殺人事件で手配中の「McAfee(マカフィー)」創業者、メキシコ国境で身柄拘束か
アンチウイルスソフトの定番の1つである「マカフィー・ウイルススキャン」や「Total Protection Service」を提供しているアメリカのセキュリティ関連企業McAfee(マカフィー)の創業者であるジョン・マカフィー氏(67)が、ベリーズ警察によって身柄を拘束されたという情報が出てきています。マカフィー氏は隣人殺人事件の重要参考人として手配されましたが、同氏は無実と、事件がベリーズの権力者による陰謀だという主張をしています。
追記:
現地時間12月4日、マカフィー氏自身によってこれはベリーズ当局を混乱させるための「囮」で、無事グアテマラに入国したことが報告されました。
Who is McAfee? | The official Blog of John McAfee
http://www.whoismcafee.com/breaking-john-captured/
◆ジョン・マカフィー氏の経歴
マカフィー氏は1945年生まれ、イングランド出身。1967年にアメリカのロアノーク・カレッジで数学学士を取得、1968年から1970年にニューヨークのゴダード宇宙科学研究所にプログラマとして勤務したのち、UNIVAC(ユニバック)のソフトウェアデザイナー、ゼロックスのOS設計を経て、1978年にコンピュータ・サイエンス・コーポレーションにソフトウェアコンサルタントとして入社。
1980年代に航空会社として知られるロッキードへ移ったとき、パキスタン人技術者が開発したコンピューターウイルス「Brain」への感染(コピーを入手したとも)をきっかけに、ウイルス対策ソフトの開発を始めました。1987年にコンピューターウイルス対策企業としてマカフィー・アソシエイツを創業、最初期の商用アンチウイルスソフトをリリースしました。1989年にロッキードを辞めてマカフィー社一本に絞りましたが、1994年に退職しています。
その後のマカフィー・アソシエイツは1996年に株式公開、1997年にネットワークジェネラルと合併してネットワーク・アソシエイツに改名し、さらに7年後の2004年、現在のマカフィーへと社名を改め、セキュリティ関連企業のビッグネームの1つとして現在に至っています。
一方のマカフィー氏はインスタントメッセージソフト「PowWow」を開発したTribal Voice社などのベンチャーに投資していましたが、2000年にZoneAlarmなどのセキュリティ対策ソフトで知られるZone Labsに出資して役員に就任。その後、2003年にZone LabsはCheck Point Softwareに買収されました。マカフィー氏はその後もベンチャービジネスを続けていたようですが、2009年の金融危機時に、最盛期は1億ドルあった資産が400万ドルまで目減りしたことが報じられました。
2008年に中南米のベリーズへと移住しています。
◆2012年4月 ドラッグ&武器所有で逮捕
Antivirus Founder, John McAfee, says politics caused GSU raid | Channel5Belize.com
http://edition.channel5belize.com/archives/69892
マカフィー氏は2012年4月に、無許可のドラッグ(覚醒剤であるメタンフェタミン)生産、および無許可の武器所有の容疑でベリーズ警察に逮捕されました。このとき、ギャング鎮圧部隊(GUS)が自宅に踏み込み、「飼い犬を射殺してパスポートを没収した」ことが報じられています。
この事件では、警察のRaphael Martinez報道官は「容疑があったので取り調べたが、有罪にはならなかった」と説明。マカフィー氏は数時間の拘留を受けたのちに釈放されました。同氏は自分が無実であること、この逮捕は民主連合党(ベリーズにある二大政党の1つ)の政治家への贈賄を拒否したことに対する報復だと主張していました。
◆2012年11月 隣人殺害容疑の重要参考人として手配
2012年11月11日、アメリカから移住したグレゴリー・フォールさん(52)がAmbergris Caye島の自宅で射殺体として発見されました。使用されたのは9mmルガー弾で、フォールさんは背後から頭部へ一撃を受けていました。このフォールさんとマカフィー氏は隣同士。マカフィー氏は所有地内で何頭も犬を飼っていましたが、誰かがビーチに近づくたびに犬が柵ギリギリのところまで走ってきて吠えるために隣人らとトラブルになっており、特にフォールさんは事件の1週間前に、サンペドロ町長に訴えを起こしていました。
