取材

日米ゲーム開発における最大の違い「レベルデザイン」を本家が語る


「レベルデザイナー」というのは、ゲーム中に登場する各ステージの作成と演出を行う職種。高度なゲームエンジン(効率的なゲーム開発の環境が整備された総合的なツール)の登場によって、プログラムの専門知識を持たないプランナーでもこの仕事を担当することができるようになりました。また、近年はハード性能の向上により、各ステージにおけるストーリーや美術的な演出の重要度が増し、これに伴ってレベルデザイナーの仕事の重要度も大きくなっていると言われています。

1998年にゲーム・エンジン「Unreal Engine」を開発し、このエンジンを使って「Unreal Tournament」シリーズや「Gears of War」シリーズなど、世界的なヒットタイトルを量産してきたEpic Games。そのEpic Gamesのグレイソン・エッジさんが、日本とアメリカのゲーム開発における最大の違いとも言われる「レベルデザイン」について語りました。


エッジさんを含め、複数人の「レベル・デザイナー」を配して、極めて効率的に分業するその方法は、ゲーム開発のみならず、あらゆるプロジェクトに通じる内容となっています。

ブラザーズ・トゥ・ジ・エンド:ギアーズ・オブ・ウォー3におけるレベルデザインとシネマティックの制作の実際 | CEDEC 2011 | Computer Entertaintment Developers Conference

エピック・ゲームズ シニア・レベルデザイナー グレイソン・エッジ(以下、エッジ):
今日は「ギアーズ・オブ・ウォー3におけるレベルデザインとシネマティック制作の実際」にお越しいただき、ありがとうございます。
エピック・ゲームスでシニア・レベルデザイナーを務めるグレイソン・エッジです。


ゲーム業界歴は11年、レベルデザイナーとしては、「ギアーズ・オブ・ウォー」、「アンリアル」シリーズを担当しました。現在は、シネマティックアーティストとしての仕事に加え、製品サポートと、時々このような講演も行っています。

※ゲーム開発において「シネマティック」とは、映画的な手法を用いて、映画のように物語を演出することを指します。この講演ではシネマティックという用語がたびたび登場しますが、シネマティックという言葉になじみのない人は、「ゲームにおける映画的な部分」と解釈しておいてください。


セッションの概略を説明します。

まず、ギアーズ・オブ・ウォーについて紹介します。シリーズの累計販売本数は1300万本。シリーズ通しての受賞数は280を数えています。最新作である「ギアーズ・オブ・ウォー3」は、ギア―ズ1と2のチームによって、2年半かけて開発を行いました。比較的少人数のチームで、80~90人のフルタイムの開発者を抱えています。


本日のセッションでは、ギア―ズシリーズの様々な資料を交えながら、ギアーズ・オブ・ウォー3のシネマティックとレベルデザインについて、お話ししたいと思います。


◆「ギアーズ・オブ・ウォー」シリーズの映画的手法とその目標

最初にエッジさんから、レベルデザインよりも広い視点で、ゲーム開発全体の流れが解説されます。ここではこの講演の全体像から、ギアーズ・オブ・ウォーがシネマティックの面でどんなものを目標としてきたのか、その変遷の経緯が語られています。

エッジ:
本日お話する内容をまとめて見てみましょう。まずはシネマティックの方針の変遷について、次に初期段階(プリプロダクション)から「ポリッシュ」までの工程と、それをどのように進めていくかについて、そして私たちが困難にどう立ち向かったかという適応性と柔軟性について、最後にシネマティックのコツと極意について、という順番で進めていきます。

※この講演で言う「ポリッシュ」とは、ゲームの各パーツのクオリティを上昇させて、ゲームそのものを「磨き上げること」を指します。ギアーズシリーズの開発においては、このポリッシュを重視し、検証とチームからのフィードバックを何度も繰り返して、開発の最終段階までゲームのクオリティを上げ続ける開発スタイルをとっています。


初代「ギアーズ・オブ・ウォー」のときのシネマティックスタイルについて。このときは、手持ちのシングルカメラを使用しました。兵士と一緒にプレイヤーが歩いているような感覚を表現したかったので、動きを多く、逆に顔のクローズアップはほとんど無くしています。静止した絵はなるべく作らず、常に動いている絵を作りたかったのです。ここで映画の撮影技法を導入しました。

