監督の成長が作品の根幹を変えた「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」平尾隆之監督インタビュー
12月28日から公開される映画「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」は、徳間書店刊行の月刊COMICリュウで連載されている、ひらりん(物語環境開発)著「のろい屋しまい」を原作としています。決してメジャーではない雑誌に連載されているこの作品をなぜアニメ映画にすることになったのか、そして、どのような過程を経て作品は完成にたどり着いたのか。平尾隆之監督と、近藤光プロデューサーにインタビューしてきました。
魔女っこ姉妹のヨヨとネネ
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まずは平尾監督抜きの状態で、近藤プロデューサーへのインタビューからスタート。まずは前編として、企画立ち上げ部分を中心に質問していきました。
GIGAZINE(以下、G):
まずは、この作品をやることになったきっかけを教えて下さい。
近藤光(以下、近):
キングレコードの大月俊倫プロデューサーから次にこういうのをやってみないかと、「のろい屋しまい」の単行本を渡されたのがきっかけですね。
G:
「桜の温度」の取材のときに「次はこんなのをやるよ」という話をちらっとうかがった記憶があります。
近:
そうそう、ちょうど「ギョ」「桜の温度」の終わりが見えてきたころに取りかかりました。
G:
ということは、平尾監督は一時期3作品が並行する状態だったんですね。
近:
話をもらったタイミング自体は「ギョ」よりも前でしたね。それからシナリオを作っていく中で、ああでもないこうでもないといろいろアイデアを出して、3年ぐらい前から取りかかったという感じです。
G:
作っていく中で、難航した点はどこですか?
近:
シナリオは苦労したね……。「空の境界 矛盾螺旋」から「ギョ」、「桜の温度」と作っていく中で、「桜の温度」でも苦労していました。平尾くんの地元は香川県なんですが、あるとき、故郷に帰って戻ってきたときに「友達やその子どもに見てもらえる作品を作りたい」って。僕ら作り手は、作品の中でキャラクターを殺すのにはすごく勇気が要るんですが、それからの平尾くんは「キャラクターを殺したくない」と言って……きっと、シナリオとかに関わっている5年ぐらいの間に、すごく変わったんだと思う。僕からすると、この作品は平尾くんのここ数年のヒストリーを見ているようで、感慨深い感じがします。これまでにも色々な作品をやっているけれど、どんどん「平尾監督の作品」になってきていると思います。
近:
僕は、作品作りは人だと思っています。つながりが次を生み出していく。この企画のきっかけになったキングレコードの大月さんは、「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」を制作する時に応援、かつ、助けてくれた人で、そういうつながりがあったからこそのスタートでした。
G:
ということは、キャラクターデザインを担当した柴田由香さんもそういったつながりがあって……
近:
そうそう。由香ちゃんとは付き合いが長いんですよ。「空の境界」にも参加していて、式と浅上藤乃の戦いのなかで、藤乃が倒れて「痛い」と言っているところをやってくれていたりします。平尾くんと、今回副監督をした高橋タクロヲくんも付き合いが長くて、平尾くんが演出、タクロヲくんがレイアウトや背景で、うまく支え合っている。
(ここで平尾監督が参加)
近:
いまちょうど褒めてたところだよ。
平尾隆之(以下、平):
ホントですか?(笑)
G:
なぜこの原作が選ばれたのか、というところからお伺いしているところです。
平:
確かに、どうして大月さんはこの本を選んだんでしょうね?
