サイエンス

片頭痛が「薬で治せる病気」になるまでにどのような道のりがあったのか?


片頭痛は長らく原因が解明されず、治療法も確立されていなかったため、以前は精神的な病気とされたり、働きたくない人の口実だと言われたりしたことさえありました。そんな片頭痛に有効な治療薬や治療法に関する研究がどのように進んできたのかを、科学誌のNatureがまとめました。

Migraine is more than a headache — a radical rethink offers hope to one billion people
https://www.nature.com/articles/d41586-025-00456-x

古代から、片頭痛には治る見込みのない苦しみというイメージが付きまとっており、古代エジプトでは医療者が粘土でできたワニを患者の頭にくくりつけて回復を祈願しました。また、17世紀末には片頭痛を治すために、外科医が人々の頭蓋骨に穴を開けていたとする説もあります。


迷信と偏見は20世紀に入っても根強く残り、ドイツのハンブルグ・エッペンドルフ大学医療センターの神経科医であるアルネ・メイ氏が片頭痛の研究を始めた1990年代には、片頭痛は「心理的な問題」と片付けられることもしばしばでした。

メイ氏は「当時は誰も片頭痛患者を信じておらず、彼らは働きたくないだけだろうと思われていました。ですから、私の患者は心理学者や精神科医に診てもらっていました」と振り返っています。


このような片頭痛への偏見は徐々に薄れていきましたが、その後も血管の拡張によって起きる「血管性頭痛疾患」との仮説が主流で、普通の頭痛と変わらないものだと考えられるのが一般的だったとのこと。

こうした状況に変化が訪れたのは、メイ氏のような研究者らが片頭痛患者の脳をスキャンし、頭痛発作時に特定の脳領域が活性化することを突き止めたのがきっかけです。

ただの頭痛とは違うことが判明したことにより片頭痛の研究が進み、発作の数時間~数日前から脳の活動が高まる前兆期、圧倒的な頭痛を伴う発作期、抑うつなどの症状が表れる回復期、次の発作までの間欠期などがあることが少しずつわかっていきました。

これと並行し、スウェーデン・ルンド大学の神経科学者であるラース・エドヴィンソン氏と、ロンドン大学キングス・カレッジの神経学者であるピーター・ゴーズビー氏らは、片頭痛とは無関係な通常の頭痛の研究から、片頭痛にはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が関与していることを突き止めます。

この発見をもとに、CGRP阻害薬の「Gepant」や数種類のモノクローナル抗体が片頭痛の治療に用いられ始めました。


その効果について、ゴーズビー氏は「Gepantを処方された片頭痛患者たちは、正常だった時のことを思い出して、文字通り涙を流します」と話しました。

このような目覚ましい結果を見ると、CGRPこそ長きにわたって不明だった片頭痛の原因だと考えたくなりますが、要因は他にもあります。というのも、CGRP阻害薬が効果を示す片頭痛患者は5人に1人程度だということが、いくつかの研究でわかっているからです。また、CGRP阻害薬がよく効く人でも、一部の症状が残ることがあります。

その後、2010年代以降の脳スキャンの研究により、片頭痛には視床下部が中心的な役割を果たしているとの見方が確固たるものとなりました。

これについて、メイ氏は「この病気が大脳辺縁系に関係しているのは間違いありませんが、大脳辺縁系の中でも視床下部は特に重要です」と指摘しています。

大脳辺縁系は、感覚情報を処理し、感情を調節する脳の領域です。数週間にわたって片頭痛患者の脳をスキャンした研究では、片頭痛の発作が始まる直前に視床下部と脳のさまざまな部位とのつながりが強まり、頭痛の時期には弱まることが判明しました。

片頭痛に関する現行の研究では、片頭痛は環境的、または生理的な誘因によって脳の活動が調節不全の状態になるという「片頭痛閾値(いきち)仮説」が導入されています。

引き金となりうるもののリストは膨大で、ある研究ではホルモンや食品、環境化学物質がCGRPの放出を促し、これが頭痛を引き起こす可能性があることが突き止められました。ほかにも、一部の片頭痛患者は天候などさまざまな要因を訴えており、これらについても調査が進められています。

オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド工科大学の遺伝学者であるリン・グリフィス氏は、「その答えの一部は明らかに遺伝学にあります」と話します。


偏頭痛の遺伝率は35~60%と推定されており、これまでに行われた多くの遺伝子変異の調査から、研究者らはある人が片頭痛を発症する確率を予測する「多遺伝子リスクスコア」を算出することができるようになりました。

また、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックで神経科医を務めているチア・チュン・チャン氏は、AIに期待を託しています。チャン氏らが2024年10月に発表した研究では、個人のBMIや家族歴、発作の頻度や持続時間などをアルゴリズムで計算し、片頭痛に対するCGRP阻害薬の効果を80%の精度で予測できることが示されました。

チャン氏らは目下、睡眠障害や天候の変化、光過敏症や吐き気などに基づいて発作を予測できるアルゴリズムの開発に取り組んでおり、数年以内に片頭痛の発作が起きる前に予防策を講じたり、早めに治療を開始したりできるようになるとしています。

2024年にイギリスで承認されたCGRP阻害薬の「Atogepant」により、70年悩まされてきた片頭痛が起きなくなったというアンドレア・ウェスト氏は「これは素晴らしい薬です。本当に私の人生を変えてくれました」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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