サイエンス

遺伝子組み換えによって「人間の母乳と同様の成分のミルクを生み出す雌牛」が開発される


乳児には母親の母乳か、それが難しければ粉ミルクを与えるのがこれまでの常識でしたが、そこに「牛から絞り出した母乳」という新たな選択肢が加わる可能性が浮上しています。

中国で行われた遺伝子組み換え実験により、牛乳ではなく母乳を絞り出すことのできる雌牛が開発されました。母乳に含まれている抗体や栄養素を含んだミルクを牛から搾ることができるとのことですが、その安全性について疑問視する声も上がっています。


「牛から搾る人間の母乳」の詳細は以下から。Scientists develop genetically modified cow that produces 'human' breast milk | Mail Online

ホルスタイン雌牛に人間の遺伝子を組み込み、クローン技術を駆使することで、人間の母乳と同じ成分、同じ脂肪分を含んだミルクを出す牛が開発されました。この発明によって、現在粉ミルクを使って育児をしている母親たちに、異なる選択肢が増えることとなるのかもしれません。

人間の母乳は、赤ちゃんの成長と免疫系に必要な栄養素が豊富に含まれているため、牛乳とは含有成分が異なります。仮に赤ちゃんが牛乳を飲んだとしても、消化するのがかなり難しく、しかも抗体を作り出す成分は入っていません。

しかし、このミルクには、通常牛乳には含まれないリゾチウムが含まれます。リゾチウムは人間の母乳に含まれ、赤ちゃんに抗体を作り、感染症から守る働きのある成分です。ほかにも免疫系の働きを高めるラクトフェリンや、母乳に含まれるα-ラクトアルブミンというタンパク質も、牛のミルクの中に含ませることに成功したとのこと。

今回、雌牛の遺伝子組み換えに関する研究を行った中国農業大学のProf Ning Li教授は、遺伝子組み換えの雌牛が生産する赤ちゃん用のミルクは、普通の牛乳と同程度の安全性が保証されているものだとしています。このミルクは普通の牛乳よりも濃い味がするとのことで、「10年以内には、このミルクがスーパーで手軽に買えるようになるでしょう」ともコメントしています。

しかし、乳児用のミルクに関する活動を行っているPatti Rundallさんは、「人間の健康は正しいルールの下に守られなくてはなりません。雌牛から搾り取られる母乳のようなものには、未知のリスクが潜んでいる可能性があります。そもそも、牛のミルクをどんなに調整しても、母乳にはならないでしょう」として、雌牛から母乳を生産する動きに真っ向から抗議し、この遺伝子組み替え牛に母乳の生産を肩代わりさせるような行為は、動物保護の観点から非常に問題があると主張しています。


ちなみに、2回の実験を経て、遺伝子組み換えによって42頭の子牛が生まれたのですが、生まれてすぐに10頭が、生後6ヶ月以内に6頭が死んだため、結果的にミルクを生産するまでに成長させられたのは26頭だったそうです。

英国学士院で動物保護のために活動しているスポークスマンは、クローン技術で動物を繁殖させることには健康福祉上大きな問題がつきまとうことと、そもそもなぜ牛から母乳を搾り取らなくてはならないのかという根本的な問いを投げかけています。

遺伝子組み換えに関する監視団体・GeneWatch UKに所属するHelen Wallaceさんは、この遺伝子組み換え牛による母乳代替ミルクについて、中国では遺伝子組み換え食品に関する基準が、イギリスなどのEU諸国よりも緩いため、大規模な臨床実験を行わない限り、安全性に大きな疑問が残ると指摘しています。

しかし、この実験には賛同者もいて、1996年にクローン技術で羊の「ドリー」を生み出したチームに所属していてた、ノッティンガム大学の生物学者であるKeith Campbell教授は、牛のミルクに有害物質が混ざる可能性のある遺伝子を組み込まなければ、牛から搾り取られる母乳についても危険はないと発言し、正しく作られた遺伝子組み換え食品は、よりよい製品を生み出すという点で消費者に大きな利益をもたらすとも付け加えています。

まだ開発段階のためさまざまな問題があるようですが、牛乳の成分を調整した粉ミルクではなく、あえて生体の牛の遺伝子を組み換えて人用のミルクを生み出すことにどれだけの価値があるのかは現段階では不明なので、今後の追加研究が待たれるところです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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