取材

「イヴの時間」の吉浦康裕監督が「アニメミライ」で得られたものについて語る


アニメミライは、文化庁が「若手アニメーターなどの人材育成」を目指して推進しているプロジェクトで、2014年で第4回目を迎えました。アニメミライでは毎年企画を応募しており、応募企画の中から4つが採用され、一線級のアニメ制作スタッフと若手アニメーターが一緒になってアニメ制作にのぞむ、という機会が創造されることとなります。そんなアニメミライ作品のひとつ「アルモニ」で監督を務めた吉浦康裕さんが、マチ★アソビ vol.13にてトークショーを行い、アニメミライに関するアレコレをぶっちゃけトークしてくれました。

アニメミライ[ animemirai ]
http://animemirai.jp/


「アニメミライ2014」の作品は、以下のムービーであらすじが見られます。

アニメミライ2014 劇場予告(第2弾) - YouTube


トークショーに来てくれたのは、左から一般社団法人アニメミライの代表理事である桶田大介さん、吉浦康裕監督、アニメミライ2013の公式リポーターを務めた高井舞香さんの3人。吉浦康裕監督は今回がマチ★アソビ初参戦で、最初は個人的に参加する予定だったそうですが、ufotableの近藤プロデューサーから「吉浦君出ないの?」と言われトークショーを開催することとなったそうです。


「アルモニ」はアニメミライ2014の4作品の中のひとつで、アニメーター育成事業としてスタートしたもの。アニメミライは国が推進しているプロジェクトですが、作品の企画に関しては「エログロはやめてね」程度のしばりしかないそうです。

そこで、吉浦監督は普段できないようなことをやろうと思い、今までにないくらいにリアルな高校生活の一幕を再現する、という考えで「アルモニ」の制作を決めたそうです。具体的に言うと、クラスカースト的なテイストを入れ込みつつ、それでいて独特なファンタジー要素も表現している作品とのこと。


主人公の本城彰男は、昨晩見たアニメの話で友達と盛り上がっているところに体育会系の男子から「うるせえよ」と言われて萎縮してしまうような、そんなどこにでもいそうな普通の男子です。学園もののオタク男子は、アニメでは美化されたりコメディタッチで描かれたりするのがほとんどですが、「アルモニ」ではかなり表現をリアルにしたそうです。他にも、グループの中には大抵無意識のうちに「こいつがリーダー」という人物が存在するものですが、そういったリアルな人間関係を演出しているので、「見ていて胃が痛くなるアニメ」と吉浦監督自ら評しています。

体育会系男子の後藤(左)と主人公の本城彰男(右)


「アルモニ」ではかなり細部にまでこだわりを持って作り込みをしています。例えば主人公を含むクラスのオタク集団が作中でハマっている架空のライトノベル「絶対零度のクラウディア」。これは実在のイラストレーターにキャラクターを描いてもらい、表紙もしっかり作り込んでいるそうですが、ほんのワンシーンにしか出てきません。他にも、吉浦監督はクラスメイト34人すべてに顔と、「体育会系」「少数の自由人」のような設定までつけていたそうです。

アルモニでは教室の臨場感を出すために、全クラスメイト(=モヴ)の顔と特徴、座席を指定しました。男女それぞれを「体育会系」「文科系」「少数の自由人」に分け、それぞれの顔立ちを決めていきました。 #アルモニ RT @kengo1212 久々にアルモニ見てる。教室のモヴシーンとかのキャ

— 吉浦康裕 (@yoshiura_rikka)

声優さんたちがアフレコ時にどのタイミングで声を吹き込めばいいのか理解しやすいように、吉浦監督は絵コンテの段階で登場人物すべてに自分の声でアフレコをして声をつけたそうです。

吉浦監督はヒロインの真境名樹里の声が気に入っているそうで、これはハナヤマタで主人公の関谷なるを演じた上田麗奈さんが声を担当しています。ハナヤマタでの印象とは全く異なり、同じ声優の高井さんも初めて聞いた際には上田さんの声だということにまったく気づかなかったそうです。


