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急速に進化し続けるテクノロジーは人間から仕事を奪ってしまうのか

By onir

マサチューセッツ工科大学スローンマネジメントスクールのErik Brynjolfsson教授および彼の共同執筆者であるAndrew McAfee氏は、近年全世界で問題になりつつある就業率低下の背景に、産業ロボット工学から自動翻訳サービスまで幅広い分野において進歩し続けるコンピューター技術があると主張しています。次々と新しくなるテクノロジーを受け入れる産業は、製造・小売り・事務業だけにとどまらず、金融・法律に関する業種や医療・教育などのサービスにおいても最新技術を積極的に採用しています。

How Technology Is Destroying Jobs | MIT Technology Review
http://www.technologyreview.com/featuredstory/515926/how-technology-is-destroying-jobs/

ロボットやオートメーション、ソフトウェアが労働者の代用となり得ることは、自動車製造や旅行代理店で勤務した経験のある人にとっては明白な事実かもしれません。Brynjolfsson教授とMcAfee氏は「急速に進化するテクノロジーは、新しい仕事を生み出すよりも早いスピードで破壊し、アメリカでの平均収入の低迷や格差社会の原因である」と主張。さらに、同様のことがテクノロジーの進化の著しい国で発生している恐れがあるとのことです。

By Wesley

Brynjolfsson教授の主張を裏付けているのは、経済学において経済の成長を示す上で重要な指標である「生産性」と「雇用」の関係を表す1つのチャート。チャートに記載されているグラフでは、第二次世界大戦後に生産性と雇用がたがいに呼応し合うかのように上昇しているのが示されています。この時期に経済界で起こっていたことは、ビジネスが労働者たちから価値を生み出し、国全体の経済が底上げされるとともに、新しい仕事を作り出していたのは明白。

グラフの生産性と雇用を表す2つの線は、2000年初頭から徐々に分岐し、生産性は上昇し続けますが、雇用は急速に成長をやめ低下し始めました。2011年までに生産性と雇用の間には大きなギャップが開いてしまい、雇用の創出は経済の成長と比例しないことはっきりとわかります。


Brynjolfsson教授は自信たっぷりに「生産性の上昇と雇用の低下はテクノロジーの進歩が原因である」と言い切ります。急速に進歩するテクノロジーに絶大なる信頼を置いている多くの経済学者を脅かすようなBrynjolfsson教授の主張はとても衝撃的です。

「テクノロジーは、生産性を押し上げて社会をより豊かにできますが、多くの職の必要性を排除し社会に悪影響を与えるダークサイドも持ち合わせている。生産性や新しい発明は歴史的に類を見ないスピードで増加しているのに、平均収入や雇用は低下している。テクノロジーの進化スピードが速すぎて、我々の技術や組織が追いつけないため人々は遅れをとっている」とのこと。

By JamesDPhotography

Brynjolfsson教授の主張を裏付けるような、デジタルテクノロジーが人々の職を奪っている事例は至る所で見られます。製造業では、ロボットや高度なオートメーションの使用が一般化しており、アメリカや中国における製造業の人口は1977年よりも少ないという事実が確認されています。無人自動車のGoogleカーは、オートメーションが近い将来どんなことを可能にするかを示唆しているかもしれません。

しかしながら本当の脅威は、テクノロジーが人間の代用となっている現場が製造業だけではなく、事務職などにも及んでいることです。郵便局やカスタマーサービスなどにおける事務系の仕事の定型作業は自動処理されてしまい、無くなってしまいました。McAfee氏は「私の主張が間違っていると思いたいが、もしSFの技術が全て現実のものになったら、人間は何に必要になるのか?」と疑問を投げています。

By Bill Lile

では、本当にテクノロジーの進化が雇用の低下の原因になっているのかと言うと、多くの労働経済学者が「決定的な証拠となるデータは不十分である」とBrynjolfsson教授の主張に対して否定的な態度をとっています。ハーバード大学労働経済学のRichard Freeman教授によると、社会に与えたマクロ経済学の影響からテクノロジーがもたらした影響だけを抜き取って計測することは困難であるため、雇用の低下の原因についてはっきりと分かっているのは誰一人いないとのこと。

またマサチューセッツ工科大学の経済学者であるDavid Autor氏も多くの経済学者と同じく、テクノロジーの進化と雇用の低下が相互関係にあることに対して懐疑的な姿勢。Autor氏は「雇用は2000年初頭に大きく低下しましたが、原因を知っている人はいません。雇用の低下とテクノロジーの進歩を結び付ける証拠も多く出てきてないのが実情です。しかし、テクノロジーの進化が仕事を変えていることは事実で、それは必ずしもいいことばかりではありません」と意見を述べています。

By Ars Electronica

1980年代から簿記や事務系に代表される、作業を繰り返し行う仕事をコンピューターが引き継ぎ、同時にクリエイティブであったり問題解決能力を伴う、高給の仕事は増加の傾向にあります。一方で、仕事の自動化が不可能であるレストランなどのサービス業への需要は増加。Autor氏によると、これらの結果が労働力の極性化や中間富裕層の空洞化をもたらしている、とのことです。起業家が新しいテクノロジーに基づいた機会を増加させて仕事の絶対数が上昇することは、長い人類の歴史から見ても、新技術が産まれた時のパターンになっているようです。