これがギア―ズ2になると、ギア―ズ1の雰囲気を踏襲しつつ、より物語の展開に力を入れたいと考えるようになりました。さらにシーンをよりタイトなものにして、いわゆる「フランケン・シネ」っぽさを少なくしたいと思って制作しました。


「フランケン・シネ」について簡単に説明すると、ここではアニメーションが足りない時につぎはぎを行うことを指しているのですが、ギアーズ1のときはそうした作業が発生しました。アニメーションが足りなかったので、ほかのシーンから取ってきたパーツをより合わせて、つぎはぎでシーンを作ったわけです。ギアーズ2ではそうしたことを無くしたいと考えました。

※「フランケン・シネ」とは、 映画監督Fred Wilderによって作られた造語。フランケンシュタイン博士がつぎはぎで人造人間を作ったように、様々なパーツを流用してカメラをカスタマイズしたり、撮影した映像からパーツを流用したりして制作したリーズナブルな映画を指します。

そしてモーションについてもハイクオリティなものを目指しました。ギアーズ1については、モーションがスローダウンしたり、スピードアップしたりしましたが、ギアーズ2ではそうしたことが無いように努めました。一貫性を維持するために、伝統的な映画撮影技法を守った撮影を行っています。

これがギアーズ3になると、ギアーズ1と2の雰囲気を踏襲し、もっとタイトなシーンを作り、フランケン・シネもゼロにすることを目指しました。十分にプランニングを行う事で、フランケン・シネをしなければいけない状況を避けられるのではないかと考えたのです。


さらにギアーズ3では、全体の編集とペースを一定にし、よりリアルなカメラと動きによるシネマティックを目指しています。また、ギアーズ3でも伝統的な映画撮影技法は維持し、一貫性を保った撮影を行っています。全体的にさらにポリッシュをかけ、さらに洗練されたシネマティックを目指しましたが、これは比較的成功したと考えています。

このように、方針はギアーズ1から3まで一貫しているのですが、ポリッシュの度合いに違いが出ています。

◆プリプロダクション:絵コンテ、アニマティクス

ここでは、ギアーズ・オブ・ウォー3の制作の初期段階において行われた「絵コンテ」と「アニマティクス」について語られています。いずれも映画制作の手法ですが、ゲーム開発においても、ゲームのコンセプトをチームで共有するための有効なツールとなっていることが分かります。

エッジ:
続いてプロダクションの前段階、プリプロダクションについて。まずは絵コンテについてです。ギアーズ3においては絵コンテを使いました。絵コンテというのは非常に便利なもので、ディレクターに対して「こういうものがやりたい」というのを視覚的に見せるという点で役立ちます。

これほどキレイな絵コンテではなくて、その場でざっくりと描くようなものもあります。基本的に、絵コンテはシーンの構築のスタート地点で使います。絵コンテによって、そのシーンがどんなものになるのか、早い段階で掴むことができるようになります。


この絵コンテが、シーンに変わるとこのようになります。


絵コンテと同じく、アニマティクスも制作します。これによって、より具体的なビジュアルイメージの共有が可能になります。シーン全体の大まかな把握のために絵コンテを使用します。

アニマティクスは、絵コンテと同じように、スクリプトをビジュアル化することができます。これによって尺を決め、ショット数も決定することができます。ここでペースを決め、ムードを決め、映画を作る上でのスタイルも決定します。デザイナーに対してアニマティクスを見せて、どういうことをムービーでやりたいのか、早い段階でフィードバックをもらい、実装前に変更をかけることができる余裕を持ちます。これによってプランニングも可能になります。

アニマティクスには様々な種類があり、絵コンテをベースにしたものもあれば、エディターベースのものもあり、エンジンを使ったりしたミックスメディアのものもあります。エンジンのみのアニマティクスというものもあります。アニマティクスはシネマティックの準備段階にあたります。


