取材

オリジナルスタッフが当時を語る「serial experiments lain」イベントレポート・完結編


10月27日に発売となった「serial experiments lain Blu-ray BOX|RESTORE」の発売を記念して、シネ・リーブル池袋で第1話&第12話の上映会とゲストトークイベントが開催されました。

Part1ではリストア作業に携わったスタッフを中心に苦労話が披露されましたが、Part2では1998年に放送されたときのオリジナルスタッフが集結、なぜあの時代にこの作品を作ったのかが語られました。

トークイベント第2部はゲストを入れ換えて行われました。登壇者は里見哲朗さん、yasuyuki 上田(上田耕行)さん、安倍吉俊さん、小中千昭さん、安部正次郎さん……の予定でしたが、安部正次郎さんは仕事のために来られなかったとのことで、代わりにバーガー鈴木(鈴木誠二)さんが登壇しました。


里見哲朗(以下、里見):
いわゆるオリジナルスタッフの皆さんです。改めて自己紹介をお願いします。上田さんから?

上田耕行(以下、上田):
俺は別にいいよー。

里見:
では、小中さんからお願いします。

小中千昭(以下、小中):
脚本担当の小中千昭です。今回のBlu-ray版では本当に何もやっていないけれど、強いて言うと7話と11話のデジタルパートかな。「あの素材、ないですか?」って聞かれて実家を探したらあったというところですね。

上田:
一度はないと言われたんですけれど、改めて探していただいて……。偶然ちょうど「scenario experiments lain the series(シナリオエクスペリメンツ レイン)」が復刊ドットコムさんから復刊されて、Blu-rayに当て込んだわけじゃないんですけど、いいタイミングでした。

安倍吉俊(以下、安倍):
キャラクターデザイン原案の安倍です。

上田:
めちゃくちゃ眠そうだね。

安倍:
ちゃんと寝てはいるんですけれど、生活スタイルがちょっとムチャクチャで。大丈夫ですよ、がんばります。

左から鈴木さん、安倍さん、小中さん、上田さん、里見さん。


バーガー鈴木(以下、鈴木):
何で壇上にいるのかわかりませんが、どうも、バーガー鈴木です。中村隆太郎(監督)を何とか来させようとしたんですが、「僕なんていらない人間なんだ」とすっかりダメ人間になってしまっていました。ただ、メールはつながっているので、まだワイヤードとリアルワールドが繋がっているんだなと実感しています。代わって御礼申し上げます。


上田:
もともと企画を持って行ったときに「これなら監督は中村隆太郎がいいよ」ということで紹介してくれたのが鈴木さんです……それ以外は別に何もしていないよね?(笑)

小中:
宣伝担当だったし、僕らのAXでの連載とかいろいろやってくれていましたよ(笑)

里見:
そして今日、もう一人シークレットゲストの人を……。

上田:
え!?もう?

里見:
当たり前じゃないですか。だってこんな男5人のトークは見たくないだろ……Ustream的に、絵面的にも。

上田:
なんて失礼な!

里見:
というわけで、シークレットゲストの方が一人いらっしゃいます!

上田:
誰だ!?……なーんて。

里見:
なーんてね。(誰も現れず)……準備できていないのかな?

上田:
ゲストもまさかこんな早々に呼ばれるとは、だよ。何という段取りの悪さ。

里見:
えー、ゲストは清水香里さんです。

清水さんが登場。


清水:
どうもみなさんこんばんは、清水香里です。よろしくお願いします。……早いですよー。

里見:
僕がもらった最終台本では皆さんを紹介した後に「もう一人います」と紹介してくれとありまして。今、みなさんに自己紹介してもらったので、この作品でデビューした清水さんも何か一言お願いします。自己紹介と、「lain」で何をしたか。わかってない方もいらっしゃると思うので(笑)

清水:
「serial experiments lain」で岩倉玲音役をやらせていただいた清水香里です。改めてよろしくお願いします。


里見:
今、僕らの目から見ると錚々たるメンツですよね。

上田:
……なにが?

清水:
キャストが?

