サイエンス

4000万人を殺した1918年のインフルエンザウイルスを改造する狂気じみた研究が必要な理由とは

By Andy Pixel

河岡義裕氏は、1918年に4000万人の命を奪ったインフルエンザ「スペインかぜ」ウイルスを改造した新型ウイルスの作成者として知られるウイルス学者です。なぜ「ヒトの免疫で対抗できない」と言われるほど危険なウイルスを、世界から批判を受けてまで作る必要があったのかが明かされています。

The 1918 Flu Killed 40 Million People. This Man Is Re-Creating the Virus. - Popular Mechanics
http://www.popularmechanics.com/science/health/breakthroughs/the-man-who-could-destroy-the-world-breakthrough-awards-2014


The 1918 Flu Killed 40 Million People. This Man Is Re-Creating the Virus.
https://www.popularmechanics.com/science/health/a12897/the-man-who-could-destroy-the-world-breakthrough-awards-2014/

◆ウィスコンシン大学マディソン校の研究所
ウイルス学者の河岡義裕氏はウィスコンシン大学マディソン校でインフルエンザ・パンデミックの予防研究を行っています。河岡氏が研究で扱うウイルスは、研究所の中に作られた特別室の冷凍装置の中で、摂氏マイナス80度の状態で保存されています。特別室の壁は厚さが18インチ(約45.72cm)のコンクリートで覆われており、常に施錠された状態にあります。研究所のバイオセーフティーレベルは「レベル3-ag」となっており、入室の際には潜水艦に使われるエアロックを通ります。内部には500個以上のアラームが設置されており、外部の人間が侵入しようとすると、24時間いつでもキャンパスポリスに連絡が送られるようになっています。

By David Martin Davies

内部で働く管理スタッフや従業員は例外なくFBIの素性調査を受けています。研究所に入る時は下着を含む全ての外出着を脱ぎ、次に研究室外側の控え室まで専用の室内履きで移動後、タイベック製のつなぎ・エアフィルター付のマスク・使い捨てのタイベック製グローブ・別の室内履きに履き替えて、ようやく入室可能になります。退出時は着用した全ての装備を外した後に5分間のシャワーで石けんを使って体中の穴という穴を洗浄する必要があり、これらの厳重なプロセスによって、ウイルスが外部に漏れないように保存されているわけです。

◆河岡義裕氏の研究


研究所の設立には、河岡氏が発表したスペインかぜウイルスの改造種の構築方法に関する研究が大きな影響を与えており、2008年に彼の研究を促進する目的で1250万ドル(約13億4000万円)をかけて設立されました。河岡氏はウイルス感染させたフェレット同士の感染を拡大していくことで、ウイルスを変質させる研究を行っています。

研究所の冷凍装置には1918年のスペインかぜウイルス改造種の他に、2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザ(H1N1亜型)の改造種、2009年に100万人以上の命を奪った豚インフルエンザの遺伝子を含むH5N1ウィルスなども保管されています。これらのウイルスは容易にヒトの免疫を通過できる強力なものが含まれています。


◆研究の安全性
河岡氏が2012年にネイチャー誌に発表したH5N1ウイルスに関する研究は、改造種の再構築方法が詳細に詳述されていたことで世界中で論争の的となりました。さらに2014年6月に河岡氏のチームがスペインかぜウイルスの研究結果を発表したのち、The Guardianは「クレイジーで危険なインフルエンザウイルスの作成」というタイトルで、Gizmodoは「ある科学者が全人類を殺すことができるウイルスを作成」というタイトルでそれぞれが記事を掲載。パスツール研究所のサイモン・ウェイン=ホブソン氏は「狂気の沙汰」と表現しているほか、河岡氏の研究に反対する科学者は、「病原体の操作がニュルンベルク綱領の原則を破っており、研究所事故が起きれば大惨事となる」と主張しているなど、世界中から非難を浴びました。河岡氏の元には脅迫メールが届くことがありますが、全てFBIへ転送することで対処しているとのこと。

通常、インフルエンザウイルスはアヒルなどの水鳥が運搬役となり、水鳥がウイルスを保有した状態で湖や海に排便すると、水辺を介して豚など別種の動物に感染します。不運な条件が重なると、ブタがH5N3・H1N1の2種類のウイルスを保有することがありますが、その後ブタの体内でほ乳類の免疫を通過できる新型ウイルスが現れることがあり、これがヒトに感染することでパンデミックが始まります。

By Department of Foreign Affairs and Trade

河岡氏の研究はウイルス変質の過程を人為的に発生させることで、ウイルスが自然変質する段階を見極めて防衛策をあらかじめ講じる、というもの。インフルエンザウイルスは水鳥・ニワトリ・ブタ・馬・犬などを介して変質していきますが、インフルエンザをコントロールできれば、パンデミックに至る前に、例えば養鶏場などの巨額の損失を未然に防ぐことができるとのことです。なお、河岡氏は獣医でもあります。

インフルエンザを根絶させることはできませんが、機能獲得型の対立遺伝子を研究することが、「インフルエンザによるパンデミックに対処する現実的方法の1つです」と河岡氏は主張します。なお、論争の的になっている改造ウイルスについては、タミフルで治療可能であることを示しており、「大惨事」が起きるほど危険な研究ではないとのことです。河岡氏によると、「厳重に管理された研究所で事故が起きるよりも、公園でアヒルに餌を与える方がインフルエンザにかかる可能性は高いでしょう」と話しています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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