これがアニマティクスの実例です。


シーンによって、登場するキャラクターは誰か、どんなセットが必要なのか、小道具など特別なものが必要なのか、カスタムアニメーションは必要か、そうしたことが、このアニマティクスによって早い段階で分かります。こういったデータは制作において非常に重要で、役に立つ物となります。まず、シーンの全体像を掴み、そこで何が必要かということを掴むのです。


※下のムービーは「ギアーズ・オブ・ウォー3」の公式トレーラーです。絵コンテのシーンが0:15から、アニマティクスのシーンが0:43から、それぞれ収録されています。

Gears of War 3 - "Brothers to the End" Trailer - YouTube


◆「時間が無い」という課題に対処するために

Unreal Engineを使用して効率的にゲーム開発を進めるEpic Gamesですが、「小さなチーム」を志向するため、時間的なリソースは非常に貴重です。ここでは、タスク管理の面から開発を効率化する方法が述べられています。そのための方法のひとつが、「プロダクション・パイプライン」です。どの工程がどこに関係し、全体の制作がストップしないためにはどんな順番で開発を進めていく必要があるのか、このパイプラインが明らかにしてくれます。

エッジ:
次に、ギアーズ3の課題についてお話しします。ひとつ大きな課題としては、「時間が無かった」ということが挙げられます。166本のシーン、103分相当のシネマティックが必要でした。また、「小さなチーム」であるということも制約のひとつでした。そして「どのように皆を組織して、すべてのタスクを達成できる布陣を敷くか」ということも問題となりました。さらに「どのようにストーリー無しのシネマティックを完成させるか」という課題がありました。ギアーズ3のシネマティックは、デザインのみで進んで行くような形で作られています。

解決策として、次のようなことを考えました。まず、「フェーズ単位で制作を行う」ということ。タスクを分けてゆき、それをフェーズに分けて開発を行ってゆくのです。もうひとつ別の解決策として、「アウトソーシング」も利用しました。シーンを作るために十分な時間が無い場合は、シーンの一部をほかの会社にアウトソーシングを行います。

そして、「チームのコミュニケーション」も大きな解決の鍵となりました。ほかのもの以上にコミュニケーションは重要です。我々は毎週のミーティングのほかに、毎日のミーティングも欠かさず行いました。ミーティングの中では、シーンの進捗を見て、きっちりとしたフォローアップを行うのです。しっかりとコミュニケーションをしながら、アーティスト、プログラマー、レベルデザイナー、皆で厳しいスケジュールの中の情報共有と管理を行ってきました。


プロダクションのパイプラインをお見せします。かなり複雑に見えるかもしれませんが、できる限り理解してもらえるように説明したいと思います。

まず、全体としては、フェーズベースで段階を分けて開発を行っています。タスクも細かく分けられています。特に時間のかかるところは、皆で協力してそれに対応していくことにしました。


一番左から見ていきましょう。まず、プリプロダクションのオーディオプレイとアニマティクスを作成します。そこから、アニメーション制作のタスクが下の矢印の流れで動き出して、まずモーションキャプチャーの撮影を行います。並行して、上の矢印の流れではアートレベルやアセットの制作が行われます。その後、段階に応じてレイアウトのタスクが流れていきます。どこかの段階で問題があれば、人員をそのタスクに集中させて、全体の進行が遅延するのを防ぐような対応をとりました。


レイアウトを決定することによって、シネマティックのプロセスが前に進んでいきます。レイアウトが決まってから、ライティングを行い、エフェクトを追加し、サウンドを加えます。ギアーズ3のシネマティックの制作では、このプロセスのパイプラインがどこかで止まることが無いように進行しました。


◆実制作の段階で初期段階での準備が生きる

ここからは実制作(プロダクション)の段階に入ります。これまで初期段階(プリプロダクション)で準備してきた内容が、ここで活きてきます。

エッジ:
シーンのセットアップにおいては、レイアウトでこれまで制作したパーツのすべてが現れます。ここでシーンの撮影も行います。モーションキャプチャーの内容も、ここですべて統合します。シーンに対して変更を施す場合、ここで行うことになります。シーンの最終的なペースやスタイルが、レイアウトの段階で決定されます。そして、プリプロダクションの段階で作ったアニマティクスとシーンをできる限り一致させていきますが、アクターの演技やタイミングなどの細かな要素はここで変更することができます。これらを行った上で、実際にシーンの撮影を行います。