里見:
ここに居る方たちって、僕みたいな身からすると業界の“リビングレジェンド”が並んでいる状態なので……。

小中:
過去の人たち?

里見:
いやいや、“生ける伝説”たちが並んでいるような感じです。

小中:
清水香里ちゃんは玲音だけをやったわけじゃないよね、予告編でさ…

上田:
あの児童虐待的な映像(笑)

里見:
当時いくつでした?

清水:
当時15歳、中学3年生ですね。

里見:
中学3年生にあれをやらせたんですね。誰が?

清水:
このプロデューサー様が(笑) あの当時は声のお仕事も初めてで何もかもわからない状態で、これはきっと必要なことなんだなと(笑)

里見:
12年経ってみてどうですか。

清水:
今考えるとギリギリスレスレのラインだなと思いますね。

(会場笑)

里見:
中学生の若い役者がやらされてたら止めるぐらいですか?

清水:
そうですね、うちの事務所の後輩だったら「ちょっと待って」と言うかもしれないですね。

上田:
あの頃は俺も無我夢中だったので。


小中:
なんで無我夢中で顔出しを撮るわけさ?

上田:
なんでだろうね?予告を何か作ろうと言ったときに、あのころは若かったのもあって、普通のテレビと同じようなのはやりたくないなと考えて……。どうしたらいいかと、へたくそな絵コンテもどきみたいなのを描いて監督に見せたら「別にいいんじゃないですか?」と。それで、毎回アフレコの後に、ね。

清水:
今日は耳、今日は目、今日は指を撮ります、みたいな感じでした。

上田:
本当になんだったんだろうね。

小中:
擁護しておくと、素材がなかったんだよね。予告用の。

里見:
当たり前ですけれど、次回予告って次回の素材がないと作れないんですよ。

(一同爆笑)

上田:
確かにそうではあるけれど、前から計画していた……つもりではあるけどね。

里見:
予定通り?

小中:
(清水さんは)「lain」ではそんなにアイドル的な売り出し方をしていたわけでもないのに。

上田:
作品は暗かったからね。でも、アイドルですよ。

里見:
どうやって清水さんにたどり着いたんですか?

上田:
いろんなところで喋ってるけれど、脇役は役者さんできっちり固めることにしたけれど、玲音は不確実というかあやふやな感じにしたくて、120人ぐらいでオーディションをやり、素人の方を何十人も見たり、事務所所属でまだそんなに現場経験がなくて初々しい人のサンプルを送ってもらったりしました。本当に素人すぎる人は声が出なかったり、技術的に厳しかったりした中で、自分の持ってるイメージに近かったのが香里ちゃんだったので「これだ!」と決めました。それで顔を見たら可愛かったから「顔で選んだって思われたらイヤだな」と思いつつも「この子で行こう」と。オーディションを受けてくれた人には悪いけれど、あの中で可能性があったのは香里ちゃんだけだった。

清水:
ありがとうございます。私は玲音役に決まっていなかったら今ごろどこかで主婦をやっていたと思います(笑)、まさか声のお仕事をさせてもらえるとは思っていなかったので。


里見:
いわゆる声優事務所的な流れではないってことですね。

清水:
もともと子役出身で、ライブ活動とかをやっていたときに、こういうアニメのオーディションがあるけど受けてみる?と言われて「はい」とわけも分からずに受けることになりまして。声だけのオーディションというのが初めての経験で、何をして良いのかが全く分からず。

里見:
映像を見ても何してるのかわからないですもんね。

上田:
(片言で)ナニヲイウンダ、キミハ!

清水:
アフレコがはじまってからも、ほぼ記憶がないぐらいに緊張してテンパってました。

上田:
普段のかおりんは、「何聴いてるの?」って聞いたら「GLAY!」とか言ってたね。

里見:
宇宙人だけに?