近:
本屋で見たときに「これはいい!」って思ったらしいよ。こうやって映画が完成してみると、ヨヨネネはギョ、桜の温度に続く3本目になるべくしてなったなと……ヨヨネネを見ていると、平尾くんにしか見えないんだよね。
平:
みんな、こんなことを言うんですよ(笑)
G:
近藤さんから「シナリオで難航した」という話をうかがいましたが。
平:
コンテを描きながらシナリオを作っていたので、映像みたいに具体化する作業が難しかったですね。このキャラクターだったらこんなことはしないんだけれど、展開としてはこうしなければ、とか。
近:
ヨヨネネが始まった段階では「ギョ」も「桜の温度」も始まっていなかったので、「作りたいもの」に迷っていた時期なんだろうね。シナリオもなかなか具体的にならなくて。
平:
最初は子ども向けではなかったんです。
近:
さっきも言ったけれど、もしこの新しい単行本(「のろい屋姉妹 ヨヨとネネ」、上巻が2012年2月発行)が出ていなかったら、タイトルに「ヨヨネネ」は入っていないと思います。
平:
作っている中で「明らかに方向が変わった」とタイミングがありました。プロットを書いていて、ギョと桜の温度は終わりかけていた時期かな、「次の作品(ヨヨネネ)は、子ども向けに作っていこう」と。
近:
田舎で友達に会ったって言ってたね。
平:
そうそう、思い出した!ちょっと田舎に帰ったりしたんですが、友達に「どんな作品を作ってるの?」って聞かれるんですよ。子どももいる年齢なので「うちの子どもも見てるようなやつはない?」って聞かれたりもして。そこで、子どもたちと遊んでいると、遊んでいるゲームは「マリオカート」なんです。マリオって、僕が子どものころに出てきたキャラクターなのに、今でも子どもたちが遊んでいる。それを見てすごいなと感じて……次はポピュラーなものをやってみようかなと。
近:
僕としては、平尾くんの中で「桜の温度」が大きかったんじゃないかと思っています。ギョの時は、30分予定のものが伸びて伸びて70分になって「くどい」とか言い合いをしたんですよ。逆に「桜の温度」は、そういう平尾君が思うようにやればいいとOKをだした。何度か意見を聞きにきたんだけど、思うようにやっていいと。ユーフォーテーブルが製作から配給まで全部やることにしたので、外の方に迷惑かけることもない、だから、つくる目的は「平尾君が好きにやりたいようにやる」なんです。「思うようにやれ」と言いました。
G:
それはまた豪勢な話ですよね。
近:
ユーフォーテーブルとしても冒険でした。
G:
それがヨヨネネにまでつながっている。
掛け合いをしつつ話をしてくれた近藤プロデューサーと平尾監督
平:
そこで考えたのがヨヨさんの年齢ですね。作中だとヨヨさんは6歳の姿なんです。
G:
ヨヨさんは6歳の時に氷の中に閉じ込められてしまい、救出されるまで12年かかっているので今も姿が6歳のままで、ネネちゃんとまるで姉妹が逆みたいになっているんですよね。
平:
その姿のままで動かすとなると、ちょっと幼すぎるんです。この世界にやってきたときには、どうしてもある程度は自分で行動できるような見た目である必要がありました。なので、原作よりも大きくなってもらいました。一応、理由としては「時空のねじれ」としています。ヨヨさんに大きくなってもらったもう1つの理由は、孝洋との別れを描くためです。
G:
別れ。
平:
孝洋が最後まで大きいヨヨさんしか知らないままでお別れすることになる、ジュブナイル的な別れを描きたかったんです。ヨヨさんはずっと自分の方が年上だという自覚があるから、出会ったころは孝洋に対して「クソガキ!」とか言ってたりしますよね。あの2人の関係は、恋愛ではないんですよ。ただ、大きくするだけではなく、魔女っこ姉妹のお姉さんでもあるので、そういう「お姉さんらしさ」もどこかで出したいとは思っていました。お姉ちゃんだからこそ、きっといろいろな失敗を重ねて覚えてきた部分があるはずですが、そんな失敗は見せない。人前では決して弱音を吐かない。精神的には早熟なところがあって、でも、魔の国では人を蘇らせることができるから、死に対してすこし欠落した部分も持っています。
G:
なるほど。
平:
ヨヨさんって、トリックスター的なところがあるんです。そのキャラをいざ中心に据えるとなって、どんなキャラなのかがわからなくて、コンテを描きながらBパートぐらいまで、ずっと「どんなキャラだろう?」と考え続けました。
G:
諸星さんと加隈さんへのインタビューで「監督からのディレクションが少なかった」とのことでしたが、孝洋役の沢城さんとは話し合うことがあったとか。
平:
沢城さんは、上手すぎるんですよ。孝洋役は確かに少年役にはなっていたんですが、何か言い表せない違和感があって、ブースで沢城さんも首をひねっていたので聞いてみたら、「このキャラがわかんない」って。孝洋は、亜紀の面倒はちゃんと見ているけれど、両親が呪いに掛かったとわかったのに友達と遊びに行こうとするドライな面もあります。コンテでは孝洋の現代っ子な部分とよい子な部分が強調されていなかったから、わからなかったんですね。でも、ヨヨさんがこちらの世界でコンビを組む相手が孝洋なので、どれぐらいキャラを立たせたものだろうかと、沢城さんと相談しました。そうして話をした後に声をあててもらうと全然芝居のニュアンスが見違えました。
近:
ほんと上手いんだけれど、最初はなんか違ったんだよね、もっと「べらんめえ」的だった。
平:
その時に言っていたのは、「孝洋はきっとファンタジーで、現代にはいない子どもなんだ」ということです。映画としては、孝洋が受け入れられるかどうかも重要なポイントなんじゃないかと思って、沢城さんには「ファンタジーとしてでいいから、こういう子がいたらいいな」ということを伝えました。最終的には、なんとなく江戸っ子っぽい感じになったかな?
