スタートアップを脱し急成長モードの「スケールアップ」に突入した企業のトップに必要なこととは?
起業して間もない状態の「スタートアップ」から、一気に会社が大きく成長し始める「スケールアップ」とでは、経営者にとって求められる資質・素養・心構えは異なります。マーケティングソフトウェアを開発するHubSpotで、スタートアップからスケールアップを通じて9年間、最高経営責任者を務めたブライアン・ハリガン氏が、自身の経験を基に、スケールアップ時に経営者として必要なことをまとめています。
Scale-up Leadership Lessons I’ve Learned Over 9 Years as HubSpot’s CEO — ReadThink (by HubSpot) — Medium
https://readthink.com/scale-up-leadership-lessons-i-ve-learned-over-9-years-as-hubspot-s-ceo-39521f5b7567
◆チームリーダーの配置転換
スタートアップ時とは異なりスケールアップ時には、組織がどんどん成長し、従業員の数も増え、プロジェクトを遂行するチームの数も増えるものです。そこで、各チームが最大限の力を発揮するように管理することが、スケールアップのCEOがするべき重要なことになってきます。
ハリガン氏によると、チームのリーダーの信頼が失われている場合、それを取り戻すことはほぼ不可能。それと同時に、チームのリーダーを取り替えるだけで、チームの士気がすぐに回復することも多いとのこと。そこで、チームメンバーがリーダーに不満を持ち、士気が下がっていると感じた場合は、適宜、リーダーの配置転換することをハリガン氏は求めています。
なお、どんな人にも得意なことと苦手なことがあるのは当然なので、あるチームでうまくリーダーとしての役割を果たせなかったとしても、チームやチームの大きさが変われば能力を発揮することもあるそうです。スタートアップ時には組織マネジメントをそれほど重視しなかったハリガン氏ですが、スケールアップ時は本当に重要な仕事だと述べています。
◆優先順位の意識付け
ハリガン氏は、スケールアップで管理者が重視すべきものは、まず第1に企業の価値、次にチームのこと、最後に自分自身のことであるべきと、優先順位を付けています。しかし、皮肉なことにこれとは正反対の優先順位付けをする管理者が多いそうで、そういう場合はたいてい大きなトラブルを抱えるとのこと。そのため、CEOとして自身を含めた管理者には、企業価値、チーム、自分という優先順位について、徹底的に意識付けをするべきだと述べています。
◆選択肢を絞る
スタートアップとスケールアップで大きく異なる経営スタイルの一つに、選択肢の数があるとハリガン氏は考えています。スタートアップでは組織の規模が小さく機動性に富んでいるため、さまざまなアイデアを試すことができますが、組織が大きくなるスケールアップでは、選択肢の多さはチーム間やメンバー間での調整コストがふくらみ過ぎるため、害悪になり得るとのこと。そこでトップとして必要なことは選択肢を絞り、組織の力をそこに集中させることだとハリガン氏は述べています。
そして、チーム内の会議のスタイルも組織規模に合わせて変化すべきであり、多くの健全な議論を交わすが、最終的に一つの結論を出し、結束してそれを実行するのが良いチームの会議のスタイルであるそうです。
◆落とし穴対策
企業経営をしていく中で、想定外の「落とし穴」は避けられないものであり、ささいなほころびが大きくなり、時に企業の存続を危うくさせることがあります。スケールアップ時ではこのような「落とし穴」が発生していないかを注意深く観察することが求められるとハリガン氏。
そして落とし穴の「芽」を発見したらそれを摘み取ることが必要ですが、このときに重要なことは対処療法ではなく、同じトラブルが二度と発生しないような策を講じることだとのこと。この落とし穴を埋める作業は、うんざりするものだそうですが、非常に重要だとハリガン氏は考えています。
◆妥協しない
スケールアップ段階に入った企業を殺すのは「妥協」だとハリガン氏。管理者は組織が大きくなるにつれて反対意見の出にくい保守的で安全な道をとりたくなるものですが、経営者として行うべき意思決定は、最も人気のある道ではなく、正しい道であるとハリガン氏は述べています。
◆速さよりも正しさ
スタートアップではとにかく速度が重視されます。仮に判断が間違いであり失敗したとしても、素早く切り替えれば良いからです。しかし、スケールアップでは、決定の「速さ」よりも「正しさ」がより重要になってくるとのこと。スケールアップでは意思決定における重要性は速さから正しさへと徐々に移り変わるので、経営者はそれに合わせてバランスを調整することが求められます。
◆長期的な視点
同じく、スタートアップと重要性が異なることに、展望の射程が挙げられています。スタートアップでは短期的に見て利益につながることに重点を置いて経営資源を集中させることが有効でしたが、スケールアップではむしろ長期的な視点から投資する分野を決定すべきだとのこと。投資家から直ちに結果を出すことを求められるスタートアップとは違い、経営資源に余裕が生まれ始めるスケールアップでは、より長期的な展望を持つべきだとハリガン氏は考えています。
◆「捨てる」という意思表示
スケールアップに達した企業は、新規プロジェクトや新しい分野への投資を決める上で、「捨てるもの」を明確に決めることが大切だとハリガン氏は述べています。特に、投資しない、取り組まないと決めたプロジェクトについては文書化して社内で共有することが大切だとのこと。ハリガン氏の場合、HubSpotの取締役会で取り組むべきものと取り組まないことにしものを色分けして明記したレジュメを配布して、議論するべきものを明確にしていたそうです。
◆最高説明責任者
ハリガン氏によると、スケールアップの最高経営責任者(CEO)は、企業経営に責任を負うだけでなく誰よりも「説明」の責任を負う人であるべきとのこと。組織が大きくなるにつれて、すべての人が同じ方向を向いて仕事に取り組むことは難しくなるものなので、企業のトップは、あらゆる機会を通じて企業の方針を全社員に向けて発信するべきだとハリガン氏は考えてします。HubSpotでは四半期に一度全社員が参加する会議を実施して、そこで企業の進むべきビジョンについて説明したそうです。
また、ビジョンを示すと同時に、その方向性に共感し発奮してくれる人材をそろえること、そして、共感して協働してくれる従業員を十分に養えるだけの現金を確保しておくことが大切だと述べています。
◆優れた企業文化
「良い企業文化」が優秀な従業員を育て、素晴らしい製品やサービスを作り出し、顧客に愛してもらえる重要な鍵だとハリガン氏は考えています。ユニークで素晴らしいサービスを作ろうと思うならば、サービスを生み出す素晴らしい従業員が必要であり、そのためには素晴らしい企業文化を創り上げることに多くの年月と労力を割くべきだ述べています。
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