オバマ/バイデン政権下で多様性重視の採用が行われたアメリカ連邦航空局(FAA)の内部は実際どのようになっていたのか?

2025年1月30日、アメリカの首都ワシントンD.C.近郊で小型旅客機とヘリコプターが衝突する事故があり、それぞれに搭乗していた67人全員の死亡が確認されました。事故発生直後から、ドナルド・トランプ大統領は「さまざまな報道によると、連邦航空局(FAA)は重度の知的障害や精神疾患などに苦しむ人を積極的に採用しているとのことだ」「ジョー・バイデン政権では多様性・公平性・包括性(DEI)政策が重視された」などの話を持ち出し、多様性の重視が事故と直接関係しているかはわからないとしつつも、このような政策が遠因であることを匂わせるような発言を行い、直後に「安全性と効率性よりもDEIを優先するバイデン氏の雇用ポリシーを終了し、すべてのFAA職員を適切な能力のある者に置き換える」という大統領覚書に署名しました。このFAAが、過去10年間でどのような採用体制を敷き、どのように変わっていったのかについて、エッセイストのトレーシング・ウッドグレインズ氏がFAAの求人に応募した人たちの話を交えて紹介しました。
The Full Story of the FAA's Hiring Scandal
https://www.tracingwoodgrains.com/p/the-full-story-of-the-faas-hiring
アメリカで航空管制官になるためには、必要なトレーニングコースを完了し、オクラホマシティにあるFAAアカデミーで別途数カ月間のトレーニングを終えなければなりません。FAAアカデミーを卒業できれば全国各地に配属され、追加訓練を経てプロの管制官として認定されることになります。
1989年、FAAは航空管制官の訓練手順を見直すため、航空管制官としての初期訓練を大学等の教育機関で終わらせることができるプログラム「Collegiate Training Initiative(大学トレーニングイニシアチブ:CTI)」を設立しました。CTIでは航空管制官としての基礎が教えられ、課程を修了した学生らは推薦により初級管制官として採用され、FAAアカデミーでの最初の5週間の訓練を免除されることになりました。ただし、CTIプログラムの修了はFAAアカデミーへの入学を保証するものではありませんでした。
ウッドグレインズ氏によると、CTIプログラムを終えたからといって必ずしも航空管制官として採用されるわけではありませんでしたが、当時は「CTIを修了して適性試験に受かりさえすれば雇用される」という風潮があり、当時の受講者らは楽観的だったということです。

ところが、バラク・オバマ政権下の2014年、突如としてFAAが採用体制を見直し、4年制の学位か5年間のフルタイムの職務経験があれば誰でもFAAアカデミーへ応募できるという採用ルートを新設。CTIプログラムを提供する大学に進学していない人でも航空管制官になりやくするよう門戸が広げられた一方で、この措置によりCTIの受講者が過去に受けた適性試験はすべて意味を成さなくなってしまいました。
突然のルール変更に学生らは戸惑い、Facebookでは「Save CTI」を掲げるグループが生まれ、CTIの卒業生と学生たちは何が起こっているのかを理解するためにあらゆる情報を探し、2014年2月の選考開始を待っていたそうです。
学生らを待ち構えていたのは、CTIのプログラムとはほとんど関係のない「経歴アンケート」と呼ばれるものでした。経歴アンケートのレプリカは公開されておりその内容を見ることができますが、内容は「一番成績の良かった科目を下から選んでください」「理想的な仕事は何だと思いますか?」など、技術的な知識を問わないものばかりとなっています。伝えられるところによると、いくつかの質問には秘密裏に「ポイント」が割り振られており、ポイントの高い選択肢を選んで一定ポイント以上を稼いだ人に採用のチャンスを与えていたということです。
調査によると、採用開始時には2万8000人以上が応募しましたが、最初の経歴アンケートに合格したのはわずか8%の約2200人、ウッドグレインズ氏によるとCTIを修了した学生の85%が不合格通知を受け取ったとのことです。

ウッドグレインズ氏によると、条件が緩和された背景には、1990年代から2000年代にかけてFAAが多様化を求める圧力に直面したことがあるといいます。
ウッドグレインズ氏いわく、特に強い影響力を持っていたのはNational Black Coalition of Federal Aviation Employees(連邦航空従業員の黒人連合:NBCFAE)だったといいます。NBCFAEは、歴史的に白人男性中心の職業であった航空管制官について採用の幅を広げるよう呼びかけ、これまで採用割合の少なかった少数民族、女性、障害のある人々が合格しやすくなるよう、採用方法の変更を促したそうです。NBCFAEはFAAに多様化を求める圧力をかけ続け、同団体のメンバーはFAA、国土交通省、連邦議会黒人コーカス(総会)などと会談し、多様性向上を働きかけたと伝えられています。
FAAの採用体制変更は当時新聞に大きく取り上げられ、Fox Newsは「FAAが有資格者を差別していると批判しました。学費と時間をかけて実力を身につけたCTIの学生らやCTIの運営者側も当然この措置に不満で、当時の学生らを筆頭にFAAの採用プロセスを見直すよう求める運動が起こりました。
2016年、元学生らによる活動の末、連邦議会は採用時の経歴評価の使用を覆し、影響を受けた人物に再応募の機会を提供することをFAAに義務付ける法律を可決しました。なお、FAAが実施した調査により、経歴アンケートは適性試験に比べてほとんど従業員のパフォーマンスを測定できない「信頼できないテストだった」と認められています。

Woodgrains氏によると、2014年の改革で応募者の質が変化した影響で、非常に多くの有能な人材がFAAアカデミーへのトレーニング参加を拒否され、2024年時点でも悲惨な人員不足が続いているとのこと。FAAに25年間勤務して退職したというある航空管制官は「理想的な候補者は実地訓練を4年ほどで終えるが、退職間際の数年間は6~8年かけている訓練生を見た」と話しました。
Woodgrains氏は「FAAはCTI関係者と築いた関係を破壊し、航空管制官のトレーニングに最も熱意を持って取り組む人々の力を弱めました」と指摘。2025年に起こった航空機事故を振り返り、「トランプ大統領とバンス副大統領は経歴アンケートに名指しで言及しており、この雇用スキャンダルを思い出させてくれました」と述べました。
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