取材

GT-Rの魂「RB26エンジン」を6分の1スケールで精巧に再現する「日下エンジニアリング」の工房に潜入取材


日産のスポーツカー「スカイラインGT-R」シリーズは数々の伝説を残してきた日本が誇る名車の1つであり、日本だけでなく世界中に多くのファンが存在するクルマです。そんなGT-Rの魂ともいえるのが歴代モデルで受け継がれてきた直列6気筒エンジンで、いわゆる「ハコスカ」や「ケンメリ」と呼ばれるモデルに搭載された「S20」型エンジンと、1989年に復活を遂げた「R32 GT-R」以降に搭載されていた「RB26DETT」型エンジンは、GT-Rを語るうえで欠かせない存在です。

ある日、そんなGT-Rのエンジンを6分の1スケールで精密に再現するメーカー「日下(くさか)エンジニアリング」が鳥取県にあるというウワサを入手。実物を見るべく工房を訪れると、そのこだわりに圧倒されることとなりました。

日下エンジニアリング Modeling事業部 1:6 エンジンモデル
http://kusaka-eng.com/engine/

日下エンジニアリングのある、鳥取県米子市にやって来ました。写真の左側には同社が入る建物が写っているのですが、その向こうには中国地方の最高峰「大山(だいせん)」がそびえています。


今回訪れたのは、鳥取県米子市日下にある鳥取県の地方独立行政法人「鳥取県産業技術センター機械素材研究所」。日下エンジニアリングはこの中に本社を構えています。


取材に応じてくれたのは、同社の代表取締役である佐々木 禎さん。電機部品制作会社でのものづくりの経験をいかし、電気器具製造部品や各種モデル、そして2011年には日産から正式にライセンスを受けてGT-R関連製品を開発し、2015年からはエンジンモデルを開発・製造・販売されています。


それにしても驚かされるのが、部屋の中に置かれた制作中のエンジン模型の数々。これら全てを佐々木さんが中心になって手作業で1基ずつ組み立てているそうです。


GT-Rの象徴である「RB26DETT」エンジンの6分の1モデル。左がノーマルのエンジンで、右は日産の子会社でレース活動やチューニングを行うニスモによるRB26のチューニングエンジン「S2」のモデルで、クルマ好きならこの段階ですでに「ニヤリ」と笑みを浮かべてしまうはず。


モデルは全長130mmで、手に持ってみると大きさはこのぐらい。主要部品にはレジンやアクリルが用いられているほか、アクチュエーター(金色のパーツ)には金属パーツを使用。RB26の特長であるツインターボの取り回しが見事に再現されています。


各部は精巧に再現され、近くで見れば見るほど「これが模型なのか……」とため息がでるレベル。特にカムカバーおよびプラグカバー周辺の黒く鈍い輝きは、思わず「本当はメタルパーツなのでは?」と思ってしまうほど。


また、実車ではいわゆる「鋳物」で製造されている部品は、本物に合わせて表面がザラッとした質感に仕上げられています。これは、鋳造の際に用いる砂型の跡である「梨地」を再現したもので、こんなディティールの積み上げでリアルさが高められています。


エンジンに空気を取り込む吸気側の「インマニ」や「6連スロットルチャンバー」などもリアルに再現されています。さらに驚くのが、その再現のしかた。


6連スロットル部分にはレーザー切削したアクリル製パーツを用い、塗装で仕上げられているのですが、この小さなパーツがなんと3分割+左右のパーツを接着して作られているとのこと。形状を省略してしまえば部品数が少なくて済むところですが、エッジの効いたディティールの再現のためには省略できない設計だそうで、こういった細かい部分がGT-Rオーナーの心をくすぐっているというわけです。


カムカバー周りの「クランク角センサー」や、発電機「オルタネーター」、そしてターボ内部に見えている「タービンブレード」までも精密に再現されています。


ターボ周りの重要な部品「アクチュエーター」は真鍮の無垢材を削り出して作成。


タービン後の排気管「アウトレットパイプ」と、そこに装着されている遮熱板。排気管と遮熱板が違う色に塗り分けられているほか、遮熱板の形状までもが非常にリアルで、本当に鉄板をプレスで曲げて作ったように見えてくるから不思議です。


そしてこちらが、ニスモによるチューニングエンジン「S2」のモデル。このモデルでは、カムカバー回りの塗装がグレーに変更されているのですが、実はこの塗装は実車と同じ「結晶塗装」が行われています。


結晶塗装は別名「チジミ塗装」とも呼ばれ、塗料を塗ったあとに140度の熱を加えて塗料を「結晶化」させて焼き付ける手法。表面に現れた細かい凹凸は実車さながらですが、このスケールで同じ質感を再現するために何度も塗料の調合を試行錯誤したそうです。