シネマティック制作を進める上で、シーンのカットの決定をどこかで行う必要があります。その後のプロダクション・パイプラインを円滑に進めるために、これは非常に重要です。すべての要素を決定することで、その後の変更を最小限に抑えることができます。ショットを決定し、固定するということも大事です。すべてのアニメーションに対してフェイシャルを行っていくわけですが、ギアーズ3ではこれをショットごとに行いました。


シーンの雰囲気を作る上で、サウンドは非常に重要ですが、軽視されがちです。シーンを早めに確定させることで、より良いサウンドデザインが可能になります。大量のフォーリー録音が必要になりますが、これもシーンを早めに確定させることで、オーディオエフェクトなどに十分な時間をかけて、トライ&エラーを繰り返すことができるようになります。優れたフォーリーと音楽は、シーンの出来栄えを飛躍的に高めてくれます。


シーンを確定したらすぐにポリッシュにかかります。ポリッシュは念入りに行います。オーディオ、カメラ、アニメーションなど、すべてを確定させることが重要です。この段階まで来て、カメラの角度を変えたり、アニメーションを足したり引いたりといったことが起こらないように、パイプラインを進めていきます。

また、最適化もこの段階で行います。30fpsをリアルタイム・シネマティックのために確保します。見た目も最高のものを追及しますが、パフォーマンスを犠牲にしないように注意が必要です。そして可能なところに手を加えていきます。シーンを確定した後にカメラを動かすことはできませんが、シングルカメラを手持ちで使っている場合は、カメラの動きを洗練させたり、ライティングに調整を加えたり、そうした改善は可能です。セットのポリッシュも行います。セットの改善により、シーン全体に磨きがかかります。


いくつかTIPSをご紹介しましょう。シネマティックを何年も経験してきて、私が感じていることは、次のようなことです。まず、編集のTIPSとして、「アクションでカットする」ということが挙げられます。映画撮影でよくやることですが、アクションに対してカットしていくのが良いと思います。

また、ボディモーションの連続性を確保することが大切です。主人公が左を向いたら、次のショットでも左を向いているように、ショットごとに必ず一貫性を持たせるようにして、エラーが出ないようにします。あるショットで走っていたら、次のショットでもちゃんと走っているように。間違っても、あるショットで走っていたのに次のショットでは歩いていたというようなことが起きないように注意をします。ボディランゲージも同じです。ものすごい勢いで腕を振り回して何かを言っていたのに、次のショットで急におとなしくなったというのもまずいわけで、ボディランゲージの一貫性も必ず確保しなければいけないことのひとつです。

カメラに関するTIPSは、ギアーズ3で学んだことですが、FOVとカメラタイプについてです。高いFOVであれば、アクションは速く感じます。我々は手持ちのカメラで撮っているような雰囲気を出すために、高いFOVを使います。小さなレンズを使った場合や、遠くから撮った場合は、少しスローダウンしてしまいます。活発なアクションや動きを演出したければ、高いFOVをお勧めします。また、ある程度の不完全さは見逃したほうが、より好ましいシネマティックが出来上がると考えています。


チームに関するTIPSについて、プリプロダクションのプランニングというのは非常に重要で、プリプロダクションにきっちりと時間をかけないと、問題を後に残すことになります。次に、アートのタスクを複数のフェイズに分けることで、問題が起こった時にも柔軟に対応することができます。

これもギアーズ3で学んだことですが、開発チームの柔軟性というのは非常に重要です。シネマティックスチームのほとんどの人間が、別のチームの仕事もできる能力を持っていました。シーンを撮ったり、編集したりすることが誰でもできるわけです。シネマティクスという作業においては、これが特に重要になります。

コミュニケーションを活発にすることも必要です。チーム内で連携を取り合う上でもこれは非常に大きな助けになりますが、シーンへのフィードバックも、お互いのシーンを見て「あれは良かったね、これはイマイチだったね」といったようなことを話すのも、全体のクオリティを上げるために必要です。また、各自の強いところを活かすことも重要です。例えば、ライティングに強い人間がいれば、その人が最終的にライティングが行えるようなタスクの配置を行います。

