に発表された名前が釘宮理恵さん、三木眞一郎さん、神谷浩史さんの3名。監督は釘宮さんに「ようやく可愛い女の子をやってもらえた」と。

水島:
釘宮さんとは「鋼の錬金術師」という作品でご一緒させていただいて、機動戦士ガンダム00にも出てもらっていますし、大江戸ロケットにも出てもらって、非常に可愛らしい声の持ち主でありながら芯のある演技の出来る方だなと思っています。……であるが故に、可愛らしい女の子よりも男の子の方が似合うなということでハガレンと大江戸ロケットでは主人公の弟役をやってもらったり、可愛いけれど癖がある役をということで00ではネーラ・トリニティをやってもらったりして、正統派ヒロインの役をやってもらっていないなと思っていたんです。

G:
ふむふむ。

水島:
今回「楽園追放」のシナリオ開発を始める前、キャラクターのデザインを作っていくときに、虚淵くんが描きたいキャラクター性とか全体の話とかをしている中で、アンジェラには釘宮さんが合うのではないかと思って「どう?」って聞いてみたら「いいっすねえ」と答えが返ってきたので、それを基準にして絵を進める方向になりました。


G:
なるほど。

水島:
アンジェラのパートナーとなるディンゴについては、今回のシナリオは小説みたいに冒頭から順々にできていったので、その後半にさしかかったあたりで「三木さんがいいんじゃないか」という確信を持ちました。当初は他の役者さんの名前も挙がっていたんですが、自分としてはその人の声だと、アンジェラとディンゴの関係として見せたいものとズレる部分があるなと……その役者さんについて、それほど詳しくなかったのでいろんな作品を見たんですが、違う気がしたんです。最後まで来て「こうやればしっくり来るんじゃないか」とできあがったのが、年齢を若返らせたり、軍人色を抜いてトレジャーハンターっぽさを強くしたりした今のディンゴ像です。虚淵くんが「それならテンガロンハットとか似合いそうですよね」と言ったのでウエスタン風にしてみたら「あっ、これはいいかもしれない」って(笑)、そこで三木さんの名前が出てきたんですよね。ディンゴを若くすることで、アンジェラとの年齢を詰めて恋愛感情みたいなモノを匂わせつつ、地上の案内役としてどこかつかめない部分があるミステリアスなキャラクターにもしたいなと。「監督がそんなにピッタリだと言うなら、三木さんがいいと思いますよ」という後押しもあって、三木さんに担当してもらうことになりました。僕としては釘宮さんも三木さんも、全幅の信頼を寄せている2人なので、このコンビなら問題ないな、と。


G:
そして、神谷さんが「フロンティアセッター」役です。

水島:
最後のシーンまで読み終えて、フロンティアセッターというこういう役回りのキャラクターであり、人間的な温かさを出せる声はどんなものだろうかと考えたときに、ほら、神谷さんって普通にしゃべっているとクールな雰囲気がありますよね。僕からすると金属的な印象があるんです。フロンティアセッターについては、キャラクターとして「人間」であってくれなくては困るし、かつ強弱も持てる役者さんでなければいけない。そこで、僕の中で神谷くんとご一緒したいと思っていたし、合うと思っていたから「どうかな?」と打診してみたら、「水島監督と虚淵さんなら断る理由はありません」と言ってくれたので、正式に事務所に打診しました。それで台本を渡したら「ものすごい量ですね、ビビりました」と言われました(笑) でも「すごく合ってると思うのでよろしくね」と、忙しい中やってもらいました。忙しい中!(笑)

G:
フロンティアセッターは予告編にもまったく姿が出てこなくて神谷さんの声だけなので、いったいどんなヤツなんだろうと思っていたんですが、「まさか!?」でした。

水島:
そう、まさかの、です。「神谷浩史を使ってアレなの!?」とファンの子は思うかもしれない(笑) でも、姿がこうだから役者はこういう人でなければという決まりはないですから。今回は古谷徹さんや林原めぐみさん、三石琴乃さん、高山みなみさんといった方々に、映画としては出番の多くない役どころにもかかわらず引き受けていただいたのは嬉しかったです。だからこそ、重みのあるお芝居をやっていただいたし、贅沢にやらせていただいたなと思います。


G:
アンジェラというキャラクターに関しては、ディンゴと初めて出会ったときに「ロリぃ」と表現されるような姿でしたが、初めからこの姿だったんですか?だからこその釘宮さんなのかなとも思ったのですが。

水島:
そうですね、キャラクターデザインとしても本編の中で最も多く出てくる姿ですからこれをベースにしていますし、中身と外見の違いも含めて彼女の演技力が必要だったということです。ご本人は「そんなに大人じゃないですよ」と否定しているようですけど、彼女と仕事をしていると、外見だけではなく仕事に取り組む姿勢などを見ていても大人だなと思いますし、芝居で可愛い女の子を演じているというギャップみたいな所もこのキャラクターには必要だと思っていたので、意識しなくても重ねられて、かつ要求するお芝居に応えてくれるスキルがあるので、釘宮さんのその芝居さえ引き出せれば問題ないわけです。その「深み」を持っている人は、釘宮さん以外にはいなかったかな、と思いますね。「アンジェラ=釘宮さん」というのは、すぐに思いました。