焼き付け塗装を行うということで、熱に弱いレジンでは結晶塗装を行うことができません。そこで日下エンジニアリングでは、カムカバーを新たにメタルパーツで再現しなおすことで、実車さながらの結晶塗装を実現したそうです。この部品の製造は専門の業者に委託しているとのことで、リアルさとコストを両立したものづくりが行われているとのこと。


ニスモ仕様のモデルには、専用の銘板が取り付けられている点もポイント。自分の所有するGT-Rと同じ仕様で6分の1モデルをオーダーすることも可能で、「自分のGT-Rのエンジンとまったく同じ!」という喜びの声も寄せられているとか。仕様に応じて、銘板の横にある「クランク角センサー」の形状も細かく再現されているとのこと。


エンジン後部の「フライホイール」周りも再現。このフライホイールにも並々ならぬこだわりが。


フライホイールはアクリル板をレーザーカットして、塗装仕上げで作られています。しかしこの形状を1枚のアクリル板から切り抜くのはもちろん無理なので……


実際には複数のパーツを切り抜き、最後に貼り付けて形状を再現しているそうです。右の透明な部品がアクリル板の素材ですが、実はこの段階でもすでに複数のパーツが組み上げられている状態とのこと。


数々のこだわりが詰まりまくったRB26モデルを構成する部品の一部。大手メーカーでは対応しきれない、きめ細かい(細かすぎ?)作り込みが行われていることが、実際のモデルを目の前にするとこれでもかと伝わってきます。


エンジンブロックなど主要パーツは、シリコン型に樹脂を流し込む「レジンキャスト」で作成されています。


日下エンジニアリングでは、実物のRB26エンジンを3次元測定して3Dデータを作成し、3Dプリンターを使って出力した6分の1スケールの原形からシリコン型を作成して、量産を行っているそうです。ちなみに、シリコン型が乗っているGT-Rのエンブレム入りマットも、日下エンジニアリングの製品のひとつ。


種類ごとに分類されたパーツラックを目の前に語る佐々木さん。昔から模型作りが得意だったそうで、今でも自宅には箱に入ったままのプラモデルが100個以上積み上げられているそうです。その技を活かしてエンジンモデルの製造に携わることになったそうですが、純粋な趣味の世界での活動ではなく、6分の1スケールのエンジン模型を1つのビジネスモデルとして確立することを目指しているとのこと。周囲のサプライヤーを巻き込む形で、東京や大阪のような大都市ではない鳥取から新たなビジネスを発信し、大手メーカーでは対応しきれないきめ細やかな顧客サービスを提供することを目指しているそうです。


そんなこだわりは、初代GT-RやフェアレディZなどに搭載されていた「S20型エンジン」のモデルにも現れています。モデルは木製の台にプレートと共にセットされているのですが、この台は島根県内の家具メーカーに発注して20mm厚のウォールナットの無垢材から削り出されたものだとのこと。また、プレートにはカスタマーの要望に応じた文字入れが可能になっており、このあたりにもきめ細やかな顧客対応を感じることができます。


6本の排気管「等長エキマニ」が美しいラインを描いています。このモデルは「フェアレディZ432」に搭載されているエンジンのモデルで、マフラー2本出しとなるデュアルマフラー仕様が再現されているようです。


エンジン上部には6本のプラグケーブルがキレイに這わされています。これももちろん手作業による仕上げ。


吸気側には6連キャブレターを搭載


キャブレターのファンネル部分は、なんとアルミ材を削り出して作っているとのこと。


原形となったS20型エンジンのファンネルの実物と並べてみたところ。


模型のファンネル部分は、アルミ削り出しのパーツとアクリルをレーザーカットで切り出したパーツの2つで再現されているというから驚くほかありません。とても大手メーカーには対応できない作り込みといえそうです。


そんな作り込みが行われたキャブレターに、エアクリーナーを装着して見えなくしてしまうというあたり、実にシビれます。


このモデルもカムカバーはメタル製パーツを使用。塗装が完了した状態だと一面に塗料が乗った状態ですが……


紙ヤスリを指先の感覚で押し当て、文字とラインの部分を削って地金が出るように加工。


こうして、文字が浮き出たカムカバーが再現されるというわけです。この時の削り具合にも細かな感覚が要求されることで、キレイなヘアラインが出るように加工するにはある程度の経験が必要だそうです。


個人的にツボにはまったのが、この黒いゴムチューブの部分。「ここまで再現するのか!?」と驚かされました。


直径数ミリのゴムチューブに細い鉄線を巻き付けて作られるパーツですが、これがあるとないとでは仕上がりに雲泥の差が現れます。


実際のオーナーがこの状態を目にすると「この金色の固定ベルトの感じがよく再現されてるね~」と一様に驚く部分なのだとか。実際の形状とは異なりますが、同じような部品を同じような色合いで再現することで、実機のオーナーにしかわからない「これ!」というポイントをガシガシと突いてくる作り込みは見事の一言でした。