吉浦監督が「アルモニ」の前に手がけたのは「サカサマのパテマ」という劇場アニメ。「サカサマのパテマ」制作時は原画を担当するアニメーターと顔を合わせることがほとんどなかったそうですが、一般的なアニメ制作では大抵がそのような形で進んでいくそうです。

しかし、アニメミライ作品の制作現場では若手アニメーターの作画中の様子を横目で見る機会が多く、これは非常に新鮮な体験であったと吉浦監督は明かしています。また、ヒロインが主人公に迫るシーンの作画を担当した若手アニメーターは、このシーンのためにわざわざプリーツスカートの模型を作り、これを見ながら作画をしていたそうで、こういったシーンを見られるのも制作スタッフの距離が近いアニメミライならではのおもしろい経験であった、と吉浦監督。

ヒロインが主人公に迫るシーン


「アルモニ」はアクションアニメなどとは異なり、派手なアクションシーンや爆破シーンなどは一切なく、ひたすら地味なシーンが連続します。しかし、キャラクターがイスに座る際のスカートの動きや、朝礼が終わりクラスの全員が一斉にブワーっと異なる動きを始めるシーンなど、地味だけどかなり凝った作りになっているシーン、というものが多々あるそうです


「アルモニ」のキャラクターデザインと作画監督は、「Fate/Zero」や「はたらく魔王さま!」「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」などでキャラクターデザインや作画監督を務めた碇谷敦さんが担当しています。碇谷さんは美少女系よりもマッチョ系の絵を描くのが好きなアニメーターだそうで、時々「筋肉描きてー」とつぶやいていたりするくらいだそうですが、線の細い「アルモニ」でかわいい女の子を描いてくれた、と吉浦監督は満足げでした。

アニメ業界ではなかなか上の人に質問するのが難しいそうです。通常、目上の人に質問をした際に「ちょっと待ってて」と言われてしまうと萎縮して次に質問に行くのが怖くなってしまうものです。しかし、碇谷さんは「質問をされた際には必ず作業を止めて質問に答える」という自主ルールをつくっていたそうで、そのルールを守ったおかげで参加した若手アニメーターは積極的に質問が投げられるようになり、「アルモニ」制作チーム全体としても非常に仲良くなれるきっかけとなってくれた、とのこと。

また、「アニメのガラスで透明なガラスを表現する際に入れる斜めの線」にまつわる話も飛び出しました。


例えば車のフロントガラスに、町中にある大きなビルや建物が写り込むとすると、フロントガラスには斜めに建物の影が入ることとなります。これと同じ要領で、アニメでガラスを描く際には「ここに一体何が写り込むのか」を考えながら描くと良い、と作画監督の碇谷さんが若手アニメーターに教えているところを吉浦監督は隣りで聞いていたそうで、「なるほどなー」と感心したそうです。このように、長年アニメーターの仕事を続けていても、教えてもらわなければ学べないものというのはやはりあるようで、気軽に先輩アニメーターに質問がぶつけられる環境ならば、そういった部分が手軽に学べてしまうというのは凄く重要で、アニメミライの良いところだそうです。

たしかに車のフロントガラスには建物が斜めに写り込むことが多い模様。

By faungg's photo

現在のアニメ制作では1話制作するのに大抵の場合10カット程度の短いシーンを任されることが多いそうで、シーンに愛着を持つのが難しいそうです。しかし、アニメミライの制作では「この人にここのシーン」「あの人には最後のクライマックスのシーン」といった具合にひとりひとりに何シーンもまとめて任せてしまうことも可能であり、それ故に担当したアニメーターも愛着をもってアニメを作ることができるそうです。

