サイエンス

世界最長の実験「ピッチドロップ」の責任者が決定的瞬間を目撃することなく死去、これまでの流れのまとめ

By dModer101

86年もの間継続され世界最長の実験としてギネスブックに認定された実験「ピッチドロップ」の実験責任者ジョン・メインストーン豪クイーンズランド大学教授が先週死去していたことが発表されました。研究者が生涯をかけても決定的瞬間に立ち会うことが許されないピッチドロップ実験は結局、どうなるのでしょうか?

「世界一長いラボ実験」の教授が死去、1927年に実験開始 国際ニュース : AFPBB News
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2964276/11248954

World's oldest experiment ready for a drop of excitement - CNN.com
http://edition.cnn.com/2013/04/30/world/asia/pitch-drop-experiment

The Pitch Drop Experiment | School of Mathematics and Physics
http://smp.uq.edu.au/content/pitch-drop-experiment

◆ピッチドロップ
ピッチドロップは、ピッチと呼ばれる極めて粘性の高い液体化合物を滴下する実験で、1927年にクイーンズランド大学のトーマス・パーネル教授によって開始されました。ハンマーでたたくと粉々に砕けるピッチは、一見すると固体ですが、液体であることを学生に実証するために実験はスタートしたとのこと。

実験内容は極めてシンプル。ピッチを漏斗に入れて、その滴下を観察するだけというもの。しかしこの「観察するだけ」という作業は極めて困難な苦行でもありました。なぜなら、水の1000億倍の粘度を持つピッチが滴として垂れるのは、なんと約10年に一度のみ。その決定的瞬間を見逃せば、10年間ひたすら待ちぼうけするはめになるという恐ろしい世界なのです。


パーネル博士は1948年に死去するまでに、決定的瞬間に立ち会えるチャンスが3度あったものの、目にしたのはすべて垂れ落ちたあとのピッチだったということです。

こちらがピッチドロップの実験装置。


◆二代目研究主任メインストーン博士
パーネル博士亡き後にピッチドロップ実験を引き継いだのが豪クイーンズランド大学教授のジョン・メインストーン博士でした。メインストーン博士はピッチドロップが滴下する決定的瞬間を自らの眼で見ようとチャレンジするものの、この挑戦はことごとく失敗します。

1979年の「瞬間」では、メインストーン博士は毎週日曜恒例のキャンプに出かけており失敗。1988年の「瞬間」は、ピッチ落下のわずか5分後に研究室に到着するという運命のすれ違い。その後、メインストーン博士は「肉眼でなくてもいいから落下の瞬間が見たい」と思ったのか、ピッチドロップをカメラで撮影しつつその時を待ちます。そして訪れた2000年の「瞬間」は、技術的なトラブルでフィルムには何も映っていなかったという痛恨のミス。

こちらは現在のピッチドロップの様子。クイーンズランド大学のピッチドロップ実験のサイトで確認できます。


◆決定的瞬間到来
運命のいたずらに翻弄されるメインストーン博士を尻目に、ついにその時が訪れます。1944年にピッチドロップ実験を開始したアイルランドのダブリンにあるトリニティ・カレッジがピッチが落下する瞬間を撮影することに成功したのです。その瞬間を捕らえたのがこちらのムービーです。

Pitch tar drop finally falls! - YouTube


このムービーを見てメインストーン博士は歯ぎしりしたことでしょう。2000年に決定的瞬間を逃して以来すでに13年が経っているのに約10年に一度滴下するはずのピッチがなかなか垂れ落ちず、その結果、トリニティ・カレッジに先を越されてしまったのですから。ちなみに、メインストーン博士は今年初めに「年内に次の1滴が落ちるだろう」と語っていたとのこと。どこまでもメインストーン博士泣かせなピッチなのでした。

それならば「世界で初めて決定瞬間を肉眼で見てやる」とメインストーン博士が野心に燃えていたかどうかは分かりませんが、ついにその野望は実現されることなく博士はこの世を去ってしまいました。

在りし日のメインストーン博士と実験装置。


現在、ピッチドロップ実験は、9滴目のピッチが落ちる瞬間をとらえるため3台のウェブカメラを使って常時監視が続けられています。ピッチドロップの残量からは、あと100年近く実験の継続が予想されていますが、はたして決定的瞬間を肉眼で捉える世界一幸運な研究者が現れるのか、興味深いところです。

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in メモ,   サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

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