「半分氷、半分火」の新しい物質相は何に役立つのか?

アメリカエネルギー省傘下の国立研究所であるブルックヘブン国立研究所の科学者らが、電子スピンのこれまで発見されたことのないパターンを発見しました。過去には電子スピンが高度に無秩序化された「熱い」状態と高度に秩序化された「冷たい」状態が共存した「半分火、半分氷」と呼ばれる状態が確認されていましたが、新しい研究では、相が入れ替わって「半分氷、半分火」となることが発見されました。
Phase Switch Driven by the Hidden Half-Ice, Half-Fire State in a Ferrimagnet | Phys. Rev. Lett.
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.266701
Brookhaven Physicists Discover New Phase of Matter in a Magnetic Material | BNL Newsroom
https://www.bnl.gov/newsroom/news.php?a=122362

New 'Half-Ice, Half-Fire' Phase of Matter Found Lurking in a Magnet : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/new-half-ice-half-fire-phase-of-matter-found-lurking-in-a-magnet
電子スピンは電子が持つ自転のような性質で、上向きの「アップスピン」、下向きの「ダウンスピン」の2つの状態があります。スピンの向きによって磁場が発生するため、多数の電子がスピンの方向をそろえていると磁石として機能します。逆に、スピンがランダムに並ぶと磁性が消えます。以下は、東北大学金属材料研究所による電子スピンのイメージ図(PDFファイル)。

「半分火、半分氷」に関連する研究は、2012年から始まりました。ブルックヘブン国立研究所の物理学者であるウェイグオ・イェン氏とアレクセイ・ツベリク氏は、ジョン・ヒル氏が率いる共同研究に参加し、ストロンチウム、銅、イリジウム、酸素の磁性化合物「ストロンチウム・銅・イリジウム酸化物」を研究していました。その磁性化合物には銅とイリジウムという2種類の金属が存在していますが、研究を続ける中で、「銅の部分ではスピンの向きがバラバラで磁気モーメントが小さく、イリジウム部分のスピンは規則正しく並んでおり磁石としての性質が強い」という2つの状態を合わせ持っていることが2016年に発見されました。
「半分火、半分氷」というのは、実際の温度が冷たかったり熱かったりするわけではなく、電子スピンの振る舞いが氷と火のように対称的だから名付けられたもの。無秩序でバラバラな銅の状態を激しい火、規則的なイリジウムの状態を静かで冷たい氷に例えて、科学者らは比喩的に「半分火、半分氷」と呼称していました。

秩序と無秩序が共存する「半分火、半分氷」の状態は興味深いものですが、構造は操作不可能のため、広範にわたる研究にもかかわらずどのように利用できるかはわかっていませんでした。また、位相シフトの数学的基準からすると、構造変化は不可能と考えられていました。
しかし、イェン氏とツベリク氏が2024年12月末にアメリカ物理学会の査読付きジャーナルであるPhysical Review Lettersで発表した研究では、全体の状態を一変させる明確な温度変化を発見したと示されています。論文によると、「半分火、半分氷」の研究をさらに進めていたところ、2つの異なる構造内の電子の挙動が入れ替わる「半分氷、半分火」の相を発見し、それを意図的に操作可能であるそうです。
「半分火、半分氷」から「半分氷、半分火」への構造変化は、相変化を厳密に制御できることを意味します。超急激な相切り替えは巨大な磁気エントロピー変化を伴うため、冷凍技術に役立つ可能性があるほか、相がビットとして機能する新しいタイプの量子情報ストレージ技術の基礎としても利用できる可能性があると考えられています。
イェン氏は「異例の物理的特性を持つ新しい状態を発見し、それらの状態間の遷移を理解して制御できることは、凝縮物質物理学と材料科学の分野における中心的な問題です。これらの問題を解決できれば、量子コンピューティングやスピントロニクスなどの技術が大きく進歩する可能性があります」と発見の意義について述べました。また、ツベリク氏は「私たちの研究結果は、特定の物質の相と相転移を理解し、制御するための新たな扉を開く可能性があります」と語っています。
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in サイエンス, Posted by log1e_dh
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