脊髄損傷により体を動かせなくなった男性が神経幹細胞を移植されて立ち上がれるように

脳からの情報を全身に伝えたり、逆に脳へ情報を伝えたりする役割を持つ脊髄を事故などで損傷し、体を動かせなくなった患者に対してiPS細胞から培養した細胞を移植した結果、一部の患者が再び立ち上がれるようになったことを慶應義塾大学などの研究チームが発表しました。
Paralysed man stands again after receiving ‘reprogrammed’ stem cells
https://www.nature.com/articles/d41586-025-00863-0

Breakthrough as paralyzed man walks again after single injection of new treatment | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-14531869/paralyzed-man-walks-stem-cell-injection-treatment.html
慶應義塾大学再生医療リサーチセンターの岡野栄之教授らの研究チームは、事故などで脊髄を損傷し、体を動かせなくなったほか、感覚を失った4人の患者に対して、iPS細胞から培養した神経幹細胞200万個を移植して手術後1年経過時点での運動機能を評価する臨床研究を2021年から行っています。
今回移植手術を受けたのは、手術前14日~28日以内の「亜急性期」に脊髄を損傷した60歳以上の患者です。
神経幹細胞の移植により、不慮の事故で脊髄を損傷したある高齢男性は支えなしで再び立つことができる状態になりました。研究チームによると、記事作成時点でこの男性は歩行練習を開始しているとのこと。この男性は脊髄損傷の評価尺度において運動機能の完全まひを示す「A」と認定されていましたが、現在では補助具の要否にかかわらず歩行可能な「D」と認定されています。

また、移植手術を受けた別の患者は評価尺度が「A」から「C」に改善し、起立は困難なものの自力での食事や車いすの使用が可能になりました。一方で移植手術を受けた4名中、2名の患者では改善が見られませんでした。なお、この治療による重篤な副作用は認められず、一定の安全性が確認されています。
WHOによると、世界では1500万人もの人々が脊髄損傷を患っており、今回の研究結果は従来の医療技術では改善が困難な脊髄損傷の治療に光明をもたらすものです。岡野氏は「世界で初めてのiPS細胞を使った脊髄損傷の治療で結果を出すことができました。iPS細胞を使った研究はなかなか成果が出ずにつらい日々もありましたが、今回の研究では安全性の確認と有効性の推定に値する結果が得られました」と述べています。
研究チームは今後、研究の実用化に向けた治験を実施するとともに、治療内容の改良や対象となる患者を拡大し、より効果の高い治療法の開発に取り組むとのこと。その際には移植する神経幹細胞の数を増やすことや、脊髄損傷になってから時間が経過した「慢性期」の患者を対象とすることも検討されています。
慶應義塾大学医学部の中村雅也教授は「今回発表したデータは詳しく解析する前の段階のものですが、次のステップにつながる大きな一歩だと思っています」と語りました。一方でグリフィス大学の神経科学者であるジェームズ・ジョン氏は「脊髄損傷の程度は患者一人一人によって異なります。iPS細胞から培養した神経幹細胞の移植がすべてのタイプの損傷に効果があるのか、それとも特定の症例にのみ効果があるのかを確認するためには、さらなる研究が必要です」と指摘しています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut
You can read the machine translated English article Man left immobile by spinal cord injury ….