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なぜスイスには億万長者が多いのか?


中央ヨーロッパに位置するスイスはアルプス山脈やチーズ、時計などが有名であり、数多くの国際機関の本部があることでも知られています。そんなスイスは世界的に見ても「個人資産が10億ドル(約158億円)を超える億万長者の多い国」だそうで、「一体なぜスイスには億万長者が多いのか?」という疑問について、海外メディアのCNBCが運営するYouTubeチャンネル・CNBC Internationalが解説しています。

Why is Switzerland home to so many billionaires? - YouTube


スイスと聞けば上質なチーズや高級チョコレート、雪に覆われた山脈などを思い浮かべる人が多いはずですが、中には「世界の中でもトップクラスに裕福な国」という印象を持っている人もいるかもしれません。


スイスは人口8万人あたり1人の億万長者を抱えており、億万長者の密度が世界で3番目に高い国となっています。なお、スイスを上回る億万長者密度の国はルクセンブルクと香港のみです。


実際にスイスの人々に「あなたは億万長者を知っていますか?」と尋ねると、ある男性は「個人的に多くの億万長者や百万長者(個人資産が100万ドル(約1億5800万円)を超える人)を知っています」と回答。


別の男性は「いやいや、知りませんよ。百万長者はたくさんいますが、億万長者はいません」とコメント。


若い女性は「いいえ、全然知りません!知り合いだったらいいんですけど」と答えるなど、億万長者が身近な存在というわけではないようです。


しかし、スイス人の平均純資産は約70万ドル(約1億1000万円)に達し、アメリカや香港を上回る世界で最も裕福な国のひとつです。


チューリッヒ大学の経済学者であるフロリアン・ショイアー教授は、「スイスの所得分配はここ数十年にわたって比較的安定しており、他の多くの国々と比べて不平等の少ない国です」と述べています。


スイスの町を歩く女性によると、確かに平均的な人々の暮らしはかなり恵まれているものの、貧しい人や突出した超富裕層もいるとのこと。「その違いはとても大きいです」とコメントしました。


2022年時点でスイスには推定110人の億万長者がいるそうで、これはサウジアラビアやシンガポール、アラブ首長国連邦といったその他の超富裕層が集まる国々を上回ります。スイスの億万長者の純資産は合計で3380億ドル(約53兆5000億円)に達するとのこと。


スイスに住む億万長者の中には、シャネルの共同オーナーであるジェラール・ヴェルテメール氏や、IKEA創業者であるイングヴァル・カンプラード氏の相続人、ヘルスケア大手エフ・ホフマン・ラ・ロシュの創業者などが含まれます。


スイスは政治的に最も安定した国のひとつであり、政治的中立性で高い評価を得ています。これは、突然のリーダーシップや政策の変更により、個人の資産が脅かされにくいという利点につながっています。また、スイスには魅力的な税制があり、個人と法人の両方に低い税率を適用しています。これはスイスに競争上の優位をもたらすとのこと。ショイアー氏は、「税金は富裕層にとって重要な側面のひとつです。非常に裕福な個人は労働収入を得ているのではなく、ほとんどの収入を所有する企業の資本所得またはキャピタルゲインとして得る傾向があります。スイスには金融資産に対するキャピタルゲイン税がないので、富裕層にとって魅力的なのです」と説明しています。キャピタルゲインに課税されないということは、スイス人が株などの資産を売却した際に得た利益に税金がかからないことを意味します。


その代わり、スイスは個人の純資産に富裕税を課すヨーロッパでも数少ない国のひとつです。しかし、富裕税は資産に対する0.1%~1.1%とかなり低い水準に設定されているとのこと。


この富裕税はスイスを構成する各州が課すもので、州が独自に税率を調整できます。富裕税を低く設定するなどして、州同士が富裕層獲得に向け競争できるわけです。


また、スイスの法定通貨であるスイスフランの価値は近年高まっており、これにより外国産の商品やサービスのコストが下がり、スイスの輸出品の価格は上昇しています。以下のグラフは、赤色の線がユーロに対するスイスフランの価値を、薄茶色の線がドルに対するスイスフランの価値を示しています。ユーロに対してはその価値が高まっており、ドルに対しては安定を維持していることがうかがえます。ショイアー氏は、「スイスでは通貨の大幅な下落を恐れる必要はありません。これはもちろん、政治的安定性や強力な法および制度的環境に関連しています」と述べました。


また、スイスを象徴する産業のひとつに、高い守秘義務を負う銀行業が挙げられます。20世紀を通じて、スイスの銀行はプライバシーと匿名性を保つ場所としての評判を築き、富裕層が現金を保管して税金逃れをする場所として注目されました。しかし、近年はスイスの銀行に対しても透明性を重視する働きかけが強まっており、21世紀の世界金融危機や大手銀行の破綻を受けて、顧客情報を他国に引き渡す方針にシフトしつつあります。それでも、スイスの銀行は依然として資産管理の中心地としての地位を維持しているそうです。


超富裕層に資産が集中する状況については、世界的に問題意識が高まりつつあります。貧困と不正の根絶を目的とするオックスファムが2024年に発表したレポートによると、世界トップ5人の大富豪の資産総額は、2020年以降の短い期間で2倍に増加したとのこと。一方、全世界で50億人が同期間中に以前より貧しくなったそうです。


スイスでも超富裕層と比較的貧しい人の差は存在しますが、住みやすさと社会的調和の指標で高い評価を受けています。


これは、あまり裕福でない人々にも適切な生活水準を保障するスイスの社会政策と労働法の影響が大きいとみられます。あるスイス人男性は、「それほど稼いでいない人でも十分暮らせるような社会構造になっていることが、社会の重要な要素なのかもしれません」とコメントしました。

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in 動画, Posted by log1h_ik

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