Amazonが支配しようとしているのはオンライン通販ではなく商取引全体のインフラである


2016年のアメリカ国内のネット通販の売上の半分近くをAmazon.comが占めたことが明らかになりました。オンライン通販で一強の存在になりつつあるAmazonは、今後5年以内にオンライン通販における全取引の3分の2を支配するという予測もあります。しかし、Amazonが本当に狙っているのはオンラインの販売ではなく、オンライン・オフラインの垣根を超えたすべての取引を支配すること、経済インフラを支配することであり、ジェフ・ベゾスCEOは着々と帝国による支配のシナリオを実行しているとMotherboardが指摘しています。

Amazon Is Trying to Control the Underlying Infrastructure of Our Economy - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/7xpgvx/amazons-is-trying-to-control-the-underlying-infrastructure-of-our-economy

2015年当時、インターネットで商品を注文しようとする人は、商品をGoogleなどの検索エンジンで検索して、店舗間を比較して目当ての商品を注文していました。しかし、2017年現在、多くの人は検索することなくAmazonを訪れて、Amazon内で商品を物色しています。有料会員のPrimeメンバーはもちろん、有料会員でない人も、Amazonで商品を検索すれば、書籍や電化製品、日用品や生鮮食品に至るまでありとあらゆる商品を手に入れることができるため、わざわざ個別のストアを比較するという手間をかけないというわけです。

Amazonは商品を自ら販売するだけでなく、「商品を販売する場」をも提供しています。商品検索ではAmazonが直接在庫を抱えて販売する商品もAmazonに手数料を支払って他社が販売する商品も区別なく表示されており、ユーザーは特に意識することなく商品を選ぶことが可能です。これにより、Amazonの品揃えは他の通販サイトとは比較にならないほど充実したものになり、「Amazonだけを調べれば事足りる」というユーザーにとっての利便性はますます高まっています。


オンラインで商品を買う場合にAmazonだけで調べるという消費者が増えると、商品をオンラインで売ろうとする店は、自らオンライン通販サイトを構築したり、他のオンライン通販サイトに登録したりするのではなく、Amazonに出店するのが手っ取り早いということになります。このため、多くの小売業者が、商品を直接消費者に届けるという考えを捨て、Amazon経由で商品を売るようになり、Amazonへの依存を高めています。

しかし、この依存構造には大きな落とし穴があるとMotherboardは指摘します。それは、Amazonで商品を売る以上、「何がどれくらい売れるのか?」という商取引の情報をすべてAmazonに提供するということです。端的に言えば、Amazonは売れ筋商品を簡単に知ることができる優先的な立場にあるということです。そして、この貴重なデータをAmazonに提供することで、Amazonはその業者を弱体化させることができます。ある調査によると、売れ筋の商品を理解したAmazonが、自らが販売業者としてその売れ筋商品を売るようになるまで数週間しかかからないとのこと。数週間の好調な売れ行きの後、大量の在庫をAmazonが用意するとともに売れ行きは横取りされることもあります。

さらには、最もよく売れる商品で利益率の高いものの場合、Amazonは商品を自ら開発してAmazonブランドをつけて売ることもあります。充電式のリチウムイオン電池などのAmazonブランド商品は、かつては他のメーカーがAmazonサイトで売りまくっていた商品だったというわけです。


直接販売をするチャンネルと提供する「売り場」で商品を販売させるというチャンネルの2つのプラットフォームを持つAmazonは、他の小売店の利益をのきなみ横取りするという大きな武器を与えつつあります。先日、AmazonはスポーツメーカーのNikeとのパートナーシップを締結する予定であると報じられました。Amazonサイトでも人気のあるNike商品をめぐっては偽物品の出品が絶えず、Nikeは頭を悩ませています。そこでAmazonは、Nikeがすべての商品をAmazonサイトで売ること、定価から割り引いた競争力のある価格にすることを条件に、Amazonで出品されている偽物を閉め出すことを約束したのこと。このパートナーシップによってNikeはこれまで小売店任せだった販売を、Amazon経由で自ら直接販売することができるようになり、他の小売店はAmazonと直接の戦いを強いられることになると予想されています。Nikeとの提携のように、小売店が販売している商品をメーカーと直接交渉してAmazonが奪っていくことは、他の商品、特にブランド品で今後増えるという予想もあります。


しかし、Amazonがオンライン販売にとどまる気がないことは、書籍を販売するリアル店舗のオープンや、「Amazon Go」という画期的なレジレス決済スーパーの構想や高級スーパーマーケットWhoke Foodsの買収から明らかです。オンラインよりもはるかに規模の大きなオフライン(実店舗)を支配することは、オンラインを制したAmazonにとってごく自然な道です。

Amazonのこの動きを投資家も歓迎しています。137億ドル(約1兆5000億円)というAmazonの保有する現金の半分をWhole Foods買収につぎ込むと報道されましたが、株式市場は「Amazonは買い」と判断し、Amazon株は報道を境に急上昇。なんと、Whole Foods買収報道によってAmazon株の時価総額は買収に必要な金額とほぼ同等の1兆5000億円程度、増加したとのこと。

AmazonがWhole Foodsを買収することは、Amazonが実店舗での商取引(オフラインショッピング)でも顧客を監視できるようになることを意味します。また、Whole Foodsはすでに高級食品を自宅まで配達するサービスを行っていることから、Amazonが構築しているPrime会員向けの配達網を活用することで、販売規模を拡大することが見込まれています。AmazonがWhole Foodsを足がかりにして、オフラインでの販売を増加させることは、ひいてはUPSやFedExなどの配達業者を弱体化して他のオンライン販売業者にダメージを与えるという点で見れば、オンライン販売でもメリットになるとMotherboardは指摘しています。UPSやFedExが弱体化すれば、オンライン販売をする小売店は、Amazonに商品を引き渡してAmazonの箱庭で商売をすることになるというわけです。


なお、Whole Foods買収について、Motherboardは自由競争を阻害する独占を禁じる連邦法(反トラスト法)の適用がされるべき案件だと考えています。現行の連法制下では、Whole Foods自体がスーパーマーケット事業で独占的な地位にあるわけではなく、また買収するAmazonもあくまでオンライン通販の巨人であることから、AmazonがWhole Foodsを買収することは独占禁止法で連邦政府の承認が必要な要件を満たさないとのこと。しかし、オンラインショッピングとオフラインショッピングとの境界があいまいになりつつある流動的な世界へ急速に移行している現代では、商取引の多くがデジタル的に行われていることに鑑みれば、オフラインは「アナログ取引、オンラインはデジタル取引」として形式的に分けることで、独占的な地位を手に入れるAmazonの行為を見過ごしてしまうというわけです。

ベゾスCEO率いるAmazonは、オフライン・オンラインを問わず、Amazonを商取引にかかせない「経済的なインフラ」にすることで、すべての商取引の完全制圧を狙っています。MotherboardによるとAmazonは消費者の選択肢をコントロールするという強大なパワーを持つ企業であり、このような強大な企業はかつて存在した例がないとのこと。しかし、Amazon EchoでAlexaに電池を注文すればAmazonブランドの乾電池が届き、Kindleのベストセラーを見ればAmazonが出版する書籍が多く表示され、購入履歴をたくみに活用して「オススメ」を提案してくるAmazonの行動を見てみると、たとえそれが最良の選択ではない場合でも消費者は他の選択肢に触れることなく取引に応じることがあり得そうです。「最終的には消費者自身にとって不利益になるかもしれない」という事実を気づかせることなくAmazon利用者に居心地の良い購買体験を提供することで、Amazonは着々と商取引の完全支配に向かっているのかもしれません。

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