警察はマカフィー氏を重要参考人として事情を聞こうとしましたが、マカフィー氏は逃亡。このため、「マカフィーの創業者が殺人容疑で指名手配」としてニュースで騒がれるに至りました。
CNN.co.jp : 米マカフィー創業者の行方追う 殺人事件捜査で ベリーズ警察
http://www.cnn.co.jp/business/35024364.html
朝日新聞デジタル:米マカフィー創業者、殺人の重要参考人に 中米で逃亡中 - 国際
http://www.asahi.com/international/update/1115/TKY201211150456.html
マカフィー創業者が殺人? ベリーズ、3人の身柄拘束 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121115/amr12111509000001-n1.htm
一方、マカフィー氏は逃亡生活の中でWired.comやCNNの取材に応じて、事情を説明しています。
Murder Suspect John McAfee: I'm Innocent | Threat Level | Wired.com
http://www.wired.com/threatlevel/2012/11/threatlevel_1112_mcafee/
CNN Exclusive: McAfee comes out of hiding to talk about life on the run - CNN.com
http://edition.cnn.com/2012/12/01/world/americas/belize-mcafee-killing/index.html
マカフィー氏の主張によれば、まず11月9日の夜に、沿岸警備隊か当局が部隊を海岸に揚陸。マカフィー氏の飼い犬に毒を盛ったそうです。この犬たちは即死ではなかったようで、あまりに惨い状態だったことからマカフィー氏が自ら射殺して庭に埋葬したと、元ガールフレンドが証言しています。マカフィー氏はこの夜のことを、何度か取材を受けていたWiredのJoshua Davis氏に対して「沿岸警備隊がチームを海岸に降ろした。海岸で散った後、30分後に犬が毒でやられてしまった。Mellow、Lucky、Dipsy、そしてGuerrero、みんな死んでしまった」とメールしています。
そして殺人事件が起きたのが11日。マカフィー氏はこのとき銃声を聞いており、襲撃者が自分とフォールさんを取り違えて殺害したもので、次は自分がやられるのではないかと恐怖。警察が取り調べに来たときは、頭から段ボールをかぶって砂の中に潜り息を殺していたそうです。
Wired.com、CNNともに「事情聴取に応じて、無罪を証明すればよいのでは?」と問いかけましたが、マカフィー氏は「出て行けば、私は殺されるだろう」とこれを拒否。フォールさんの事件との関連については「私は殺していないし、誰かに殺害を依頼したこともない」と無罪を主張しました。
マカフィー氏の取材を続けているDavis氏は、2012年8月に話を聞きに行ったときに、隣人が犬について苦情を言っているのを目撃しています。マカフィー氏は所有地警護のために武装した護衛を置いており、護衛たちがショットガンを持っていることから隣人らは怯えていたそうです。取材翌日、マカフィー氏は犬がビーチに近寄らないよう、新しいフェンスを作るための大工を呼んだとのこと。また、犬が死んだという連絡を受けて、隣人との関連を聞いてみたところ「誰も毒なんて盛っていないよ」と否定。フォールさんについても「彼はそんなことをする人じゃない。確かに犬に対して腹を立てていたかもしれないが、傷つけはしない」と語ったそうです。
また、Davis氏はこの夏の取材時に、マカフィー氏の家に9mmルガー弾があったことも覚えていました。しかし、マカフィー氏は銃は4月の家宅捜索で押収されたと説明。「君(Davis氏)は、私が当局に殺されると言い続けるパラノイアだと思うかもしれないし、そのことはしょうがない。だが、彼らは何ヶ月も私を追っている。私を黙らせたいのだ。首相らに、よく思われていない。近くにあるトゲのようなものなんだ」とメールしています。