上田:
そのグレイじゃなくて(笑) ちょっととんがった、大人びた子だったよね。

清水:
そうですね、14歳~15歳ぐらいは気持ちが一番スレてた時で(笑)、とんがってたし、「けっ、大人なんて」って思っていた時期でもあったので。


上田:
そんな黒いかおりんの裏側も撮ろうと追いかけていたわけですよ。

里見:
予告とかウェザーブレイクとか……あと、小中さんの「宇宙人画像、実写」とかね。ずいぶん実写を多用していましたよね。

上田:
どうなんでしょう、小中千昭さん的には。

小中:
要するにもう、7話はともかく、11話あたりはもうさすがに現場が……

上田:
ねえ。

里見:
すいません、オレ、いい話にしようとしたのに(笑)

小中:
今日は隆太郎さんが来られないということで一ついい話をしようと思います。隆太郎さんは酔っぱらうと色々喋るんですけれど、酔わないと喋らないので、いつも会うのは居酒屋なんですよね。で、あの人は公共交通はあんまり乗らない、乗れない人なんだけれど、「lain」のアフレコは浜町でやっていたからヒィヒィ言いながら地下鉄の階段を上がったりしていたらしいんだ。最終話のとき、ふと階段を見上げたら香里ちゃんがいたんだって。それで「おはようございます」って挨拶をされた時に「清水香里が天使に見えた」って。

清水:
初めて聞きました。

鈴木:
酔っぱらうたびに言いますよ、それ。「あのときの香里ちゃんは、本当に僕にとっての天使だった」って。

清水:
そうなんですか。

鈴木:
階段を上るのもイヤだったという時にその姿を見たんだそうで。

清水:
あ、じゃあ、今は会わない方が良いかもしれない(笑)

小中:
大丈夫ですよ。「神霊狩/GHOST HOUND」では準レギュラー、ありがとうございました。

里見:
安倍吉俊さんとは?あまり喋ってらっしゃらないので。

上田:
もう、さんざんあらゆるところで言ってるもんなあ。

里見:
何かおもしろおかしく……。

小中:
今度出たBOXで久々に玲音を描いて「似てない」とか言ったらしいよ。

安倍:
よくあるんですよ、あれは似てなかったので描き直して、2枚目の絵になってます。そのことについて話そうかなと思ったんですが、僕、今までやってきたアニメのジャケット、1巻は全部ボツにされて描き直したことを思い出して「またか……」って。

上田:
あれ?「灰羽連盟」は俺、ボツにしたっけ?

安倍:
「灰羽」はCOG.0ってパイロット版があって、あっちが本当は1巻だったんじゃなかったかな。本来の「灰羽」の1巻、僕は6時間ぐらいで描きましたもん。

上田:
うん。いい絵だよ、あれは。

安倍:
なんか、「自分がボツにしたおかげでいい絵が出た」みたいなことになってる(笑)。

上田:
安倍君はこの業界では特殊で、彼は「イラストレーター」ではなく日本画もやっている「画家」なんだよね。同じキャラクターとか造型のモノをきっちりイラストレーションにして伝えなきゃいけないという部分がものすごく欠けていて、キャラクターの気持ちがどういう心情であるかというのが思いっきり線に出ちゃって、普通の目から見ると「似てねええええ!」というのがあったりするんですよ。その中で、彼の画力や魅力と、普通の人が見て「似てねえ!」って言うのとのギリギリの境界線に落としていく、それが僕の仕事かなと思って。

小中:
でも、聞いたら安倍君がボツになったやつをキャラは直さず背景しか直していないのに、「今度のキャラは違うね」と言ったって。

上田:
まるで俺がボケてるみたいじゃない!(笑)

安倍:
2枚目も相当モメたじゃないですか。この場面とこの場面では背景がちょっと違うよって送ったのに、「顔のココのところが、こっちのはこうなのに、こっちではこうだ」って。顔は僕は弄っていないぞ、と。

上田:
あ、思い出した。俺も自分の心理状況で絵を見ているので、そういう間違いもあるかもしれない。

里見:
リビングレジェンドも長く続けるといろいろと起きますわな。

上田:
そういう意味では、毎回新鮮なものが上がってきたりしますよ、「今こんな気分なのねー」とか。「灰羽」では「あれ、これって大人のクウを描いたつもり?」って聞いたら、「いや、普通に描いたつもりです」ということも。でもあれ、自分で見返して「やべっ」とか思わない?

