ハードウェア

AppleのCPUアーキテクチャを巡る歴史


2023年10月31日、AppleがArmアーキテクチャを採用した第3世代のAppleシリコン「M3」を発表しました。AppleはCPUをIntel製から自社製へと変えて大きく躍進を遂げましたが、CPUを変えるに当たりさまざまな障壁に当たることもしばしばでした。こうしたAppleのCPUの歴史について、エンジニアのジェイコブ・バートレット氏が解説しています。

Through the Ages: Apple CPU Architecture
https://jacobbartlett.substack.com/p/through-the-ages-apple-cpu-architecture

1984年のMac発売以来、AppleはCPUアーキテクチャを3回移行しています。バートレット氏いわく、これは「容易なことではない」とのこと。AppleのCPUの歴史は、初代Mac、1984年の「Apple Macintosh」から始まります。

当時とんでもなく高い価格で販売されたAppleのPC「Lisa」を追い越すべく、Appleのスティーブ・ジョブズらの下で新しいPCの開発が始まっていました。ジョブズは後にMacとして世に出ることになるPCに、当時最先端のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を導入し、同じく最先端のハードウェアを搭載できるよう、条件に合致する製品を探すようチームに求めました。

by Gabriel Saldana

1980年代初頭、条件に合う最新の16ビットプロセッサ・アーキテクチャは「Intel 8088」「Zilog Z8000」「Motorola 68k」の3つでした。

ローエンドの「Intel 8088」はIBMにより採用されていたため、十分なソフトウェアのエコシステムがありました。ミッドレンジの「Zilog Z8000」は、競合製品がほとんどなく、ソフトウェア・エコシステムは最小限。ハイエンドの「Motorola 68k」はアタリとコモドールによって採用されていて、既存の開発エコシステムがいくらかはある状態。ここでAppleは、「Lisa」などを通じてサプライヤー関係にあったMotorolaのアーキテクチャ「Motorola 68k」を採用しました。


「Motorola 68k」にはエコシステムと互換性の弱さがつきまとったものの、これは当時競合相手だったIBMに対して差別化を図るために必要な犠牲でした。さらに、当時多くの競合CPUでは命令が特定のレジスタに限定されていたのに対し、「Motorola 68k」はCPU演算がほぼすべてのレジスタで実行可能でした。これは、発展途上のソフトウェア・エコシステムを育てるのに理想的な構成だったそうです。

1990年代、MicrosoftがIntelとパートナーシップを結び、WindowsとIntel CPUの事業でほぼ市場を独占。Intelは強力なx86チップ・アーキテクチャを一貫して改良してきただけでなく、トランジスタ以来の大革新を成し遂げていて、1993年から発売されたIntelのプロセッサ「Pentium」はMicrosoftの市場シェア向上に一役買っていました。

by Marcin Wichary

Intelは100MHzのクロックスピードと比類のない電力効率で覇権を握り、Macを90年代まで支えた「Motorola 68k」ファミリーを置き去りにしていたとのこと。コンピューターの世界が独占の脅威にさらされる中、Appleは長年のパートナーであるMotorolaに加え、かつての競争相手だったIBMと手を組みました。これがAIM(Apple、IBM、Motorola)連合の誕生でした。

AIMの3社は、Intelに対抗できると思われる唯一の道筋「x86アーキテクチャはCISCアーキテクチャを利用するという弱点」に目を付けます。

チップの設計思想には、CISC(複雑命令セットコンピュータ)とRISC(縮小命令セットコンピュータ)の2種類があります。

CPUは回路の物理的な制約を受けながら限られた数の異なるオペレーションを実行することができるのですが、CISCは複雑な命令セットを受け入れる反面、何か問題が発生すると壊滅的な性能低下を招くという弱点があり、一方のRISCはよりシンプルで少ない数の命令セットを処理することでパフォーマンスの向上を図っています。

