コラム

AdSenseアカウントが理由もなく無効になった場合、Googleを訴えれば受け取っていないお金は取り戻せる


GoogleのAdSenseといえば、ブログなどに貼り付けることによってそのサイトのコンテンツにマッチする広告を配信し、誰かがクリックすればブロガーなどの収益になるということで非常に有名なものですが、一方でAmazonなどと比べると非常に審査などが厳しいのでも有名です。その厳しさは徹底しており、間違って自分のサイトのAdSenseを自分で誤クリックしただけでもアカウントが停止させられてしまい、未払いの収益はすべて没収されてしまいます。

これまで、Googleから一方的にAdSenseのアカウントを停止させられ、アカウントが復活しなかった場合、まだ受け取っていない収益は全部没収されてしまうというのが常識でしたが、ついにその常識を覆し、なんと裁判でGoogleを訴えて未受け取り分の収益を取り戻したケースが出てきました。これによって、万が一、これまでアカウントが失効してしまった人々全員が同じようにGoogleを訴えた場合、とんでもない金額に総額が達することになり、違う意味でGoogleに今までのツケが回ってきた形になっており、海外では非常に注目を集めています。当然、日本のAdSenseにも何らかの影響があると思われるので、知っておいて損はない内容となっています。


事の経緯は以下から。

~もくじ~
■事の発端は未使用ドメインへのトラフィック流入
■Googleに連絡しても自動返信ばかりで、Googleの中の人が返信してこない真の理由
■徹底的に無視し続けるGoogle、そして裁判へ
■Googleは莫大な額の負債を生む「停止アカウント」を今も抱えている
Aaron Greenspan: Why I Sued Google (and Won)

■事の発端は未使用ドメインへのトラフィック流入


訴えを起こして勝訴したのはThink Computer CorporationのCEOであるAaron Greenspan氏。そもそも最初はAdSenseではなく、Googleの検索結果などに広告を出す「AdWords」を2007年に利用しており、広告をいろいろと出してみたもののあまり成功しなかったそうです。

2008年3月、収益を増やすため、今度はAdWordsではなく「AdSense」を利用しようということになったわけですが、ここから問題が発生し始めます。新製品のために新しいドメイン名を登録し、そこにAdSenseを表示しておいたところ、予想外にたくさんのユーザーが新ドメインに流入し、大ヒット。GoogleにAdWords経由で払うお金よりも、AdSense経由でGoogleから得られる収益の方が多くなるかもしれない、と思うほどのレベルだったそうです。

しかしその淡い期待も2008年12月9日の午前11:00までの話でした。一体どこの誰ともわからないGoogleのAdSense担当者によって、「GoogleのAdWords広告主に対して重大な危険をもたらした」ということにされてしまい、AdSenseアカウントが警告無しに無効にされてしまったそうです。

※通常のAdSenseアカウントではGoogleから誰か担当者が付いたりはしないし、Googleから警告メールなどが来る際も、Googleの誰から送信されているのかはわからない仕組みになっています

この時点ではまだ721ドル(約6万9000円)の収益が未払いになっており、ログインしようとしても、

このログインのためのあなたのAdSenseアカウントは現在無効になっています。

私たちは、私たちがあなたのアカウント・ステータスに関してあなたに送ったかもしれないあらゆるメッセージがあるかどうか、あなたの電子メールアドレスをチェックすることを推奨します。

時々、私たちのメッセージは電子メールフィルターによって届いていないことがあります。ですから、必ず電子メールアカウントのバルク/スパム・フォルダーも同様にチェックしてください。

あなたのアカウントが不正なクリックによって無効になった場合は、無効になったアカウントに関するよくある質問を読んでください。


というような不親切なメッセージが表示されるのみだったとのこと。

■Googleに連絡しても自動返信ばかりで、Googleの中の人が返信してこない真の理由


広告主に対して「重大なリスク」をもたらしていたことを知り、Googleに対して一体何が起きたのかを質問する電子メールを送信したそうですが、自動返信メールが返って来るのみで何が起きたかの記録はわからずじまい。仕方ないのでAdSenseのサイトにある問い合わせフォームを使ったものの、結果は同じ、なしのつぶて。それどころか、こちらの問い合わせが届いたのかどうかさえ確認できないという有様。その際にはちゃんと不正行為は何も行っていないと言うことを証明するために何百ページにも及ぶログファイルも添付していたそうですが、一切何の返信も来なかったそうです。

※一般的には、急激にアクセスが増えたためにクリック数が増えてしまった場合に不正クリックと判断されるケースがあるわけですが、ログファイルを送信すると不正ではないことが証明され、アカウントが復活するケースが多いです。