また、「ポリッシュが違いを生む」と書きましたが、ディレクターがシネマティックにおいて果たす役割の中で、制作をリードしていくことと同じく、細部に着目することも肝要です。カメラワークやライティングをしっかり確認し、細かい部分のポリッシュをきっちりと行っていくことが、シーン全体の質を高めてくれます。そして、最後に「シネマティックは終わらない」ということも学びました。改善は常にできます。


◆レベルデザインの実際:コンセプトの決定とそれをいかに広げるか

ここまでゲーム開発全体の進行を見てきましたが、ここからは「レベルデザイン」に焦点を当てた内容に入ります。エッジさんは、ギアーズ・オブ・ウォー3の主要なステージのひとつである「Raven's Nest(主人公たちの乗る船のステージ)」のレベルデザインを行いました。このRaven's Nestを実例として、レベルデザインが実際にどのように行われたかが語られています。

エッジ:
次にレベルデザインの話に移ります。これは、我々が「ギアーズ・オブ・ウォー3」のレベルデザインにおいて行ったことの一覧です。ストーリーなどの上流工程のコンセプト作成から、ファイナルポリッシュに至るまで、どのようにレベルデザインを行ったのかをお話しします。


まず最初はライターやデザイナーが集まり、その中でストーリーを考えていきました。上流のコンセプトについては、非常に大量のディスカッションを行っています。この段階で、新しいキャラクターを入れるのかどうか、ということについても話し合っています。

全体のストーリーが決まった後、レベルデザイナーにそれぞれの作業を振り分けます。レベルごとの内容を1ページにまとめた「サマリー」を作り、これをレベルデザイナーに渡します。それからレベルデザイナーはそのサマリーに従って、詳細を描き込み、内容を濃くしていきます。


続いて、「ブレインストーミング」についてお話しします。ストーリーができた後、どのようにレベルデザインを進めていくかという話です。

まず最初、「3ページャー」と書いてありますが、先ほどお話しした1ページのサマリーを、3ページに拡張した物を作ります。これをもとに、全体のレベルデザイナーが集まり、全体のレベルデザインの中で、どんなクールなことができるかということを話し合います。これがブレインストーミング・ミーティングです。


その中で、例えばレベルの主な雰囲気を決定していきます。防衛している感じにするのか、不気味なものにするのか、それとも狂騒的なものにするのか。Raven's Nestに関しては、まず最初はゆっくりとした展開で、最後にテンションを上げていこうという形に決めました。

さらに、事件が起こる時間帯も決めます。Raven's Nestでは、夜ではなく、早朝の設定のほうが良いだろう、ということになりました。ゲームプレイにどのくらいの時間がかかるようにするか、進行のペースはどうなのかについても決めていきます。Raven's Nestでは、32分~1時間にすると決めました。

また「驚き」の要素を入れるかどうか、ということについても話し合いました。Raven's Nestに関しては、巨大な魚のモンスターが大きな船を襲うというシーンを入れています。

それ以外に、どういった武器やクリーチャーをレベル上に配置するのか、他のゲームに出てこないような特有の要素を入れるのかどうかを検討しました。イントロでは新たなキャラクターを導入しています。さらに、ストーリーやキャラクター同士の会話に関して、レベルに関するセリフを入れるのかどうか、ということについても話し合いました。

◆フィードバックをもらうための仕組み「シェリング」

ギアーズ・オブ・ウォー3の開発では、無駄を排除して開発を進めつつ、可能な限りチームのメンバーからフィードバックを得る機会を作るというスタイルがとられています。「シェリング」は、無駄をなくすこととフィードバックを得ることを同時に達成するための仕組みで、これによって細かいデザインに入る前にゲームを動かせるようになり、コンセプトは正しいのか、実際のゲームはどんなものになるのかを、改めて確認することができます。

エッジ:
次に、「シェリング」という作業に入ります。ここは我々にとって一番楽しい部分になります。シェリングの段階で、このレベルはどんなものになるのか、大まかに見えてきます。