安倍:
え、どの絵ですか?キャラクターデザインのやつ?パッケージ?

上田:
特典のカードかな?

安倍:
いや……今見てもそんなには……。

上田:
そうですか、いや、私の一方的な思いだったようです。

小中:
というかね、絵のオリジネーターに「似てない」は違うだろって思うよ(笑) そりゃ、オンエア直後にサントラの絵を見たときは俺も「あれ?これ、玲音かな?」って思ったよ(笑) でも、そういうのを見続けているからさ、安倍君の中ではそれぐらいシフトしているってことを受け入れないとダメだよ。

上田:
いやいや、お客さんあってのものですよ。

里見:
えぇ?自己満足くさいですよ?

上田:
いや、安倍を大事に思うからこそ、あえて言いづらいことをね、「叱ってくれる人って大事だよね」というのを地でいっているつもりですよ。

里見:
それは本人を前に言うことじゃないよね。

(会場笑)

里見:
僕が本題として聞いてみたかったことなんですが、12年前に何を目指してコレを作ったの?

上田:
……なんだろうねえ?

里見:
トークのPart1でもちょっと話しましたけど、やっとパソコン通信からインターネットにシフトして、僕の会社にはパソコンが1台だったという時代に、どうして上田さんはこのメンバーを集め、何を描こうとしたんですか?

上田:
何も描いちゃいないとは思うんだけれど、僕はそんなにアニメに詳しくなかったので……

里見:
今も詳しくないですよね?

上田:
まぁまぁ、今もあんまり詳しくなくて、申し訳ないゲソ!

里見:
ゲソ!

上田:
ゲソ!これぐらいは知ってる。

里見:
ありがとう~、でゲソ。

上田:
だって、知らないでしょう?

(小中さんと安倍さん、顔を見合わせて首を振る)

鈴木:
知ってるじゃなイカ!

上田:
そりゃ宣伝だから当たり前だよ!(笑) それで知らなかったらシャレにならん。で、何を話そうとしてたんだっけ。

里見:
どうして当時これを作ろうと思ったのか。

小中:
最初はプレイステーションのゲームで、スタンドアローンなゲーム機なんだけれどネットに繋がっているという体のシステムを考えたのが、Part1のときに名前の出ていたCGとかをやってくれた中原順志くん。「じゃあネットってなに?」ということで考えていったんだったと思う。

上田:
あとはみんなパソコン大好きな人たちが集まっていたので……。

里見:
やっと最近、内容が最近わかってきましたよ。「IPって何?」とか。

上田:
1回、「プロトコル」で大げんかしたよね。

小中:
今でもよく思い出すよ、トライアングルスタッフの小さなスタジオで会議をしていて、安倍君もいて、「プロトコルとは何か」ってことで大げんかしたこと。


上田・小中:
「「お前はプロトコルのなんたるかをわかってない!!」」(笑)

里見:
作中では全然説明してくれないじゃないですか。

上田:
説明はしてるよね?俺たちが知識あるからわかっているだけなのかな。

小中:
テーマではないから、それは別に説明しなくても良いかなと。でも、プロトコル、IPということについては僕も上田プロデューサーも当時勉強していて、あのころLinuxサーバを立ち上げたりとかしてた。

上田:
サーバは……お遊びではやってたかな?

小中:
それを僕はフィクショナルに変換しようとしたのに、「お前はプロトコルをわかっていない」って。

上田:
逆、逆!それはもう全然逆!

里見:
この初プロデュースの男がですか?

上田:
シナリオについて隆太郎さんが「うーん、うーん」って言っていて、突然千昭さんがキレて、打ちのめされて帰って行く、という感じでしたよ。公平な安倍君の目から見てどう?