仕方ないので、一企業の代表としてどのようなアクションでも求められれば応じるという姿勢を示すため、マウンテンビューにあるGoogleのコーポレートオフィスに何度か直接出向いてみたものの、Googleの受付係はAdSenseのカスタマーサービスに対して通話を転送することさえしてくれなかったそうです。

つまり、AdSenseには「カスタマーサービス」なんてものはなかったわけです。

当然、AdSenseのエンジニアにつなげてくれるわけもなく、Googleのプロダクトマネジャーにつながることもなく、Googleの幹部に会えるわけもない、と。かつてはGoogleの顧客としてAdWordsを経由してお金を払っていたにもかかわらず、そんなことは何の関係もなかったそうです。

より積極的なアプローチを試みるため、Googleの法務部なら話ができるかもしれないと考えたわけです。ところが、Googleの法務部が明らかに存在することがわかっているにもかかわらず、何度聞いても、法務部の誰とも話す許可は得られなかったそうです。

それどころか、AdSenseのアカウントが無効になった2日後、2008年12月11日にGoogleのAdSenseチームは「ドメイン向け AdSense」と呼ばれる新システムを導入するとAdSenseのブログで発表しました。今回停止された理由となったサイトはまさにこのような「ドメイン向け AdSense」に完全に合致するものであり、Googleがもしあと2日間だけでも待っていてくれれば、この新サービスである「ドメイン向け AdSense」を利用することによって何の問題も起きなかったわけです。なのに、Googleは新サービスに移行させる代わりにAdSenseアカウントを停止させたことになるため、Aaron Greenspan氏はもう一度激怒しました。

さらに彼はGoogleのコーポレートブログに書かれたAdSense従業員の電話番号に連絡してみたがやはりつながらなかったため、留守番電話にアカウントが無効になっていることについてのメッセージを残しました。さらに今度はわざとAdSenseではなく間違った部門であるAdWordsのカスタマーサポートに電話し、実際に人間が作業して助けてくれるのかどうかを確かめることにしました。これらの努力の結果、問い合わせフォームからの問い合わせがものすごい早さで拒絶されていることがわかり、さらにGoogleのAdWords従業員であるAdam C氏から電話によって信じられない回答を記録することにつながりました。

Aaron Greenspan氏の質問「なぜAdWordsのためには有人のサポートチームがあるのに、AdSenseにはないんだ?」

Googleの従業員であるAdam C氏の回答「知りませんよ」

質問「では、AdSenseのプロジェクトマネージャーはいるのか?」

回答「誰もいませんから、この電話は誰にも転送できません」


なんと、一般向けのAdSenseは電話で回答するようなサポートは本当に一切存在していない無人状態だったのです。

■徹底的に無視し続けるGoogle、そして裁判へ


しかしその際に法務部へ連絡できるメールアドレス「[email protected]」はゲットできたため、電子メールを送信したわけですが、返信は一切来なかった、とのこと。

ちなみにAaron Greenspan氏は「AdSense ヘルプ フォーラム」には既にこの件に関して投稿していたが返答はなく、さらにもう一度投稿してみたが誰からも返答はなかったとのこと。フォーラムでは肩書きが「AdSense Experts」と表示されているGoogleの社員が何人か回答していたため、プロフィールを見てみたが、何かクレヨンで描いたようなプロフィール画像が表示されるだけで一切連絡先などは書いていなかったとのこと。

Aaron Greenspan氏は先ほどのGoogleのAdWords従業員であるAdam C氏に再度電話したがらちが明かず、ついに2009年1月15日、パロアルトのサンタクララ郡庁舎へ行き、形式SC-100を使用して、721ドルの民事の少額請求裁判所訴訟を起こしました。裁判所からの召喚状を郵送するための法廷費用として必要な40ドルについてはAaron Greenspan氏がすべて用意し、審問は2009年3月2日に予定されました。小額裁判所では弁護士を雇うことが許されないので、Googleは弁護士の代わりにStephanie Milani訴訟法律家補助員(女性)を派遣しました。

