95%は水なのにサラサラに乾いたパウダー状の「ドライウォーター」
粉砂糖のような見た目でサラサラと乾いた粉末状の「Dry Water(ドライウォーター)」と呼ばれる物質が、二酸化炭素を吸収し貯蔵する新たな手段となり、地球温暖化対策の救世主となるかもしれません。
「ドライウォーター」とはその名が示唆するとおり、成分のほとんど(95%)が水であるにもかかわらず乾いた粉末状であるため、温暖化対策のほかにも、化学反応により作られるさまざまな工業製品の製造や、危険物の輸送や貯蔵など、多様な分野で革命を起こすと化学者たちは期待しています。
詳細は以下から。Dry water could make a big splash commercially
第240回アメリカ化学会で「ドライウォーター」について報告したBen Carter博士は、「このような物はほかには存在しません。うまくいけば、ドライウォーターは将来、さまざまな分野で革命を起こすでしょう」と語っています。
「ドライウォーター」は95%が水で、粉の一粒一粒は、水滴を変性シリカ(海の砂の成分)で包んだ構造となっています。通常は水滴と水滴が触れ合うと表面張力を崩してつながりあい、そうして大きくなった水滴同士がさらに合体し、大きなひとつながりの水となり、わたしたちがイメージするような「液体」の性質を持つようになりますが、「ドライウォーター」ではシリカのコーティングが、水滴同士が触れあい、くっつきあい、「液体」となるのを妨げているというわけです。粒子の細かいこの粉状の「水」は、さまざまな気体を吸着し、水と反応した水和物をつくることができます。
「ドライウォーター」の発見は1968年にまでさかのぼり、当時は化粧品産業での利用が期待され、注目されていました。その後2006年にイギリス・ハル大学の化学者らがその構造を研究したことで再注目され、リヴァプール大学のAndrew Cooper教授らが、さまざまな分野での利用の可能性を探りました。上述のCarter博士は、Cooper教授のもとで「ドライウォーター」について研究する研究員とのことです。
その新たに示唆された利用法の一つが、二酸化炭素などの気体の貯蔵にドライウォーターを使うというもの。実験室レベルでは、ドライウォーターは水とシリカを単に混ぜたものと比べ、同じ時間で3倍の体積の二酸化炭素を吸収することができるとわかっています。Cooper教授らはこの性質が地球温暖化対策に使えるのではないかと示唆しています。
また、ドライウォーターはメタンの貯蔵にも利用できることをCooper教授らは以前の研究で示しています。メタンは天然ガスの主成分で、ドライウォーターを天然ガスの採掘と輸送に使うほか、天然ガス車の燃料の安全で便利な保管法となることも期待されるそうです。「実用化に至るには、まださらなる研究が必要ですが」とCarter博士は補足しています。
そのほかにも、コハク酸を製造する際の水素ガスとマレイン酸の反応速度を速める触媒としても利用できることが示されています。食品や薬品、さまざまな工業製品の原料となるコハク酸の製造では、通常は水素とマレイン酸をかき混ぜることにより反応させますが、ドライウォーターの粒子にマレイン酸を含ませることで、かき混ぜることなく水素との反応を早めることができるとわかっています。「かき混ぜることなく反応させることができるというのは、かなりの省エネ効果が期待できます」とCarter博士は語っています。
さらに、液体の貯蔵、特にエマルション(マヨネーズのように、水と油などの通常は混ざらない液体2種以上を乳化させたもの)の貯蔵にドライウォーターの技術が応用できるそうです。Cooper教授らはエマルションをドライウォーターのように乾いた粉末状にすることにすでに成功していて、液体の危険物の、より安全で容易な輸送・貯蔵法としての実用化が期待されています。
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