シェリングは、「シェル」の全体像を決定する工程です。まず、キージオメトリーとフローを決定していきます。BSPやシンプルメッシュといったツールを使います。

さらにシェリングでは、ゲームプレイの全体像も決定していきます。ここで、キズメットでのスクリプティングを決めていきます。ゲームコードが無い部分がある場合、例えば新モンスターや新しいキャラクターがいる場合、POCという手法を使います。さらに、会話シーンなどのテキストが固まっていない場合は、ロボットの声を当ててテストを行います。

シェリングには2~3週間かかります。これによって骨組みが確定します。この中でまずテストを行いますが、色々な人からフィードバックをもらうには非常に良いタイミングです。全体のコンセプトがいいのかどうか、まだこの段階ではすべてが分かるわけではありませんが、フィードバックをもらうにはベストなタイミングです。


これは早い段階でのRaven's Nestのシェルです。廊下ですね。テクスチャは真っ白でフラット、凝った照明もありません。シンプルに作られています。


これもRaven's Nestの初期のシェルです。船とコンピューターですが、非常にシンプルです。コンピューターのテクスチャにはなにも描かれていません。このようなシェルが配置された状態で、ひとまずプレイ可能なステージが作られます。これで、どんな雰囲気になるのかが大体見えてきます。これを作ることで、フィードバックを受けやすくなるわけです。


そもそもなぜシェリングをするのか、ということですが、やはり変更がかけやすいためです。コア部分が出来上がるまでアートを実装しないわけですから、出来上がってから変更してしまって無駄が出ることが少なくなります。また、最終製品版までのロードマップを提供してくれます。


例えばRaven's Nestでは、シェリングによって、船がどんな大きさになるのか、内部はどんな広さなのか、閉所恐怖症を喚起しそうな感じなのか、こういうことがすべて確認できます。

こうしたものを見てもらうことによって、フィードバックはしやすくなるし、新しいアイディアも出やすくなります。非常に良いアイディアがここで出て来ます。例えば、Raven's Nestを攻撃するモンスターが出てくるシーンで、船の中からモンスターを攻撃できるようにするべきじゃないか、とか。


◆「Proof Of Concept(コンセプト実証)」による効率化

アンリアル・エンジンによるゲーム開発を行う際、レベルデザイナーは「アンリアル・キズメット」というツールを使って、「POF」を作ります。キズメットは視覚的にアイテムやキャラクター、モンスターなどのモデルを作って、仮にゲームに実装することができるため、実際のコードを制作するコーダ―にとって、レベルデザイナーがどんなコードが求めているのかを理解することが容易になります。

エッジ:
モンスターのPOCをお見せします。これはPOCのコンセプトです。このモンスターは新しいモンスターなので、ゲームに実装するためコードがありませんでしたが、「キズメット」によって素早く作ることができました。このモンスターは延べ10時間程度で作っています。。


改めてPOCの意味ですが、POCとは「Proof Of Concept」、コンセプト実証のことです。新しく導入したアイテムを素早く実装し、検討することができます。また、開発チームに見せるための設計図にもなります。新しく作ろうとしているものがどうなのか、実際に見せることができます。コーダ―にとってもすごく分かりやすくなります。パッと見せることができるので、「ああ、分かったよ」とコーダ―もすぐに返事ができるわけです。


これはかなり初期のものですが、戦艦が巨大な魚のモンスターを撃っています。これはすべてキズメットで作りました。


◆「ビジュアル・パス」と「スクリプティング・パス」

ここでは、ゲームの美術面とプレイ内容の面をそれぞれブラッシュアップする段階について語られます。「ビジュアル・パス」ではゲームの映像面が、「スクリプティング・パス」ではゲームプレイの内容面が作り上げられます。ここでも検証とフィードバックのシステムが働いていることが分かります。

エッジ:
ビジュアル・パスの話に進みたいと思います。ビジュアル・パスは、どのようにしてレベルをさらに美しくするのか、という段階です。Raven's Nestの例を使ってお話しします。


シェルを作った後、コンセプトアートを作ります。左がRaven's Nestの「巣(Nest)」のコンセプト図です。右はRaven's Nest全体の外観です。こうしたコンセプトアートを使って、シェルに肉付けをしていく時のメッシュなどについて検討します。