最後の和解を促す短い期間が用意されており、その際に彼女はAaron Greenspan氏に対して「破滅に値する間違ったことをしたわね」と言ったそうです。そして、

「Googleはどのような理由であってもあなたのアカウントを停止することができます」

と彼女は言ったので、Aaron Greenspan氏は、

「どのような理由であっても、だと?そんなことがあるものか、オレの目が青かったり茶色かったりするのが『どのような理由であっても』になるわけがないだろう」

と言い放ち、話は平行線をたどったため、もはやこれ以上話し合って和解して解決することはないことが判明、お互いに用意した書類を交換し、両者とも法廷に戻ったそうです。

その日の臨時の裁判官の前で議論が始まり、Aaron Greenspan氏は、彼の企業が契約の終了に相当するような間違ったことは何もしていないことを指摘、Googleはどのような悪事も証明することができず、Googleの不正行為検知アルゴリズムは不完全で、AdWordsの広告主達はAdWordsの規約の一部によってリスクがあることには既に合意しており、Aaron Greenspan氏の主張に反論するのは困難を極めました。もちろん、Googleが収益を支払わずに所有し続ける、つまり彼の金を「借りっぱなし」になっていることについても。

※Googleが支払っていない収益はGoogleにとって負債扱いとなります

事実、「重大なリスクをもたらす」ということで莫大な利益を上げ始めたAdSenseアカウントを停止するということは、Googleにとって将来の負債をカットするすばらしい方法であるわけです。

これらの説明に対し、裁判官から質問が出てきました。

「あなたのアカウントを停止するために、Googleがあなたに伝えた理由は何でしたか?」

「広告主に重大なリスクを与えたということ以上の理由は何も伝えられませんでした。私は何も知りません」

そしてなんと、Googleの代理として来た彼女もまた、それ以上の理由は何も知らなかったのです。

しかし、彼女は広告主が返済を求めていなかったとしても、既に721ドルは広告主に払い戻されていると主張しました。また、彼女はGoogleがどのような理由によっても、あるいは何の理由が無くても、アカウントを停止することがあると主張し、Aaron Greenspan氏はAdSenseに申し込む際にその規約に同意したはずだと言いました。さらに彼女はAaron Greenspan氏が規約違反を行っていることを認めており、そのことは問い合わせフォーム経由で送った内容によって証明されているとしました。すなわち、今回問題となったサイトはドメイン名しか存在せず、そのドメイン名のサイトには何も中身がなかった、と。

事実、AdSenseの規約にある条項6によると「Google は、その独占的裁量で、いかなる場合でも理由の如何を問わず、本プログラムの全部または一部、あるいは本契約を終了し、どの本件プロパティについても本プログ ラムの全部または一部への参加を中止あるいは終了することができます。」と書いてあるものの、これは英語では「any reason」と書いてあり、「no reason」ではありません。つまり、どのような理由によってもアカウントを停止することはできるが、理由にならない理由によってアカウントを停止することはできない、とGoogleが自分で言っているわけです。

そのため、Aaron Greenspan氏は彼女に向かって、

「私の目の色を理由として私のアカウントを終了することはできないわけだ。私は目が茶色だ。だが、それを理由として、私のアカウントを終了することはできないということだぞ」

と主張しました。彼女はそれでもなお繰り返し同じ主張を述べたものの、裁判官によって却下されてしまいました。裁判官は、

「私はここパロアルトの小額裁判所で、Googleに彼のアカウントを復活させるだけの権限は持っていないが、Googleは彼に721ドルを支払う必要があると思う。Googleはそれぐらいの金額は支払えるはずだ」

と最終的に結論を出しました。

■Googleは莫大な額の負債を生む「停止アカウント」を今も抱えている


結局、721ドルに裁判費用の40ドルを加えた761ドルをGoogleがAaron Greenspan氏に支払うという判決が下されました。しかし、

「これは公平な判決ではない!」

とGoogleの代理人である彼女は抗議しました。

「万が一、AdSenseアカウントを取り消されたすべての人々がGoogleを訴えたら、どうするのよ?!」

つまり、「無効になったアカウントに関するよくある質問 - AdSense ヘルプ」の中にある以下の記述は絶対ではない、ということです。

利用規約に基づき、無効なクリック行為が原因でアカウントが無効となったサイト運営者様にお支払いは行われません。 アカウントの収益は、影響を受けた広告主に返金されます。

もしも自分が何のミスもしていないにもかかわらず、一方的にアカウントが停止させられてしまったとしても、自分に一切何も原因がないのであれば、少なくとも未払い分の収益は取り戻せる、ということです。

そう、いくらGoogleが「規約にはこう書いてあるからお前の主張は無効だ」と主張しても、それはただのGoogleの勝手な言い分であって、裁判などの出るところに出れば、たとえGoogleであっても、理不尽なことを主張すれば、負けるときは負ける、ということです。

当たり前ですが、Googleが勝手に決めたルールや規約は、決して「法律」ではないのです。そのことをいつも忘れないようにしたいものです。

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in メモ,   ネットサービス,   コラム, Posted by darkhorse

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