ディンゴ&アンジェラ。


G:
アンジェラはこの髪型もあって若く見えますが、髪は短くなる予定があったけれど、その予定自体がなくなったとうかがいました。

水島:
そもそも、髪を短くするというイベントを入れる必要があるのかどうか、ということですね。これは早い段階で出てきたことなんですけれど、蛇足だったらいらないかなと。しれっと短くしてしまってもいいんだけれど、とりあえずはそのままにして、3Dの現場で文句を言われたら考えようかということにしました(笑) ただ、トライアルとしてはこういう長い髪をどう処理するか、漫画的に描かれている髪の毛の収め方をどうするかということは大事で、実は作画アニメでもけっこう失敗しているんです。設定に描かれているまま描いちゃう人がいるんですけれど、髪の毛のハネがあまりにも外や上に向いてしまっている場合、それは止め絵だからこそ成立しているモノで、アニメーションだと「動きの中で止まっている状態」を描写するのなら落ち着いていなければいけない。僕は自分でやるときには「髪をまとめて落ち着かせてください」と指示を出すようにしているので、今回は、3Dの人たちに、記号化されたキャラクターでもどれぐらいのリアリティを持たせて作品に落とし込むかを見せられる機会だなと。


G:
なるほど。

水島:
例えば、ギャグで髪の毛がぶわっと膨らんだあと、カットの末尾で終わらせるべきかどうかは次のカットとの間がどう取られているかで判断できます。ワーワー言っている間に髪の毛が膨らんでいてバッとカットが切り替わるなら、次のカットでは元通りになって大丈夫だよと。これはギャグの後に一間置いて次に移っているという記号だから、それは絵コンテを見てカットを作る人間が判断して描けばよくて、ダメなら演出がそのように指摘するから、まずは自分が一番面白いと思う方法でやってみて、と。それに対して演出家から言われたことは答えの1つであり、演出家によっていろいろなパターンがあるから勉強になるよ、と。今回は僕が監督で演出もやっているので、僕の言うとおりにやってね、と伝えました。

G:
アンジェラの髪が長いことで大変だったんじゃないかと思いましたが、それが役に立った部分も大きいんですね。

水島:
これでもう長い髪を扱う仕事が来ても怖がらずにやれるんじゃないでしょうか。女性アニメーターは特に髪の動きにこだわりがあったので、男性もその女性アニメーターが髪を柔らかく動かしているのを見て参考になったと思いますし、それがライブラリとして蓄積できるというのも大きいですね。モーション自体をコピーして調整することもできて作業の効率化を図れるので、その中でどれだけオリジナリティを出すかというのもあるし、楽したいのであればコピーすれば済むし(笑)、それはカットによって求められるモノも違いますから。新しいものを作り出す必要があるところだと新規作業が必要ですが、カットによってはすでにあるモーションをそのカット用に調整するだけでいいところもありますし。ただ、作業になってしまうと一人一人の個性は伸びなくなってしまうので、渡すカットを調整することで全員の技量が伸びるように考えないとダメだし……。グラフィニカさんの場合は板野一郎さんがどっしりと構えていますから、それが「グラフィニカの底力」になっているのは間違いないと思います。

G:
では最後に、この「楽園追放」はフルCG作品でしたが、今後もCG中心の作品があれば積極的に手がけたいですか?

水島:
はい、僕自身も企画書を書こうと思っていますし、またグラフィニカと仕事をしようと思っています。それは今回培ったコンビネーションもあるので、グラフィニカにおける自分の関わり方をもっと煮詰めたいという思いもあります。最近は「楽園追放」にかかりっきりだったので来年は2Dのテレビシリーズもやりますし、今度はそのノウハウを持って来られたらいいですね。今後は作画に3Dを積極的に用いる部分もあるので、よい関係をずっと保ちたいなと思います。同時にサンジゲンさんや他の3Dスタジオの方も「俺たちも」と思っているだろうし、もっといろんな会社がテレビシリーズや長編に名乗りを上げていけば発展していくんじゃないかなと思います。これまで、CGだとどこか違和感を持たれるところがありましたが、ようやくCGを主役にして一般に浸透するレベルのモノが作れるようになってきました。ディズニーみたいなスタイルもありますが、それを追いかけるのではなく日本はまずはセルルックを極めようというのが今の流れじゃないかなと。

G:
なるほど。本日はありがとうございました。

水島監督が手にしているのは本ビジュアルを使ったチラシ。「楽園追放」は本日11月15日(土)から新宿バルト9・梅田ブルク7など全国13館にて公開です。


このあと、さらに野口光一プロデューサー、グラフィニカの制作チームの方々へのインタビューも掲載予定ですのでお楽しみに。

©東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ

・つづき
「CGは表現者のやりたいことをやれるところに到達した」、フルCGアニメ映画「楽園追放」野口プロデューサーインタビュー

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