現代社会を作り上げた「5つの偉大な化学的発明」とは?
by JD Hancock
車や飛行機、テレビに携帯電話といった工学的な発明と比較して、化学的な発明は直接発明品が世に出回ることが少ないため、重要性の割には見落とされがちです。そんな「現代社会を作り上げた5つの重要な科学的発明」について、王立化学会が発表しています。
Five chemistry inventions that enabled the modern world
https://theconversation.com/five-chemistry-inventions-that-enabled-the-modern-world-42452
◆1:ペニシリン
世界初の抗生物質であるペニシリンは、1928年にイギリスのアレクサンダー・フレミング博士によって発見されました。肺炎や咽頭炎といったさまざまな病気の治療に使われるペニシリンは、ペトリ皿で繁殖したカビが付近の細菌の生育を阻止していることに、偶然フレミング氏が気づいたことで発見されました。
フレミング博士はアオカビの培養液にペニシリンが含まれていること自体は発見できたものの、アオカビからペニシリンを抽出することには失敗。フレミング博士がペニシリンの抽出を断念してから10年後の1939年、オーストラリアの薬学者であるハワード・フローリー博士の研究チームがペニシリンの抽出に成功しました。当時は第二次世界大戦が勃発した影響で実験機器が不足しており、フローリー氏らはバスタブやミルク缶といったものをつぎはぎして実験装置を作り、ペニシリンの抽出実験を行ったそうです。
by Rajitha Ranasinghe
◆2:ハーバー・ボッシュ法
大気中で最も一般的な気体である窒素は生物の生育に大きな役割を果たしていますが、窒素分子は非常に安定した分子であることから他の物質と反応しにくいため、植物や動物は大気から窒素を抽出して利用することができませんでした。
1910年、フリッツ・ハーバー博士とカール・ボッシュ博士が大気中の窒素と水素を反応させ、アンモニアを作り出すハーバー・ボッシュ法を発明。これにより、大気中の窒素を利用した窒素肥料が農業に使用できるようになりました。現在私たちの体内にある窒素の80%は、ハーバー・ボッシュ法によって生産されたものであり、ハーバー・ボッシュ法の確立は20世紀前半から21世紀にかけての人口爆発に大きく寄与しました。
by ILO in Asia and the Pacific
◆3:ポリエチレン
ポリエチレンは水道管から食品の包装、ヘルメットに至るまで私たちの身近にある多くの製品の原料であり、ポリエチレンを原料とする製品の生産量は毎年8000万トンにもなります。ポリエチレンを最初に発見したのはドイツの化学者であるハンス・ヴォン・ペヒマン博士ですが、ペヒマン氏はもともとポリエチレンとは全く関係のない別の物質について研究していました。1898年、ペヒマン氏は実験に使用した管の底にワックス状の物質がこびりついていることを発見し、非常に長い分子鎖で構成されるその物質をポリエチレンと名付けました。
ペヒマン氏の発見から30年以上が経過した1933年、イギリスの化学会社であるインペリアル・ケミカル・インダストリーズ(ICI)の化学者が高圧反応に関する実験を行っている最中、ペヒマンと同じワックス状の物質が偶然作られていることに気づきました。化学者は実験器具の中で酸素が漏れていたことに気づき、2年後にICIは酸素を用いたポリエチレンの工業生産を開始したのです。
by Feggy Art
◆4:経口避妊薬とホルモン剤
1930年代、医師たちは月経障害や避妊のために使用可能なホルモン療法の可能性に気づいており、安価な方法でホルモンを合成する手法を探していました。ペンシルベニア州立大学のラッセル・マーカー博士は、ステロイドホルモンの一種であるプロゲステロンを安価で大量に合成することに成功。マーカー氏はメキシコに生えるヤムイモの根からプロゲステロンを高確率で合成する方法を開発し、プロゲステロンを主成分とする「経口避妊薬の元祖」とも呼ばれています。
by Surija / "Sray"
◆5:液晶ディスプレイ
PCやスマーフォンの画面にも利用されている液晶ディスプレイの歴史は、なんと1960年代にまでさかのぼります。1960年代後半、イギリス国防省は軍用車両に搭載するディスプレイを、高価でかさばるブラウン管から平面なスクリーンに切り替えようとしました。当時から液晶ディスプレイそのものの理論は開発されていましたが、高温状態でしか作動しないことが大きな障害となっていたとのこと。
常温で液晶ディスプレイを機能させる方法を模索していたイギリス国防省は、1970年にハル大学のジョージ・グレイ博士に研究を依頼し、グレイ氏は安定した液晶材料(5CB)を開発しました。1970年代後半から1980年代にかけて生産された液晶ディスプレイの90%に5CBが使用されており、液晶ディスプレイは電卓や時計といった安価な製品にも使用されるようになりました。
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