そんなアニメミライ2014作品のひとつである「アルモニ」は、スイスのポリマンガというイベントに招待されたそうです。初めは「アルモニ」で表現した「日本的なクラスカーストを表現した部分」が伝わるのか不安だったそうですが、実際に急遽作成した字幕版の「アルモニ」をスイスで上映したところ、しっかり笑いが起きて、現地のスタッフからは「分かる!」と言われたそうです。

明日よりアニメイベント「ポリマンガ」に出席するためにスイスへ行ってきます。『イヴ』『パテマ』『アルモニ』と色々上映する予定です。とにかく刺激を受けたい…。http://t.co/dElpCtofiQ

— 吉浦康裕 (@yoshiura_rikka)

「アルモニ」はアニメミライ作品としては珍しく単体でBlu-ray/DVDの発売が決まっており、ほぼ全スタッフ分のインタビューや若手アニメーターが描いていたパラパラ漫画、「絶対零度のクラウディア」のあらすじなども特典として入っており、かなり豪華なものとなっています。


トークショー後には少し時間があったので、急遽質問コーナーがスタート。


Q:
上田麗奈さんがヒロインを演じることになった理由は?

吉浦康裕監督(以下、吉):
脚本を書いて、いかにも女子高生な声を期待していたんですね。劇中にでてくるようなイメージの声がテープオーディションの中に紛れてたんですね。それでもう「コレだ!」って一発で決まりましたね。ハナヤマタに主演しておられますが、全然イメージが違いますからね。

高井舞香さん(以下、高):
私、ハナヤマタで上田麗奈ちゃんと共演しているんですが、初め「アルモニ」のヒロインだったことに全然気づかなかったです。

吉:
本人いわく「アルモニ」のヒロインの声は自然体でできる、と言っていました。

Q:
吉浦監督が日課にしていることは?

吉:
キューサイの青汁を飲んでます(笑)。おじさんぽいので言うのがはばかられるんですけど、こういう仕事なので食事が偏り気味になってしまうので健康に気を遣って飲んでます。

Q:
四国に初めて来たそうですが、やりたいと思っていることは?

吉:
徳島ラーメンが食べたかったんですが、これはもう達成しました。おいしかったです。

Q:
他作品ですが、「Wake Up Girls!」の劇場版でデジタル監修をしたそうですが、一体どういったことを担当されたのですか?

吉:
「パテマとかでやっていたみたいなデジタルで部屋を組む方法を教えて」ってヤマカンさんに言われたんですよ。なので、「Wake Up Girls!」の事務所をデジタルで組むところを監修だけしました。そんなにガッツリ関われなかったので心残りなんですけど、ヤマカンさんは非常にリスペクトしていてハルヒを見て「うわ~!」って思った人なんで、今後また何か機会があればなと思っています。

Q:
アイデアはどうやってひねり出していますか?

吉:
僕の場合は既存のアイデアを組み合わせることが多いですね。アニメで見たことだとか、映画で見たことだとか、昔の原体験などを組み合わせて作っています。例えば、「王道ボーイミーツガール」と「逆さま人間」だったり。単体だとありふれたものでも、2つ組み合わせると結構独特なものになったりするんでね。

Q:
アニメミライは人材育成プロジェクトですが、苦労した点と良かった点とを教えてください。

吉:
苦労した点は、普通の行程だとめんどくさいからと飛ばしがちな作業もひとつひとつ丁寧に教えたことですね。特にアニメミライでは若手に1回リテイクして返すという行程を入れたんで、これが教える側もとても大変だったんですけれども。良かった点としては、若手のアニメーターだけでなく僕自身にとっても非常にためになった、という点ですね。

Q:
マチアソビにまたきてくれますか?

吉:
もちろんです!


なお、マンガ・アニメ・ラノベ・エンタメ小説という各ジャンルの「これを世界で大ヒットさせたい!」という作品を投票によって決めようという企画、「SUGOI JAPAN 国民投票」の紹介も行われたので、気になる人は要チェックです。

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in 取材,   動画,   アニメ, Posted by logu_ii

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