CNNの取材時には、12個以上の使い捨て携帯電話を見せたマカフィー氏。11月の事件発生以来、3週間の逃亡の中で200個以上を使用したとみられています。「whoismcafee.com」は、ベリーズ政府からの嫌がらせを記録しておくために、マカフィー氏自身が作ったブログ。マカフィー氏の願いは第1にフォールさん殺害の真犯人が見つかること。第2に、発言を抑制されているベリーズの人々が自由に発言できるようになること。Davis氏に対して「ベリーズが好きなんだ。ここはこの世で一番の場所さ」と語りました。
◆12月2日 ベリーズ・メキシコ国境で身柄確保か
John McAfee arrested for murder on Mexico/Belize border
http://www.neowin.net/news/john-mcafee-arrested-for-murder-on-mexicobelize-border
現地時間12月2日、長らく追われていたマカフィー氏がベリーズとメキシコの国境で身柄を拘束されたと報じられました。
GSUのリーダー、マルコ・ビダール氏は、マカフィー氏が殺害事件の重要参考人だから追っているのであり、「当局がマカフィー氏を罠にかけようとしている」という同氏の主張を「それは断じてウソです。我々はマカフィー氏に対して個人的な感情は何もありません。また、我々には犬を毒殺するような必要もありません」と退けました。
「マカフィー氏が10万ドル相当の装備をサンペドロ警察に寄贈したところ、どこかでコカインのバッグが混入されてマカフィー氏の家宅捜索の材料になり、また別の8万ドル相当の装備の肥やしになった」という話もあり、「真相」が明らかになるのかどうか、注目です。
2012/12/04 9:48追記
We Are with John McAfee Right Now, Suckers | VICE
http://www.vice.com/read/we-are-with-john-mcafee-right-now-suckers
Mobile Privacy – Vice.com Publishes Exclusive with John McAfee Reveals Location In iPhone Metadata ( EXIF )
http://www.mobileprivacy.org/2012/12/vice-com-publishes-exclusive-with-john-mcafee-reveals-location-in-iphone-metadata-exif/
マカフィー氏にはVice.comのRocco Castoro編集長とカメラマンのRobert King氏が随行しており、ドキュメンタリーを撮り続けているとのこと。そのVice.comに日本時間12月4日5時ごろ、「We Are with John McAfee Right Now, Suckers」という記事が掲載されましたが、この記事中にあるマカフィー氏とCastoro編集長の写った写真のメタデータで、撮影地点がグアテマラとなっていることが話題になっています。
写真はすでに地理情報が削除されたものに差し替えられていますが、オリジナルを手に入れたMobile Privacyによると、写真はグアテマラのリオドゥルセというところで撮影されたものだったとのこと。リオドゥルセは下記地図で「プエルトバリオス」と書かれている場所のちょっと西側あたり。北側にベリーズがあります。ちなみに。初報にあったベリーズとメキシコの国境はベリーズ北西なので、まったく反対方向だったということになります。
大きな地図で見る
Another Apology. | Who is McAfee?
http://www.whoismcafee.com/another-apology/
これについてマカフィー氏は、緊急事態が発生したので、居場所を惑わせるためにXIFデータを改竄した写真をVICEにアップしてもらったと説明、客観的なドキュメンタリーを制作しているところに干渉してしまって申し訳ないという謝罪記事を掲載しています。
12月5日追記
マカフィー氏がグアテマラに入国したことを発表しました。続報の内容は以下から。
マカフィー創業者がベリーズ当局の追跡をかわしてグアテマラに無事入国、元司法長官を味方陣営に引き込む
・関連記事
2012年11月時点の最強アンチウイルスソフトはどれなのかが判明 - GIGAZINE
IntelがMcAfeeを77億ドルで買収、ハードとソフトの両面からのセキュリティ技術の向上を目指す - GIGAZINE
エマ・ワトソンがインターネット・セキュリティ上最も危険なセレブに - GIGAZINE
「ウイルス被害疑似体験サイト」をマカフィーが開設、ウイルス感染の被害談なども掲載 - GIGAZINE
・関連コンテンツ