G:
なるほど、そんな経緯があったんですね。キャストでいうと、ヨヨさんのそばにいる猫(?)のビハクは声を中川翔子さんが担当していますけれど、意識して聞かないと気付かないぐらいでした。
平:
中川さんはうまかったですね。きっちりと台本を読み込んで勉強してきていたので、アフレコの時に「ここでビハクのリアクションがありますけれど、入れなくていいですか?」と指摘されるところがありました。芸能人の方とは初めてお仕事しましたけれど、「役者」でした。
近:
エンドロールで「あ、しょこたんだったのか」と気付くぐらいでちょうどいいと思って、今回、あまりアピールはしていません。
平:
声優さんは声をあてる時間が短いこともあって、作品自体へ関わる時間も短くなってしまうんですが、今回、ネネ役の加隈さんはダビング現場にも来てくれました。通常、そこまで来る人はあまりいないんですが、ちょうどダビング中に声抜けが1カ所見つかって、その場で声を入れてもらうことができたりしました。
G:
おお、そんなことも。
平:
キャストの話だと、諸星さんからは、最初「自分の声はどうなっているだろう」と思って見てたのに、途中からは自分が出ていることも忘れて見てしまったというメッセージをもらって、すごく嬉しかったですね。アフレコ現場では、ニルス役の子安武人さんと、健生役の櫻井孝宏さんが演じるたび、うまくアドリブを入れてきたりするので、笑いそうになって始められないこともありました。
G:
ニルスは、出番が多い方ではないんですが、目立ってましたね。今回、ヨヨネネは日本で12月28日から公開ですが、韓国では12月25日に吹替版が公開されることになっていますよね。
近:
夏の終わり頃に韓国版をつくるために現地へ行ってきました。ユーフォーテーブルにちょうど韓国出身のスタッフがいて、アニメージュで連載したノベライズの挿絵も書いてもらっているチョンさんに同行してもらいました。アフレコは3日間かけて行いました。
G:
韓国版のキャストも監督が決められたのですか?
平:
スタッフでデモを聞かせてもらって、声が似ている人を挙げて、その中から選んでもらいました。
近:
韓国も吹き替えのキャストは、もとになっている日本語にあわせる傾向になりつつあるようで、声優としてもキャリアがあって、うまい方に集まってもらいました。「猫の恩返し」で主役をやった方や、韓国の国民的アニメの主役をやってる方、そういう方達です。翻訳自体も、「風立ちぬ」を翻訳された方が担当してくれました。今回、公開をむかえるにあたり初日舞台挨拶で韓国へ行きます。ただ、日帰りだとは思わなくてビックリしました(笑)
G:
日本よりも先に公開されるというのは珍しいケースですね。
近:
今回、製作委員会のメンバーの意識が高く、世界でもやっていこうと。リスクは高いのですが、その中でもティ・ジョイさんが韓国に強く、みんな迷いなく「韓国で行こう!」と。今回、韓国では100館超えの規模で公開されますが、日本のアニメ映画としてはすごく珍しいんじゃないかな。日本公開前となると、ほぼ初めてだと思う。韓国自体は映画の入場者数は6倍で、今回のメイン館が日本だと旗艦劇場になる新宿バルト9の3倍ぐらい入ったりすると聞いています。
G:
バルト9の3倍……。
近:
それに、アフレコをやってくれた人たちがみんなヨヨネネを見て喜んでくれたのも印象的です。日本ではサブカルチャーの中心みたいになっているけど、韓国ではまだまだ「アニメは子どもが見るもの」という意識が強くて、その中でヨヨネネは期待されているんです。僕らも期待しています。
平:
僕は、他のインタビューでも答えましたけれど、自分の作品がいつも行くバルト9で上映されるということに感動しています。近藤さんが怪訝な顔をしてますけど(笑)、監督だと作れるのは2年~3年に1作品ぐらいなので、新宿バルト9にポスターが出ていて、すごく嬉しいですよ。
~中編に続く~
椎名豪と平尾隆之監督が追求した「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」音楽・音響のこだわり
©物語環境開発/徳間書店・魔女っこ姉妹のヨヨとネネ製作委員会
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