安倍:
いや、オレが居るところでそんなにめちゃくちゃには……上田さんからは、メールですごいやりとりをしていたというのは聞きましたよ。小中さんからメールが来て、それでカーッとなって言い返しちゃったみたいな話。

上田:
プロトコルでケンカしたのは覚えてますね……。あと、海外から戻ってきたら(制作会社の)トライアングルスタッフの仕事が全然進んでいなくて、「こんなことでどうするんだ!」って怒りの文章をA4に3枚ぐらい書いて夜中にFAXをガーッって送った。どんな電話がかかってくるかなと思ったら、「上田さん、白紙が3ページ送られてきましたけど」って。

(一同笑)

上田:
あまりにも怒りすぎて、表裏を間違えてた。ものすごくテンション下がりましたよ。

里見:
怒る気をなくしますよね。

上田:
「いや、なんでもないです」って(笑) あと、アニメじゃなくてゲームの方だけれど、アフレコのために会社中のMacをつないでムービーパートをQuickTimeでレンダリングして、夜中じゅう頑張って、アフレコに向かったりとかね。

里見:
アフレコが終わったらレンダリングが終わっている、ということ?

上田:
いやいや、アフレコのために。当時、LCいくつとか、そういうショボショボのMacまで動員して、使えそうなMacは全て使ってレンダリングしていました。

里見:
なんか、楽しそうですね。

上田:
いやいや、アフレコは日にちが決まっているから、そこまでに持って行かないとダメだから必死だよ。

里見:
会社にMacがたくさんあってよかったです、みたいなことですね。

上田:
まったくです。

小中:
さっきレストアの話の時に出てなかったけれど、4:3よりも広くしたことでセルバレ(画面外になる予定なので汚れていたり絵が描かれていなかったりする部分が出てしまうこと)したけれど、それをどうしたかみたいな話はしないの?

上田:
え、伸ばすだけだよね。

小中:
いやいや、この人(上田プロデューサー)、1フレームずつ描いてるの。アニメーターみたいな事やってんの。それって、メーカープロデューサーのすることじゃないよね。

上田:
斉藤くんチームでレタッチした方が圧倒的に多いですよ。

里見:
でも上田さんがその場でやったり?

上田:
そうだね、「斉藤くんから全然あがってこないなー、あ、ここ、おれがやっといたほうがいいかな?」みたいなところはね。

小中:
良いか悪いかは別としても、「lain」という作品は上田さんのパーソナリティと重なる作品になってるよね。

上田:
中村隆太郎という監督は特異な監督で、プロダクション(アニメ制作会社)もプライドがあって、外の血を入れるというのは当時はかなり作画チームに対して申し訳ないというのもあったんだけれど、面白いものを作るために、イヤな立場のところだったんだけれど、それを切り開いていったというのはあるよね。

里見:
原画マンさんの描いた原画の上に加工を乗せるということ自体嫌がられる風潮がありましたよね。

上田:
今みなさんが見ているアニメだと、なめらかな線だとか雰囲気のある絵をよく見かけると思うんですが、ぱきぱきっとした絵にエフェクトをかけることは、当時は作画から「うちのキレイな線をにじませるというのか!」とすごく怒られたりすることだったんですよ。その間に立ってくれていた中村隆太郎というのはすごいなと。

小中:
隆太郎さんという演出家は、僕から見ると宇宙人のように、突然異様な演出をする人のように見えていたんです。でも100%中村隆太郎フィルムである第1話を見てみると、隆太郎さんはもともとマッドハウスからキャリアをスタートさせた人なんだけれど、ところどころ出﨑タッチがあるということに気付いたね。だんだんとそれはなくなっていくんだけれど、突然変異で現れたんではなくて、出﨑統さんとかを見て育った中村隆太郎という演出家のエポックな作品として位置づけられるんだろうなと、ファン的な、観客的な視点では思いました。

里見:
それぐらいの演出力がないと、このバラバラな素材を1本にまとめるというのはなかなか…。

上田:
「演出が良いな」というのは、当時1話を見て「これで売れなくてもいいや」と思うぐらいに感銘を受けたんですよ。技術的な部分はさっぱり分からなかったけれど、今回のリストアをやって1カット1カットの繋ぎとかを見ていくと、すごく良い勉強になった。

里見:
今の目で見てすごいなと。言葉の意味も分かったし(笑)。「出来の良いデュープのくせに」のデュープがわからなくて、後年、ひたすらデュープさせられることになるとは思わなかった、という。「要するにデュープってコピーだ!」ってだんだん分かってくる、時代が追いついてくる感覚です。

小中:
僕はあんまり清水香里ちゃんとは直接話をしたことがないんですが、「その当時どうだった?」というのは散々聞かれたと思いますけど、どうでした?