CISCの大きな落とし穴は開発者にとっての複雑さで、CISCアーキテクチャに携わるエンジニアは、必要な命令を見つけるために500ページもあるマニュアルを参照しなければならなかったとのこと。Appleと各社はRISCの道を切り開くために開発を進め、最初のRISCアーキテクチャを採用したプロセッサ「PowerPC」を誕生させました。

by Koavf

PowerPCはインテルx86アーキテクチャに直接対抗するために作られたプロセッサで、より優れた効率性、つまり電力1ワットあたりのCPU演算数の増加が測られていました。Appleはソフトウェアとハードウェアの両方の開発に携わっていたため、自社のOSを新しいPowerPCに最適化することを進めていきます。

ただ、PowerPCに完全に移行するにはいくつかの計画が必要でした。そこでAppleが練った計画が「PowerPCがMotorolaのCPUをエミュレートできるようにするエミュレータの開発」と「移行期のソフトウェアにファットバイナリを使うこと」でした。これにより開発者はMotorola 68kとPowerPCの両アーキテクチャ用にコンパイルされたコードを含められるようになり、両プラットフォームで動作する1つのアプリケーションを出荷することが可能になったのです。

全体としてAppleの移行は成功し、Motorola 68kからPowerPCへ移行することでPCに大幅なパフォーマンス向上をもたらしました。一方その頃、WindowsとIntelはもはや手が付けられないほどに拡大していて、Windows搭載PCが当たり前のように普及する世界へと変貌を遂げていました。


ジョブズがAppleのCEOに就任した2000年当時、デバイスの小型化が進むにつれ、バッテリーがボトルネックになりつつありました。ワットあたりのパフォーマンスが重視される中、PowerPCは、Intel x86に遅れをとっていました。

2000年代初頭のPowerPC CPUは、ジョブズが思い描いていた超薄型のMacBook Airを実現するには消費電力と発熱が大きすぎました。売上の50%以上をラップトップコンピュータから得ていたAppleが競争に打ち勝つためには、いよいよIntelに乗り換える必要があったのです。

2005年、AppleがIntel製CPUへ移行することを発表し、それから数年に及ぶスケジュールを立てて移行を進めていきました。ただ、CPUをIntelに依存した結果、Intelの供給制約やリリースの遅れの影響を大きく受け、Appleのロードマップに影響が出ることもあったそうです。

優秀ながら供給の制約があるIntel製CPU、ここからの脱却を図るべく、Appleは着々と準備を進めていました。2008年、Appleはハイエンドの低消費電力プロセッサーで知られるCPU設計会社、P.A.セミコンダクターを買収します。P.A.のCPUはもともとIBMのPowerアーキテクチャをベースにしており、AIM連合がPowerPC Macで使用している命令セットとまったく同じものでした。この買収により、Appleは独自チップ設計を秘密裏に行うことができるようになりました。

Appleのエンジニアたちは、iPhoneとiPadに搭載されているArmチップの設計と改良を何年も続け、大きな懸念事項だった消費電力と熱効率をRISCアーキテクチャを採用することで改良しようと試みていました。


そして2020年、ついにAppleは3度目のMac CPUアーキテクチャの大転換を発表し「M1」という自社製チップを華々しく登場させます。M1はAppleシリコンの「Mファミリー」の最初のモデルでMacラップトップとデスクトップ用のカスタムハードウェアという位置づけでした。

M1はシステムオンチップ(SoC)、つまり標準的なデスクトップPCとは異なるハードウェア構築のアプローチであり、マザーボード上にコンポーネントを搭載する代わりに、1つのコンポーネントに必要なものをすべて統合するというものになります。このアプローチは、スペースに制約のあるモバイルデバイスに適しています。

M1に始まり、M2、M3と続いたAppleシリコンについて、バートレット氏は「低消費電力ながら驚くべきパフォーマンスを発揮する」と評価しました。

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by log1p_kr

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