これはブレイクアウト・シートというものです。左上にコンセプト図があります。これをバラバラにして、それぞれを詳しくメッシュで表現していきます。屋根、柱、壁など、部分に分かれていて、それぞれのピースについてメッシュで表現していきます。


ビジュアル・パスの目的を並べてみました。Raven's Nestにおいては、まずメッシング。メッシュを入れて、ちゃんと船に見えるかどうか。ライティングで全体的な雰囲気や気分を演出します。また、パーティクルFXについてもこの段階で入れます。例えば火を噴くとか、イベントで蒸気が出るとか、そういったものです。

このように、ビジュアル・パスの段階で全体的な雰囲気が確定します。全体の中でビジュアル・パスは2回行われ、ここでグループ・フィードバックを受けます。これによってビジュアルの担当者がフィードバックを受け、それを確認する時間を得ることができます。


次のステージは、スクリプティング・パスです。スクリプティング・パスの目的は、ゲームプレイの体験を洗練させることです。また、アニマティクスやシネマティクス用の仮モデルを使って、ゲームの実際の長さを想定します。ここで主要なオーディオや会話も追加します。声優の声をここで入れます。

こうして全体のプレイ体験がどんなものになるかが決定されます。この段階で、AIとゲームコードの大部分が動作可能という状態までもっていきます。スクリプティング・パスも、全体の中で2回設けることで、スクリプティングとビジュアルチームが併行して作業が出来るようになっています。


スクリプティング・パスの段階のゲーム画面です。まだ完全ではありませんが、かなり完成に近づいています。


◆ゲーム開発の最終段階「レベル・スウォーム」と「ファイナル・ポリッシュ」

ビジュアル・パスとスクリプティング・パスを経て、ゲームの全体象が出来上がりました。ここからはゲームの内容を「ポリッシュ」していく段階に入ります。その中で、Epic Gamesではまず「レベル・スウォーム」によってポリッシュのためのタスクを分配します。何をすべきか、優先順位は何か、あらためてレベルデザイナーたちが集合し、検討を行い、ファイナル・ポリッシュへの道筋を作ります。

エッジ:
次はレベル・スウォームについてお話したいと思います。ビジュアル・パスとスクリプティング・パスを経て、ラフな形ながらゲームの形が出来上がり、ここからポリッシュをかけていくわけですが、ここでレベル・スウォームが始まります。


レベル・スウォームでは全員が細かなチームに分かれていきます。企画、レベルデザイナー、ゲームプレイプログラマー、プロデューサー、FXアーティスト、アニメーター、ワールドアーティストが一堂に会し、ゲームをポリッシュしていくためのタスクを決めます。

レベル・スウォームは大体、4週間くらい続きます。レベル・スウォームは2-3回に分けて行われます。

我々がこのレベル・スウォームから学んだことは、まず処理すべきデータは非常にたくさんあるということです。それらを個別のレベルデザイナーに割り振って、問題を解決していく必要があります。ですから、しっかりとデータをフィルタリングし、優先順位をつけ、適切な形での振り分けを行うことが重要です。

また、スウォームの数を限定することも重要です。レベルデザイナーがミーティングの準備をしてレベル・スウォームに参加するわけですが、その準備にあまりにも多くの時間を使ってしまわないような配慮をしました。最終的なポリッシュに向けて、全体がうまく運んでいるかどうかを、レベル・スウォームにおいて確認します。


最後の段階は、ファイナル・ポリッシュです。


チームとしてどのようにポリッシュをかけていくかということですが、主なスタッフが一番自分の力を発揮できるところに配属されます。担当者によって能力が違うので、ファイナル・ポリッシュではビジュアルはビジュアルに強い人間、スクリプトはスクリプトに強い人間に、最終的な仕事を割り振っていきます。リードに関しては、彼らがこのファイナルポリッシュの全体的な責任者となります。

「試練から専門家を育てる」と書いてありますが、プロジェクトを通して誰が何を一番上手くやりとげたかを確認します。チームの中で、ディテール志向なのは誰なのか、大筋志向なのは誰なのか、こうしたことを検討して、次作では大筋志向の人をプリプロダクションに配置したり、ディテール志向の人をポリッシュに配置したりします。