清水:
あのですね……正直、玲音をやっているころ一番辛かったのは「取材を受けること」でした(一同笑)


清水:
「まずはこの作品のストーリーを教えて下さい」って言われたとき、何て言ったらいいんだろう?って。役の心境や置かれている状況はわかるんですけれど、じゃあこの人は誰だろう…ね?みたいな。

里見:
定番の「玲音ちゃんってどういう子ですか?」みたいなやつですか。

清水:
そうですね、台本では漢字で書かれている「玲音」と、カタカナで書かれている「レイン」と、アルファベット表記の「lain」がいて、これをどう演じ分けているんですか?だったらいけるけど、どういう存在ですかという変化球が来ると「……はい」と(笑)。アフレコ自体も始めてで、音響監督さんからの指示もまるで宇宙にいるような感覚でした。「このカットはテレコで」って、前のカットと後ろのカットが入れ替わることですけれど、「テレコ!?」って意味が分からなかったので、隣に座っていた山崎たくみさんの台本を見て「ああ、なるほど」と写したり。アフレコ用語もわからないし、セリフの意味も難しいし、でも一生懸命演じないといけないし、ということで、3話ぐらい終わったあとに緊張とプレッシャーで体調を崩してしまいました。

里見:
でも、その分、後のキャリアは楽だったんじゃないですか。

清水:
しばらくは玲音の印象が業界の方の中でも残っていたみたいで……。

里見:
みんな「ああ、玲音ってすげ~」って。

清水:
海外の方からも事務所にメールが来て、ごめんなさい、読めなかったんですけれど、「君が玲音なの?」みたいな感じのものをいただきました。

里見:
あれはもう確実に業界受けのイイ作品ですから。

上田:
暗い役を押しつけちゃった親心としてはその後が……。

小中:
玲音のキャラクターには全然引っ張られてないよね。彼女はどちらかというと明るい役の方が多いというか。

清水:
でも、「lain」が終わってしばらくぐらいは玲音みたいなタイプの子だと思われていたみたいで、ラジオの15分のトークゲストコーナーで30個ぐらいネタを用意させられたりしていました。ネタが膨らまない人だと思われていたみたいです(笑)

上田:
セリフも「………」ばっかりだったもんね。

清水:
でもラジオに出たら1個の項目で15分喋りきっちゃって、「よく喋られる方なんですね」って(笑)

小中:
それはよかった。

里見:
何と立派に社会復帰なさって。

上田:
今じゃ歌って踊れる声優だもんね。

清水:
そうでもないですよ。

小中:
なんかイベントなさるんですか?

清水:
はい、12月に自主イベントをやったり……。

上田:
宣伝か!

小中:
君はそれぐらい借りがあるんだよ、セクハラまでして!

上田:
冗談ですって。セクハラじゃないよー。

清水:
でもすいません、もうチケット完売しちゃったんです。

里見:
おめでとうございます。要らぬ心配でした。

上田:
我々とは集客力が違うんですよ。

小中:
いや本当に、今日は来てくださってありがとうございます。これでガラガラだったらショックだった。

上田:
俺もそう思ったよ?行き当たりばったりというか、余ったセル画をどうしようかなと思って、欲しがっている人に渡したいなと思ってイベントをやろうと。

里見:
セル画を配りたいというのと、完成したからみんなで集まって打ち上げをしたいというのがモチベーションで。

上田:
「せっかくだから2回まわし(公演)しよう」って言われたけれど「いやだ、どうせ入らないよ」って。

里見:
他社の僕が「これなら2回まわししましょうよ」と言ったのに「いや、いいよ。」って軽く却下されましたから。

上田:
本当に、Ustreamでも300人も見ていただいて……。

里見:
つけたまま寝てたらイヤですよね。

上田:
まぁ、向こう側はわかんないから。

里見:
数字はウソをつかないということで僕らの実績にして。

上田:
な、なんてさもしい人間なんだ君は!