日下エンジニアリングのエンジンモデルの原点となったのが、このアクリルで作られたGT-Rオブジェなどのグッズとのこと。内部からLEDでライトアップされ、さらには「門外不出」だったGT-Rの純正エンブレムを使用したという製品で、日産から正式にライセンス供与を受けて生産されたものです。


そして、GT-R乗りの間で話題になったというブックシェルフ(本棚)。県内の家具メーカーと打ち合わせを重ねて作り上げたもので、無垢材を使用した贅沢な造りになっており、周囲には自動車のシートに用いられる合皮素材にGT-Rの刺しゅうを施したものが巻き付けられています。同じ製品が雑誌「GT-R Magazine」とコラボしたこともあり、約4万円という価格にもかかわらず好調な売れ行きを記録したとのこと。本体にはGT-R Magazineを40冊収めることができ、下部にはキャスターを取り付けて小型チェアーとして使うことも可能。


組み合わせられる引き出しの取っ手部分もGT-Rのシルエットで再現されています。なおこのパーツ、単に金属を切り出しただけではなく、メッキ仕上げを施すことで品質と手触りの良さを実現しているとのこと。こだわりようが半端ありません。


こんな風にこだわりの製品作りを行っている日下エンジニアリングでは、日産やニスモの純正エンジンだけでなく、Mine's(マインズ)や東名パワードといったチューンナップメーカーによるRB26のコンプリートエンジンのモデルもラインナップしています。いずれも細かい仕様の違いが再現されており、今後もブランドや種類が拡大されていく予定とのこと。なお、モデルの価格は仕様によって変わりますが、税抜価格3万円からとなっています。


さらに、普通ではお目にかかれない「幻のエンジン」のモデルも企画されています。このモックアップは、日産のL28型エンジンをベースにOS技研が世界で初めてエンジンのツインカム化に成功した「TC24-B1Z」を再現したモデル。世界でも数台しか現存していないエンジンの実物を採寸してモデル化したものです。


以前からOS技研さんの全面協力の元、TC24-B1Z
1/6scaleで開発を進めて来ましたが、クレイモデル が出来上がりました。 12月開催のニスモフェスティバルでのお披露目に向け 作り込み状況をアップして行きますのでご期待下さい!!!
エンジンモデル製品詳細は以下のHPをご参照下さい! http://kusaka-eng.com/engine/

日下エンジニアリング Modeling事業部さんの投稿 2016年10月25日


当時はいわゆる「高性能エンジン」でもSOHC型が一般的だった時代ですが、OS技研はメーカーに先駆けてDOHC型エンジンの開発に成功したとのこと。その伝説のエンジンがこうやってモデル化されています。


取材当日には、実際の開発の現場を少しだけ見せてもらいました。倉庫の中には、3D採寸に用いられたシリンダーブロックなどが置かれていました。


クラッチを装着したフライホイールや、エキマニ(排気管)なども置かれていました。これらの部品を3Dスキャナーで採寸してデータ化する作業を行うわけですが、実際の処理の風景などはさすがに撮影NGでした。


3Dデータ化には非接触式でミクロン単位の測定が可能な高性能三次元デジタイザーが用いられています。


日下エンジニアリングではこれまで6気筒エンジンを中心にモデルがラインナップされていましたが、つい先日には初の4気筒モデル「FJ20ET」が追加されています。このエンジンは、通称「鉄仮面」とも呼ばれた6代目スカイライン(DR30型)に搭載されていたもので、「史上最強のスカイライン」とうたわれたスカイライン2000RS-TURBOに搭載された量産車では世界初の4気筒DOHCターボチャージャー付きエンジンです。


エンジンモデルの製作には、FJ20ETの実機からデータを測定して3Dデータが作成され、最新3Dプリンターで原型造形を行っているとのこと。さらに、特にヘッドカバーやサージタンクは結晶塗装を再現する為に金属のホワイトメタルで製作されており、組立てから塗装の全てが自社と協力パートナーによる手作業で行われているとのことです。


取材に訪れてみて驚かされたのは、なんといっても手作りによる精巧な再現具合と、並々ならぬこだわりのポイントでした。今回はモデルの写真を見て「おおっ」と思ったことをきっかけに取材を行ったのですが、実物を目の当たりにするとその驚きはさらにアップ。GT-Rは海外でも人気があるクルマで、聞くところによるとドバイやヨーロッパからの問い合わせも届いているそうです。今後は日産以外のブランドを含めたモデル拡充も視野に入っているそうなので、鳥取県発のブランドからどのようなモデルが登場するのか注目したいところです。

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in 取材,   乗り物,   アート, Posted by darkhorse_log

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