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82年間も続行中、世界最長の実験「ピッチドロップ」とは?


すでに82年間も実験中で、あと100年は続くと言われているギネスにも認定された世界最長の実験があります。それがオーストラリアのクイーンズランド大学で1927年に開始され現在も続行中の「Pitch Drop Experiment(ピッチドロップ実験)」。一体どんな実験なのでしょうか?

詳細は以下から。Pitch drop experiment - Wikipedia, the free encyclopedia

School of Mathematics and Physics, The University of Queensland

「ピッチドロップ実験」とは、「ピッチ」という非常に粘性の高い流体の滴下実験です。ものすごく粘り気が強く(ネバネバというよりガチガチと言った方がいいレベル)揺らしても傾けても逆さにしてもびくとも動かないように見える液体も、長い時間をかけてわずかずつ流れ、漏斗のようなものに入れておけばいつかはボトッと滴が垂れるときが来るわけで、その流れや滴が落ちる現象を82年にもわたり観測しているのがこの世界最長の実験。

では「ピッチ」とは何かというと、植物性の天然樹脂や、化石燃料由来のものを含め、固体に近いふるまいをするほど粘度の高い液体をまとめてこう呼びます。真っ黒なタールのようなものもピッチで、英語で何も見えないほどの暗闇を「pitch black」と言う表現の由来にもなっています。

今回紹介する実験で使われているピッチは化石燃料由来の「Bitumen:歴青(れきせい)」と呼ばれる物質。主に多環芳香族炭化水素から成り、二硫化炭素に溶解する性質を持っています。道路の舗装や船舶の防水などに使用されてきました。

と言われてもどんな物かイメージできないという人は、クイーンズランド大学の実験紹介ページで「ピッチってこんな物質。ハンマーでたたくとこんな風に割れるよ」とツァラトゥストラはかく語りきに乗せて壮大に説明してくれるビデオクリップ(Windows Media Player)を見ることができます。

これがその実験装置。


1927年にクイーンズランド大学のThomas Parnell教授が「一見固体のように見え、固体のような性質を示す物質の中には、実は非常に粘度の高い流体もある」ということを教え子たちに示すために開始したこの実験。足(下に伸びる管状の部分)に封をした漏斗にピッチを注ぎ、三年間寝かせて安定させた後、1930年に漏斗の封を切り、ピッチは流れはじめました。その後大粒の滴が10年に1滴程度落ちています。最初の一滴が落ちたのは1938年。その後滴が落ちたペースは以下のとおり。

1滴目:1938年 12月
2滴目:1947年 2月
3滴目:1954年 4月
4滴目:1962年 5月
5滴目:1970年 8月
6滴目:1979年 4月
7滴目:1988年 7月
8滴目:2000年 11月28日


当初は実験環境の温度は管理されていなかったため、粘度は一年を通じて気温によって変化していた(液体は温度が上がると粘度が下がる)のですが、7滴目が落ちた1988年以降に空調が導入され、温度の安定によりピッチの垂れている部分が漏斗内の本体から離れ落下するまでの時間は以前よりも長くなっているとのこと。おおむね8~9年の間隔で滴下されていたのに7滴目から8滴目が12年もかかったのはそのためのようです。

82年前に18歳の新入生だった学生も今では100歳。Thomas Parnell教授は1948年に亡くなっていますが、その後も世代を超え実験は引き継がれています。しかし悲しいことに、実際にピッチがボトッと落ちる瞬間はまだ誰も目撃していないそうです。

1990年から実験を引き継いだJohn Mainstone教授(現在は名誉教授)。


「草が伸びるのや、絵の具が乾くのを観察するなんて目じゃない」と名言を残しているMainstone教授は18年間実験の管理をしつつもピッチが落ちる瞬間は見られなかったとのことで、9滴目は是非Mainstone教授の目の前で落ちて欲しいと願わずにはいられません。

ちなみにJohn Mainstone教授と故Thomas Parnell教授は2005年にIg Nobel(イグノーベル)物理学賞(「Ignoble:下品な」にかけたノーベル賞のパロディ)を受賞しています。

この実験の成果としては、これまでにこのピッチは水の約1000億(10の11乗)倍の粘度であることが計算されています。粘度が1000億倍と言われてもイメージしがたいかもしれませんが、マヨネーズの粘度は水の1万倍くらい、ピッチはその更に1千万倍、と考えるととてつもないねばり具合です。

というわけで、世界中が次の一滴が落ちる瞬間を今か今かと待ちわびているこの実験の模様はウェブカメラで中継されているので、ものすごく運が良い人は歴史的瞬間をリアルタイムで目撃できるかもしれません。2000年に滴が落ちた時もウェブカメラで中継されてはいたのですが、技術的トラブルで録画できなかったとのことです。実験中継のウェブカメラは以下から。

mms://drop.physics.uq.edu.au/PitchDropLive(Windows Media Player)

※静止画のように見えますが動画です

「世界最長の継続中の実験」としてギネスブックにも載っているこの「ピッチドロップ実験」ですが、漏斗の中のピッチの残量からあと100年は継続できると予測されているそうです。

・つづき
世界最長の実験「ピッチドロップ」の責任者が決定的瞬間を目撃することなく死去、これまでの流れのまとめ - GIGAZINE


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in メモ, Posted by darkhorse_log