里見:
ということで、時間が押しています。ここの建物が閉まってしまうので……。

上田:
最後に、中村隆太郎から来たメールを読んでおしまいにしようかなと。

里見:
一言ずつもらって、最後に監督の手紙で締めましょう。では、奥から。

鈴木:
ほんとにみなさん来ていただいてありがとうございます。ということで、ありがとうございました。

安倍:
僕もコレが実質的デビュー作なので、最初に関わった作品がこんな風に長く愛される作品になって本当に良かったです。

小中:
改めて言うことはないです。本当にありがとうございます。

清水:
私にとっては声優デビュー作であり、この作品がなかったらこの人生がないだろうなというぐらいに大切な作品で、それが12年、干支が一回りして中学生だった私がアラサーに入ってくるほど長い年月をかけて、こんなに多くの人の前で語れるということが嬉しく思います。これからも末永くよろしくお願いします。

上田:
では最後に、中村隆太郎からのメールを読ませていただきます。
『小中本(「scenario experiments alin」のこと)って復刊ドットコムだったんだね。さすが「lain」、小中千昭、どうしたジェネオン。対談、味薄っ!僕なんか泣く』、これは意味がわかりませんね。
『いや、良い本だよね。23日の件もさんくす。座ってられないし見えないし、えとせとらえとせとら。そうそう、小中本見ていて気がついた。#6のホジソン教授みたいでしょ。あはっ、「lain」を地でいくなんてね』、本当かどうかはわかりません。
『みなさんにお会いしたいけど不可能です。頑張ってって伝えてください。大きな画面で見たかったよ。お土産のセル画も(笑) まだ消えてないのかなー?』セル画の心配をしてますね。
『香里ちゃんも来るんだ。最終話、アフレコの日、地下鉄からの階段で一人だけ立ち止まって振り向いていた香里ちゃんは、まったくの玲音でした。(何をしていたのかは不明) 時間が凍り付いた瞬間でしたよ。ホンダ本(visual experiments lain)の松原(秀典)くんのイラストのまんまと伝えておいてください』と、こういうメールをいただきました。

(拍手)

里見:
それではみなさん、本日はご来場いただき誠にありがとうございました。これでイベントは一通り終了でございます。

イベント終了後、Blu-ray BOXのパッケージについていたシールかブックレットを持ってきた人を対象に、セル画プレゼントが行われました。上田プロデューサーが語っていましたが、もともとこのイベントは残ったセル画は欲しい人にあげるのが一番なのではないかと考えて企画したものだそうで、ここでプレゼントされたのは複製セル画などではなくてホンモノ。中村監督が心配するのもわかります。中身は基本的に玲音のカットですが、1枚だけありすのものがあるそうです。ありすを引いた人も、玲音だった人も、どうか家で額に入れるなりして大事にして下さい。


その配布場所の目印としておかれていた、放送開始前のポスター。1998年7月6日放送開始だったんですね……。


「serial experiments lain」BD-BOXは現在絶賛発売中。今から12年前の作品ではありますが、そこで描かれている内容は現代に持ってきても陳腐化せず、むしろ12年前にこれだけのものが作られたのだという事実に驚きます。リストアによって劇場のスクリーンで鑑賞しても全く画質などに不満点のない映像に仕上がっているので、「serial experiments lain」を見たことがないという人も、DVD-BOXを買ったという人も、この機会に新たなるlainに触れてみて下さい。

Amazon.co.jp | serial experiments lain Blu-ray BOX|RESTORE (初回限定生産) DVD・ブルーレイ - 清水香里, 大林隆之介, 五十嵐麗, 川澄綾子, 浅田葉子, 中村隆太郎


また、書籍「scenario experiments lain」も、一般書店販売に先駆けて復刊ドットコムにて発売が始まっています。在庫僅少とのことなので、少しでも早く手に入れたいという人はお早めに。

scenario experiments lain the series/シナリオエクスペリメンツ レイン [新装版] 小中千昭 販売ページ

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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