重要な点は、歴史で繰り返されてきたパターンにテクノロジーの進化が当てはまるかどうかです。1700年代に起こった産業革命は仕事の性質を変えてしまい、多くのタイプの職業をつぶしてしまいました。1900年にはアメリカの人口の41%が農業で働いていましたが、2000年には2%まで減少しています。農業と同様に生産業で働く人口も第2次世界大戦時はアメリカ人の30%を占めていましたが、2013年には10%まで落ち込んでおり、原因の1つはオートメーションであると言えます。

By World Bank Photo Collection

テクノロジーの進化が過去数世紀にわたって職業にもたらした影響について幅広く研究を重ねたハーバード大学の経済学者Lawrence Katz氏は「そもそも長い歴史の中で技術の進歩が雇用を奪ったパターンなどそもそも存在しない」と言及。

労働者が技術の進歩に合わせる形で、雇用の要求に沿ったスキルを調節するのに10年かかってしまっても、仕事がゼロにはならなかったとのこと。技術が進歩しても、人々は新しい仕事を生み出すことができ、技術に追いついてきました。しかしながらKatz氏は、テクノロジーが産業革命などとは異なる性質を秘めている可能性を捨て切れないようで、もしかすると今までの歴史の流れよりも広範囲に渡っていろいろなタイプの仕事に影響を与えるかも知れず、将来の雇用がどうなるかは誰も予想できないとのことです。

By Trina Alexander

雇用の将来を知るために、現在最新テクノロジーが一体どのような形で産業に組み込まれているのか見る必要性がありますが、機械によって労働者が仕事を失っているという証拠を見つけるのはとても困難。理由の1つは、オートメーション。機械は人間の仕事を奪ってしまいましたが、オートメーションは人間の仕事を効率的に進める目的で使用されているため、IBM Research機械が仕事を奪っている証拠にはならないとのこと。

生産性の増加は、ビジネスが少ない人員でも、多い場合と同量の仕事をこなせることを意味するだけではなく、少ない人員で生産を拡大し新市場への参入を可能にします。


2002年に創業し、2012年にAmazonによって7億7500万ドル(約750億円)で買収されたスタートアップ企業のKiva Systemsが開発したロボットは、広い倉庫に並べられた製品から注文された品物を取って作業員の元に運ぶことに最適化されています。Kivaのロボットを導入した工場は、通常の工場の4倍の量の注文を処理可能。しかしながら、Kivaの創設者でCEOのMick Mountz氏は「ロボットが従業員から仕事を奪い離職させたのではなく、将来もそういったことは起こらないだろう」と持論を展開しています。

Mountz氏の発言の理由は、Kivaの顧客のほとんどを占める電子商取引小売り業者が、会社の急激な成長を支えるために人員を確保していくことが難しくなっていた状況の中、Kivaの導入によって流通にかかるコストを抑えることに成功し、会社の規模を拡大できたから、とのことです。「ビジネスにおいてとても重要である流通にかかるコストを抑えることに、大きく力になれるのがオートメーションである」とMountz氏は言います。Kivaではロボットの販売好調に伴い、人員を増加していますが、そのほとんどがロボットのアルゴリズムを担当するソフトウェア・エンジニアです。


しかしながら、ロボットに命令を理解させ実行してもらうことは、特に倉庫やオフィスなど多くの制限をかけられない場所ではとても困難なことで、人間の力が必要となってくるそうです。人間と共に働いているという意味に1番あてはまるのはRethinkが開発したBaxterというロボット。Baxterは小規模の工場で使われることを想定して作られており、物を拾って箱に移動させるような、複雑ではなくシンプルなタスクを行うため、ロボットだけでは全ての作業を処理することはできません。

人間の仕事を補助するために設計されたロボットは、めんどくさかったり、向いていない仕事を人間の代わりに行っており、従業員の生産性を向上するのに貢献していると言えます。

しかしながら、事務業などの仕事は製造業が迎えている状況とは少し違うとのこと。なぜなら、コンピューターの人工知能と大量のデータが合わさることにより、機械は多くの問題を解決する人間のような能力を持ち始めているからです。

By Michael Shaheen

IBM Researchは医療や金融業などに、非常に優れた能力を持つコンピューター技術を導入しています。例えば、ガンのような疾病に対する医師の診断を補助したり、治療を施すコンピューター・システムはすでに実験段階に入っているとのこと。現在までに集計された大量のデータを分析、恐ろしい速度の計算能力で処理して、患者へのアドバイスを割り出すコンピューターの医師のようなことも視野に入れられていますが、医師が必要とする判断力をコンピューターに持たせるにはまだまだ時間がかかるとのことです。

By Shan Sheehan

Brynjolfsson教授およびMcAfee氏によると、新しいテクノロジーは全く先例がない方法で人間の技術を侵害しており、高度な技術が必要とされる医療や教育の現場で働く人が大きな影響を受けているとのこと。その影響から中間富裕層が激減し、格差社会を生み出すことになっています。

Brynjolfsson教授は、人々が分岐した生産性と雇用を元に戻すことができると信じている、と言います。しかしながら、経済にはダーティーな秘密が1つあり、テクノロジーの進歩が経済を成長させ、富を生みますが、法律で誰もが利益を得ると決められたわけではありません。言い換えれば、機械とのレースに勝つ人間がいる影で、多くの敗者がいるということです。

By Bob Jagendorf

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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