それ以外にも、組織で行ったこととして、エピックでのグループテストを行いました。レベルデザインのテストを行い、その中で一番よく最適化出来た人を発見していくという作業も行いました。また、アーティストのデザインがあまり上手くできなかった場合、レベルデザイナーと組ませて試行錯誤させ、レベルを上げていくということも行いました。

「情熱と積極的な態度」とありますが、例えばライティングがすごく好きな人がいたとします。そういう人には、チームのメンバーに対してライティングの教育を行ってもらったりします。こうした適材適所が非常に大きな違いを出すということが、ギアーズ3では非常によく分かりました。ギアーズ3ではレベルデザイナーが適切に配置されていて、適材適所の良い例となったと思います。


※こうして完成した「Raven's Nest」のプレイムービーが、下のものです。洗練され、迫力のあるステージに仕上がっています。

Gears of War 3 - E3 2011: Gameplay Demo - YouTube


◆レベルデザインを成功させるために

エッジ:
レベルデザインを成功させるためのキーポイントをまとめてみましょう。

まず、お互いにフィードバックを出し合う必要があります。プロダクトを常に反復し、その中でまたフィードバックを行い、常に改善を繰り返していくということです。我々のペーシングに関してもそうです。良いペースで仕事をしていくということです。

また、記憶に残るような瞬間を作ることも大事です。ちょっと休憩をして、周りのみんなと過ごす時間を持ち、鋭気を養ってまた仕事に戻ります。

また、レベルデザイン・リードを行う人というのは、ハードコアゲーマーであるというのも重要なことです。製品を作るためには、製品をしっかりと理解し、マーケットを理解する、そうしたハードコアな部分が必要になります。ゲームが好きということも大事です。

最後に、良いゲームを作るためには諦めない、ということが重要になります。我々はこれをチーム全体へのメッセージとして常に持ち、これによって素晴らしい作品を作ることが出来たと考えています。


ご静聴、ありがとうございました。

◆質疑応答

Q:
レベルデザイナーが何人もいるということでしたが、あるステージでの変更が次のステージに影響を及ぼす場合、齟齬が生まれたりしないのですか?

エッジ:
コミュニケーションの問題だと思います。そうした場合は電子メールで送るのではなく、席から立ち上がり、チームのメンバーのところまで歩いて行って、明確に、顔を合わせて言う。必要ならオフィスの中をウロウロ歩き回っても、直接話しに行くということを重視しています。

また、組織内にツールがあります。エディターが使っているものですが、パーフォースというツールで、これはマップのチェックを行うツールです。ひとつのマップに対して2人が同時に作業を行わないようにする、ということもできます。また、レベルの分け方にも工夫が要ります。


Q:
一部アウトソースされたということですが、どの程度アウトソースしたのでしょうか。

エッジ:
アウトソースについては、一部のシーンのみです。166シーンの内、8つのシーンのみをアウトソースしています。アウトソースをする場合というのは、本当に忙しくて時間が無い場合に限定しています。また、シーン全体をすべてアウトソースすることもありません。最初のレイアウトの部分だけをアウトソースするということはあります。


Q:
コーダ―が実装を行う前の段階で、レベルデザイナーがキズメットを使って色々な実験を行うということでしたが、チームの中でどれくらいの人がキズメットを使えるのでしょうか。

エッジ:
チームのほとんどの人間、特にレベルデザインに関わる人間は全員がキズメットの使い方を知っています。しかし、その腕には差があって、非常に上手く使いこなしている人と、基本的な使い方ができる程度という人もいます。日常的にキズメットを使っているのは、ローカルデザインの部門で10人というところでしょうか。

Q:
ありがとうございました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
最強クラスのゲームエンジン「アンリアル」でリスクを抑えてゲームを作る方法 - GIGAZINE

まるで実写、海外製ゲームエンジン「CryEngine3」の技術力がどれだけすさまじいかが実感できるムービー - GIGAZINE

「日本のゲームが持つ問題点」や「開発における日本とアメリカの明確な違い」を最前線にいる当事者がハッキリと語る - GIGAZINE

日本のゲームは今後どのように進化していくのか、「CESA ゲーム開発技術ロードマップ」公開 - GIGAZINE

in 取材,   動画,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.