企業を破滅に導く最悪のプロセスと回避するための適切な「制約」とは

By Chris Potter

最初は数名の規模でスタートアップした企業も、徐々に成長して会社の規模を大きくしていくことになりますが、その拡大の過程ではさまざまな問題に直面することがあるものです。シリコンバレーでスタートアップ企業を経験し、現在はベンチャーキャピタルを運営する人物が自身の経験に基づき、急拡大する企業が犯してしまいがちな過ちとその対処法についてブログに記しています。

How to Ruin Your Company with One Bad Process - Ben's Blog
http://www.bhorowitz.com/how_to_ruin_your_company_with_one_bad_process

「数々のスタートアップ企業が陥る罠で、そのビジネスに悪影響を与えるのは『予算設定のプロセスで過ちを犯すこと』です」と語るベン・ホロウィッツ氏は、シリコンバレーでも著名なベンチャー投資企業である「アンドリーセン・ホロウィッツ」をマーク・アンドリーセン氏とともに創業した人物で、同社はFacebookやTwitter、Skypeといった企業に出資して大きなリターンを得ていることでも知られています。

By TechCrunch

ホロウィッツ氏とアンドリーセン氏はこれまでにも、企業向けにホスティングやウェブサイト管理サービスのアウトソーシングを提供する企業「Loudcloud」を設立し、後に業態を修正して「Opsware」と社名変更したのちにヒューレット・パッカードに16億ドル(当時のレートで約1800億円)で売却するなど数々の成功を収めており、シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリストとして認識されている人物です。

そんなホロウィッツ氏ですが、過去には急激な成長に対応しきれずに会社を混乱に陥れてしまったこともあるということで、自身の経験をもとにスタートアップ企業が陥ってしまいがちな落とし穴についてブログで語っています。

Loudcloudが急激な成功を収める段階では、サービスを利用したいとアプローチしてくる企業に対処しきれない時期があり、ホロウィッツ氏は問題解決に向けて企業一丸となってさまざまな取り組みを行いました。同社ではまず目標となるゴールを設定し、その進捗具合をプロジェクトのユニットごとで客観的に判断できる仕組みを整備、そして各事業の遂行において必要な予算や人材を各ユニットに見積もらせた上で、最終的な事業計画と予算付けを決定するというプロセスを経ていました。そのプロセスをホロウィッツ氏は以下のように段階別に分類しています。

1:会社を成長させる目標を設定する
2:目標を段階ごとに分け、各チームの責任の所在を明確にする
3:小分けにされた目標から、具体的な数値目標を設定する
4:その数値目標に必要な人員計画を制定する
5:必要な予算を見積もる
6:計画を業界の基準と比較する
7:グローバル視点で最適化を行う
8:計画を実施する

一見するとシンプルかつ明確で、企業の事業計画としては至極まっとうな体裁を見せるプロセスですが、ホロウィッツ氏は「私の会社を破滅寸前にまで追い込んだ」ものと振り返り、大きな問題を抱えていたことを明らかにしています。

その大きな理由の一つが、各チームごとに数値目標を設定する段階において期せずしてゲーミフィケーションの手法を取り入れてしまい、各チームに過度の予算額争いを行わせてしまったことだとホロウィッツ氏は振り返ります。各チームに対して「考え得る最大級の組織作りをプランニングすること」を争わせたことが失敗であると語っているわけですが、「そんなことはウチの会社では起こりえない」との考え方に対しホロウィッツ氏は、「誰か一人でもこの争いに参加すると、次第に周囲も巻き込まれてしまうものです」とその危険性を指摘します。

By Steven Vance

事業計画がゲーム化されることで、各チームの争いはさらに先鋭化して行きます。各チームは争って規模を拡大し、首脳陣からの事業承認を得るために「売上を500%の規模で増加させられなければ他社との争いに勝てず、No.1の座から滑り落ちてしまう。そうすると良い人材を雇い入れることができなくなり、価格競争力は低下、そして商品力も低下せざるを得なくなり、負のスパイラルに転落してしまう」という不安材料をネタに揺さぶりをかけるといったテクニックが横行するようになります。

そして、これらの計画が承認されてきたことで、チームには「計画を出せば予算が与えられる」という認識が広まったことも潜在的な問題となってきます。さらに規模の拡大そのものがスタッフの士気に影響を与えるようになりました。計画の縮小を示すと「うちのトップは予算を削ってきたぞ。新しい仕事を見つけた方がいいんじゃないか?」と士気が低下したため、結果としてどんどん予算を投入し続けることとなり、当初の企業文化が失われていくという結果に行き着くことになったそうです。

ホロウィッツ氏は一連の流れを振り返り、「予算付けの段階で適切な制約を設けてこなかったこと」が最大の問題点だったことを指摘します。

ホロウィッツ氏は、制約を設ける上で有効な原則は「企業の文化的な団結力を保持すること」だと語ります。急激な成長が企業文化の破滅を招くと語るホロウィッツ氏は「一年間で規模を2倍以上に拡大すると、いかに卓越した社員教育プログラムを持っていたとしても、企業文化は迷走を始める」とその目安となる規模を示します。特に営業チームに比べてエンジニアリング部門やマーケティング部門ではこの原則が非常に重要であるとも語っています。そしてこの原則は、規模が大きくなるほど明確に現れるとのこと。たとえば、2名の会社が8名に拡大することは大した問題ではありませんが、50名の企業が200名の規模に急拡大するような際には間違いなくこの現象が発生する、としています。

これらを踏まえ、企業文化を守る上で重要なことは「制約を設けること」とホロウィッツ氏は語り、以下のような項目を挙げています。

企業活動増加率(run rate increase):単に「出費増加率(spend increase)」ではないことが重要であるとのこと。昨年度における同時期の実績に比べ、来期に増加する規模の増加(拡大)率に制約をかける
利益と損失:収益を上げている場合は、利益と損失の両面において目標値を設定すること
エンジニアリング部門の拡大率:他社を買収して別組織で運営するような場合を除き、エンジニアリング部門の拡大率は1年あたり2倍を超えないようにすべき
エンジニアリング部門と他部門のバランス:エンジニアリング部門と他部門のバランス取りが重要

この項目をもとにホロウィッツ氏は以下のプロセスが良い結果を生むと提唱しています。

1:まずは実行可能な最大の予算額を設定し、そこから必要に応じて10%から25%の範囲で縮小させる。このことにより、事業の拡大が必要な際のマージンをあらかじめ設定することができる。
2:適切と考えられる比率に応じて、上記予算額を振り分ける
3:各部門と予算折衝を行う
4:事業を目標値に沿って進めることを順守し、各部門には予算内で成果を挙げることを奨励する
5:さらに予算をつぎ込むことで適正な範囲で成果を拡大できると判断した場合は、プロセス1で確保した予算のマージンを投入する

これらのプロセスは、身の丈に応じた事業展開を進めていく上で重要であるとホロウィッツ氏は語ります。中には「事業に制約をつけるなんて、どうかしている」と反対意見が挙がることもあるかもしれない、としながらもホロウィッツ氏は「ヒューマンファクターはロジックを台無しにしてしまうことがある」として、適切な制約を与えることが目標達成において効果があることを唱えています。

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