サイエンス

投与ミスで高い効果を発揮した新型コロナワクチンなど「偶然見つかった医学的発見」5選


イギリスのオックスフォード大学と大手製薬会社・アストラゼネカが開発した新型コロナウイルスワクチン「ChAdOx 1 nCoV-2019」は、臨床試験で「有効率62%」とやや控えめな結果が出ましたが、別の試験では「有効率90%」と非常に有望なデータも得られました。この有望な結果につながったとある「偶然」を含め、ケガの功名や偶然から人類史に残る発見につながった逸話をランカスター大学臨床解剖学学習センターのアダム・テイラー所長が5つにまとめています。

Five serendipitous medical discoveries – starting with the Oxford vaccine dose
https://theconversation.com/five-serendipitous-medical-discoveries-starting-with-the-oxford-vaccine-dose-150768

◆1:投与ミスにより効果が向上した新型コロナウイルスワクチン
オックスフォード大学らが開発した新型コロナウイルスワクチン「ChAdOx 1 nCoV-2019」の第III相臨床試験は、イギリス・ブラジル・南アフリカで行われました。この試験は、2種類の投与計画に沿って実施され、規定量を2回投与したグループでは「有効率62%」、最初に規定量の半分を投与し2回目に全量を投与した別のグループでは「有効率90%」という結果でした。これを受けてオックスフォード大学は、「ワクチンの有効率は平均して70%だった」と発表しました。

オックスフォード大学とアストラゼネカ開発の新型コロナワクチンが高い有効性を示したという報告 - GIGAZINE


このニュースに対し、多くの科学者や医療関係者が「一体なぜ投与方法を2種類に分けたのか?」と頭をひねりましたが、実は規定量の半分の投与は「単なる手違い」だったとのこと。なお、1回目の投与量が規定の半分だったグループは、2回とも全量が投与されたグループに比べて、有効率が高かっただけでなく副作用も軽かったそうです。

◆2:ペニシリン
「20世紀における偉大な発見」の1つに数えられる抗生物質のペニシリンも、実は偶然の産物です。イギリスの細菌学者であるアレクサンダー・フレミングは、1928年にペニシリンを発見した際、黄色ブドウ球菌を培養する実験を開始してから旅行に出かけました。


休暇明けに実験室に戻ったフレミングは、菌を培養するためのシャーレの1つにアオカビが生えており、その周囲では菌が全く繁殖していないのを発見。カビを培養して得られた抗生物質を、アオカビの学名から「ペニシリン」と名付けました。

なお、フレミングはペニシリン以外にも、細菌を塗布したシャーレに偶然クシャミがかかってしまったのをきっかけとして、だ液中に含まれる殺菌酵素・リゾチームを発見しています。

◆3:人類史上初となる病気の原因菌の発見
ペニシリンは菌を培養する実験で偶然見つかったものですが、「菌を培養する方法」も偶然の発見から生まれました。ドイツの医師であるロベルト・コッホが菌を純粋培養する手法を確立させる前は、研究者たちは肉汁などの液体を用いて菌を培養していました。しかし、この方法ではさまざまな菌がドロドロに混じって繁殖してしまうので、特定の菌だけを培養して研究材料にするのは困難でした。

そんな中、コッホは1872年にジャガイモの切り口にカビが生えているのを見て、「固形の培地を使えば菌のコロニーができるので、分離も簡単になる」と思いつきます。そこで、コッホは培養液をゼラチンで固めて培地を作り、単離した菌を動物に投与する実験で炭そ症の病原体を特定しました。その病原体が、人類が最初に病気と関係があることを証明した菌である炭そ菌です。


その後コッホは、結核菌コレラ菌を次々と発見し、ルイ・パスツールとともに「近代細菌学の開祖」と呼ばれています。

◆4:X線の発見
X線を用いたX線撮影は、発見者であるヴィルヘルム・レントゲンの名前にちなんで「レントゲン撮影」とも呼ばれています。ある時、陰極線の研究をしていたレントゲンは、装置から厚紙を貫通する謎の光線が出ていることに気づき、光線の起源が不明なことから「X線」と名付けました。これが、後に人体の内部や手荷物の中身を外から透視できるX線撮影の元となりました。

以下は、レントゲンがX線を用いて撮影した妻アンナ・バーサ・ルドウィックの左手です。指の骨の関節や、薬指にはめている指輪が映ってるのが見てとれます。


◆5:胃潰瘍を引き起こす菌の発見
かつて、胃潰瘍は刺激が強い飲食物やストレスが原因と考えられていました。しかし、テイラー氏によると、これらの要因は胃潰瘍を悪化させることはあっても、胃潰瘍を引き起こすわけではないとのこと。そんな胃潰瘍を引き起こすヘリコバクター・ピロリ菌を発見したのは、オーストラリアの微生物学者であるバリー・マーシャル氏とロビン・ウォレン氏です。

1982年に、さまざまな胃腸障害を持つ患者の胃の内容物を研究していたマーシャル氏らは、実験中に復活祭を迎えたため胃の内容物を培養していた装置を研究室に放置しました。この時、偶然にも実験装置が通常の培養期間より長期間放置されたことが、普通の菌より生育が遅いヘリコバクター・ピロリ菌の特定につながりました。


こうして胃潰瘍の原因菌であるヘリコバクター・ピロリ菌を見つけたマーシャル氏らですが、「強酸で満たされている胃袋で微生物が繁殖できるわけがない」との考えが一般的だった当時の医学界には認められませんでした。しかも、ヘリコバクター・ピロリ菌は霊長類にしか影響を与えないため、マウスで実験しても因果関係を証明することはできませんでした。

そこでマーシャル氏は、胃潰瘍の患者から取り出して培養したヘリコバクター・ピロリ菌を自ら飲み込み、自分の体で人体実験を行いました。その結果、マーシャル氏は見事に胃潰瘍を発症し、胃潰瘍の原因がヘリコバクター・ピロリ菌であることを証明することができました。自らの体さえ顧みない研究の功績により、マーシャル氏とウォレン氏は2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
コロナウイルスに対する抗体を生み出すワクチンをオックスフォード大学が開発、免疫獲得率100%で深刻な副作用も見られず - GIGAZINE

オックスフォード大学とアストラゼネカ開発の新型コロナワクチンが高い有効性を示したという報告 - GIGAZINE

新種のリンゴが偶然見つかる - GIGAZINE

10歳の少年が古の剣を金属探知機で発見 - GIGAZINE

1万3000年前の彫刻がゴミの山から偶然発見される - GIGAZINE

現代社会を作り上げた「5つの偉大な化学的発明」とは? - GIGAZINE

アポロ計画が生み出した「4つの革新的技術」とは? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.