ネットの口コミ情報をデータ分析して行政に報告されない食中毒を発見できることが判明
By Scott Smith
2014年4月、世界最大級の口コミサイト「Yelp」が日本にも上陸しましたが、Yelp発祥の地のアメリカでは、投稿されたレストランの口コミ情報から、行政に報告されていない隠れた「食中毒」を発見するという実験が行われ、ネット上の口コミを行政活動に活用する試みがなされています。
Using Online Reviews by Restaurant Patrons to Identify Unreported Cases of Foodborne Illness — New York City, 2012–2013
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6320a1.htm?s_cid=mm6320a1_w
日本では食中毒については地域の保健所が相談窓口を設けていますが、アメリカでは行政への電話相談窓口「311番」が食中毒に関する報告を受ける窓口となっていて、市民は食中毒が疑われる場合に311番に電話・連絡するのが一般的です。しかし、食中毒が疑われる場合でも被害者が報告しないことによって集団食中毒の予防に失敗しているケースがあると考えられており、顕在化しない食中毒の情報を見つけることは、大規模な集団食中毒を予防し被害の拡大を防ぐために非常に重要となっています。
そこで、顕在化しない食中毒を検出するためにニューヨーク市の健康衛生局(DOHMH)は、巨大口コミサイトYelpと共同で、レストランの口コミ情報を分析することで行政に報告されていない食中毒を発見するという実験を行いました。なお、この実験はインターネット上の口コミ情報を疫学的に分析することで潜在的な集団食中毒を発見し被害拡大の防止に利用する方法を探るという目的で行われており、コロンビア大学の疫学者も参加しています。
By Czarina Alegre
実験では、まず2012年7月1日から2013年3月31日までの間に書き込まれた29万4000件のレストランの口コミ投稿を、専用の分析ソフトで解析しました。この分析ソフトは、投稿の中から「sick(病気)」「vomit(嘔吐)」「diarrhea(下痢)」「food poisoning(食中毒)」などの食中毒に関連性のあるキーワードが含まれているものを抽出した上で、2件以上の同一情報が報告されていて、さらに一般的な食中毒の潜伏期間である10時間を経過した後に書き込まれたもの、などの条件に合致したものを「食中毒の可能性がある投稿」としてスクリーニングするというものです。
そして、スクリーニングされた投稿は、食中毒を疫学的に研究する専門家によって詳細に分析され、食中毒の疑いがあるとされた投稿は、DOHMHがYelpを通じて投稿者に聞き取り調査するなど、さらに細かな分析が行われ、食中毒の有無が検査されました。
By Paul-Emile Raymond
実験では29万4000件の口コミのうち、893件の投稿が分析ソフトで「食中毒の可能性がある投稿」として検出され、その後、人力チェックの結果、499件(全体の56%)が食中毒の疑わしい投稿と認定されました。なお、残りの394件(44%)の投稿は、キーワード自体を含んでいるものの、例えば「見た目がヤバそうだったけど食あたりしなかったよ~」などの食中毒を否定する内容の投稿であったとのことです。なお、499件の投稿から最近発生した食中毒と疑われる468件に絞り込まれましたが、このうち、311番で食中毒情報として報告が上がっていたものはわずかに15件であったことが判明しています。
さらにより詳細に投稿を分析したところ、468件のうち339件が一人の人物のみが被害を訴えているものや、専門家による検査の結果、食中毒と断定できるほど深刻な状況とまでは言えないものとして除外され、残った129件のうち27件の投稿が投稿者への聞き取り調査が必要な「食中毒が疑われる投稿」と認定されました。
この27件の投稿については、
1:2人以上の人が症状を出していること
2:他に食中毒の原因として疑われる共通の食事を取っていないこと
3:症状の出た人が異なる世帯に属していること
4:他の食事が原因で感染したのではないことが発症時期から確認できること
というチェック項目について聞き取り調査が行われ、最終的に16件の投稿が、311番に報告されていない食中毒事件であると認定されたとのことです。
By James Palinsad
今回の実験以外にもTwitterを利用して食中毒を起こしたレストランを検出する試みなども行われており、インターネット上の口コミ情報を分析することで、行政に報告が寄せられていない食中毒を発見できる可能性があると言えそうです。なお、実験では、投稿者の中には「食中毒ではないか?」という疑問を抱いたものの、311番の存在を知らないためどこに報告したら良いのか分からなかったという人が見つかっていることは注目に値します。ここからはインターネットやSNSが急速に発達する中で、これまで行政に期待されていた役割をインターネットやSNSが担っているという状況が見えてきそうです。
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